作品タイトル不明
●第288話●入り口前の出来事
「あれは遺跡にいた!?」
「色は違いますけど、そっくりですね……」
思わぬ乱入者の見た目に驚くフェリクス。勇も呻くように答え、他の面々も一様に驚き顔だ。
唯一遺跡に行っていないドラスだけは、見たことも無いモノが出て来た事に対する純粋な驚きだが。
『ビーッビーッビーッ』
迂闊に出ていくことも出来ず固唾を飲んで状況を見守っていると、ガードロボットがブザーのような音を出した。
「なんだっ!?」
咄嗟に身構える一同。
「警告音か??」
勇だけは地球で聞いた事があるような音に小さく首を傾げる。
「ブルモァァァッ」
「ヴォフォォッ」
そして屯していた魔物たちも、その大きな音に警戒心も露に騒ぎ始めた。
『ビーッビーッビーッ ■×〇◆■△◎●■』
再びのブザー音に続き、先程とは少し違ったトーンでガードロボットが言葉を発する。
「ブルッファァァッッ!!」
「ヴォフヴォフォォッッ!!」
それを聞いてついに魔物たちが動き始めた。
半数ほどが唸るような声を上げてガードロボットへと迫っていく。
「◎△△■○×!!」
すると今度は、壁の上から人の声がかすかに聞こえた。
ガードロボットと似た言葉だが、その声は明らかに人間のものだ。
それも――
「子供の声っ!?」
目だけでなく耳もいいユリシーズが思わず小さく叫ぶ。
「えっ?」
「本当か!? 確かに少し高い気がしたが」
その言葉に一同に動揺が走る。
『ピコーン! ■▲▲■●!』
そしてその声に応えたかのように、ガードロボットからこれまでとは違った音が鳴った。
「もしかして指示を出して了解したのかっ!?」
またしても地球の操作コンソールのようなリアクションを返したことに勇が驚く。
そしてそれはおそらく正しかったのだろう。
目の色が赤から輝度の高い白色に変わり、右手の甲に当たる部分から長さ三十センチ、直径五センチほどの杭のようなものが飛び出した。
「ブルッモォォッ!!」
「ヴォオゥゥッッ!!」
それを敵対行為と取ったのか、魔物たちがボルテージを上げて襲い掛かる。
最初に仕掛けたのは、足の速いドッグウルフだ。
先頭を我先にと争っていた三体の内、二体が飛び掛かり一頭は走ったままガードロボットを強襲する。
ギュインッ
その攻撃に対してガードロボットは、横方向へ移動して攻撃を躱す。
滑るようになめらかで素早い動きだ。
「ホバリング!?」
そんな動きと、ガードロボットの四本足から薄っすら漂う緑色の魔力光を見た勇が声を上げる。
風の魔力を使っているので、足の裏から風のようなものを出しているのだろうか。
「微妙に浮いていますね、アイツ……」
「土煙が舞ってるから、風魔法で動いてるのか?」
予想外の動きに驚いていても流石は騎士達。どういう原理なのかをしっかり分析している。
ギュンッ!
一方のガードロボットは、飛び掛かってきたドッグウルフの側面に素早く移動すると、腰を軸に上半身を回転させるように右手を繰り出した。
「ギャウォンッ!!!」
スピードのある一撃を食らったドッグウルフはそのまま二メートル程飛ばされ地面へ落ち、三メートル程ザリザリと滑ってようやく止まった。
ヨロヨロと立ち上がるが、杭のようなもので攻撃を受けた脇腹から出血しておりとても戦えなさそうだ。
その後も素早く移動しながら、残りの二体のドッグウルフにも右手の杭で攻撃を仕掛けていく。
最初にやられたドッグウルフと同じように飛び掛かっていたもう一体は、着地をした隙を突かれて一体目と同じように脇腹に一撃を貰って致命傷を負う。
走っていた個体は、ガードロボットが二体目に攻撃をしている隙に背後へと回り込み隙をついたかのように見えた。
しかしガードロボットの上半身は三百六十度回転するようで、振り向きざまに一撃を貰う。こちらも致命傷だ。
「強いね……」
「デタラメな動きしやがって」
一分とかからず三体のドッグウルフを倒したのを見て、マルセラとリディルが呟く。
勇も頷きつつ、遺跡で戦闘にならなくて良かったと今更のように安堵する。
しかしガードロボットの快進撃もここまでだった。
仲間があっという間に三体やられたのを見て危機感を覚えたのか、ドッグウルフがやみくもに突っ込むのを止める。
半円を描くようにガードロボットを取り囲み、じりじりとその半径を縮めていく。
ある程度包囲の輪が狭くなったところで、四方から同時にそれぞれ二体ずつ、合計八体のドッグウルフが襲い掛かった。
ジグザグにステップを踏んで攪乱するような動きを見せる個体までいる。
狼系の魔物は群れで連携しながら襲ってくることがあるが、船島の彼らも似たような習性があるのだろう。
ガードロボットも持ち前の素早さで二体を仕留めるがやはり多勢に無勢。
ドッグウルフの体当たりのような頭突きを食らって体勢を崩し、一気に取り付かれてしまった。
外装がかなり硬いためすぐにやられるようなことは無さそうだが、十体近いドッグウルフに集られてしまっては時間の問題だ。
しかもその状況を見て、これまで少し距離をとっていたピギーバイソンも、参戦すべく動き始めている。
「これまでですかね……」
「流石に数が違い過ぎますね。あと、多分あのガードロボットは本来の武装がほとんど使えないんだと思います」
「本来の武装?」
