軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百三十二話 秋葉原で怪獣大決戦をしよう

それは恐らく、瞬くような刹那の出来事だった。

崩れ落ちた建物に寄りかかるように倒れている 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の前に、上空より光の球が下りてきて、それは人間の姿の弓花へと変わったのだ。

懐かしい高校の制服を纏っている己の幻影を見て弓花は驚きを露わにしたが、何故だか幻影の弓花も怯えた顔をしていた。

だが幻影の弓花は覚悟を決めた顔をしてゆっくりと手を伸ばすと、それに巨大な銀狼の姿をした弓花もまた手を伸ばした。まるで共鳴するかのように指と指が接触すると幻影は銀狼の中へと吸い込まれて行く。

そして弓花の脳裏にとある記憶が浮かんでいった。

『これって……』

それは死の記憶だ。

放課後のショッピング。そこで突然爆発が起こった。弓花は崩れ落ちる瓦礫に飲まれて消えていく親友の姿を見て、それから己も次の瞬間には視界が真っ赤に染まって何かを熱く感じたかと思えば、まるでプレーカーが落ちたかのように暗い世界に意識が飲み込まれていった。

そこから先の記憶は曖昧だ。だが記憶を整理すれば、恐らく弓花はゼクシアハーツに似た世界へと次の瞬間には出現していた。『時系列を考えれば』、それは自然な答えだった。頭の中でバラバラだったピースが、『新たに出現したピース』によってスッキリとはまっていく感覚。弓花はそれをはっきりと認識した。ここに至るまでの軌跡を理解したと感じた。

『これって……私、ああ……そうか。あの時、死んだんだ。ゲームじゃない。私は死んであの世界に生まれ変わった?』

自分は何かに巻き込まれて死んだ。周囲は混乱していて、建物は崩れ、自分と一緒にいた風音も共に自分も……そんな弓花の記憶が浮かび上がったときだ。赤い光が正面に見えたのは。

「弓花ぁあああっ!」

カルラ・カザネリアンが赤い光線を放ったのだ。急速に意識を取り戻した弓花はソレに対処できない。だが弓花が目を見開く前で不可視の障壁が出現し、それは赤い光線をカルラ・カザネリアンへと跳ね返した。

『ォォオオオオオオッ』

己の攻撃を受けて、カルラ・カザネリアンが叫びながら吹き飛んでいく。何が起きたのかは弓花にも分かる。魔法を跳ね返す魔術、ミラーシールドが発動したのだ。そして、それを行った人物は弓花の頭上にいた。

「スキル・戦艦トンファー。そんで自爆アタック!」

自身の攻撃により地面に転げたカルラ・カザネリアンの上にさらに巨大な二隻の戦艦が落ち、その場で大爆発を起こす。その威力にカルラ・カザネリアンが咆哮し、炎の中で暴れ回った。

『天使……?』

そして、空を見上げた弓花が呟く。

上空に翼を生やしたチンチクリンが見えたのだ。だがそのチンチクリンは愛らしい笑顔に似合わぬ大きな剣を持って下りてきていた。それからその大剣を「どっせい」と地面に突き立て、柄の上に着地すると、弓花に「イエーイ」とブイサインをしたのである。

『か、風音? なんで?』

弓花が驚きの声を上げる。何しろ先ほどまで死に体だった風音が何故か元気に動いているのだ。だが風音は弓花の問いには答えずに視線をカルラ・カザネリアンへと向けると、指を差して声を上げた。

「はっはー、やれぃ。私ぃい!」

『はっはー。頑張るよ私ぃい!』

『は?』

弓花の目が丸くなる。風音の声がふたつ聞こえた気がしたのだ。だが、それは幻聴ではなかった。崩れかけた建物の上から 触手(ローパー) モードになったロクテンくんがカルラ・カザネリアンへと突撃していくのが見えた。それにはカルラ・カザネリアンも驚きの声を上げて応戦していく。

『何あれ?』

呆気にとられた弓花が風音に尋ねる。それに風音が「よいしょっと」と言いながら大剣の柄から降りると、口を開いた。

「えーと、メカジンライさんみたいなもんかな。ジンライさんはアストラル体のほとんどをメカジンライに送るけどけど、あっちは分離させたのを魔力体で構成させて動かしてる感じ」

