軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十七話

「皆、目は覚めたな? 撤収の準備を始めるぞ」

翌日、今が朝かどうかすら分からない、眠る前と全く同じ明るさのダンジョンにて。

確かに、日頃からアンダーサイドで寝起きしているキルクロウラーの一団は、こういう感覚のズレ、違和感に強いのだろう。

「うう……まだ夜なのに……もう朝なの……まだ眠いよ……」

「メルト、今は朝の七時だよ。ダンジョンの中だと感覚狂っちゃうね」

メルトなんかはこの有り様です。明るさ、太陽光の有無というのは、想像以上に人の健康や精神に作用するものなのだな、と改めて思う。

俺も気分を切り替え、撤収作業に入ることにした。

まぁ、流石に野営に慣れている面々があっという間に撤収を始めたので、俺の出番なんて殆どないんですけどね。

荷物を俺のメニュー画面に収納するだけです。

「しかし……これだけの荷物が本当に全て収納できるのはすさまじいな。実際、長期の探索になることも多いが、一番のネックになるのが物資の運搬だ。その為に戦闘員の体力を消耗するわけにもいかず、結果的に後方支援専門の人間を何人も同行させる必要があった。今回は煮炊きができてタフネスも高いシズマ君がいるからと、最低限の雑務を任せられるメンバーを選抜してきたが」

「ですね。煮炊きの専門知識のない、器用な連中を選抜しました。無論、物資の運搬も兼ねていたのですが……正直、シズマ君とメルト君の道中の働きが凄すぎて、色々プランを練り直す必要が出てきましたね」

「恐縮です。昨日、リヴァーナさんにも言われたのですが、俺とメルトは道中の雑魚を担当、階層主を皆さんで担当、必要に応じて俺とメルトが参戦でいいのではないでしょうか?」

「基本はそのつもりだ。が、もしもの時に参戦してもらった時、連携が上手くいかず逆に被害が出る危険性もあるだろう。故に、ある程度は決めておくつもりだ、連携方法を。君達の動きを観察していたからな、ある程度思いついている」

帰還の準備が整ったところで、最後に今後のことを話すアラザさんとガークさん。

確かに彼の言う通り、急遽参戦しても足並みは揃わないだろうな。

ある程度の打ち合わせをするのは当然だ。

撤退をするため、階層を引き返そうとしたところで皆に呼び止められた。

「シズマ君、普通に一一階層に移動してそこからダイブして戻るんだよ、時間短縮だ」

「なるほど、了解です。今回、皆さんの荷物をまとめて俺が持ってるので、ドロップ品のロストが結構な量になる可能性もありますが……」

ほら、種類毎にごっそり消えるので……今回の探索で得たアイテムは八種類だ。

『キラーロブスターの身肉』

『キラーロブスターのハサミ肉』

『ケイブバットの長牙』

『ケイブバットの吸血牙』

『ケイブバットの羽被膜』

『大きな塩結晶』

『小サンゴの欠片』

『エンペラーげそ』

この中から一種類、消えてしまう。

そしてげそは正直、四割近く食べているので消えてもそこまで惜しくはないのだが……エビの方はかなりがっつり数があるので、消えるとかなり痛手だ。

「ふむ……いや、一時の欲で時間を無駄にできん。跳ぶぞ」

「マスター、思いっきり今迷いましたね。エビなら昨日沢山食べたじゃないですか」

「……何の話だ? 迷ってなどいない」

分かりました、じゃあ跳びましょう! エビ以外が消えるように祈りながら!

そうして、俺達は一一層に進み、回廊の淵に並ぶ。

「イカ残れイカ残れイカ残れ……」

「エビ……エビ……エビ……」

リヴァーナさんとメルトが、並んで食材の名前を呟いているのが非常にシュールでした。

では……俺から跳びます! とう!

今回も一瞬の浮遊感の後、自分が今いた階層が遠くに離れていく光景が見えたと思った次の瞬間、気がつくとダンジョンの外の浅瀬に尻もちをついた状態で浸かっていた。

「……これ、毎回服がびしょ濡れになるのなんとかならないかなぁ」

そうぼやくと同時に、次々と周囲に探索隊の面々が現れた。

着水音もなく、唐突に現れる一同に、どこかから落ちてきているわけではないのだと確信する。

……ふむ、もしかしてこの浅瀬もダンジョンの一部なのか……?

