軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第287話●船島探検隊

「違う属性ですか!?」

勇の言葉に、武器を構えたままフェリクスが思わず聞き返す。

「右のは土、左のは水です……」

「了解です。武器は強化型でいくぞ!」

「「「了解!」」」

「り、了解しました!」

返答を聞いたフェリクスが、すぐに短く指示を出す。

騎士達は勇と未知の魔物と戦う事が多かったため慣れたものだが、新たに水兵となったドラスはそうはいかない。

返ってきた返事も緊張で上ずっていた。

「リラックスしろ、ドラス。フォレストウルフのボスくらいだと想定してれば大外れは無いだろ。それに――」

「うにゃっ」

緊張するドラスの肩を叩きながらフェリクスが声を掛けると、いつの間にか警戒態勢を解いた織姫もドラスの頭に乗ってポスポスとその頭を叩く。

「それに、オリヒメ先生と散々訓練しただろ? 先生より強い魔物などいないから安心しろ」

「にゃふ」

「う、うっす! ……ふぅ~~~っ」

そんな一人と一匹のおかげで随分と緊張が和らいだのか、ドラスが大きく息を吐き出した。

「あ、フェリクス。初手は左の奴にリディルの 雷力弾(エナジーボルト) を標準威力で。私は右のに撃ちます」

態勢が整ったところで、勇がフェリクスに声を掛ける。

「了解です。属性の違いの影響を調べるのですね?」

「ええ。まだ魔法は発動していないっぽいですが、昨日のバイソンに雷剣が効かなかったというのが気になるので」

「分かりました。聞こえたな、リディル。幕開けは頼んだぞ?」

「了解!」

勇からの追加オーダーをもって作戦が決まる。

まだこちらを警戒しているのか動かない狼もどきに先んじる形で、勇とリディルが魔法の詠唱を始めた。

『『我は願う。天翔ける雷がこの手に集い、弾丸となり迸ることを……』』

「ヴァウフッッ!」

「ヴォフヴォフォォッ!」

そして詠唱が始まると同時に、ウルフもどきたちも興奮しながら全力で走って来る。

『『 雷力弾(エナジーボルト) ッ!』』

そこへ、詠唱を終えた二人の魔法が、薄暗い海上の森を白紫に染めながら飛んでいく。

バチバチバッ!

最初に着弾したのは勇の 雷力弾(エナジーボルト) だった。

体表を火花が這うように電撃が駆け抜ける。

「ヴァヴァウ!」

声を上げ一瞬動きが止まるが、その後首を振って再び走り出す。

対して一拍遅れてリディルの魔法が命中したほうの狼もどきの反応は、明らかに別物だった。

バチバチバチバチィィィィッッ!!

