軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十六話

「一班、右の触腕をけん制しつつ回り込め。リヴァーナはそのままそちらから切り込むんだ」

「一班後衛、私の背後から『地面』に向けて冷却魔法を唱えよ!」

一〇階層に到達し、俺とメルトはそこで『第一線で活躍しているトップの探索者クラン』の強さを目の当たりにしていた。

「二班、左腕への射撃を維持しつつ後退せよ。動きが止まるタイミングで魔法で左足を狙え」

もはや詰み将棋とすら呼べる、完全に攻略法を確立した人間の戦いだった。

階層主は、俺とメルトで倒したことのある巨大なイカの魔物。

だが、その階層主が何か行動を起こす前に、完全に動きを封殺されてしまっていた。

右足に相当する触手が全て、氷結した地面に縫い付けられ、リヴァーナさんの特攻に対処しようにも、右足の大半も触腕も、けん制によって満足に動かせない。

かといって左側も、過剰なまでの射撃攻撃から身を守ろうと動かすことができず、厄介な左の射撃班を倒そうと動き出すも、右足が氷で張り付いているため途中で止まってしまう。

その停止した瞬間、左足に一斉に射撃が集中し、完全に機能が停止してしまっていた。

攻撃らしい攻撃もできず、完全に移動手段も封じられ、そして今……左触腕がリヴァーナさんに切断され、残された右の触腕が、司令塔のアラザさんへと向かう。

「弱った攻撃など防ぐまでもない」

その太い触腕を、アラザさんが真正面から受け止め、抱えるようにキャッチしてしまう。

……怪力だ。弱っていてもこの巨体の一撃を受け止め捕まえるなんて……。

「切り落とせ、リヴァーナ」

「分かった」

伸ばしたまま戻せない触腕を、リヴァーナさんが切断する。

これにて、巨大イカの全ての足が機能を失い、そして――

起死回生の攻撃のつもりか、口からイカ墨のような攻撃を放とうとしたところで、そこにガークさんが大盾を構えたまま特攻、攻撃を防ぎながら口に自身が持っていたメイスを叩き込んだ。

「戦闘終了、被害報告を」

「一班、たぶんなし」

「二班もありません!」

「では、魔物のドロップ品を回収の後、野営の準備に入れ」

戦闘所要時間、恐らく三分程度。

たったそれだけの時間で、俺とメルトで倒すに一〇分以上かかった階層主を完封してしまった。

これが統率された、そして一人一人の練度が高い集団の戦闘なのか……。

「ねぇねぇ、さっきのおっきいイカ可哀想だったわね?」

「ははは……確かに何もさせてもらえなかったね」

「凄いわねー……集団での戦いに慣れてるのもあるんだと思うけど、アラザさんの指示も、それに反応するみんなも、とっても強いのね? アラザさん、イカの攻撃を『ドシーン!』って受け止めていたわ。びっくりしちゃった」

