軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第193話●森の猫カフェで作戦会議

「えぇぇぇ……!?」

続々と出てきた猫は、マックスを含めて十五匹。元からいた織姫たちを加えると二十匹近い。

いきなり猫カフェのようになってしまった足元を見て、勇が呆然とする。

「これは……。おそらく全てアバルーシの操縦者のパートナーですぞ! 某も全ては知りませんが、見知ったキャトも多いですわい」

勇と同じように驚いていたグレッグだったが、猫の素性に気が付いたらしい。

「フォフォ、こいつはシャドーの母親で間違いありませんわい」

そんな事を言いながら、寄ってきた白黒ブチ柄の猫の喉を撫でている。

「アバルーシの猫たちですか……」

グレッグの言葉を反芻する勇だが、考えてみれば この世界(エーテルシア) の猫は、織姫を除くとおそらくアバルーシの民と一緒にいるものだけなので、さもありなんである。

落ち着いた勇があらためて猫たちを見ていると、どの猫もまず真っ先に織姫に挨拶をしているようだ。

「姫が呼んだのかい?」

一通りすべての猫との挨拶が終わったようなので、勇が足元の織姫に語りかける。

「にゃっふ」

そうだ、とばかりに短いが力強い鳴き声が返ってきた。

「昨夜、他のネコたちとどこかへ出かけられていたようなので、その時に何かされたのかもしれませんね……」

戻ってきたタイミングで不寝番をしていたイーリースが言う。

「ああ、確かに戻って来たのはかなり夜遅くでしたね。で、アバルーシの猫たちがいるという事は、潜伏場所も近いと見て良いんでしょうね」

勇も、昨夜遅くに織姫がベッドに潜り込んできたことを思い出しながら言う。

「基本、キャトはパートナーのそばを離れませんからの」

勇の予想をグレッグも肯定する。

「じゃあ、二グループに分かれて慎重に周りを探して――」

ガサガサッ

勇が探索の再開を告げようとしたのと同時に、正面の茂みの奥から音が聞こえた。

「「「「!!」」」」

それに騎士達が一斉に反応し、勇とサミュエルの前に素早く躍り出ると、静かに抜刀し臨戦態勢に入る。

息を殺して待っていると、茂みから聞こえる音がどんどんと大きくなってきている。

こちらに人がいるのに気付いていないのか、音の主が近づいてきているのは間違いないようだ。

バサバサーッ!

そしてついに一際大きく茂みが揺れ、音の主が姿を現す。

同時にフェリクスが一瞬で間合いを詰め、相手の喉元に剣を突きつけた。

「マックス、いったい何処へ……。ひっ!?」

こちら側に人がいたことに気付いていなかった音の主が、突きつけられた剣を見て短く悲鳴を上げた。

「リリーネさん!!」

「お嬢っ!!」

それを見た勇とグレッグが同時に声を上げる。

茂みから出てきたのは、一行が合流を目指して目下捜索中だったアバルーシ一族の現当主、リリーネその人だった。

「フゥ、さすがに肝が冷えたぞ……」

汗を拭いながらリリーネがそう零す。

森の中を歩いてきたことによる汗というより冷や汗のほうが多いのか、まだ少々顔色が悪い。

「失礼しました。なにぶん敵地かつ森の中でしたので警戒を緩めるわけにはいかず……」

少々バツが悪そうにフェリクスが軽く頭を下げる。

「ああ、いや。大した確認もせず近付いた某が悪いのだ。驚かせてすまない」

特段責めるつもりがあった訳ではないリリーネが小さく手を振り言葉を返した。

「さて……。状況から何となくは察しましたが、これまでの経緯、いや多分昨日今日? からの経緯を教えてもらえないでしょうか」

リリーネが落ち着いてきたのを見計らって、勇が声をかける。

「ああ、汝の言う通り昨日から動きがあった」

思い思いに寛ぐ猫たちに驚きながら、リリーネがこれまでの経緯を話し始める。

「まず我々がこの先の潜伏場所に集合したのは、一昨日だ。少し前まで南部で偵察や妨害工作をした後移動してきた」

どうやら最後にもらった手紙に書いてあった作戦行動からは、大きな変更点は無く進んでいるらしい。

「明後日からズンの者らと合流して作戦行動が始まる予定だから、昨日からはメラージャ近辺を数人で哨戒している。が、逆に言えばその程度で今はほとんど何もせず待っている状況だ」