「皆、帰還したな? ではベースキャンプに戻って服を乾かし次第、物資の補給と再出発だ」

そうして、俺達は試験としてのダンジョン探索を終え、本攻略に向けて動き出すのだった。

「イカは? ねぇイカは?」

「大丈夫ですよ、全部残ってます。今回消えたのは『小さなサンゴの欠片』です」

「よかった」

「階層主の肉は既に我々が手を付けているからな、売却は難しいだろう。そのまま食料として本番の探索に持ち込むつもりだ」

「ではロブスターの肉もですか?」

「……いや、ハサミ肉だけは全て売却する。良い値段になるはずだ」

市場を移動中、アラザさんとリヴァーナさんと食材について話し、結果メルトが駄々をこねそうな結論に至った。

だが――

「ハサミじゃないお肉が残るならいいよ! ハサミのお肉も美味しいけどね! お金は大事!」

「ああ、長期でベースキャンプを設置するのにも費用が掛かるからな、軍資金は大事だ」

意外にも認めてくれました。大丈夫、少しだけメニューに残しておくから。

バレないバレない……。

そうして換金できるものは換金し、同時に今回の探索で、ダンジョンの魔物出現傾向から必要な物資を割り出し、必要な道具を補充しながらキャンプに戻るのだった。

キャンプに戻り服を乾かしている間に、俺ができる攻撃を実演して見せることになった。

ダンジョン内で試せばよかったと思ったのだが、こういう外でもできることを中でやるのは時間がもったいないとのこと。

ましてや、本職として大剣使いをしているわけではないのだから、ダンジョンで試させたくなかったのだろう。

やはり慎重だな、考え方が。

「じゃあ、とりあえず大剣での戦いを見せますね。大きな一撃が必要だと感じたら、この戦い方の俺を生かす作戦、お願いします」

「ああ、分かった。では……ガーク、相手を頼む。全力で防御に徹するんだ。おい、誰かガークに防護の呪文も唱えてやってくれ」

どうやら、堅牢な相手の仮想敵として、大盾を持つガークさんと戦うことになるようだ。

防御力を上げると思われる呪文を受け、更にうっすらと膜のような、結界のようなものを纏う彼が、少しだけ緊張した面持ちで俺と対峙する。

「堂に入っているね、シズマ君。これは気合を入れないと危険そうだ」

「そうですね、俺は旅団のメンバー全員の教えを受けています。それぞれの持つ特殊な技能や自己強化もある程度使えますから、それ抜きで、大剣で戦いますね」

「それで頼むよ。少し嫌な予感がする。私の勘はよく当たるんだ」

「そうかもしれないですね。一応……シレント直伝の大剣技で行きます」

俺は、自分の身体よりも大きな大剣を構え、ガークさんに向かう。

同じく自分の身体をすっぽり隠せる大きな盾を構えているガークさんに向かい、俺は走る勢いを乗せた一撃を、慣性の力を極力殺さないように大剣に伝え、コンパクトに構えた体勢から振りかぶり、インパクトの瞬間に腕を伸ばし、遠心力を上乗せした攻撃を放つ。

「『ターンブレイク!』」

「グア!?」

大剣が、凄まじい勢いで振るわれる。

何か薄い膜を破る感覚と、巨大な鉄の塊でも殴りつけたような衝撃に、手も、腕も、そこから繋がる全身も、全てがしびれてしまった。

「ガ……グ……」

「はぁ……手が動かない……足までしびれました」

衝撃が全て自分に返って来たかのような感覚に、ついに俺は座り込んでしまった。

が、どうやらそれはガークさんも同じだったようで、ガランと大盾が倒れる音が辺りに響き、その向こうにいた彼もまた、地面に大の字に倒れ込んでいた。

「これは……強い! 一瞬、意識を失った! この一撃、まだ先があるんだろう? マスター、見ていますか! 衝撃を完全に流すことも受け切ることもできませんでした! そもそも防護壁も一瞬で破られましたよ! 彼の一撃は本物だ! ドラゴンだって一刀両断できそうだ!」

