軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十五話 物流の迂回ルート

蜀の全資産を魏の「連結決算」に組み込んだことで、峻の動かせる資本力は戦前の数倍へと膨れ上がっていた。

残るは、長江の天険を盾に、水上物流の利権を独占して強気の経営を続ける「呉」のみ。

「……呉の強みは、長江という『参入障壁』と、それを利用した水上流通の 独占(モノポリー) です。彼らはそこから莫大な関税(通行料)を得て、軍を維持している」

峻は、新しく財務省の副長官(CFO)として席を並べた諸葛亮と共に、長江下流の地図を睨んでいた。

「峻殿、彼らは我々が再び船団を組み、長江を渡ってくるのを待っています。赤壁の時のように、火計で迎撃する算段でしょう」

諸葛亮が、羽扇で長江の南岸を指し示す。

峻は冷徹に算盤を弾き、不敵に微笑んだ。

「……渡る必要はありません。彼らの強みである『長江の流通価値』そのものを、完全に暴落させて見せます」

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峻が打ち出した呉攻略の全貌。それは、軍を一切動かさない「新・物流ネットワークの構築」だった。

峻は、蜀から長江を通って呉へと流れる物資をすべてストップさせた。その上で、中原(魏の領土)の陸路を大改修し、さらに山東半島から直接、南方へと繋ぐ「海上迂回ルート」を開拓したのだ。

「――本日より、すべての交易所へ通達! 長江を通るルートは一律で『関税100%』とする! 代わりに、我が魏が整備した『陸路・海路の特急ルート』を利用する商人には、通行税を免除し、新魏通宝のボーナス(キャッシュバック)を支給する!」

この事務命令により、天下の物流は長江を「迂回」し始めた。

これまで長江を通っていた絹や塩、米が、すべて魏のコントロールするルートへと吸い込まれていく。

呉の都・ 建業(けんぎょう) の市場からは、数日のうちに物資が消え、猛烈な 物価高騰(インフレ) が始まった。呉の主・孫権がどれだけ水軍を鍛えようとも、肝心の「通る船」が全くいなくなってしまったのだ。

「……報告します! 長江の関税収入が、前月比で『九割減』! このままでは、来月の水軍の維持費(給与)が支払えません!」

呉の財務を預かる 顧雍(こよう) が、青ざめた顔で孫権に帳簿を差し出す。

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「……峻、お前は本当に、長江という大河すら『ただの水たまり』に変えてしまうのだな」

許都の本陣で、曹操がこの経済指標を見て、豪快に笑った。

「……曹操様。どれほど強固な要塞も、そこを通る『お金の川』を止められれば、ただの金食い虫のハコモノに過ぎません。……呉の寿命は、彼らの手元の『 手元資金(キャッシュ) 』が底を突くまでです」

峻の算盤が、冷徹に終わりを告げる音を立てる。

戦わずして、敵のインフラを腐らせる。事務屋の覇道は、ついに天下の全物流を支配しようとしていた。