軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第289話●船島の子供たち

「さて、あまり悠長にもしていられませんので、作戦を詰めましょう」

頭の上の織姫の喉を撫でながら、勇が騎士達を振り返る。

「最終的にはユリシーズが抱えてロープに飛びつく感じでしょうね。見た感じそこまで重そうではないので、今の魔力残量ならいけるはず」

小さく頷いたフェリクスが、早速作戦を提示していく。

一分とかからず作戦が決まると、皆が一斉に動き始める。

最初にやったのは、ロープの付け替えだ。

魔法人形(オートマタ) のいる方は壁の逆側なので、そちらへ持っていく必要がある。

「すごい、私達だと運ぶのに何時間もかかったのに……」

結んであるロープを解き、あっという間に運んでまた結び始めた騎士達を見て、少女が目を剥く。

ナナシュの姉でリュピピと名乗った少女だ。

「よし。ドラスとヴィレム殿はロープをお願いします。ああ、リュピピも手伝ってくれるかな?」

「了解!」

「分かりました」

「は、はい!」

フェリクスの指示に、三人が答える。

「では、イサム様とリディルの魔法を合図に一気に行きます。ナナシュも頼んだぞ?」

「や、やってみる!」

頷く勇とリディル。ナナシュはやはり緊張の面持ちだ。

「んにゃっ」

「お、先生は僕のところか」

織姫は、勇の頭の上からひょいとユリシーズの肩の上へと飛び乗る。

「さて、リディルいきますよ? 私は奥側に撃つので、手前側をお願いします」

「はっ!」

皆の準備が整ったところで、勇はあらためて皆を見回す。

全員が頷いたのを見て、呪文の詠唱を始めた。

『『天を睨む乱杭は、大地より生じるもの也』』

発動待機状態まで持っていき、敵を近付かせまいと逃げる 魔法人形(オートマタ) の動きをじっと見つめる。

そして、大きくジャンプをして少し敵との距離を離したタイミングで、呪文を発動させた。

『『 天地杭(グランドスパイク) !』』

ドドンッ!!