倒れたまま、嬉しそうに言うガークさん。

悔しいという思いなんて微塵も感じていないのだろう。

純粋に、攻略に役立つ大きな戦力が追加されたのが嬉しいのだろう。

「ガークを一撃で倒すか。しかも、まだまだ上があると見て良いんだな?」

「はい、もっと自己強化の術を使えばこれ以上の威力も出せます。ただ、身体にかかる負荷も大きいので、かなり大振りでスキも大きいので、相応に準備が必要ですが」

「ふむ……だが大きな武器になるな。我々で対処できない強固な相手が現れた時は頼らせてもらう」

「了解しました」

そうして、最終的な打ち合わせを少し挟み、メルトの方の連携もリヴァーナさんと試したりとしているうちに、時刻は正午を回っていた。

「では、これより本攻略に入る。良いか、かつて最も深部まで潜った探索隊は、そこまで二週間掛かったと言う。が、我々はその探索隊より遥かに強く、同時に今回は旅団から二人の人間を借り受けている。たとえ今、ダンジョンが昔よりも遥かに深く続いているのだとしても、必ず最下層にたどり着けると私は確信している。皆、今回の挑戦を最後の挑戦だと思い、気を引き締めるように!」

キャンプ地にて、アラザさんが決意表明をすると、クランの面々が真剣な表情に変わり、短く『応!』とだけ答える。

完全に『スイッチがON』になったその様子に、やはり俺は格好いいと思ってしまう。

それはどうやらメルトも同じだったようで、キラキラした目でみんなを見つめていた。

「か、かっこいい……! 『応!』って私もしてみたいわ!」

「よし、じゃあ……これから俺とメルトは、キルクロウラーに協力し、必ず最下層にたどりり着き、ダンジョンコアを入手する! いいか!」

「応!」

離れて見ていた俺達も真似をしてみると、嬉しそうにメルトが返事をする。

その様子を見るだけで、なんだか緊張が全部ほぐれていく思いだ。

なお、みんなにも見られていた模様。恥ずかしい!

野営地を進む皆の足取りが、明らかに試験の時とは違う。

一歩一歩に力が入り、同時に皆の表情が、放つ気配が、覇気でも放っているかのように周囲を圧倒していた。

こちらを見て噂する声すらない。ただ『ゴクリ』と唾をのむ様子だけが確認できる。

声を出すことすら憚られるような、そんな鬼気迫るものが皆から伝わってくるのだ。

ここのダンジョン『大地蝕む死海』の攻略は、それほどまでに重要なことなのかもしれないな。

「……正直、階層が進めば攻略に必要な準備が全て無駄に終わるような罠もある」

「リヴァーナさん?」

その時、前を歩いていた彼女が速度を緩め、後部にいた俺の隣にやって来た。

「前回は六一階層まで到達した。何人も後衛の人間を先に帰還させながらようやくたどり着いた」

「そうか、先に一部の人間を帰らせることもできるのか……」

「そう。負傷したら帰還させる。仲間を使い捨てながら本命の戦力を少しでも温存させる策」

「……反発もありそうですね」

「そんなのない。みんな覚悟の上」

「失礼しました」

凄まじいな。そこまでの覚悟で挑んでいたのか。

「でも、無駄になった。突然次の階層を調べるためにアラザが伸ばした鳥かごの鳥が、六二階層に入った瞬間、全身が爛れて即死した。もしかしたら即死じゃなかったのかもしれないけれど、あんな毒を防ぐ装備なんて私達にはなかった。だから、三週間の探索を諦めてそこで切り上げた」

「……悔しいですね、それ」

「そう、悔しい。だからリベンジ。今度こそ、抜けて見せる」

そう語って聞かせてくれた彼女の瞳には、決意が漲っていた。

……俺も、違和感や怪しまれないギリギリのラインを見極めて、やれることをやると決めた。

必ず、このメンバーで最後まで、最下層までたどり着いてみせると、そう強く思った。