軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第192話●ある日、森の中

翌朝。

貸し切りフロアのダイニングで朝食を摂った後、今日から本格的に始まるアバルーシの潜伏先捜索についての最終調整を行う。

「昨日の簡単な捜索では手掛かりらしい手掛かりは見つかりませんでしたね」

「そうですね。さすがに街道に近い場所に痕跡を残すようなミスはしないでしょうね」

「それほど数は多くないようだからな。離れた場所から森に入っているだろう」

持っていた簡易な地図をテーブルに広げながら勇、フェリクス、サミュエルが意見を交わす。

「やはり、まずは候補地として知らせてもらった辺りから捜索しますか?」

「そうですね……。何の手がかりも無く捜索するのは時間の無駄ですから、まずはそこからでしょうね」

「あとはどの辺りまでアバルーシ側の見張りが出てきているか、だが……。グレッグ殿、アバルーシには斥候部隊のようなものはあるのかね?」

無難な方針に落ち着いた所で、サミュエルがグレッグに確認を取る。

魔動車の車列は目立つので、街道寄りに斥候がいた場合逃げられるか襲撃を受ける可能性があるのだ。

「いや、そのような者らはおりませんな。真似事程度であれば出来る者はおりますがの」

グレッグが答える。

魔法巨人(ゴーレム) を隠し、身分も隠して生きてきた一族ではあるが、別に忍者のような一族ではないのでそれも当然だろう。

「ふむ……。となるとどの程度の人数を見張りに出せるか次第、か」

「そうですね。ズンの人間がどの程度帯同しているかどうかにもよりますけど、 魔法巨人(ゴーレム) の移動速度を当てにした作戦なので、さほど人数はいない気もしますね」

「操縦者と護衛者以外が、どの程度来ているかにもよりますが……。 魔法巨人(ゴーレム) 30機で輸送するのであれば15名程度が限界かと思いますぞ。修理担当なども必要ですからの」

「15か……。二交代で見張るとしても7,8名程度。であればメラージャ近辺以外にはさほど多くはなかろう。候補地から少し離れたところまで魔動車で移動、その後森に入るのがよいのではないか?」

「そうしましょうか。おそらく三時間ほど走ったところが候補地の最寄りなので、二時間ほど走った辺りから森に入りましょうか」

「わかった」

こうして探索の方針を決めると、準備を整え早速街道を西へと向かった。

やはり魔物が濃いのか、途中で十匹程のオークの小集団と二度遭遇戦になった。

一度目は、

「ふむ、今後の連携を考えると、私の戦闘能力を見ておいてもらうべきだろうな」

と言ってサミュエルが一人で相手をしたのだが、長さ一メートル以上、直径も二十センチはあろうかという 氷槍(アイスランス) を十本以上ぶつけて、一分もかからず倒してしまった。

王国一の魔法使いと聞いてはいたが、その実力を見るのは初めてだった一行が一様に目を丸くする。

唯一その実力を知っているフランボワーズは、完全にその目がハートマークになっていた。

一方勇は、サミュエルが 氷槍(アイスランス) と共に風の魔法を使っていたことを見逃さなかった。

妙に飛来するスピードが速かったのは、おそらく風の魔法で何らかのサポートをしていたのだろう。

あの大きさ、数の 氷槍(アイスランス) であれば結構な量の魔力を消費するはずだし、風の魔法も併用しているからさらに上積みされているはずだ。

にもかかわらず、涼しい顔をしているところを見るとまだ魔力には余裕があるらしい。

(うわぁ、この人もリアルチートな人だ……。多分エレオノーラさんと同じレベルの人間兵器なんだろうなぁ)

