軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十五話

天然ダンジョン『大地蝕む死海』の低階層。

多くの探索者がたむろし、ダンジョン内だというのに、ここはもう一つの野営市と化している。

「この辺りは商人がいないため、直接的な取引、交渉の横やりが入らない取引が可能だ。それに入手したアイテムを失いたくない人間が、ここまで自力で引き返してくることも多い。それ故にこうして活気がある」

先頭は俺とアラザさん、そしてメルトだ。

今回は俺とメルトの動きを観察するのが主目的であるため、こうして隣にいてくれるのだが、やはりダンジョンのベテランなだけはあり、様々な事情を解説してくれた。

「そういえば疑問なんですが、こういう階層って人がい続けると、魔物って湧かないんですか?」

「こういった回廊型の階層は、半月以上人が居続けると、強制的に全員ダンジョンの外に出される。だからここにいる人間は定期的に全員撤退する。まぁ、無制限に滞在出来たらダンジョンとして成立しなくなるからな。そして予想通り、人が居る限り新たに魔物は出現しない」

「確かに……そうなったら『定期的に安全地帯を設置』できてしまいますからね。いや、そもそもダンジョンを封殺できてしまう……」

「その通りだ。ダンジョンマスターの思惑だろうな『ある程度の譲歩はするが抜け道は決して作らせない』という意思を感じる。同様に、途中離脱でのアイテムや経験の喪失も、ダンジョンマスターの『リスクなく撤退はさせない』という思惑を感じる」

「かなり、ダンジョンの運用に積極的な印象を受けますね」

「ああ。だから私は、セイム殿にダンジョンマスターについて色々問うてみたかったのだ」

「ああ、そういうことですか。……俺は、セイムからも『もう一人別なダンジョンコアを入手したメンバー』からも、ダンジョンマスターの話は聞いていますよ」

シレントについては、まだ知る人間は少ないはず。ならば詳しいことは言わなくていいだろう。

「む、それは本当か。では……今晩の野営中にでも聞かせて貰えないだろうか?」

「勿論です、アラザさん」

そうして、アラザさん先導の元、俺達探索隊は第一階層と第二階層を通り抜けていく。

大勢の探索者が、まるでモーゼを前にした海のように左右に割れる中、悠然と――

「さて、ではこの階層からメルト君とシズマ君の二人に魔物の処理を頼みたい。構わないかな?」

「いいよー! シズマ、この階層は私だけでいいかしら?」

「そうだね、それぞれ単独で試して、最後に協力しようか。それで良いですか?」

「ふむ、確かに個別と協力、その両方を確認するのも良いかもしれない。任せる」

ダンジョンの第三層。まだ他の探索者も目立つが、その中を颯爽とメルトが駆け抜ける。

新調したダガーの性能もあり、メルトは武器に魔法を纏わせるまでもなく、魔物を撃破する。

以前のように駆け抜けるのではなく、しっかり後続と足並みを合わせて進むメルト。

だが、やはり処理が早い。他の探索者と戦っている魔物にまで手は出さないが、それでも先を進むメルトに向かい、標的を替えた魔物も含め、自分の前に現れた魔物は全て、瞬きする間もなく両断……いや、四つ割りにされているのだ。

「……凄まじい早業だ。確かにリヴァーナに比肩する軽戦士と呼べる」

「前より速い。成長してる。あと良い武器に替えてる」

アラザさんとリヴァーナさんの評価は正しいと思う。

実際、メルトは『まだまだ強くなっている』のだ。

初めて戦いぶりを見た頃よりも、明らかに剣技の冴えも、移動速度も上がっているのが分かる。

これがかつて、彼女のことを【神眼】で調べた時にあった『“物事を吸収する”という能力を極限まで鍛えている』という、説明の力なのだろう。

その後も、メルトは苦戦することもなく、ただ作業のように襲ってくる魔物を一瞬で処理し、後続の人間は一度も足を止めて魔物の処理を待つなんてこともなく、階層の終わりまで歩き続けられたのだった。

「到着! ここまでの道のりの魔物は全部倒したよー」

「メルト、凄い。よく頑張った」

「へへへ……」

リヴァーナさんが、無表情ながらもメルトの頭を撫でる。そしてメルトが満足げに笑う。

本当に仲良しだな……なんだか、ここまで仲が良くて、かつ彼女と同格以上の相手ができたのが喜ばしい。もし可能ならば、是非ともメルトに同性として様々なことを教えて……いや、なんかリヴァーナさんもそういうのに疎そうだ……!

