軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日譚 第56話

ダンジョン街で軽く時間を潰した後、日が落ちてきたため【月影の牙】の下に向かうこととなった。

ラルフの話によると、【月影の牙】はダンジョン街にある『ブラックスタンプ』という酒場を溜まり場にしているらしい。

ギルドに隣接している酒場を利用することもあるようだが、基本的には『ブラックスタンプ』で酒を飲んでいるとのこと。

「ここが『ブラックスタンプ』! なんかお洒落な酒がいっぱい置いてある!」

「意外にもこじんまりとした店だな。もっと大きな酒場を溜まり場にしているのかと思っていた」

「これでもダンジョン街では大きな部類に入るらしいぞ! それに酒の種類が豊富なんだってヴィンセントさんが言ってた!」

ヴィンセント。

【月影の牙】のリーダーであり、ラルフの面倒を見てくれていた人物。

ラルフが成長したのはヴィンセントのお陰だし、俺としてもありがたい人物であることには違いないのだが……。

値踏みするような目や態度が気に食わないため、俺はあまり好きではない人物。

「挨拶した程度の仲だが、確かにヴィンセントは店の大きさよりも、酒の種類を大事にしそうな感じはあるな」

「……なんかクリスが言うと悪意ある感じに聞こえるな!」

「気にしすぎだ」

枕詞に『悪い意味で』が付くため、ラルフが感じた通り悪意マシマシなのだが、ラルフはヴィンセントを慕っているためわざわざ真意を伝える気はない。

そんな軽い話を交えながら、俺達は『ブラックスタンプ』に入り、【月影の牙】がいなか探すことにした。

まだ酒を飲むにしては早い時間だからか、狭い店内にも関わらず客の数は少ない。

そして少ないからこそ分かるが、パッと見で【月影の牙】はまだ来ていないと思ったのだが……。

「あっ! もういるみたいだぞ!」

「えっ? どれが【月影の牙】なんだ?」

「ここにはいない! 上の部屋の扉が閉まっているだろ? あそこの扉の先が【月影の牙】専用の部屋なんだよ!」

随分と優遇されているようだな。

【月影の牙】はヒヒイロカネランクの冒険者だし、金払いもいいからなのだろうが。

「なら、早速二階の部屋に行こう。ラルフならそのまま行けるだろ?」

「行けるけど、とりあえずマスターには一声かけないと駄目だ! ちょっと話してくるから、クリスとヘスターは待っていてくれ!」

ラルフはそう言うと、スノーを連れてマスターの下へ向かった。

なんでスノーを連れていくのか疑問だったが、この店のマスターはスノーを見て思い出したようで、ラルフがスノーを連れていった理由についてはすぐに分かった。

それから一分ほど会話した後、俺達の下へと戻ってきたラルフは二階を指差し、俺とヘスターは黙ってその後をついていく。

例の部屋の扉をノックした後、部屋に入ったラルフと共に俺は【月影の牙】がいる部屋に入った。

「誰かと思ったけどラルフとスノーじゃねぇか! もう戻ってきていたのか!」

「はい! 無事に戻って来られたので報告をしに来たんです!」

「後ろのは……ラルフのパーティメンバーか? 久しぶりだな」

「どうも。俺はフェシリアに挨拶をしに来たんだが……いないのか?」

「いるぜ? この更に奥の部屋で本を読んでる」

この部屋にはフェシリアの姿がなかったため、この場所にはいないのかと思ったが、どうやら奥で本を読んでいるらしい。

酒場で本を読んでいるってのは実にフェシリアらしい行動。

……それにしても、やはりヴィンセントの視線はいい気がしないな。

ラルフとスノーに対しては満面の笑みで、俺に挨拶した瞬間に真顔で舐るような嫌な視線。

まぁ俺の態度も悪いからお互い様ではあるんだが。

「それじゃ奥に行かせてもらう」

俺はヴィンセントにそう告げてから、ヘスターと共に奥の部屋に向かった。

ラルフとスノーはこの部屋に残り、ヴィンセントと楽しそうに談笑しているのを聞きながら奥の部屋に入る。

奥の部屋は酒場とは思えないほどの場所であり、フェシリアの趣味部屋のようになっていた。

ソファとテーブル、それから魔動冷蔵庫はあるものの、後は本棚が壁一面に置かれており、書斎のような造りになっている。

「凄いお部屋ですね。急に別世界に迷い込んだ感覚です」

「確かにな。……フェシリア、久しぶり。――おいっ!」

本を読むことに集中し過ぎているからか、声を掛けても返答がなかったため声量を上げて声を掛けると、体をビクッと反応させてようやく俺達の方を向いた。

一瞬、誰だか分かっていなかった様子で顔を歪めていたが、俺とヘスターだと分かるとフェシリアは破顔した。

「クリスとヘスター、お久しぶりですね!」

「久しぶりってほどではないだろ。フェシリアの髪も長くなっていないしな」

「ふふ、言われてみれば確かにそうですね」

出会った当初はツンケンしていたのだが、こうして話して分かるように雰囲気が大分柔らかい。

別れの際には自らの手で髪をバッサリと切ったし、俺達と一緒にロザの大森林に行ったことで心境の変化があったのは間違いないよな。

これがフェシリアにとって良い変化なのかは分からないが、非常に接しやすくなったし俺としては嬉しい限り。

それに笑わないよりも、よく笑ってくれる方が接する身としては気分も良いしな。

「フェシリアは元気にしていたのか? 別れ際に強くなると宣言してくれたから、今日は楽しみにしていたんだが」

「もちろん元気でしたし、鍛錬の方も順調ですよ。クリスには良い意味で刺激を与えられましたからね。今読んでいたのはも魔導書です」

手に持っていた本を見せてきたため見てみると、確かに古い魔導書だった。

そして部屋を改めて見直したのだが、大量の本棚の中に入っているのは全て魔術関連のものであり、フェシリアの本気さが伝わってくる。

表情も自信に満ち溢れているし、再会したばかりだが軽く手合わせしてみたい気持ちになるな。

とりあえずもう少し話をしてからだが――その後に手合わせをお願いするとしよう。