軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十七話

翌朝。改めて昨夜の対談……というほどの内容でもなかったが、チメーグとの会話内容について思い出していた。

彼女は……当たり前のように『家の近くに作業小屋が欲しい』と言っていた。

紛れもない、これからも『俺達の傍にいる』という意志表明だった。

まだあまり彼女のことは分からない。もしかしたら、思うところがあるのかもしれない。

だが、少なくともすぐに行動を移すような、憎しみに近い感情は抱いていないように思えた。

「ふぅ……移動は今日明日か。ならあと二人はいけるな」

暗いバスの中、シーレとメルトを起こさないように外に出る。

相変わらず海岸線の道を、朝焼けが美しく照らし出していた。

ふと、誰かの足音が聞こえた気がして振り返ると、眠そうなシーレの手を引いて、メルトが隣にやって来た。

「おはよー! シズマの方が起きるの早かったのね?」

「少しだけね。ほら、朝日が昇ってきたところだよ」

「キレイねー! 知ってる? 偶にね、太陽が昇ってくると、空が別な色に光るのよ!」

「おー? それは初めて聞いた現象かも」

なんだか楽しそうにメルトが語ると、眠そうなシーレが、少しだけ『ふにゃふにゃ』とした口調で語りだした。

「んん……それはたぶん……『ブルーモーメント』や『ビーナスベルト』です……寒い季節に……ぐぅ」

本当に眠いのだろう。喋りながら首がカクンと傾き、そのまま眠ってしまった。

メルトの代わりにシーレを引き継ぎ、抱きかかえたままバスの中に運び込む。

まだ少し時間も早いからな。もう少し寝かせてあげよう。

そして俺は――

「メルト、今日も俺、別な人の姿になるから、本人かどうか確認するために質問してみてくれる?」

「わ、分かった! 絶対、偽物なら見抜いちゃうんだから……!」

余程、シズカに騙されたことが悔しかったのだろう。目をギンギンに光らせて、鼻息を荒くするメルトがなんだか少しだけ可愛かった。

そして俺は、放置して倉庫にしていたキャラクター『コヨハム』にカーソルを合わせた。

このキャラクターは『まだ作っていない生産職』という理由だけで作ったキャラクターだ。

職業の名前は『小説家』正直、作ることができるアイテムの需要がほとんど存在しない。

本という種類の消費アイテムを生み出すことができ、その効果は『本に秘められている魔法を発動する』というもので、サブに魔法職を選んでしまえば全て解決できるため、本当に需要が行方不明な職業だ。

ただ、ソロ攻略においては、ガチガチの近接職で、強力な魔法を自分で使えるので、そういう場面では活躍するのだが……正直、ソロ向けの高難易度コンテンツそのものが不人気だったのだ。

故に、生み出すアイテムは強力だが、需要がなく、職業のスキルも戦闘ではあまり役立たない、恐らく最も不遇な職業なのが『小説家』だ。

ちなみにサブで設定している職業は『軽戦士』です。

「ふぅ……今回も俺は俺のままだな」

「おー……ちっちゃい! 可愛い! レントちゃんより小さい!」

ちなみにですが、この姿は俺の持ちキャラの中では最小です。

人間の女の子で、キャラクタークリエイトの時に全ての項目を最小に設定しました。

メインビジュアルが本を持っていたので、本を持つのが似合うキャラということで、絵本を持っている子供が頭に浮かんだので、そういうイメージで作りました。

「ふふー、ちっちゃくて、ぽややんってお顔で可愛いねー! じゃあ質問するよー?」

「よし、どんとこい!」

「んーと……私とシズマは最初にどこで会った?」

「ゴルダ王国主都周辺の林の中だね、その時はシレントの姿で、直後にセイムに変わったんだ」

「正解! じゃあ本物ね!」

本物でございます。

という訳で、そろそろシーレのことも起こして、朝ごはんの準備もしないとな。

俺は後部座席、最後尾の席で眠っているシーレを揺すり起こす。

「シーレ、そろそろ起きよう。朝食を食べたらバスをしまうよ」

「んー……? 子供の声が……ん……貴女は誰かなー?」

「うわ!?」

突然、寝ぼけたシーレが両腕で抱きしめてきた。

がっしりとホールドされ、こちらに頬ずりをするシーレ。

いくら女の子、それも小さい子供の姿とはいえ、精神が一八歳の男なのですよ!?

これは恥ずかしい!

