軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第194話●強襲

哨戒中の相手に気付かれたら元も子もないため、里から持ってきた 魔法巨人(ゴーレム) は後詰として後方待機させ、十一名の強襲部隊が森の中を進んでいく

勇、アンネマリー、サミュエル、フランボワーズ、フェリクス、リディルの六名が 魔法巨人(ゴーレム) を抑えている間に、マルセラ、ローレル、メンフィオ、イーリース、グレッグが操縦者の確保に向かう想定だ。

猫は、織姫とシャドーが付いてきている。残りのメンバーは 魔法巨人(ゴーレム) と共に後方待機だ。

(いました。リリーネ殿が言っていた通り、肩に目印があるので間違いないかと)

一時間ほど森を進んだ所で、先頭で索敵していたフェリクスが足を止め、小声で警戒を促す。

少し前に藪や下草が大きなものに踏まれたような痕跡を見つけ、それを追って進んでいたのだが、五十メートルほど先に 魔法巨人(ゴーレム) と思しき影を発見するに至っていた。

元々岩砂漠で使われていた当時そのまま、灰褐色に塗られた 魔法巨人(ゴーレム) がゆっくりと歩みを進めている。

その右肩には、操縦者が猫をパートナーにしている機体だと分かるように、リリーネの手によって黒の塗料で目印がつけられていた。

(さて、どうする? 幸いまだ気付かれてはいないようだが)

距離をとったまま慎重に追跡しながら、サミュエルが勇へ確認する。

(ほとんど射線が通らないので、やはり使える魔法はかなり限定されますね……)

目を細めて奥を見ながら勇が答える。

遠隔地に効果を及ぼす魔法には、大きく二種類ある。

一つは 爆炎弾(ファイアブラスト) のように、手元から飛ばすもの。

もう一つは 天地杭(グランドスパイク) のように、発動地点の座標が指定できるものだ。

前者の方が圧倒的に多いのだが、この手の魔法は原則直線的に飛んでいくため、間に障害物があると非常に扱いづらい。

爆炎弾(ファイアブラスト) などは、何かに触れたらそこで発動してしまうし、 風刃(ウィンドカッター) のような魔法だと、何かに触れる度に威力が減衰していく。

魔法操作に長けた者であれば多少曲げることも出来るのだが、野球のカーブのように一度曲げることができる程度だ。

勇の言うように、障害物が多く存在する深い森の中では、木々をなぎ倒す覚悟で放つ必要があった。

しかしそんな魔法は、 魔法巨人(ゴーレム) も傷つけてしまう恐れがあるのでおいそれとは使えない。

後者の方は、魔力によって有効射程は変わるものの、何となく見えていればそこで発動させられる。

しかし、 魔法巨人(ゴーレム) の足を止めるのに有効な魔法が思い浮かばない。

得意の 天地杭(グランドスパイク) が使えればよいのだが、あれは何故か地面がある程度フラットでないと発動しないため、下草と藪が生い茂るここでは発動しないのだ。

もっとも、森の中での遭遇戦になることは分かり切っていたので、ある程度は織り込み済みだ。

(当初の予定通り耳を奪ってある程度接近、散開。姫もこのタイミングで呼び掛けます。射線が通ったら視界を制限して、あとは流れで……)

なので、最終確認を兼ねて簡単に指示を出すと、全員が小さく頷いた。

魔法巨人(ゴーレム) は、ある程度歩いたら少し足を止めて周りを見回す、という行動を繰り返している。

虚を突くためにも、仕掛けるタイミングは足を止めて再び歩き出した瞬間とした。

固唾を飲んで様子を見ていると、想定通り 魔法巨人(ゴーレム) が足を止めてゆっくり前後左右を見回す。

一同に緊張が走る中、勇が魔法の準備を始め、それ以外の者は念のため耳を塞いだ。

そして、 魔法巨人(ゴーレム) が再び一歩目を踏み出した瞬間……

『 偽破裂(フェイクバースト) 』

パァァァーーーーンッ!!