「確かにあれは驚いたなぁ」

正直、そこまで自分で戦える人間ではないと思っていただけに、あのインパクトで大きい。

あの触腕、確実に数十キロはあるはずなのに。

するとそこに、リヴァーナさんが走り寄って来た。

「シズマ、階層主が落とした。料理して」

「お、これは……良いですね、これ美味しいですよ。前に食べました」

『エンペラーげそ』

『海洋皇帝ジュポーンの触手の一本』

『非常に太く長大で食べ応え抜群』

『また一部吸盤にはトゲがあるためしっかり確認すべし』

早い話が、超ぶっといイカの足である。

凄いよこれ、輪切りにするだけで一人分のイカステーキになりそうな大きさなんだ。

以前、メルトと食べたのだが、あまりの量にまだアイテム欄に眠っているのだ。

「シズマ、こっち来て。キッチン用意した」

「はは、了解です」

野営の設営が終わったようで、既に簡易キッチンが完成していた。

今回の選抜隊には後方支援、つまり煮炊き係に相当する人が同行していないため、最小限の作業しかできない人しかここにはいない。

その中には、以前一緒に人工ダンジョン内で戦った同年代の青年『キュベック』の姿もある。

「シズマ! お前凄いな! 攻略中は口出しできない決まりだから話しかけられなかったけど」

「久しぶりキュベック。そっちこそ階層主戦、見事な連携だったね。キュベックも弓、使えたんだ」

「まぁ俺は斥候兼戦士だけど、本来は弓と投げナイフが得意なんだよ」

なるほど、つまり小ぶりな刃物の扱いはお手のもの、と。

「ならさ、このでっかいゲソの吸盤、ところどころに黒いトゲが隠れてるから、ナイフでほじくり出して取っておいてよ。その間俺は今日の献立の他の準備するから」

「今更だけど料理まで出来るのか? なんかうちの班長と副班長が食ったことあるって言ってたんだけど」

「簡単なヤツだけどね。んじゃ、イカゲソは任せたよ」

さて……じゃあイカ焼き用のタレと……道中たっぷり獲ったエビ肉を、エビフライ……ほぼとんかつみたいな大きさのジャンボエビフライにしましょうか!

もちろん、手持ちのタルタルソース、全放出です。

「美味い! 美味過ぎる! 攻略中に……このレベルのエビ料理を……いや、そもそも外のレストランでもエビのフリットは食べたことはあったが、こんな美味しいフリットは初めてだ!」

速報。アラザさん、吠える。

本日夕方、ダンジョン内第一〇階層階層主フロア内で野営中、同行したシズマ氏の料理を食べたアラザ・ミール氏が、あまりの美味さに普段の落ち着きぶりを忘れたかのように大声で吠えた模様。

「よ、喜んでもらえて何よりです」

「うむ、少々取り乱した。このソースがまた良い。これは本当に美味しい……なるほど……一班の二人が君を欲しがる最たる理由はこちらだったか……」

「そ、そこまでですかね」

「そこまでだ。私はエビが好きでな、故郷がこの大陸の山間部を抜けた先にある、小さな漁村なのだ。エビはそこではご馳走扱いでな」

「エビ美味しいよねー! 私もエビが大好物よ。山暮らしだったけど、川で獲れるエビが、料理が苦手な私でも簡単に美味しくなるから好きだったなー」

「ほう、メルト君もエビ好きか。どこかの言葉で『エビ好きに悪い人間はいない』という。君の人柄の良さは重々理解しているつもりだったが、それが確信に変わったよ」

そう言いながら、彼は追加のエビフライを取りに離れて行った。

……キャラが崩壊しかかってる。

が、どうやらアラザさんだけでなく、他の面々もエビフライ……と呼ぶには大きすぎるフライを、タルタルソースと共に頬張り、至福の笑みを浮かべていた。

「イカ美味しい。ソースがとても美味しい」

すると、皿にイカを山盛り乗せたリヴァーナさんがこちらに寄って来た。

その後ろにはガークさんの姿もあり、同じく嬉しそうにイカゲソステーキを頬張っていた。

「実際これは美味しいよ、こいつらの肉は良い値段で売れるから財源になると同時に、量が多い関係で攻略中の貴重な食料にもなる。が、いつもは全てを持っていくことができないんだ。この大きさだからね」

「私が沢山食べるから持っていくといつも言っている」

「限度があるでしょう……が、今回はシズマ君のお陰で、長期のダンジョン探索でも問題なく食料を持ち運びできる。もちろん日持ちする食料に限定しなくてはいけないけれど」

あ、そうか。普通の収納魔導具は時間の経過は普通と変わらないんだったか。

メルトが言うには、時間の流れを緩やかにする効果があるものも存在するそうだが。

……この時間関係の話題は出さないでおくか。

「これは、本攻略で貝型の魔物が出るのが楽しみだな……シズマ君、期待しているよ」

「それは戦力としてですか? それとも料理の話ですか?」

「ふふ、もちろん両方だ。さて、俺はマスターのところへ行くよ、このままではまともに明日以降の打ち合わせもできそうにない。エビさえ関わらなければ冷静でいられる人なんだけどね」