「起きろー!」

「ひっ! あ、えあ? あ、子供!? あれ?」

「俺だよ、シーレ。この子は『コヨハム』。小説家のキャラだよ」

「なるほど……じつは私達って、お互いの存在、どういう人間なのかは知っているのですが、詳しい外見って円卓で顔を会わせるまで知らないんですよね。コヨハムちゃん……可愛いですね」

「へぇ、そうだったんだ。コヨハムはあれだよ、何も知らない子供ってイメージで作ったんだ。小説家って言うよりは絵本を読む子供みたいな」

「なるほど、だからぽややんとしたお顔なんですね? 可愛いですねー」

「ええい……ほっぺをプニるんじゃありません」

「私もー!」

「ええい!」

両サイドから二人に頬をプニられる。

これは、一体どういう人格になるのか、ちょっと予想がつかないな――

その後、朝食を終えて移動を再開した俺は、馬車内で『小説家』の生産ができないか試してみることにしたのだが……物理的に馬車内で執筆活動は無理がありました。

いくら揺れの少ない最新の馬車だとしても、普通に乗り物酔いしました。

「うわぁ……頭痛い」

「はい、尻尾枕! ここにゴロンってしていいよ」

「お世話になります」

「コヨハムは小さいからねー! 可愛いなー。よしよし」

嬉しそうに、メルトが自分の尻尾に寝ころぶこちらの頭を撫でてくる。

そりゃ子供だもんなぁこの姿は。ある意味ではメルトの母性本能が育ってきているということで、喜ばしいことだとは思うのだが。

しかしそうか……落ち着いた場所じゃないと執筆は不可能か。それに『本』って完成まで凄い時間かかるアイテムだからなぁ……たぶん休憩中に書いても完成はしないだろうな。

そうして、メルトの尻尾で横になりながら馬車で運ばれること数時間。

昼食の時間になり、今回は見晴らしの良い野営地が近くにあったので、そこで休憩することにした。

この辺りは主都や大きな街から離れた街道であるため、人通りも少なく利用者も少ないであろう野営地だと思っていたのだが、意外にも俺達以外の旅人が三組、この野営地を利用しているようだった。

「ふむ、もしかするとこの先の港町に用事がある方が、一定数いるのかもしれませんね」

「あ、そっか。港だもんな、色んな仕入れとかあるかもしれないのか」

「ねぇねぇ、港なら、新しいエビの料理ってあるよね? 絶対あるよね?」

「昨日もそれ言ってたなぁ。よし……港町について知ってる人がいるかもしれないし、話を聞きに行ってみようか?」

一応、今のこのメンバーは若い娘二人に、小さな女の子一人。

正直『襲ってくれ』と言わんばかりのメンツではある。

だが、メルトもシーレも、胸元に『銀の翼』を模ったブローチが装着され、さらに二人とも、首から冒険者タグも下げている。

これで手を出すようなら、さすがに観察力も情報収集能力も低すぎる愚か者だ。

早速、三人で近くに馬車を停めている、商人風の男の元へ向かう。

「すみませーん、少しいいですか」

代表で俺が話しかけると、振り返った男性が、途端に表情を崩し、しゃがんでこちらに視線を合わせてくれた。

ふむ、普通に良い人そうだ。これなら安心して話を聞けるだろうか。

「どうしたんだい、お嬢さん。それにお姉さんかな? 三人で何か困りごとかな?」

「いえ、少しお話を聞きたいのですが」

「ふむふむ、なんでも聞いてごらん」

俺は、見たところ行商人と思われるこの男性に、この先の港町について聞いてみることにした。

「そうか、こっちの大陸には始めて来たんだね。それでこっちに来るのは中々珍しいね」

「やっぱり内陸部に向かう人が多いんですか?」

「おお、内陸部なんて言葉を知ってるなんてお嬢さんは賢いね! そうなんだ、この国は内陸、中心の方に大きな街が集中していてね。娯楽に、経済、人やものが集まるのは全部内陸部なんだ。こっちの港は、珍しい海産物やその加工品、それに海の素材で作られる工芸品が有名で、僕はそれを仕入れて内陸部に運んでいるんだよ」

しまった。今の俺はどう見ても年齢一桁の子供だった。

あんまり流暢に話したら不思議に思われるかもしれないな。

「ね、ねぇねぇ! 珍しい海産物って、エビもあるのかしら!?」

「ん? 獣人のお嬢さんは隣の『シジュウ連邦国』から来たんじゃないのかい?」

「そうだよー。私もこの大陸は初めてなの。こっちの港にもエビっているのかしら?」

「ああ、勿論さ。あの港では昔から海産物の加工が盛んでね。エビを使った魚醤や珍味、干物やお菓子もあるね。元々小エビが多く棲む海域なんだそうだ。僕も、向こうに行ったら久々に『エビパテトースト』が食べたいなぁ……」

その行商人は、思い出している料理がよほど美味しいのか、少しだけうっとりとした表情で海産物について語ってくれた。

ふむ……エビパテトーストか。つまりエビパンみたいなものだな?