二人がかりで合成魔法を撃つことは良くあるが、それを一人であっさりやってのけたサミュエルに、敵じゃなくて良かったと心底ホッとする勇だった。

二度目の遭遇戦は、主に 魔法巨人(ゴーレム) を使っての戦闘となった。

模擬戦以外の実戦経験を積むためだ。

まずは主席のドレクスラーが小手調べとばかりに戦いを挑む。

魔物討伐に慣れたクラウフェルト家の騎士だけあって、あっという間にオークを蹴散らしていく。

後から感想を聞くと、

「これがあれば、オーガなどは物の数では無いですね」

との事だったので、やはり 魔法巨人(ゴーレム) の戦闘能力はとんでもないものなのだろう。

半分ほど削った後は、搭乗者登録を書き換えてユリウスが挑む。

生身では数回ゴブリンとの戦闘経験はあるが、ほぼ魔物との実戦経験はゼロのユリウスに、ここでも経験を積んでもらうためだ。

個体としての戦力差が大きい事もあり、結果としては楽勝といった感じではあったが、複数体との同時戦闘経験など無いため何度か相手の攻撃を受ける場面があった。

そのあたりを戦闘後にフェリクスやドレクスラーから指導されたユリウスは、その話を真剣に聞いていた。

そんなこんなで戦闘自体はあったものの短時間で終わったため、予定通り二時間ほど走って目的地付近へと辿り着く。

今の所、人による襲撃の気配などは無かった。

「ああ、あったあった。リリーネさんからの目印があったので、ここから南西に行ったところが当初の合流予定地点ですね」

街道以外に人工物など無い森の中なので、隙を見て木の根元にリリーネが目印を付けておいてくれるとの事だったのだが、勇がそれを発見し車列が止まった。

「森の奥の方に少しだけ開けたところがあるらしくて、そこを潜伏場所にする予定だそうです」

「まずはその場所を特定する必要があるか」

「そうなりますね。少し離れたところに魔動車は隠し、見張りを残して徒歩で森に入りましょうか」

「了解しました。十名くらいで森に入るという事で良いでしょうか?」

総勢二十名を超える大所帯になっているので、全員で森に入るとかなり目立つ恐れがある。

また、エトら荒事が得意ではないメンバーもいるため、残るメンバーと捜索するメンバーに分かれることになった。

短い話し合いの結果、森に入るのは、勇、サミュエル、フランボワーズ、フェリクス、マルセラ、イーリース、グレッグ、ローレル、ゲーブルの九名となった。

魔法巨人(ゴーレム) も、まだ森の中を自由に動かせるほどではないので置いていく。

人選が決まり、魔動車を街道から少し奥へと隠すと、勇が森へ入るメンバーに声をかけた。

「さて、では行きましょうか」

「うむ」

「「「「「了解」」」」」

「にゃふ」

「ま~」

「にー」

「みゃ」

「えっ!?」

森へ入る者たちがそれぞれに返答をした後、足元からも四つの可愛い返事が聞こえてきた。

「……姫が一緒に行くのはいつものことだけど、シャドーもキキもレオも行くのかい?」

驚いて足元を見ると、織姫を先頭に四匹の猫が並んで勇のほうを見上げていた。

どうやら残るのは、サラの愛猫のルーシーだけのようだ。

「にゃにゃっふ」

勇の疑問に当然とばかりに答えると、織姫は三匹の猫を従えてさっさと森の中へと入っていってしまう。

「す、すみません! 後を追いましょう! ちょっと、姫! 待って!!」

「フハハハ、これはまた面白いことになったではないか。いくぞ、フランボワーズ!」

「はっ!」

慌てて織姫の後を追いかける勇。それを見たサミュエルも嬉しそうに後を追う。

呆気に取られていた他のメンバーも慌ててそれに続いて森へと入っていった。

森へ入って3時間ほど。

トコトコと、時にはぴょんぴょん飛び跳ねながら迷うことなく森を行く織姫に、勇たちは付いていく。

街道はとうの昔に見えなくなっており、一段と濃くなった緑の匂いが胸いっぱいに広がっていく。