「お疲れ様、メルト君。凄まじい処理能力だった。疲れ具合はどうだ?」

「あらざさん……だっけ? 疲れてないよー」

「ああ、アラザ・ミールと言う。しっかりと挨拶していなかったな。しかしそうか……この程度なら疲れは出ないか。まだ若いようだがとてもタフな剣士のようだ」

「山育ちだからね! 全然疲れないわ! 次の層も私がやろっか?」

「ふむ……確かに魔法剣士という話も出ていたな……そちらも確認しておきたい」

「わかった! 次は魔法で戦うねー」

どうやらアラザさんは、次はメルトの魔法を確認したいようだ。

メルトの魔法は希少な『自然魔法』というものらしいからな……使用は慎重に、だ。

「メルトメルト、魔法選びは慎重にね。メルトの魔法って珍しいかもしれないし」

「そうかも。じゃあ水と氷と土だけ使うね」

そうして、次の階層に進む――と思いきや、その前にアラザさんがしっかりと小鳥入りの鳥かごを竿の先端に括り付け、階層の先の安全を確認してから進むのだった。

……さすがにまだ低階層なので大丈夫だと思います。

「えい! ねぇねぇ、さっきから試していたんだけども、もしかしてダンジョンの魔物って、倒し方で落とすアイテムが変わるのかしら? この階層ってコウモリがすっごく多いのだけど……羽を撃ち抜くか、本体を撃ち抜くかで落とすアイテム違うね?」

第四階層。メルトはひたすら射撃のように、ダガーから射出した氷のトゲで、飛来してくるコウモリや天井にぶら下がっているコウモリを撃墜し続けていた。

その狙いの精密さや発動速度に驚かれはしたものの、それ以上に驚きが一同から上がる。

「ふむ……正確に羽だけを貫いて倒したりと意識したことはなかったが、確かにこのバット種に限ってはメルト君の言う説が正しいようだ。羽を撃てば牙が、本体を撃てば被膜がドロップする。ダンジョンの魔物は一律、身体が粒子となり消えるが、こういう部分を実際の魔物の討伐に似せていると見た方が良いかもしれないな……」

「いえ、ですがかつて攻略に挑んだ『焦土の渓谷』のバット種ではそのようなことがありませんでした。恐らく、このダンジョン特有の現象ではないでしょうか?」

「ふむ……確かに、このダンジョンは妙に『仕様がはっきりと管理されている』ように感じる。こういう部分も、もしかしたらダンジョンマスターの性格が表れているのかもしれないな」

アラザさんとガークさんの会話に、俺も少し考えてみる。

……正直、焦土の渓谷は正解の道だけを選んだだけだったので、どういうギミックがあったのかを、実際に体験はしていないのだ。

だが、本来の渓谷は『正解の道を選ばないと別な場所に気がつかないうちに転送』『道がループ』『進んでいると思ったらスタート地点に到着した』なんてことが起こるらしい。

つまり、俺のマップ表示能力で先行していたヒシダさん達を追いかけていなかったら、俺のマップ能力だけでは攻略が困難だった可能性がある。

そういう罠を道中にふんだんに仕掛け、さらにはダンジョンコアのダミーも設置し、そこに即死トラップまで設置していたことを考えれば……焦土の渓谷のダンジョンマスター『ディードリヒ』は、かなり狡猾かつ性格の悪いヤツだったんだろう。

なら、ここまで管理されたダンジョンのマスターはどういう存在なのだろうか……?

「よし、次の階層の安全も確認した。私の『カナ十七号』の体調に変化なしだ」

「マスター、いい加減小鳥に名前をつけるのやめましょうよ」

「いや、たとえ生贄のような存在だとしても、今は共に探索をする仲間だ。名前はつける」

ちょっとだけ思っていたのだが……アラザさん、エビが好きだったり小鳥に名前をつけたり、微妙にメルトに似てません……?

いや、全然性格も外見も似ていないんですけどね……?

