軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十六話

まだ俺が本格的に変身したことがないキャラクターのうち『放置したキャラ』は四人。

いずれも生産職ではあるが、作った品にそこまで需要がなかったり、効果が薄いものであったりと、あまり『評価が高くない職業』のキャラクターだ。

ただそれでも、独自の戦い方やスキルが面白いからと、一応作ってみようという理由で作成し、満足して放置したり、不必要なアイテムを持たせるための倉庫として活用していたキャラクター達。

本音を言えば、そういうキャラ達との会話は恐い。もしかしたらシズカ同様、恨まれているかもしれない。だがそれでも、対話をすると決めたのだ。

「――と、いう訳なんだ。俺は今日から、四人の姿で何時間か過ごすよ。そうしたら心の中で会話ができるようになるからね」

「で、でもそれでまたシズマのふりをする人が出たらどうしよう……大丈夫なの?」

「……私達がしっかり見張る、本物かどうか確かめろ……ということですね?」

「うん。そうなるね。じゃあ、まずは一人目に変身するよ」

馬車での移動を再開してから数時間、昼食を摂るために海岸線で馬車を停め、そこで今回円卓で決めた方針を二人に話し、それを実行に移す。

キャラクターとしてある程度過ごし、心の中で対話が可能になるように準備するのだ。

俺はまず『生産職ではあるが製作可能な装備の性能が低い』という理由で、途中で育成を放置した職業『裁縫師』であるキャラクター『チメーグ』に姿を変える。

「……よし、違和感はないかな」

「おー! 珍しい! 黒肌のエルフ! 確か山岳地帯で暮らしているって本で読んだことある!」

「シズマ本人の意識ですか? 何か質問しても良いですか?」

問題ない、これは確かに俺の意識だ。どこかで記憶が途切れている様子もないし、二人の反応も問題ない。

『チメーグ』は、今メルトが言ったように『典型的なダークエルフ風』の姿として作っている。

職業は『裁縫師×狩人』で、若干だが、シナジーのある組み合わせだ。

「大丈夫、なんでも質問していいよ」

「では……この世界でシズマが経験したことは、もしかしたら心の中で見聞きできていたかもしれませんからね……こういう質問はどうでしょう? 『好きな炭酸飲料はなんですか?』」

なるほど、現実世界の質問か。それなら答えるのは難しいだろうな、キャラクター達では。

この質問に答えられるのは、たぶん俺の意識と同居し、俺の記憶をしっかりと把握しながらも自我を保つことができていたシーレだけだろう。

「俺が好きなのは『レッドリアエナジー』。体質的にカフェインが効きにくいけど、ゲームする時は最低三本置いてたね。母さんに健康に悪いってよく怒られていたけど」

「なるほど……本物、間違いなくシズマですね。……ちなみに、私も愛飲していました」

「お疲れ様です……」

シーレの開発スタッフ時代の激務が窺えますな……。

ともあれ、これで俺がシズマだということは証明できたわけだ。

「ふむ……こうして見ると、やはり褐色エルフも良いものですね……シズマ、ちょっと触りますね」

「わ、うわ、ちょ……」

すると突然、シーレがこちらの頬に触れ、顔を近づけてまじまじとこちらの顔を観察しだした。

や、やめろー! 傍から見たら勘違いされそうだろー!

「凛々しい系のビジュアルですね、シズマは造形のセンスがあります。競合他社のオンラインゲーム『SFO』程キャラクリの自由度は高くありませんが……ここまで良い出来とは……」

「ええと……褒められるのは嬉しいけど、さすがに少し照れるというかなんというか」

「ふふ、ごめんなさい」

最後にもう一度頬を撫でられ、シーレが顔を離す。

彼女は、もしかしてグラフィック関係の制作に携わっていたのだろうか?

