軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十四話 成都のM&A(企業買収)

剣閣という最大の防壁を失った蜀の都・成都は、文字通りのパニックに陥っていた。

宮中では、抗戦を叫ぶ者と降伏を勧める者が入り乱れ、劉備がこれまで掲げてきた「仁徳」の旗印は、迫りくる魏の「圧倒的な総資産」を前に激しく揺れていた。

「……峻殿、成都の城内に向けた『買収提案書(降伏勧告)』の送付、すべて完了しました。……城内の役人たちの過半数が、すでに我が魏の『退職金・再雇用プラン』に署名しています」

韓恢(かんかい) が、蜀の主要高官たちの署名が並んだ帳簿を差し出す。

峻は、成都を見下ろす丘の上で、冷徹に算盤を弾いていた。

「……素晴らしい。……流血による『資産の毀損』を最小限に抑える。これこそが、最も利回りの良い終戦工作です」

そこへ、劉備の使者として、敗戦の責任を背負った諸葛亮が一人、峻の陣営へと歩を進めてきた。その羽扇は、かつての鋭さを失い、どこか寂しげに揺れている。

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「……峻殿。貴殿はついに、力ではなく『金』で我が蜀の心を買い叩いた。……民も将も、皆が魏の豊かさに目を奪われている。……これが、貴殿の言う現実の決算か」

諸葛亮の言葉には、深い敗北感が滲んでいた。

峻は眼鏡の奥の目を細め、静かに答えた。

「……諸葛亮殿。私は心を買い叩いたのではありません。……『劉備』という経営者が掲げた『漢室復興』というビジネスモデルが、すでに市場のニーズ(民の生活)に合致していないと証明しただけです」

峻は、懐から一通の書状を取り出した。

「……これは、私から劉備様への『M&A(吸収合併)提案書』です。……蜀という会社を、魏という大企業がそのまま丸ごと買い取ります。……劉備様の『徳』というブランド価値は高く評価し、合併後も一定の地位(諸侯としての待遇)を保証する。……そして、貴方という優秀な『CFO(最高財務責任者)』も、我が魏の財務省にそのまま迎え入れたい」

諸葛亮は、その提案書を見つめ、自嘲気味に笑った。

「……私を、魏の役人に、か」

「……貴方の知略を、これ以上『赤字垂れ流しの戦争』で浪費させるのは、天下の損失です。……これからは私の元で、国家の『黒字化』のためにその頭脳を使っていただきたい」

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数日後。

成都の城門が静かに開いた。

劉備は自ら身を縛り、峻の前に降伏の証を差し出した。しかし、そこには史実のような悲壮感はなかった。峻が用意した「戦後復興予算」の数字が、すでに成都の民の明日を保証していたからだ。

「……峻。お前はついに、一つの国を『書類一枚』で買い取ったな」

曹操が、無傷で手に入った成都の街並みを眺め、深く頷く。

「……ええ。……これにて、蜀の国力はすべて我が魏の『連結決算』に組み込まれました。……残るは、長江の南に引き籠もる『孫権』という名の、最後の不良債権だけです」

峻の算盤が、パチリと音を立てる。

天下三分の計は、事務屋の「 市場独占(モノポリー) 」によって、いま完全に崩壊した。