「ふむ。このあたりの予想はおおよそ当たっていたという事か」

話を聞いていたサミュエルが呟く。

「こちらは?」

「ああ、すみません。ほとんどが初めましてなのにご紹介していませんでしたね」

リリーネの言葉に、帯同メンバーを紹介もせずに話を始めていたことに気付いた勇が慌てて紹介を始めた。

「なんと、侯爵家のご当主が帯同されていたとは……。これは大変失礼した」

サミュエルが侯爵家の当主である事を知ったリリーネが、居住まいを正して頭を下げる。

まさか森の中、しかも敵が近くにいるような所でそんな重鎮に出くわすとは思ってもいなかっただろう。

「いや、今回無理言って同道させてもらったのはこちらだ。あくまで同行者の一人として扱ってくれればよい」

「は、はぁ……」

「あはは。まぁそういう事なので、お気になさらず」

戸惑うリリーネに勇がそう言うが、気にするなというのが無理な話だ。実際勇も口ではそう言いながら苦笑いを隠し切れていない。

「それで、そちらのネコたちが集まってきたのはどういうわけなのだ? 状況だけを見るとオリヒメが呼んだようにしか見えんが?」

戸惑うリリーネにかまわず話を進めるサミュエル。

「あ、ああ。いやむしろそれはこちらが聞きたいところだったのだ」

リリーネの話によると、昨夜のうちに潜伏場所にいる猫たちが全て、どこかへ出かけていったらしい。

リードなどを付けているわけでもないし、元々自由な猫たちだ。夜中には戻ってきていたこともあって、誰も大して気にもしていなかった。

「そして30分ほど前だ。私はちょうど偵察に出ていたのだが、マックスが突然魔力パスを切って操縦席から飛び出していってな……。慌てて追いかけてみたらここに辿り着いたというわけだ」

潜伏場所からの有効操縦範囲では偵察エリアを網羅できないので、リリーネは潜伏場所を離れたところで操縦していた。

なので、他の猫たちが集まっているのは今しがた初めて知ったということだった。

「なるほど。そういう事だったんですね。私も起きていることしか分かっていないので何とも言えませんが……」

リリーネの話を受けて今度は勇が説明をする。

と言っても、昨夜織姫ら猫軍団が一時的に森へと入っていたらしいこと、本日ここまで来たのは織姫の先導だったこと、そして30分前に聞いた事のない長鳴きをした後、猫たちとリリーネが現れたこと。

それが知りうることの全てだった。

「リリーネさんとの話と合わせると、おそらく昨夜に織姫とそちらの猫たちが会って、何かしらの決め事をしたんでしょうね。で、そのうちの一つが今の状況――リリーネさんを連れてくることと、他の猫たちも集合することなんでしょう」

織姫は人の言葉を理解している節はあるのだが、人語が話せるわけでは無いので予想でしかない。

しかし状況からしてそう考えるのが妥当だろう。

「まぁそうなのだろうな。しかし私を案内するのは分かるが、他のキャト達も集めたのはなんの意味があるのだ?」

「味方だけを集めた、ということではないのか?」

リリーネのもっともな質問に答えたのはサミュエルだ。

「味方だけを、ですか?」

「ああ。リリーネ殿のネコがリリーネ殿を連れてきたのに対して、他のネコたちはそれをしていない。聞くところによると、リリーネ殿以外の人間はほとんどがズン側だというではないか?」

「あー、なるほど。だから、あえてリリーネさん以外は猫だけを集めることで、猫たちを全て味方につけたと教えている、と?」

言葉を引き継いだ勇が確認すると、サミュエルがゆっくり頷く。

「姫、そういう事なのかい?」

「にゃっふ」

いつの間にかサミュエルの肩に乗っていた織姫が、勇の問いかけに心なしか胸を張るように短く鳴いた。

「……これは多分そういうことなんでしょうね。リリーネさん、猫たちだけが我々の味方になったとして、どんな利点があるんでしょうか?」

「すごいな、イサム殿は。今の返事だけでオリヒメのことを信じるとは……。ああ、すまない。キャトが味方に付いた場合の利点だな?」

あっさり信じた勇を見てリリーネが目を丸くする。

「既に知っていると思うが、キャトは魔力パスに介入することができる。操縦者の味方である事が当たり前だったから、これまではそれが操縦者には大きな利点だったのだが……」