まず飛び散る火花の量が段違いだ。白紫の小さな稲妻が、包み込むように狼もどきの体表を走る。

「ヴォファオウゥゥゥゥン!!」

そして絶叫。

文字通り雷に打たれたように感電、硬直した狼もどきは、口から泡を吹いてドサリと倒れ伏せた。

「リディルはそのままそいつに止めを! マルセラとドラスで右のに当たれっ!」

「「「了解!」」」

フェリクスの指示に、マルセラとドラスが狼もどきへ両サイドから突っ込んでいく。

「ヴァフォゥッ!」

すぐに反応した狼もどきは左から迫るドラスを獲物と定めると、口を大きく開けて飛び掛かっていく。

「俺かよっ、とぉ!」

対するドラスもすぐに反応、側方へと躱しつつ左腕のバックラーで横っ面を撫でるようにして逸らすと、そのまま体勢を崩した狼もどきの肩口を斬りつけた。

「はっ、先生と比べたら止まって見えらぁ!」

「ギャヴォンッ」

稼働時間が短くなる替わりにより切れ味の増した人工魔剣――通称“強化型”での一撃は、やや浅いながらも大きな手傷を負わせた。

「上出来よっ!」

「ギャフッ…………」

直後、反対側から今度はマルセラが首筋に向かって魔剣を振り下ろし、狼もどきの首を半ばまで断ち切る。

それが致命傷となり、くぐもった声を漏らしながら狼もどきはその命を散らした。

少し離れた場所では、リディルが痺れて動けない狼もどきの首筋に剣を突き立て止めを刺している。

「よし。皆無事だな。イサム様、どうしますか?」

それを見届けたフェリクスが、勇へ指示を仰ぐ。

「魔核を探してください。私の勘が正しければ、ちょっと違う色の魔核が出てくるはずです」

「分かりました! リディルとドラスは魔核を取り出してくれ。マルセラとユリシーズは周囲を警戒」

「「「「了解!」」」」

フェリクスの指示でそれぞれの狼もどきから魔核が取り出され、勇の元へと届けられる。

「ありがとうございます。どれどれ……、あ~やっぱりだ」

木々の隙間から漏れる陽光に魔核をかざして目を細めていた勇が小さく頷く。

「薄い水色と黄色っぽい感じですね。黄色っぽい方は昨日のバイソンのとほとんど同じ感じです。どうぞ、確認してみて下さい」

そう説明をしつつ、二つの魔核をフェリクスへと手渡す。

水の魔力を帯びていた狼もどきの魔核はやや水色掛かっており、土の魔力を帯びていた個体のものは黄色っぽい。

大きさは昨日のバイソンの物とほぼ同じ。魔物としての格は同じくらいと言う事なのだろう。

そしてまたこの狼もどきの亡骸も消えることは無く、遺跡種ではない事を物語っていた。

「これで分かったのは、こいつらは属性のある魔力を持っていて、それは個体によってバラバラだという事ですね」

「そうですね。どれだけの種類がいるのかは分かりませんが……」

「しかもその属性通りの魔法特性を持っている」

勇とフェリクスが神妙な顔で魔物の特性をまとめていく。

「厄介なのは、イサム様以外には見た目で何の属性なのか分からない点ですね。属性があっても同じであれば対処は出来るのですが……」

フェリクスが渋い顔で問題点を挙げる。

彼の言う通り単に属性を帯びているだけであれば、厄介ではあるものの対処方法は割とシンプルだ。

有利属性で攻め、不利属性を控えれば済む。

しかし属性がランダムかつ見た目では分からないというガチャ状態だと話は変わってくる。

不利属性で攻めても著しく効きが悪いだけで、ゲームのように回復されたりバフが掛かったりするような事は(おそらく)無いだろうが、対応が後手に回ってしまうのが問題だ。

安全に魔物を狩るためには、経験により効率化された安全な手順で行うに尽きる。

それが意味を成さなくなるという事は、毎回初見の魔物と戦うのと近いのだ。

「今日明日くらいは、どれくらいの種類の魔物がいてどれくらいの属性があるのか、その組み合わせを調べたほうが良さそうですね」

「そうですね。迂闊に突っ込むと思わぬケガをしそうです」

「効けば雷属性が有効そうではあるので、私がいない時は今みたいにまずは雷属性の魔法を当てるなり雷槍や雷剣で一当てして見極めるのが良さそうですね」

マツモト家の騎士が他領の騎士と比べて圧倒的なアドバンテージがあるのは、その豊富で強力な魔法具のおかげだ。