二人の放った 天地杭(グランドスパイク) は、距離をとった 魔法人形(オートマタ) と対峙する一番前の敵ギリギリのところで炸裂する。

「ギャヴォンッ」

勢いよく斜め前方へ飛び出した土の柱が、前方にいる敵を弾き飛ばした。

「□□○×△!!」

『ピコーン! ○×▽■●!』

続けてナナシュが短く指示を出すと、戦闘態勢を解除するかのように 魔法人形(オートマタ) が棒立ちになった。

『『 風壁(ウィンドウォール) !』』

『『『 全身強化(フルエンハンス) !』』』

立て続けに、勇とリディルの壁魔法、フェリクス、マルセラ、ユリシーズの 全身強化(フルエンハンス) が発動し、フェリクスら三人は壁の上から飛び出していった。

「く、さすがにちょっと重いな、っと」

そう零しながら、ユリシーズが 魔法人形(オートマタ) を背負うような形で担ごうとする。

細身のユリシーズは元の筋力は騎士達の中でも弱い方だが、 全身強化(フルエンハンス) の倍率が高いため短時間なら最も大きな力を出すことができる。

それゆえの役回りだった。

「せいっ!」

「おりゃぁ!」

一方フェリクスとマルセラは、壁魔法を飛び越えた先で敵の間引きに取り掛かる。

魔力消費が激しい 全身強化(フルエンハンス) は壁の上に戻るのにも必要なので、その時間を考慮すると魔物の相手をできるのは精々五秒程。

それを理解しているので、近い敵に片っ端から攻撃を仕掛けていく。

倒しきる必要も時間も無いので、主に足下や目を狙って動きを止めるための攻撃と、近付けさせないための威嚇行為だ。

「準備完了!」

そんな中ユリシーズから声がかかった。

「よし、マルセラ下がるぞ!」

「りょーかい、っと!」

それを聞いてフェリクスとマルセラが、大きく剣を振り回して最後の威嚇をして撤退の準備に入る。

その時だった。

「ヴォヴォアァァァァッッ!!!」

「げっ!?」

ドッグウルフの背後であまり動かなかったピギーバイソンのうちの二頭が、 魔法人形(オートマタ) を背負って動きの鈍くなったユリシーズを目掛け猛然と突っ込んできた。

「っとぉおお、うわわっ!!」

どうにか最初の一頭の攻撃を躱すものの、動きの自由度を制限された状態では二頭目の攻撃を躱しきれそうにない。

魔法人形(オートマタ) を一度手放すか――? と冷や汗をかきながら考えるユリシーズ。

そんな状況を見かねてか、ユリシーズの頭の上に移動して様子を窺っていた織姫がひょいと飛び降りた。

「うにゃっ!」

「ヴァモォォッッ!」

「にゃっ!」

「ヴォルゥゥォォッッ!」

「にゃっふ」

薄っすらと金色の光を纏った前足で二頭のピギーバイソンを薙ぎ払うと、織姫は何事も無かったかのようにユリシーズの頭の上に戻って来る。

「さすが先生!」

「いそげっ!」

戻って来たマルセラとフェリクスがユリシーズを守るように位置取りながら声を掛ける。

「言われずともっ、っしょぉぉ!!」

壁の上からはドラスの手によってロープが再び投下された。

それを見て小さく頷いたユリシーズが、力を溜めるようにグッと沈み込んでから勢いよく飛び上がり、ロープを掴む。

「ぐ、流石に重いな……」

壁の上では、勇とリディルも加わり四人でロープの引き上げにかかった。

「もうちょい耐えててっ!」

自らもロープを登りつつ、眼下で魔物が来ないよう注意を払っている二人に声をかける。

「ふぅぅぅぅ、到着、っと」

そのままどうにか登り切ったユリシーズは、ガチャリと 魔法人形(オートマタ) を降ろすと、大きく息を吐いてその場にへたり込んだ。

「隊長どうぞっ!!」

すぐさまリディルが、半分ほど引き上げられていたロープを垂らし直す。

「ほいっ」

「ふんっ」

最後まで壁下に残っていたマルセラとフェリクスが、同時にロープに飛びつき壁の上まで戻って来る。

「ふぅ、やっぱり 全身強化(フルエンハンス) は消費が激しいですね……。半分以上魔力を持っていかれましたよ」

「うん、わたしもギリギリですよぉ……」

ユリシーズのようにへたり込みこそしないが、フェリクスとマルセラも肩で息をして膝に手を着いている。

「皆さまご苦労様でした。おかげで 魔法人形(オートマタ) を救出出来ました。ありがとうございます」

そんな一同を勇が労う。

「おにーちゃんたちありがとう!!」

戻って来た 魔法人形(オートマタ) に抱き着いたまま、ナナシュも礼を言う。

騎士達は手を挙げたり笑顔を返したりすることで、それぞれそれに応える。

こうして目的地であった船島後部へのアタックは、住人と思われる者と 魔法人形(オートマタ) との邂逅という大きすぎるオマケ付きで達成されたのだった。

「じゃあ今は三人だけで暮らしてるんだね」

「うん。わたしたちの住んでる中央棟以外に住んでる人がいたら別だけど、一度も見た事ないよ」

勇の問いかけに、織姫を膝に乗せたリュピピが答える。

無事 魔法人形(オートマタ) を救出しつつ船島後部の建物へと辿り着いた勇達は、魔力をある程度回復させるため、壁の上部から建物に入ってすぐのところで休憩をしていた。