第五階層からは俺の担当となった。

この辺りになると、探索者の数が少しだけ減り、必然的に俺が対処すべき相手も増えるのだが、どうやら五階層を境に現れる魔物の種類に変化が生じるようだ。

この辺りから大きなエビこと『キラーロブスター』も現れ始め、こいつの身肉は人気がある反面、倒すのがそれなりに面倒ということで、四階層をクリアしたら引き返す『人工ダンジョン上がりの新人』が多いらしく、それがこの階層から人が少ない理由だそうな。

「……倒し方でドロップが変化する、か」

俺は、早速現れたキラーロブスターを前に、メルトの見つけた説を実践してみることにした。

『ラピッドステップ』で移動速度を上げ、さらに装備の効果で回避行動中の姿を一瞬消す。

当然、魔物は俺を見失い、一瞬動きを止める。

「……フッ!」

剣を二度、高速で振るう。俺を見失い、前方をきょろきょろと見回し、まったく後ろに注意が向いていない魔物の『両方のハサミ』を、完全に本体から切り離し、そして最後に頭と胴体を切り離した。

メルト程の早業ではないが、正確にロブスターの『可食部位』を切り分け倒した結果――

『キラーロブスターのハサミ肉』

『強靭なハサミの白く美しい身肉』

『他の部位に比べて味が濃く弾力も強いが噛み切りやすい』

見事に、通常の身肉に加えて『ハサミ肉』を二つ追加で入手できたのだった。

「見事だシズマ君。綺麗な剣筋をしていた。隙を生む戦法で確実にメルト君の説を試したわけだな」

「ええ。それにこの魔物、美味しいですからね。では、残りも倒してきます」

どうやら、今回はかなり『当たり』だったみたいです。もうね、キラーロブスターだらけでした。

……こりゃ今晩の献立は決まったも同然だな。

「『フレイムソード』」

続いて第六階層。ここでは俺は【初級万能魔法】の中に含まれる攻撃魔法で、炎の剣を生み出し戦っていた。

初級魔法から一歩進んだ攻撃魔法だが、どうやら万能魔法の中には中級に一歩踏み込んだ魔法も含まれているらしく、正直これだけでかなり取れる戦法が増えたと言える。

が、正直魔法で近接攻撃なんて『剣に付与魔法で炎を纏わせたらいい』と思わないでもない。

まあ武器を奪われた状況でも使えるという点では便利ではあるかな。

ともあれ、俺はできるだけ魔法を駆使し、第六階層を踏破していく。

だが、ここで新たな発見があった。

なんと『どんな攻撃で倒したか』でもドロップ品が変化するのだ。

「……んぐ。これは効率が良いな。そうか、炎で倒すか。あまり効きの良い属性ではないため、海洋の魔物には炎以外を使っていたが、とどめだけなら炎もありか」

そう言いながら、アラザさんは『たった今ドロップした品』を食べていた。

『ロブスターの塩焼き』

『海水の塩分が程良く沁み込んだ身肉を香ばしく焼き上げたもの』

『美味であると同時に体力の消耗を抑える効果もある』

そう、まさかの『調理済み』ドロップなのである。

確かにでっかいエビ相手に炎で攻撃するのはあまり効率的とは言えないかもしれない。

無論、一定以上の火力なら蒸し焼き状態に出来るだろうが、そこまでする相手でもない。

そもそも魔法を使う魔力って希少だからな、魔力回復薬も勿論貴重だ。

「松明で殴り倒すというのを試してみるか……」

「たいまふ、でひたはよ!!」

アラザさんのぼやきに、早速メルトが松明を用意する。

無論、彼女の口にも湯気の立つエビ肉が咥えられております。

やっぱり……似ている。

結果、とどめに松明で殴り倒すと、狙い通り調理済みのエビ肉がドロップしました。

なんだかこの探索隊と一緒に行動するのが楽しくなってきましたよ、俺は。

そうして、無事に第六階層も突破し、今日は一〇階層の階層主を倒したら、そこで野営をしてから帰還するという予定が立てられた。

さて……じゃあ一〇階層目指して引き続き攻略開始と行きますか!

「シズマ、イカが出たら炎で倒して」

「はは……了解です」

なんかグルメツアーみたいになってきていませんか?