勇の魔法が 魔法巨人(ゴーレム) の間近で炸裂した。

相当驚いたのか、まるで人が驚かされた時のようにビクッと小さく跳び上がるのが見えた。

「なぉぉぉぉーーーーん!」

勇が太ももで挟むように耳を塞いでいた織姫が、すかさず長鳴きをする。

同時に、 魔法巨人(ゴーレム) 強襲役の五名が散開して走り出し、勇も織姫を頭にのせてその後に続いた。

魔法巨人(ゴーレム) のほうは、何事かときょろきょろと周りを見まわしながら、手にした短槍を構える。

『 煉瓦生成(クリエイトブリック) !』

そこへ今度は、サミュエルの魔法が発動した。

レンガ大の石のブロックが二十個ほど 魔法巨人(ゴーレム) の直上二メートルの地点に現れ、音も無く降り注ぐ。

ガコン!ガガン!!

派手な音をまき散らしながら、 魔法巨人(ゴーレム) の頭や肩にブロックが直撃する。

魔法巨人(ゴーレム) は音に続いていきなり降ってきた石に混乱したのか、短槍を振り回した。

「ふむ。まともに使ったのは初めてだが、中々に面白い魔法だったのだな」

魔法を放った張本人――サミュエルが口元を緩める。

勇から、大きなダメージを与えずに牽制に使うのに便利だと聞いて早速試してみたのだ。

「うわぁ、 煉瓦生成(クリエイトブリック) もあの数だと立派な攻撃魔法だよ……。いったいどれだけ魔力があるんだか」

せいぜい五個ほどのブロックが降ってくる状況をイメージしていた勇が、雨あられのように降り注ぐのを見て思わず苦笑する。

と同時に、迂闊に詠唱の意味を伝えなくて良かったと胸を撫でおろした。

その後も距離を置いて散発的に魔法を撃ちながら牽制を続けていると、突然 魔法巨人(ゴーレム) が一瞬動きを止めた。

そして何やら足元を見まわすような動きを見せる。すると、勇の頭の上にいた織姫が鋭く鳴いた。

「にゃにゃっ!!」

「なぉん!」

そしてそれを聞いたシャドーが、グレッグの肩から飛び降り走り始める。

「っ!? マルセラさん達は、シャドーを追ってください! おそらく、相手の猫を捕捉したんだと思います!」

「「「「「了解!」」」」」

勇の指示を聞いたマルセラら操縦者確保班が、シャドーを追って一斉に西側へと向かった。

一瞬動きが不自然になった 魔法巨人(ゴーレム) だったが、再び警戒する動きを取り戻す。

複数名による襲撃を受けている事には流石に気付いており、臨戦態勢を整えた。

が、人より速く動けるはずの 魔法巨人(ゴーレム) が、中々勇たちを捉えられない。

巨木が多く木々の間隔が広いとは言え、ここは森の中。人であれば比較的動きやすくとも、倍以上の大きさがある 魔法巨人(ゴーレム) にとってはやはり動きづらく、その性能を発揮することが出来ずにいた。

また勇たちも、以前ピッチェの近くで戦った時とは違って時間を稼げばよいので、距離をとり藪に隠れて遠距離攻撃に徹している。

魔法巨人(ゴーレム) にはサーモグラフィも搭載されているのだが、下草や藪に遮られるとその効果も半減してしまう。

さらに相手にとって不幸だったのは、王国一の魔法使いとその薫陶を受けた魔法騎士団長がいた事だった。

『 球雷撃(ボールライトニング) 』

バチバチバチッ!

『 雷力弾(エナジーボルト) !』

バチュン!!