戦闘の行く末を見守っていたフェリクスと勇が言葉を交わす。
「動きは素早いですが、そこまで装甲は厚くないので、そもそも格闘戦ではなく遠距離で倒すタイプなんじゃないかなぁ、と」
動きを見守ったまま勇が言葉を続ける。
「あの杭みたいなのもメイン武器じゃないでしょうし、本来は逆の手からも出るはずです」
「確かに……。左手の同じところにも穴が開いていますね」
「ええ。よく見ると肩とか背中にも壊れた形跡のある部品や、何かを取り付けるための台座のようなものもあります」
勇が一つずつ理由を述べていく。
いわゆるロボットもののお約束として、武器は手に持つか身体に装着するかである。
敵を排除するための人型に近い兵器であるならば、その思想は地球でも この世界(エーテルシア) でも変わらないだろうという見立てだ。
特に自動で動くタイプの物は、制御の難易度が低い装着タイプになる可能性が高いはず。
そういう目線で見ていくと、今のガードロボットには違和感が多いのだ。
「何より魔法による攻撃を一切しないのが不自然なんですよね」
「……確かに」
風魔法によるホバリングで動いているような兵器に、物理武器しか装着されていない事などまずありえない。
それによく目を凝らすと、時折右手の杭や肩や背中に、雷属性や火属性の魔力光が一瞬だけ見えるのだ。
おそらくそこに本来ある魔法兵器が、破壊されたり故障したりしていて使えないのだろう。
よくよく見てみれば、そうした武装だけにとどまらず、ガードロボットの外装はかなりボロボロだ。
そうこうしている間に、壁ギリギリまでガードロボットが押し込まれていく。
「……どうしますか?」
「謎の光とか子供の声は気になりますが、あの勢いで襲われたらこちらも危ないですね……」
フェリクスの問いに勇が眉根に皺を寄せる。
「一度てった――」
「○×◎▲▼■△!!」
『ピコーン!▲▼■◆■●!』
「またっ!?」
一度撤退しようと言いかけた勇の言葉が、再びの子供のような声とそれに応諾するようなガードロボットの声に遮られた。
ギョインッ!
そしてガードロボットが、これまで取り付かれていたドッグウルフを振り払うと、大きくジャンプ。さらに壁の端の方へと飛び退く。
「オーバードライブモード!? いや、リミッターでも外したのか??」
その動きに驚きつつも、勇の目はガードロボットの身体全体から立ち昇る無属性の魔力を捉えていた。
パキュイン!!
突然の事に戸惑う中、今度は壁の逆方向から明るい光の筋が上空へと打ち上がる。
一瞬の間を置いて、その根元からキラキラと光が瞬いた。
そして――
「こっち! 今のうちにっ!!」
光の根元から叫ぶような声が聞こえて来た。今度はハッキリと人間の言葉だ。
そして声の主と思われる者が、壁の上の胸壁からついに姿を現した。
「女の子!?」
その姿に思わず勇が声を上げる。
それは一人の少女だった。
距離があるのではっきりとは分からないが身長は一五〇センチメートルも無いだろう。
背中まである髪をポニーテールにしており、必死に何かを壁の上から降ろそうとしている。
その表情はまだ子供のように見えた。
バサリ
必死の作業の甲斐あって、間もなく壁の上から何かを垂らすことに成功する。
それは一本のロープのような物だった。
「これで! ああっ!? 足りない!?」
ロープを垂らした少女がさらに叫ぶが、その長さを見て絶句する。
地面から三メートル程の所までしかロープが無いのだ。
「ねーちゃん、こっちはそろそろ限界だよっ! はやくぅぅっ!!」
そんな少女の下へ、今度は少年が駆け寄ってくる。
身長は同じくらいだが、少女を姉と呼ぶだけあってさらに幼く見える。
おそらく逆側にいたのはこの少年で、ガードロボットに指示を出した後全力で走って来たのか、随分と息が上がっている。
状況から、彼女らは勇達にこちらに来てもらいたいのだろう。
しかし眼下に魔物が跋扈する状態ではそれが叶わないため、片方に魔物を集めている隙にその逆側から登って来てもらう算段と思われた。
「……皆、 全身強化(フルエンハンス) を。ユリシーズはドラスを、リディルはヴィレムをお願いします」
一瞬固まっていた勇だったが、すぐにそう指示を出す。
「……行くので?」
フェリクスが、短い言葉で念のための最終確認をとる。
「ええ。何者かは分かりませんが接触しようとしてくれています。それに何より、子供を放ってはおけませんよ」
「分かりました。 皆聞こえたな? 一気に行くぞ!!」
「「「「「了解っ!!」」」」」
勇の返答にニヤリと笑って頷いたフェリクスが、皆へ指示を出す。
最終アタックをしているメンバーのうち、 全身強化(フルエンハンス) が使えないのはドラスとヴィレムの二名。
彼らをサポートするのは、元の体力や魔力量からユリシーズとリディルが適任だろう。
『『『『『滾る血潮よ、魔力を糧に巡れよ巡れ。奇跡を起こす飛沫となりて、我が身に力を与える新たな血肉とならん』』』』』
五人の呪文を詠唱する声が重なる。
そのまま全員が顔を見合わせると、勇が小さく頷いた。
『『『『『 全身強化(フルエンハンス) ッ!』』』』』
全員の魔法が同時に発動しそれぞれが淡い光を纏う。
潜んでいる森の一角がぼんやりと明るくなった。
ザザザッ!!