そして考えられる猫が味方に付くことのメリットを話し始めた。

勇たちはリリーネの説明を聞きながら、今後の作戦についての話をまとめていく。

「わかった。では作戦の開始は明日の午前だな」

一通り作戦をまとめると、リリーネはマックスを連れて戻っていった。

リリーネは偵察に出ている状況だし、二日続けて猫達が長時間いなくなると何事かと気にする者が出てくる可能性がある。

奇襲は気付かれていないから奇襲足り得るのだ。それを知ってか知らずか、猫たちも一斉には戻らず三々五々に森の中へと消えていく。

また、フランボワーズとローレルがリリーネに付いて行く。ここから1時間ほどだという潜伏場所を確認しにいくためだ。

そして確認を終えた二人が帰ってくるのを待ってから、一行は探索を終えて待機メンバーが待つ街道脇まで戻ってきた。

「むぅ、そんなにネコが……」

「隊長はずるいっす!!」

「……」

待機メンバーと合流した勇たちが探索の結果を報告すると、案の定猫カフェ状態だったことにミゼロイとティラミスが食いつく。

口にこそ出さないが、アンネマリーも少々ジト目だ。

「まぁ明日になれば会えるはずなので、それまでは我慢してくださいね」

そんな三人を宥めつつ、一行は陽のあるうちにもう少し西へと移動する。

哨戒範囲がおおよそ把握できたため、作戦決行ポイントに近い位置へと可能な限り近づくためだ。

夜間の移動は、危険なだけでなく、複数台連なる魔動車のヘッドライト代わりの魔法カンテラが相当目立つため控えることにした。

その夜は、魔動車を隠すのに良さそうな場所で野営となる。

サミュエルも野営には抵抗が無いばかりか、自ら設営の手伝いを申し出たため逆に気を使う羽目になっていた。

周囲の警戒は、生身の二人と 魔法巨人(ゴーレム) を操縦する一人が一組となり、交代制で行う。

「これは便利ですね……夜間の見張りの精度が格段に上がりますよ」

最初に 魔法巨人(ゴーレム) で見張りについていたドレクスラーが、交代した後興奮気味にそう話す。

魔法巨人(ゴーレム) に搭載されているサーモグラフィを使っての感想だった。

「フォフォ、初代が”蛇の眼”と命名した機能ですわい。便利ですが魔石の消費が激しいので、あまり見張りには使わんのですがの……。さすがはクラウフェルトですな」

グレッグの言う通り、稼働用の魔石に加えて火の魔石も使うため、便利だからと言って使い倒しているわけではないらしい。

このあたりは、無属性魔石を産出するクラウフェルト家ならではの贅沢と言えるだろう。

そしてまたさらに別の所でも、クラウフェルト家らしさが炸裂していた。

「よもや敵地での野営で温かい食事が食べられるとはな……」

「……ええ。これは画期的、いや、もはや革新的と言ってよいのではないでしょうか」

ドレクスラーと同じく最初の見張りだったサミュエルとフランボワーズだ。

一同行者なのだから当然見張りにも立つと言われたものの、さすがに深夜に見張ってもらうわけにもいかないので一番最初の見張りに立ってもらっていた。

「魔法コンロ、だったか? これはアレが組み込まれているのかね?」

簡易キッチンを据え付けた風呂魔動車の中で、先程まで調理をしていた小さなテーブルを指しながらサミュエルが勇に尋ねる。

「はい。基本的には同じものですね。道が良ければ、移動しながらでも使えるように少々手を入れています」

自身もサミュエルたちに出した具沢山スープを食べながら、勇が答える。

「そうか……。戦時や大人数のキャラバンであれば火を起こして調理する事もあるが、如何せん目立つし薪も嵩張る。その点これは、魔石こそ使うがほぼデメリットが無い……。素晴らしい魔法具だ」

「あはは、ありがとうございます。単純に便利そうだから作っただけですけどね」

大絶賛するサミュエルの言葉に勇が頭を掻く。

「フフ、作ろうと思って作ってしまうのが素晴らしいと言っておるのだ。スキルの効果もあるにせよ、そうした我々に無い考え方こそが、迷い人最大の恩恵かもしれぬな」

勇の返答にサミュエルがそう呟いた。

その後も、風呂魔動車での足湯をクラウフェルト家以外のものが再び絶賛しつつ、夜明けを迎えた。

「では、作戦の最終確認をします。まず第一段階は潜伏場所を避けて、単機で哨戒に出ている機体を強襲します。猫を従えている機体が2機いるそうなので、それを狙います」

軽く朝食を摂りながら、出発前に全員参加のブリーフィングを行っていた。

「リリーネさんから聞いた哨戒ポイントで待ち伏せ、近づいてきた所を魔法で奇襲します。そして奇襲と同時に織姫に合図をしてもらいます」

「にゃふ」

説明する勇の頭の上でテシテシ叩きながら織姫が返事をした。

「合図を受けた猫は、おそらく操縦者の妨害をしつつ、マックスと同じように操縦席を飛び出しこちらへ全力で向かって来てくれるはずです」

そう言いながら勇がチラリと頭上の織姫に目配せすると、再びテシテシと勇の頭を叩いた。その通りということなのだろう。

「……。今回は鹵獲が目的なので、うまく攻撃を躱し足止めをしつつ、別動隊が猫の誘導に従って速やかに操縦者を見つけ身柄の拘束を行います」

「もし相手方のネコが想定通りに動かなかった場合はどうしますか?」

念のためといった感じで、フェリクスが勇に尋ねる。

「その場合は、魔法具も駆使して 魔法巨人(ゴーレム) を無力化するしかありません。潜伏場所に戻られると厄介なので……」

もちろんこれもすでに昨日のうちに話は決まっているので、単なる最終確認だ。

「出来れば修理可能な状態とするのがベストですが、手加減できるような相手では無いですからね。で、その先の作戦も別プランに移行させます」

「了解しました」

フェリクスがあらためて頷く。

他には特に質問も確認も無さそうなのを見た勇が、一同を見回して作戦開始の号令をかける。

「では、まずは 魔法巨人(ゴーレム) 二機を生け捕りにしましょうかね」

「「「「「了解!」」」」」

こうして、猫との共闘で 魔法巨人(ゴーレム) を鹵獲するという、前代未聞の作戦の幕が上がった。