使い手が少ないと言われている雷属性の魔法が、森の中を飛び交う。

「ふむ。マツモト殿の言っていた通り、魔法がかき消されているな」

「はい。御前試合の時に、わたくしの魔法がクラウフェルト家のマントにかき消されたのとよく似ています」

雷魔法を放った二人、サミュエルとフランボワーズが少し驚いた表情でそんな会話を交わす。

二人とも、ほぼすべての属性の魔法を使う事が出来る超一流の魔法使いだ。

前回 魔法巨人(ゴーレム) と一戦交えた時に雷魔法を実戦レベルで使えたのはリディルだけだったのだが、今回それが三人に増えた。

今の所鎧の効果でダメージにはなっていないが、相手としては真っ先に雷魔法の使い手を潰しておきたい所だろう。

しかし距離をとって様々な方向から撃たれては、的を絞る事も難しい。

結果、勇たちは相手からまともな攻撃を受けることなく、 魔法巨人(ゴーレム) の足を止めることに成功していた。

一方シャドーを追って森を進んでいたマルセラ達は、十五分ほど走ったところで、進行方向から走ってきたサバトラ柄の猫と遭遇する。

「ニャニャー」

「なーお」

シャドーと何やら短く鳴き合うと、今度は来た道を引き返して走り出した。

サバトラ猫を追いかける事およそ十分。下草や藪を被せてカモフラージュされた、操縦席と思われる箱馬車を発見する。

(操縦席を積んだ馬車で間違いありませんぞ)

遠目からそれを確認したグレッグが頷く。

(護衛は一人……。わかってはいたけど、こうして操縦席を発見されてしまうとどうしようもないわね)

箱馬車の前で周りを警戒する一人の男を見てマルセラが苦笑する。

(そうだな。たくさん護衛を付けるのも本末転倒だから、見つからないようにするのが大前提なのだろうな)

隣にいたローレルの表情も渋い。

(グレッグさん、見張りの腕前は?)

(訓練をしているとは言え騎士様にはかないませんな。少々腕の立つ冒険者程度、といったとこですわい)

(ありがとうございます。イーリース、いけるわね? あんたと私で時間差で突っ込むわよ。ローレルさんはその隙に側面か背後から回り込んで無力化してください)

((了解))

(メンフィオさんは念のためグレッグさんの護衛をお願いします)

(承知した)

(では、私の魔法を合図にいきましょう)

マルセラの指示に全員が小さく頷くと、イーリースはマルセラから少し離れた位置、ローレルは回り込むように移動を開始する。

そして数十秒後。マルセラの魔法で戦端が開かれた。

『 突風刃(ブラストエッジ) !』

敵になっているとはいえ殺してしまうのも憚られるため、威力を落として数を増やした魔法で奇襲をかける。

「なっ!?」

突然の魔法攻撃に狼狽える相手の護衛。

しっかり鎧を着こんでいるため大きなダメージとはなっていないが、何箇所か傷を負わせ血飛沫が舞う。

そこへ斜め前方からイーリースが突っ込んでいく。一拍おいて逆側の斜め前方からマルセラも飛び出した。

「ちっ、一体なんなんだっ!?」

いきなりの強襲に舌打ちしつつ、相手も剣を抜いて迎撃態勢を取る。

ガキン!