外壁は固いコンクリートのような材質で出来ていたが、内部はプラスチックのような材質で出来ており、遺跡と似た雰囲気だ。

休憩しながらリュピピとナナシュ姉弟とお互い身の上話をすると、色々な事が分かって来た。

二人ともこの船島で生まれたネイティブ船島人で、姉のリュピピが十三歳、弟のナナシュは十一歳。実の姉弟だという。

もう一人の島民である祖母との三人だけでこの船島に住んでおり、一度も島から出たことが無いらしい。

ナナシュが命令していた 魔法人形(オートマタ) は、動かすことが可能な二体のうちの一体で、ゴルシというのはその個体についた名前だそうだ。

誰が付けたのかは分からず、もう一体の 魔法人形(オートマタ) であるタバルと共に、ずっとその名称で呼ばれてきたという。

魔法人形(オートマタ) はオーナーを設定する事が出来るそうで、現在はゴルシのオーナーがナナシュで、タバルのオーナーはリュピピだ。

船島後部の建物群は、中央棟、左棟、右棟の三つに大きく分かれており、勇の予想通りその多くは居住スペースだそうで、中央棟に彼女らは住んでいるらしい。

「とーちゃんとかーちゃんはボクが六歳の頃に、助けてくれる人を探しに行くって言って島を出ていっちゃったんだ」

リュピピの横で織姫の頭を撫でながら、ナナシュが言う。

「動かせる船はそれが最後だったから。賭けに出るしかないって言ってたみたい」

同じく織姫の喉をさすりながら、リュピピが続ける。

どうやら五年前までは、彼女たちの両親も一緒に住んでいたようだった。

ただ人工の島に閉じた生活は、やはり色々と厳しいらしい。

船島が回遊している海域はスコールが良く降るため水にこそ困らないが、食料に関しては綱渡りがずっと続いていたそうだ。

野菜や果物類は、建物の中庭にある畑のようなところで何種類か採れるので一家族なら何とかなるのだが、たんぱく源の調達が大変だった。

彼女らが生まれた時にはすでに、魚を釣るのと島に飛来する鳥を獲ることでどうにか食い繋いでいたようである。

そして、いよいよこのままではジリ貧だという事で両親は外洋に出る決心をする。

島に残っていれば少なくとも食べてはいけるので、小さな子供と年老いた母を残して、一隻だけ残っていた動かせる小型の船で船島を出て行った。

それが五年前の出来事で、未だ戻ってきていない。

「だから少し前ににーちゃんたちの船が見えた時は、とーちゃんたちが人を連れて帰ってきたと思ったんだ!」

「ああ、やっぱりあの時はこちらが見えていたんだね」

「うん。あんな事これまで無かったから!」

「でもあの“がーでぃあん”に追い払われちゃって……。おばあちゃんとももう駄目かもって話をしてたの」

やはり一回目の海竜との戦闘時、勇達が戦っているのは見えたらしい。

両親が帰ってきたかもと思った彼女らは、どうにかそれを助けられないかと動かし方の分かる唯一の光の魔法兵器で援護するが、それは叶わず。

相当落ち込んでいたようだ。

ところが何か月か後、再び勇達が現れた。しかもついに海竜を倒してしまう。

それ以降ずっと勇達の様子を観察し、ついに今日念願の邂逅を果たした。

ちなみに一度目の戦闘時に助けてくれたレーザーのような魔法具は、一度使うと魔力を充填するのに相当時間がかかるそうだ。

先の戦闘時にリュピピが気を引くために放った光は、最初に助けてくれた時と同じ魔法具だというからさもありなんである。

「しかしあれが、元々は島を守るために作られた人工の魔物だったとは……」

「ええ。しかも最初はきちんと制御できていたと言うんだから驚くよねぇ」

そんな彼女らの話を聞いて、フェリクスとヴィレムが驚いていた。

例の海竜――彼女たち曰くガーディアンは、勝手に住み着いた魔物ではなく、かつての船島の住人たちが島を守らせるために作った人工の魔物だというのだ。

どういう原理か分からないが、それを制御して島を守っていたという。

しかも複数いたというのだから驚きだ。

ワミ・ナシャーラが船島に上陸しているという事は、少なくともその時点では制御が出来ていたのだろう。

それがいつしか制御不能となり、迂闊に島から船を出すことが出来なくなってしまったことで、船島は衰退へと舵を切る事になってしまったと思われた。

制御不能になったガーディアンは、普段は島の周りをぐるぐると周遊している。

そしてどうやら一定の距離以内にある程度の大きさの物が近づくと、攻撃を仕掛ける生態のようだ。

その生態を知っていたから、リュピピの両親は隙を見て出航させることが出来たのだろうか? と話を聞いた勇は考える。

それからもしばらく雑談をし、織姫が飽きてきたのを見計らって勇がパンパンと手を叩きながら立ち上がる。

「さて、だいぶ魔力も回復した事ですし、そろそろ二人のお婆さんに挨拶に行きますか。戻りが遅いと心配されるでしょうし」

「わかった! ばーちゃんと住んでる所までは結構歩くから、案内するよ!」

「うん。よろしくね」

こうして勇達は、リュピピとナナシュを案内役にして、いよいよ船島の建物内部へ本格的に足を踏み入れていった。