軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十二話 戦後精算

官渡の荒野に、冷たい風が吹き抜ける。

袁紹軍の敗走により、戦場には天文学的な量の、

「負債」と「資産」が遺された。

乗り捨てられた数万の馬、山をなす武器、

そして主を失った膨大な兵糧庫。

曹操軍の将兵が勝利の美酒に酔いしれる中、

峻は焼け跡の中に設営された仮設執務室で、

ひたすら算盤を弾いていた。

「……峻殿、少しは休まれたらどうです。

曹操様が貴殿を宴に呼んでおられますよ」

韓恢(かんかい) が、呆れたように声をかける。

「宴で腹は膨れますが、軍の帳尻は合いません」

峻は眼鏡を拭う暇もなく、

次々と運び込まれる「分捕り品」のリストに、

筆を走らせる。

「……袁紹軍が遺した馬、計一万二千頭。

うち、負傷により維持コストが上回る個体は三千。

これらは速やかに近隣の農村へ『無償貸与』し、

次期の収穫高を底上げする投資に回します」

「……投資、ですか?」

「ええ。ただ殺して肉にするのは愚策です。

農民に恩を売りつつ、将来の税収を確約させる。

……これこそが、

戦後における最も効率的な『資産運用』です」

峻の言葉通り、

彼はただ戦利品を数えているのではなかった。

奪ったものを、

曹操軍の「永続的な基盤」へと組み替えていく。

それは、武将たちが戦場で命を懸けて奪い取った、

「一時の勝利」を、

「百年の覇権」へと昇華させる作業だった。

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深夜、執務室の幕が開き、

曹操が一人で入ってきた。

その手には、

宴の席から持ち出したであろう酒杯がある。

「……峻。お前がここで数字を刻む音が、

宴の楽の音よりも心地よく聞こえてな」

「……曹操様。失礼しました。

すぐに終わらせます」

「気にするな。……報告を聞こう。

今回の戦、我らの『利益』はどれほどだ?」

峻は、最後に書き込んだ木簡を曹操に差し出した。

そこには、袁紹から奪った領土の生産力、

捕虜の労働価値、そして再編後の軍事予算が、

寸分の狂いもなく記されていた。

「……袁紹という巨大な『非効率』を排除したことで、

中原の流通速度は三倍に跳ね上がります

曹操様。貴方は今、天下で最も、

『健全な帳簿』を持つ主君となられました」

曹操は酒を飲み干し、峻の肩に手を置いた。

「……健全か。お前らしい評価だ。

だが峻よ、帳簿が白くなればなるほど、

そこに書かれる『野心』はより鮮明になるぞ」

「……承知しております。

その野心に必要なコストは、

すべて私が管理してみせます」

二人の影が、灯火に長く伸びる。

官渡の勝利。

それは歴史の終着点ではなく、

峻という事務屋が描き出す「新秩序」という名の、

巨大な予算書の始まりに過ぎなかった。