しかし今のところ直接戦闘に有効な魔法具は、いずれかの属性を持っており無属性の物はない。

それゆえこの島の魔物の特性は、マツモト家に対して一番効果があるというのは皮肉な話だろう。

「些か魔法具に慣れ過ぎていた所だったので、丁度いい訓練かもしれません」

フェリクスもそれに気付いたのか、そう言って笑っていた。

「この二匹はどうしますか?」

勇とフェリクスの話が一段落したのを見て、リディルが声を掛けてくる。

「一旦この二匹は持ち帰りましょうか。血の匂いで他の魔物が来ても厄介ですし。今後どうするかは、素材をエトさんとかに見てもらってから決めましょう」

「了解です!」

こうして勇達は、午前中のうちに瑠璃猫号へと一時帰還するのだった。

「ふむ。牙は中々上質だの。毛皮も悪くはないが少々硬い。貴族には売れんだろうから、実用品向けだの」

持ち帰った狼もどき――仮称ドッグウルフ。狼のような犬ウルフドッグに対して、犬のような狼である事から――の素材をエトが検分する。

どうやら牙以外は、そこまで値が付くものではないようだ。

「イサム様、今度は新種のウルフを狩って来たんですって?」

そこへ料理長のバルボがやって来る。戻ってきて早々マルセラが呼びに行っていたのだ。

もちろん肉をどうするか決めるためだ。

「う~~ん、ちいと筋が太ぇ気がするな。こういうのは大概硬ぇんでさぁ」

切り口から肉をグニグニとやりながらバルボが言う。

「なるほど……。そう言えば今回は姫が大人しいな……。姫、この肉はどうなんだい?」

ピギーバイソンの時には自らバルボを呼び行った織姫が、今回は定位置の勇の肩の上で寛いでいる。

訝しんだ勇が声を掛けると、織姫は面倒そうにドッグウルフの下へと向かい……

カキカキカキカキ

前足で近くの甲板を掻き始めた。

いわゆる“砂かけ”のポーズだ。

猫が砂かけをする理由は諸説あるが、大きくは二つと言われている。

一つ目は、食べ残した食事を後で食べるため、盗られないように穴を掘って隠そうとする本能から。

そして二つ目は、目の前の物が気に入らないからだ。

「あーー、これは美味しくないみたいですねぇ」

今回は食べていないものに対してなので、おそらく後者なのだろう。

それを知っている勇が苦笑する。

「なるほど……。オリヒメよ、毒はあんのか?」

「にゃふ」

バルボの問いに面倒くさそうに答える織姫。

「多分毒があったら引っ掻いてでも止めると思うので、毒は無さそうですね」

「そうですかい……。一塊だけもらっても?」

思案しながら問うバルボ。

問題無いと答えると、厨房から持ってきていた大ぶりのナイフで肉を切り分けて、厨房へと帰っていく。

その日の晩も、それ以降も。瑠璃猫号のメニューにドッグウルフの肉が出ることは無かった。

後から聞いた話によると、バルボは好奇心から試食はしたそうだ。

味はどうだったのか? という勇の問いには顔を顰めて

「三年くらい着た革鎧を食ったら、あんな感じかもしれやせんね」

と答えていた。

その日の午後、そして翌日の探索は、勇の提言通り魔物の調査を中心に行われた。

船島の特徴的な自然環境の戦闘に慣れるため、二チームに分かれて人を入れ替えながらの実施だ。

結果分かったのは、

・船島固有の魔物とそうではない魔物の両方が生息している

・固有の魔物は今のところピギーバイソンとドッグウルフのみ

・固有種以外は、飛行するタイプの小型、中型の魔物がメイン。一部岸壁を登れる海洋性の魔物もいる

・魔核が通常と異なるのは固有種のみ

・固有種の魔核は例外なく通常とは異なる――属性魔核と命名

・固有種の魔力属性は、水、土、風の三種類。土が最も多く六割ほどで、水が三割、風が一割

・生態系の頂点は固有種の二種が分け合う形。互いに襲う事は無さそう

・飛行タイプとは生息域が異なるため、そちらとの序列は不明

といったあたりだ。

捜索範囲は船島の前方側――船の出入り口と思われる後方の逆側――からおよそ三割程度の範囲なので、もちろんこれが全てではないだろう。

しかし調査と並行して、前方から二割程度の場所にベースキャンプとなる拠点を構築できたため、調査はこれで十分と判断、いよいよ本格的に後方へ向かうためのアタックが開始された。