イーリースの打ち込みをどうにか捌くが、マルセラが加勢したことで瞬く間に押されていく。

雷剣を使っても良かったのだが、今回は経験の浅いイーリースの実戦訓練も兼ねて通常装備だ。

「くそっ! なんだってんだよ!?」

そして、じりじりと下がりながら防戦一方な相手の背後からローレルが突っ込んだ。

「がっ……!!」

それに気付いて振り返るが時すでに遅し。首筋に剣の柄で一撃を加えられた護衛が、ドサリと倒れ込んだ。

「よし。イーリースはそのままそいつを縛っといて。グレッグさん、操縦用の魔法具を停止してもらって良いですか?」

「フォフォ、素晴らしい手際の良さですな。お任せ下され」

茂みから出てきたグレッグを伴って、操縦席へと向かう。

勇たちが上手く抑えているためか、魔力パスを切ることもなく相手の操縦者は椅子に座っていた。

「……やっぱり無防備ね」

「個別運用する際は、色々と考える必要がありそうだな……」

それを見たマルセラとローレルが再び苦笑する。

その横でグレッグが、素早く操縦席の状況をチェックしていく。

「問題無さそうですな。さて、では操縦席を停止させますぞ。身柄の拘束はお任せしますわい」

グレッグはそう言うと、操縦者の手元付近にある起動用の魔石に触れる。

フォン、という魔法具独特の音がした後、床や座面に書かれた魔法陣が次々と光を失っていき、数秒で全てが消えた。

「なっ!?」

突然魔力パスを切られ意識を戻した操縦者が声を上げる。

「なんでパスが切れっっ!? はぁぁっ??」

そして目を開けた矢先、身体を抑えられ剣を突きつけられている自身の状況が理解できず思わず叫んでいた。

「フォフォフォ、無駄な抵抗はやめたほうが良いですぞ? さぁ、おとなしく魔力パターンを解放しなされ」

「っ!! なぜそんな事を知っている? アバルーシの者しか知らないはずだが……。お前の顔など見た事がないぞ!?」

グレッグにいきなりそんな事を言われてさらに混乱する操縦者。

「……世の中には、知らない事がたくさんあるんですぞ?」

そんな操縦者に、グレッグは目を細めてそういった。

「む?」

「お?」

そしてそれは、 魔法巨人(ゴーレム) の動きに劇的な変化をもたらした。

短槍を振りきった状態のまま、ピクリとも動かなくなったのだ。

「どうやらマルセラさん達が無事操縦者を取り押さえたようですね」

「そうですね。後はうまく操縦者の登録を変えられれば良いのですが……」

「グレッグさんでも強制解除はできないと言っていましたからね。操縦者が大人しく言う事を聞いてくれれば良いのですが」

そんな会話をしながら、強襲チームの一同が固唾を飲んで見守っていると、数分してまた 魔法巨人(ゴーレム) が動き出した。

両手で持っていた短槍を片手で持ち、空いた逆の手を握ったり開いたりしたかと思うと、肩を回したり軽く屈伸したりし始める。

「ああ、これは無事操縦者が変わりましたね」

そう言った勇のほうへ 魔法巨人(ゴーレム) が歩いて来たかと思うと、騎士流の敬礼をした。

「あはは、マルセラさんかイーリースさんですかね、これは」

そのポーズを見た勇が笑い声を上げる。

そして 魔法巨人(ゴーレム) は、笑顔の勇に手を振ると、先程マルセラ達が走っていった方向へと歩き始めた。

「よし、まずここまでは予定通りですね」

満足そうに頷く勇の前には、三体の 魔法巨人(ゴーレム) が駐機姿勢で佇んでいた。

一体目を手に入れた後、数時間かけて無事二体目の鹵獲にも成功。その戦果を引っ提げて、後方待機していた部隊の所まで戻ってきた所だ。

「サミュエルさん達は、魔力のほうは大丈夫ですか?」

二体の 魔法巨人(ゴーレム) 相手に、かなり派手に雷の魔法をバラ撒いていたサミュエルとフランボワーズに、勇が声をかける。

「ふむ、さすがに少々減ってはいるが、残り半分といったところだな」

「わたくしも同じくらいです」

さらりと答える二人。

「……すごいですね、お二人とも。あれだけ撃ってまだ半分残っているなんて」

辛そうにしていなかったのでまだ余裕があるとは思っていたが、あらためてその恐ろしい魔力量に舌を巻く。

「では、少し休憩したらリリーネさんと合流して、次の作戦へと移りましょうか」

「わかりました。いよいよここからが本番ですからね」

「ええ、難易度もここからどんどん上がります……」

「ふむ。ついに敵地に乗り込む、か……。ああそうだマツモト殿。こういう時こそ、あの御前試合の時にやっていた掛け声をかけるべきではないのかね?」

魔動車の荷台に腰掛けて水を飲みながら、サミュエルが勇に尋ねる。

「掛け声ですか? ……ああ、あれですかっ! あはは、確かにそうですね。分かりました。じゃあティラミスさん、いつものヤツをお願いします」

「分かったっす!」

声掛けを頼まれたティラミスを中心にして、円陣が組まれる。円陣に加わったサミュエルは、心なしか嬉しそうだ。

「えーー、無事 魔法巨人(ゴーレム) を二体手に入れたので、コイツを使って裏切った人たちに一泡吹かせにいくっすよ?」

ティラミスの口上に頷く一同。

「では、どうぞご安全にっ!」

「「「「「ご安全にっ!!」」」」」

独特の掛け声が、小さな余韻を残して森の大きな木々の間に吸い込まれるように消えていった。