「ねぇねぇ、お名前はなんていうの?」

「この姿の名前は『チメーグ』って言うんだ。職業は『裁縫師』糸を紡いだり布を織ったり、服を作ったりする人だよ」

「そうでしたね。そしてサブが『狩人』でしたね。唯一『裁縫師』とシナジーのある職業の」

そう、唯一裁縫師を『戦いに生かす』ことができるのが狩人なのだ。

裁縫師は様々な素材から糸素材を生み出すことができる。

そして生み出せる糸素材の中には『弓の弦』も存在している。

その弦は『攻撃に様々な効果を付与できる』というもの。

だが……それは『なら学者の付与術でよくないか?』という問いにより、完全に意味を失ってしまったのだ。

無論、裁縫師だからこその強みもある。それは『高レアリティの素材で作る弦なら、付与術よりも遥かに強力な特殊効果を得られる』というもの。

だが、その弦は消耗品扱いであり、やはり人気の組み合わせになることは出来なかった。

「この世界なら、弦をシーレに渡して使わせることもできるかもしれないね」

「なるほど、後で試してみましょうか。シズマ、この後どうします? お昼の休憩中に何か生産してみますか?」

「あ! ねぇねぇ! 糸を紡げるのよね!? なら、私の尻尾の毛でできる!? 本物の職人さんがやったらどんな風になるのか、見てみたいわ」

あ、確かにそれはちょうどいい。少し前、メルトが尻尾の抜け毛を綺麗にまとめていたな、そういえば。確かにそれを裁縫師として糸素材に変えれば、凄いものができるかもしれない。

「はい、じゃあこれ」

「ありがとう。はは、なんだかメルトの尻尾がもう一つあるみたいで不思議な感じだ」

「私の尻尾はまだ増えないよー」

え? 『まだ』って? そんなまさか……いつか増えるとでも言うのかこの娘さんは。

とにかく、その美しく整えられ、束ねられた白銀の毛を受け取り、生産職専用のアイテム『糸車』を取り出す。

「あー……なるほど、こうして道具を前にすると、やっぱりキャラクターの記憶とか知識、製作段階の資料とか頭に蓄積されてくるね。今回はプレイ時間が短いキャラだから耐えられるけど」

少し、眩暈がした。だが道具の使い方や知識、糸の紡ぎ方や使う動物の毛についても理解できるようになった。

なるほど……メルトの尻尾の毛は、ある程度長さがありしっかりと糸状になっているから、他の素材を糸として紡ぐときに、混ぜ込むようにして一緒に糸にすればいいのか。

「では、私がお昼ごはんの準備をしておきますね。シズマはそのまま、糸を紡いでいてください」

「シーレ、私も糸作るところ、見てていい?」

「ええ、いいですよ。お昼は簡単なものにしますからね」

そうして、俺はキラキラと輝くメルトの尻尾の毛を、綿花と一緒に糸にしていくのだった。

カタカタと木製のパーツが揺れ、くるくると糸車が回る音だけが聞こえていた。

巻き付けただけのもこもこの綿花が、縒り合わされ、細く糸に加工される。

そこに混ぜ込まれ、白の中に白銀が幾重にも重なり、美しい糸が生まれていく。

「すごーい……糸の中に私の毛がどんどん混じっていくの、不思議ね。糸が私の尻尾みたいな色になってるわ。綺麗ねー」

「本当だね。これならかなりの長さの糸になるだろうから、今度はこの糸を他の糸と一緒に織って、布にしてみようか。今日は時間がもうないけど、糸だけなら今日の夜にでも完成しそうだ」

「わー、楽しみね。どんな布ができるのかしら? 布で何を作ろうかしらねー」

「そうだなぁ。ショールとかマントとか、三人でお揃いが良いね」

「ねー」

カラカラと回る糸車を止め、一度道具を片付ける。

シーレが昼食を用意してくれているからな、そろそろ食器やテーブルの用意をしなければ。

「シーレ、何を作ったんだい?」

「おや? 糸作りはもう良いのですか? お昼は簡単なスープとピザトーストです」

「お、珍しいね! そっか、チーズがあるならピザもいけるか……今度作ろうか」

「おー? 美味しそうね! シーレ、料理上手になったね!」

……あ、そういえばシーレって割と失敗していたんだったか、料理。

が、今回のスープもピザトーストもしっかり美味しそうだ。香りも良い。

そうして食卓の準備をし、波の音が聞こえる街道沿いの草原で、昼食を頂く。

トーストには、しっかりとピザソースのようなものが塗られ、そこに乾燥トマトを水で戻したものや、ピーマンの仲間と思われる野菜と玉ねぎの薄切りに、薄く削り、しっかりと焼かれて溶けたチーズもたっぷり乗せられていた。

どう見てもしっかりとしたピザトーストだ。これなら安心して食べられる。

その美味しそうな見た目を信用し、俺もメルトも大きく口を開き、ガブリと齧りつく。

「……シーレ、このピザソースみたいなの、なに?」

「甘いよー……甘いチーズと野菜なんて変だよー」

「色が似ていたのでジャムを塗りました。塩と胡椒でカモフラージュしたのですが」

……不味くはないけど脳がバグる……!