たしかにそれは美味しそうだ。

「わー! 楽しみね! 私、いろんなエビの食べ物、たくさん買うわ!」

「ふふ、良かったですねメルト。港町なら……もしかしたら酒精強化ワインもあるかもしれません。エビに合うワインを楽しむのもいいかもしれませんね」

「お、そっちのエルフのお姉さんはさすがによく分かっていますね。ええ、あの港は日当たりが一年を通して良いので、酒精強化ワインが作られていますよ」

「なるほど、太陽光で蒸留と熟成を同時に行っているんですね、やはり」

以前から少し思っていたのだが、シーレは結構ワイン好きなような気がする。

先日も村の中で、木の実を使ったワインに興味を示していた記憶がある。

「シーレってワイン詳しい?」

「ふふ、今のお話ですか? 地球にも『マデイラワイン』という、太陽光で酒精を強化するワインがあるんです。立地的に、そういうことをしていそうだな、と。海産物の加工が盛んなら、お酒も同時に発達していてもおかしくありませんから」

「な、なるほど」

「ま、とにかくこの先の港町はいいところだから、楽しみにすると良いよ。ただ……」

話を色々聞かせてくれていた彼が、総括して港町はいいところだと言っている。

だが、何か思うところでもあるのか、少しだけ表情を暗くし、声を落とす。

「その、僕は外部からきた商人だから、なじみが薄いだけかもしれないけれど……最近、この先の港町や村で、少しその……怪しげな新興宗教が流行り始めていてね。まだ熱心な宗教って感じじゃないけど、割と賛同する住人も多くてさ、少し恐いなって思っていたんだ。旅行するだけなら問題ないと思うけど……一応、頭に入れておいて欲しい」

彼は最後にそう語ると、自分の馬車での作業に戻って行った。

……新興宗教? 確かにそれは……少々キナ臭いかもしれないな。

別に全ての宗教が悪いとは言わないけれど……戦争の裏で暗躍していた連中が、この国にもいることはスティルが確認している。

そのタイミングでの新興宗教となると……やはり、関連を疑ってしまうのだ。

「シズマ、少し警戒した方がいいかもしれませんね」

「むー……せっかく新しいエビ料理が沢山食べられると思ったのに……」

「いや、まだ怪しいと決まったわけじゃないけれど……警戒するに越したことはないね」

若干の疑念が混じる期待。素直に楽しみだと思えなくなってしまったが、それでもまだ見ぬ土地だ。それにただ旅行客として行くだけなら、それこそ害もないかもしれないではないか。

「ま、なんとかなるよ」

結局この野営地で一泊することに決めた俺達は、ここで時間を潰して過ごすことになった。

シーレも珍しく学者として執筆をしていたので、俺もそれに倣い、小説家としての生産を行う。

で、俺もシーレも何かを書いていると、当然メルトも真似をしたくなったのか、彼女もレポート用紙に色々と書き始めていた。

そんな、女三人がもくもくと執筆作業をしている姿が異様に見えたのか、こちらに近づいてくる人間は誰もいなかった。

やがて、周囲が暗くなり始め、執筆に支障が出てきたところで、ようやく今が夜なのだと気がついた。

「うわ、時間が溶けてた」

「これはうっかりしていました……いえね、この大陸に渡ってからの戦闘行為やダンジョンのギミック、その他情報をまとめていたんです」

「私はこっちで食べた料理についてまとめていたよ! シズマは何を書いてたの?」

「『偽典“空穿つ神魔降誕の書”』の執筆をしていました」

「????」

「シズマ……そんな物騒な」

はい、普通に攻撃アイテムの作成をしていました。

一応、放置していたキャラクターではあるが、生産スキルは最大レベルまで育っているのだ。

それで最上級の攻撃アイテムを執筆していた、という訳だ。

「いやぁ……頭痛くて全然作業が進まなかったよ。自分でやるものじゃないね」

「そうかもしれませんね。いつの間にか暗くなっていますし、今日はテントと結界で寝ましょうか」

野営地とはいえ、警戒のためシーレの技で外敵を阻む結界を張り、テントを設営する。

そうして準備が整う頃には、既に他の野営地利用者の明かりや焚火も消え、ただ漆黒の闇と、空を覆う満点の星空だけが広がる世界となっていた。

「ふぅ……じゃあおやすみ……って、なんで俺抱っこされてるの」

「えー? 小っちゃくて抱き心地いいんだもの……」

「今からシズマに戻って、心の中でこの子と対談するのでやめましょう」

「残念」

さて、今日はこのコヨハムとの対談だ。

俺の持ちキャラの中で最も幼いこの女の子。果たしてどんな会話が繰り広げられるのか――