軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十六話 兵農の連結決算

「新魏通宝」の流通により、

許都の市場はかつてない活気を取り戻していた。

しかし、峻の算盤は、

まだ「真の再建」には、

遠いと冷徹な数字を弾き出している。

「……韓恢殿。

市場に金が回るだけでは、

軍は強くなりません。

……失った『十万の兵』を埋めるには、

人間一人の生産性を物理的に、

三倍に引き上げる必要があります」

峻は、

許都周辺に広がる広大な「屯田地」の地図を広げた。

赤壁で生き残った兵たちは、

今や戦場ではなく、

峻が設計した「規格化された農地」で、

鍬を振るっている。

「……峻殿、兵たちは文句一つ言わずに働いていますよ。

……自分の働きが、そのまま『新魏通宝』という、

給与に直結する仕組みですからね」

韓恢(かんかい) が、

農地から届いた収穫予定の帳簿を整理しながら笑う。

峻が導入したのは、単なる開墾ではなかった。

「治水と物流の同時開発」である。

「……ただ耕すのは素人の仕事です。

……私は、農地の横に必ず、

『運河』と『街道』を通す設計図を書きました。

……生産された米が、

その日のうちに物流拠点へと『計上』される仕組みです。

……無駄な輸送コストを削れば、

それはそのまま軍の『純利益』となります」

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その開発の最前線に、一人の男が現れた。

曹操軍の中でも屈指の猛将であり、

今は屯田の総責任者を任されている、

夏侯惇(かこうとん) である。

「……峻! お前の言う通り、

兵たちに『歩合制』を導入した結果、

開墾速度が二割上がったぞ。

……だが、これでは兵が、

『農民』になってしまうのではないか?」

峻は、夏侯惇が持ってきた、

泥まみれの報告書を受け取り、眼鏡を拭いた。

「……夏侯惇将軍。

……戦える農民は、

ただの兵士よりもはるかに『価値が高い資産』です。

……彼らは自ら食料を生産し、

その土地を守るための防衛バイアスが働きます。

……つまり、 軍事費(コスト) をかけずに、

自動的に『防衛力』が蓄積されるシステムなのです」

「……自動的に、か。

……お前は本当に、

戦を『事務』として捉えているのだな」

「ええ。……平和という名の、

『メンテナンス期間』をいかに長く確保し、

その間にどれだけ資本を蓄えるか。

……それが、次の遠征における、

『勝利の期待値』を決定します」

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夕暮れ時、

峻は完成しつつある巨大な運河の堤防に立っていた。

そこには、

赤壁の地獄から帰還したとは思えないほど、

筋肉質で健全な組織へと、

脱皮しつつある曹操軍の姿があった。

(……赤字の完済まで、あと四割。

……諸葛亮や周瑜が、

この『利息』の膨れ上がった我々と再戦する時、

彼らは自分たちの計算が、

いかに甘かったかを知ることになる)

峻は、暮れなずむ空の下、

新しく届いた「製鉄所の稼働報告」に、

静かにペンを走らせた。

事務屋の逆襲。

それは、戦場ではなく「帳簿」の上で、

すでに始まっていた。