「フゥ、猫と言ったか? 相当に身軽だな。そして体力もある……」

額に滲む汗を拭いながら、サミュエルが勇に話しかける。

少々息は上がっているが、年齢を考えるとサミュエルの体力も相当なものだ。

「そう、ですね。元々身軽さは、相当なものでしたが、こちらに来て、体力も、付いた、みたいです、ね……はぁはぁ」

応える勇は、サミュエル以上に息が上がっていた。メンバーの中で最高齢のグレッグも少々苦しそうだ。

途中短い休憩は何度か挟んでいるが、基本歩きっぱなしなので無理もない。

それ以外のメンバーは、さすがに全員が現役の騎士だけあって呼吸に乱れは無かった。

そろそろ長めの休憩を入れようと勇が声をかけようとした時、猫たちが足を止めた。

「はぁ、はぁ、姫、休憩かい?」

立ち止まった織姫の傍らまでいって、勇が少しほっとした表情で尋ねる。

「にゃふぃ」

織姫は、情けない、とでも言いたげに語尾を下げながら応えると、ひょいひょいと勇の頭へと飛び乗る。

そして……

「なぉーーーーーーーーん」

織姫が、勇の頭の上で長く長く鳴いた。

鳴き声のボリューム自体は大きくは無いが、とてもよく通る綺麗な長鳴きだ。

それは、長年一緒に暮らしてきた勇でさえ初めて聞くものだった。

「ひ、姫?」

驚いた勇が頭の上の織姫に話しかける。

「「「にゃぉーーーーーーーーん」」」

勇以外の面々も突然の出来事に驚いていると、今度は付いて来ていた3匹の猫までもが同じように長鳴きをした。

「ふむ。マツモト殿、これは一体?」

驚いていたサミュエルだったが、気を取り直したのか勇へと尋ねる。

「ちょっと私にも分からないですね……。そもそもあまり長鳴きはしないんです。何かを訴えている時か誰かを呼ぶときくらいですね」

発情期にも長く鳴く事はあるが、あれは鳴き方自体が違うので除外している。

「なふぅ」

しかし戸惑う人間たちを尻目に、当の本人、いや本猫は、一度長鳴きした後は勇の頭の上で丸くなり完全に寛ぐ態勢に入っている。

他の猫たちも、誰かの肩に乗ったりその場に座り込むなどしながら、それぞれリラックス態勢に入っていた。

「ん~~、これはしばらく動かなそうですね……」

そんな猫たちの様子を見て、勇が苦笑する。

これまで脇目もふらずに歩く猫たちに付いて来ていたのだ。

その猫たちがが意味深に鳴き、その足を止めたのであれば、勇たちも足を止めざるを得ない。

一行は、休憩も兼ねてとりあえず待機する事にした。

しかし、地球ならまだしも、 この世界(エーテルシア) の深い森の中でじっとしているのはあまり気分の良い物ではない。

魔物に囲まれる可能性もある上、敵がすぐ目の前にいるかもしれないのだ。

そして、微妙な緊張感のまま三十分ほどが経過した頃だった。

大きな倒木に腰掛けた勇の膝の上で丸くなっていた織姫の耳が、何かの音を捉えたのかヒクヒクと大きく反応した。

丸くなったまましばらく耳を小刻みに動かしていたが、やがてスッと起き上がると森の奥の方をじっと見つめる。

「姫、どうし――」

その様子に勇が気付き、声をかけようとした時だった。

「なぅー」

「えっ?」

織姫が見つめていた茂みの奥から、一匹の黒猫が鳴きながら出てきた。

「にゃふぅ」

そしてそのままトコトコと歩いて来ると、織姫の鼻に自らの鼻をチョンと当てたあと、すりすりと頬を擦り付けた。

「……ひょっとして、マックスか?」

なんとなく見た事があるその姿に、勇が思わず問いかける。

「まーぉ」

答える代わりに、今度はグレッグの愛猫であるシャドーの元へとすり寄っていった。

「いかにもお嬢のマックスですわい」

寄ってきたマックスを撫でながらグレッグが言う。

しかし、それでは終わらない。

「にゃーー」

「クルルルゥ」

「うにゃぁ」

「ニャニャッ」

「みぃぃ」

茂みの奥から、様々な柄の猫たちが次々と姿を現すのだった。