「ははは……確かに凄い勢いで食べていますもんね」

メルトも負けじと食べているけれど。

大勢の人間が、俺の料理を大喜びで食べている様子を見ていると、胸にこみあげるものがある。

ともあれ……これで試験運用は終わり、明日はダンジョン外に戻って本格的な作戦会議、か。

「……ねぇ」

「ん? どうしたんです?」

「イカも揚げて。絶対美味しいはず」

「はは、了解です。確かにイカフライは美味しいですからね」

「食べたこと、あるの?」

「ありますよー」

ただし、個人的にはイカフライには中濃ソースがベストだと思うんです。

ああいうソース……まだこの世界で作っていないんだよなぁ。知識としてはあるのだが。

トマトの季節になったら作ってみるかなぁ。そういえばリンドブルムでは温室の畑も大々的に建造中なんだったか。

なんだか、そのうちこの国は農業大国にでもなりそうだな、人口に対して土地がかなり余っているって話だし。

「シズマがいるお陰で道中が楽だった。もちろんメルトも。たぶん連携が必要な階層主戦は私達、道中の攻略はシズマとメルトになる」

「お、おお……なるほど、了解です」

すみません、今俺『リヴァーナさんがこんなに長い言葉を話すなんて』という、全然関係ない部分で驚いていました。

しかしそうか……攻略に関しては、思わずリヴァーナさんが饒舌になるくらいには、皆真剣に挑んでいるのだろう。

俺も、足を引っ張らないように全力を尽くさないとな。

ダンジョン内部の天候は基本的に時刻の変動で変化はしない。

だが、階層主のフロアは吹き抜けになっている他の回廊型の階層とは違い、そこまで明るくなく、松明や謎に一定の明るさを保つフロアの輝度以上に明るくはならない。

つまり、薄暗い状況がずっと続いているという環境だ。

故に眠り易いという理由から、野営はこの階層主の階層が適しており、また、階層主のフロアは挑む人間毎に個別に用意されるため、後続がやってくることもない。

『他の探索者に襲われる心配が皆無』という、階層主フロアの特性を利用した野営方法でもあった。

「少しいいかな、シズマ君」

「アラザさん、いいですよ」

時刻は夜九時。既にそれぞれのテントや簡易ハンモックで休む人間が出てきている中、俺は一人、焚火をぼーっと眺めていたのだが、そこにアラザさんがやって来た。

メルト? メルトならリヴァーナさんのテントに一緒に入っていきましたよ。

俺も誘われたが、流石にお断りさせて頂きました。

「もう、明日以降の打ち合わせは良いんですか?」

「ああ、ガークとも相談したが、大体の方針は決まった。正直、今回は君の収納魔導具の存在も大きいが、何よりも『非戦闘員を同行させずに済んだ』『道中と階層主で完全に戦力を分担できる』という点があまりにも大きい。明日、一度戻って物資の補給や装備の最終チェックを行ったら、そのまま再突入の予定だ」

「今回の試験運用、たぶんダンジョン内の魔物の分布や環境に変化がないか、その確認もかねていたんですよね? どうです、前回と変わっていたりしましたか?

「察しが良いな。ああ、明らかに厄介な階層主や魔物の出現頻度が上がっている。ここの階層主しかり、道中のロブスターの群しかり。まぁ個人的にはありがたいがね」

「今度、他の料理もご馳走しますよ。ミンチにしたエビに他の野菜や卵を加えてから成型して揚げるんです。たっぷりのソースと野菜と一緒にパンに挟んでいただくんですよ」

「ぬぅ……食事を終えたのにまた腹がすくな。ああ、楽しみにしているよ」

そう言って、彼は穏やかな笑みを受かべたような気がした。

が、それは揺れる炎の明かりのせいで見えた、錯覚だったのかもしれないな。

「君の話を聞きに来たんだ。ダンジョンマスターや、君の世界の話に興味がある」

「了解です。じゃあ、ダンジョンマスターの話からしましょうか」

火を囲み。ゆっくりと語る。

俺を召喚したダンジョンマスターや、焦土の渓谷のダンジョンマスターの話を。

きっと、このダンジョンの攻略にも役立つと信じて。

静かに、変わることのない明るさの夜が、過ぎていく――