そして全員が一気に森の中から駆け出し、垂れ下がっているロープへと向かう。
「うわ、はやっ!?」
人とは思えない速さで突っ込んでくる集団を見て、少女が目を丸くする。
「あ、でもだめっ! 長さが足りないからっ――――って、え??」
驚いた後に、自分が用意したロープの長さが足りない事を思い出して慌てる少女。
大声でそれを伝えようとしたところで更に驚きが大きくなった。
「ほいっ、と。うん、二人は全然大丈夫そう!」
足を止めることなく高跳びのようにひょいと飛び上がったマルセラが、地面から五メートル程のところでロープに掴まった。
何度かクイクイとロープを引っ張って強度を確認すると、皆にOKを出す。
そのままスルスルとロープを登り、瞬く間に壁の上まで到達した。
「「…………」」
あっという間の展開に言葉を失う二人の子供たち。
「ごめんね~。すぐ登っちゃうから、もうちょっとだけ待っててね?」
そんな二人に、マルセラは笑顔でウィンクしながら伝える。
このあたりの愛嬌の良さはマルセラの天性のものだろう。ティラミスと共に、コミュ力、特に子供に対してのコミュ力がずば抜けて高い。
「よし! まずはリディルとヴィレム殿から」
「了解!」
「お願いします」
フェリクスの指示で、リディルとヴィレムが登り、続けて勇、ユリシーズとドラスが登って、最後にフェリクスが登った。
ユリシーズが登り始めたあたりで後方にいたピギーバイソンが彼らに気付いたのだが、向かってきたころにはすでにフェリクスもロープに飛びついた後だった。
全員が登り切ったところで、ドラスがロープを回収していく。
体の構造上魔物たちが登って来れるとは思えないが、念のためだ。
「こんにちは。色々話をしたいんだけど、その前に一つだけ……。向こう側で魔物を引きつけてくれてる魔法具? 魔法巨人(ゴーレム) ? はそのままで大丈夫なのかな?」
並行して勇はしゃがんで、二人の子供と目線を合わせてから語り掛ける。
「ここ、こんにちは。ゴルシちゃん――あ、あの 魔法人形(オートマタ) は、壁の上まで飛ぶことは出来ないから、あのままにしておくしか、ない、です……」
話しかけられたことに驚きながらも、少年がそう答える。
しっかりとした受け答えではあるが、最後の方は消え入るような声になり、うつむいてしまった。
「ふむ……。ユリシーズ、魔力は?」
「まだ三割くらいしか使っていないので、大丈夫です!」
「ありがとう。えーーっと、 魔法人形(オートマタ) ? に止まるよう指示は出せる? 出来れば壁に近い所だとありがたいんだけど……」
ユリシーズに確認した後、勇が再び少年に尋ねる。
「うん、それくらいだったら」
「ありがとう。と、まぁそういう事なので、皆さんもうひと頑張りしましょうか」
「「「「「了解!」」」」」
勇が立ち上がりながら言うと、一同も笑顔で了承する。
「え? どうするの??」
「もちろんあの 魔法人形(オートマタ) を助けるんだ。大事なものなんじゃないの?」
「えっ? 助けられるのっ!?」
勇の言葉に少年が目を剥く。
「多分ね。そのためには君の――そうだ名前を聞いていなかったね。私は勇。君の名前は?」
「僕はナナシュって言うんだ!」
「ナナシュだね。ナナシュ、君の協力があれば助けられるかもしれない。頼めるかい?」
「うん!!」
「ありがとう」
笑顔で返事をするナナシュ少年の頭に勇がポンと軽く手を置き、こちらも笑顔で礼を言う。
「ふふ、命令文がある程度判明している魔法兵器だ。何としても助けて研究しないと……」
「にゃふぅぅぅ」
直後、そうボソリと漏らした勇の呟きを唯一聞き取った織姫が、勇の頭の上で盛大に溜息を洩らした。