もっとも船島は、人工の島としては大きいが陸地の森などと比べたらかなり規模は小さいため、魔物の状況が把握できてからの探索はスムーズだ。

本腰を入れてアタックを開始して三日目の午後には、勇達は目的地である船島後方の巨大建造物近くまで辿り着いていた。

しかし木々の隙間から見える建造物の前の状況に、すっかり一行の脚が止まる。

建物は、島の外壁から外壁の間に隙間なく建てられており、ファサードはほぼ全面フラットな壁のようになっている。

壁の高さは十五メートル程はあり、窓のようなものはほとんど見当たらない。

壁の上はおそらく歩けるようになっているのだろう。少し空間を開けた上方には屋根のようなものが付いている。そこから奥にある建物と繋がっているようだ。

そして外壁の中央あたり。

フラットな壁にあってそこだけが縦横三メートル程窪んでいた。

「どうやらアレが入り口のようですが……」

明らかに入り口っぽいそれを見やった後、外壁の手前に視線を戻しながら勇が小さくため息をつく。

「この“溜まり”は大きいですね……」

「ええ。しかも二種類が一緒にいるパターンは初めてです」

フェリクスと勇が声を潜めてその状況について言葉を交わす。

船島の固有種は、数頭一緒に行動していることはあっても、群れで襲ってくるようなことはない。

ただここまでの道中で、固有種がある程度の数で固まって身体を休めているようなスポットをいくつか発見していた。

そうした固有種が固まっている場所を、勇達は“溜まり”と呼んでいる。

道中の溜まりは、一種類が十頭ほどで群れている程度だった。

しかし眼前の溜まりは、二種類が仲良く五十頭ほどで寛いでいる。

建物の前は木々に浸食されているが広場のようになっており、集まりやすいのだろうか。

そんな空いたスペースを半分ほど魔物たちが占拠している状態だ。

「どうしますか?」

魔物の半分が牛っぽいこともあって、テレビで見たサバンナの水場みたいだなと思ったところでフェリクスから声がかかり、イサムは慌てて小さく首を振る。

「流石にこの数を相手にはしたくないですね。周りへの被害を考えなければ、倒せない事は無いでしょうけど……」

フェリクスの問いに勇は眉間に皺を寄せる。

高威力の魔法や魔法具で力押しすれば、倒すこと自体は出来そうではあるが、周りへの被害が馬鹿にならない。

特に炎属性のものは火災になったり遺跡を破壊してしまう可能性が高いし、派手に音を立てると島中の魔物が集まってくる可能性もある。

そのあたりを懸念して、道中の溜まりについても手を出さずに回避してきていた。

しかし目の前のそれは、目的地と目と鼻の先にあり回避する事は出来そうにない。

どうしたものかと勇が思案しかけたその時だった。

キラキラッ

「なんだ?」

「どうされましたか?」

壁の上の右端の方で、何かが光ったような気がした勇が首を傾げる。

振り返って勇の方を見ていたフェリクスは気がつかない。

「いや、あの右側で何か光ったような……。あ、また!!」

「!! 確かに光りましたね……」

勇が指差した方向をフェリクスが目をやった途端、ふたたびキラキラと小さな光が瞬く。

「……何かいますね。あまり大きくないので猿系の魔物とかでしょうか?」

メンバーの中で最も目が良いユリシーズが言う。

どれどれと皆がそちらに注意を向けた矢先、今度は壁の左端の方で物音がした。

ガション

何か硬いものが高い所から落ちたような音だが、壊れたような音ではない。

一同が一斉にそちらに目をやると、思いもよらないモノがそこにいた。

身長三メートル程。

四本脚のケンタウロスのような形状で、全身にくすんだ紺色の鎧を纏ったような外観。

顔に当たる部分は真っ黒で、目のような赤い光が一つだけ輝いている。

『◆◎△▲×〇□◇■×〇』

ハッキリとは聞こえないが、人の言葉とは違う言葉をソレが発する。

「ガ、ガードロボット……?」

勇がポツリとそう零す。

その姿は、色こそ違えどかつて岩砂漠の遺跡で遭遇した、ガードロボットにそっくりであった。