やっぱり昼食は俺が作るべきでした……。

なお、スープは普通に美味しかったので、基本的に料理が下手ということはないんだと思います。

昼食後はもう少し距離を稼ごうと移動を再開し、夕暮れ前には近くの森の中に馬車を停め、野営の準備に入る。

今日もメルトの魔法と組み合わせた、バスを使った車中泊。

非常に快適ではあるのだが、やはり人目につかない場所かつ、人通りの少ない夜じゃないとなかなか利用できない方法だ。

「よし……糸が全部紡ぎ終わった! これ結構な量になったなぁ」

「確かにこれは中々の量ですね。布にするにはまだ少し足りないですが、他の糸と組み合わせる形で織るといいかもしれませんね」

「確かに。メルト、何色の糸と一緒がいい?」

「え? うーんと……私の糸が目立つように、別な色がいいなー」

「なるほど……銀が生える色なら……黒か紺あたりかな」

「いいなー、なら紺と組み合わせたいわ」

バスの中、紡ぎ終えた糸を、ひとまずアイテムボックスにしまい込む。

機織機はかなり大きいので、今ここで作業はできないのだ。

「ふぅ……港町まではあと二日くらいかな?」

「ええ、明日明後日を移動に集中すれば、明後日の夜には着きますね」

「港町なら、またエビの料理があるかしら! 新しいエビ料理が食べたいわねー」

「エビなぁ、前にダンジョンで手に入れた、大きなエビの魔物の肉、もうなくなっちゃったからなぁ。あの魔物、どこかで倒せないかな」

「ね! あんなに食べ応えのあるエビなんてなかなか食べられないもんねー」

「ふむふむ……私は経験していませんね、それ。食べてみたかったですね……しゃぶしゃぶで食べたら、きっと美味しいと思います」

なるほど、シーレならではだな、そういう大人なチョイスは。

そのうち彼女の過去、現実世界のエピソードも聞いてみたいものだ。

「さてと……今日は一日『チメーグ』の姿でいたから、そろそろ俺の心の中に彼女も顕現できるようになってるはず。少し早めに寝て、彼女と対話してみるよ」

「そういえば、そういう目的でしたね。シズマ……基本的に私達は、貴方を大事に思っています。憎しみや恨みも生まれることはあるでしょう。ですが、必ず根底には、どこかには感謝の気持ちだってあるんです。それだけは、忘れないでくださいね」

「そっか、お話するのね? じゃあ、チメーグちゃんによろしくねー」

少しだけ緊張しながら、俺はメニュー画面から『ログアウト』を選び、元の姿に戻る。

そして、今晩も『銀色の枕』に頭を埋め、深い眠りへ、対談の場へ向かっていった――

「朱子織だ」

「え?」

突然だった。暗闇の世界、円卓も何もなく、ただ俺とチメーグの二人だけが立っているだけの世界。

スポットライトでも当たっているかのように、互いの姿だけがはっきり見える中、目の前のチメーグが、褐色の肌に白髪のエルフの女性が、ただ無表情のままそう言い放ったのだ。

「だから、朱子織だ。サテンと言えば分かるか? あの子の尻尾の毛から作った糸、あれを最大限生かすなら朱子織で仕立てるべきだ。あの艶やかな光沢は、絶対にサテン生地にするべきだ」

「え、えーと……とりあえず布の話なのは分かった。チメーグ、初めまして、だな」

「ん? ああ、初めましてマスター。とても良い仕事をさせて貰った、感謝する」

「ええと……色々対談というか、言いたいことを聞いたり、話を聞くつもりなんだけど」

表情を変えずに、ただ真剣に布のことを語る彼女は、まるでそれ以外の話はどうでもいいと言わんばかりに、こちらの話を聞いても首を傾げるばかりだった。

「ふむ……ならそうだな……もし、将来私を外に出してくれるなら、家の近くに作業小屋を建てて欲しい。それと、私は弱い。一人で家に帰るのは難しいだろう。そこだけ注意してくれ」

「ええと……つまり、俺に思うところなんてないと? 俺達の家のすぐそばにいてくれるのか?」

「当たり前だろう。マスター、しっかり私の面倒を見ろ。私は服飾の仕事以外はあまりしたくないんだ。じゃあ、布を織る時は絶対に朱子織だからな、それを忘れないようにな」

まるで、それ以上話すことなんてないと言わんばかりに、彼女は暗闇の向こうに消えていった。

これは……ある意味ではこちらを信用しているという意味なのだろうか……?

なんにしても、どうやら彼女には俺は恨まれていないらしい。

「よかった……じゃあこのまま寝ようか……」

暗闇の精神世界の中で、さらにもう一段階意識を落とすように、目を閉じる。

……そっか。いろんな性格のキャラクターがいるんだな……。