『とはいえ 触手(ローパー) モードのロクテンくんだけだと押さえるのは厳しいからね。みんなも頼んだよ!』

ロクテンくんの中から告げられた風音の言葉が響き渡り、崩れ落ちていた仲間たちもゆっくりと立ち上がっていく。

『まだやれます。頑張ります母上』

「よく分かんねえけど撃ちゃいいんだな?」

「決めなさいよカザネ!」

「ああ、やってやるさ。俺はまだこの世界を体感できてないしな」

その場の全員がすでに限界に近い。

だが、限界ではない。まだ振り絞るだけの気力は残っている。そして、レームとエミリィが射撃を再開し、オーリは最後の力を振り絞ってカルラ・カザネリアンへと駆けていく。それから風音は続いて己の 僕(しもべ) たちにも命じる。

「みんなもこれで最後。決めるよ!」

『にゃああ』

「グガァアア」

『行くぞイライザ、ローラン』「コケーッ」「ピヨッ」

『了解です。ツインソードは活動可能です』

ユッコネエドラゴンが飛びかかり、すでに 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) を脱いで 美形(ネイキッド) 化した狂い鬼とベヒモスビーストが突撃し、それにダークオーガ軍団が続いていく。

その頭上を飛び越す形で、ローランに補助魔法を重ね掛けされたイライザが飛び、ナビ制御のタツヨシくんツインソードが背後へと回っていく。

その様子を見て弓花が「ははは」と笑う。訳が分からないが、だが風が変わったのは感じていた。

『クロマル、シロ、キバ。アンタたちも行きなさい。キング、あなたには神気を分けたげるわ。最後の決戦よ。ここで参加しないなんて嘘でしょ!』

「ウォンッ」「ウォンッ」「ウォンッ」

『主の慈悲、いただきました』

三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) が飛びかかり、ムータンの神気を弓花が操作して、補充された龍神の片手斧から召喚されたゴブリンゴッドキングのキングも参戦していく。

『そんじゃあ、私も……って、アレ?』

それから弓花は、己の状態がほとんど回復されていることに気が付いた。

『風音、これってどういうこと?』

「んー。多分、ラスボス前の全回復ってヤツかな? 誰だか知らないけど、粋な計らいをしたのがいるっぽい」

肩をすくめた風音がそう返事をして、カルラ・カザネリアンを睨み付ける。

ロクテンくん中心に戦闘は動いており、オーリが最後の力を振り絞って攻撃を仕掛け、レームとエミリィも撃ち続けて、羽根の投擲をタツオが防いでいた。

ユッコネエと狂い鬼たち、それにイライザやタツヨシくんツインソードも一斉に攻撃を仕掛けていく。

『けど、足りてない。まだ届かないわ』

弓花が眉をひそめる。

今のカルラ・カザネリアンは大剣を生やした触手それぞれを操作して対抗している。そこにカルラ王の剣技が乗せられている上に、心臓球とチャイルドストーン九つという砲門と出力もそれぞれに存在している。いかに数で圧そうとも覆すのは容易ではなかった。

それを察して難しそうな顔をしている弓花に、風音が笑って手を差し出す。

「だったら私達が届けようよ弓花。アレやるよ。みんなが時間を稼いでくれている。無駄にはできない」

その言葉を聞いて、弓花は風音が何をしようとしたのかを悟る。今の時点で風音たちが取り得る最大の攻撃手段がまだ存在していたのだ。ただ、それは時間の問題で使えなかった手段だ。それがもうひとりの風音が操るロクテンくんの参戦によって『現時点で』ならば可能となっていた。

『ま、やるしかないわね』

「うん。やろう」

それから弓花が元の姿に戻ると、風音と手と手を絡み合わせるように繋いだ。それどころか弓花はそのまま風音を強く抱きしめた。それに風音が戸惑いながら弓花を見る。

「ちょ、ちょっと、弓花?」

「気にしないで。いやな夢見た気分なの。あんたがここにいるって……それが今はすごく嬉しい」

少しだけ涙声になっている弓花に戸惑いながらも、風音が弓花は背中をポンポンと叩いてなだめるとすぐさま発動の言葉を口にする。

「スキル・竜体化」

そして、ふたりを中心としてその場に光の柱が出現していく。それは秋葉原の天高くまで伸び、凄まじい魔力の光が迸っていく。

『ォォオオオンッ』

その光景にカルラ・カザネリアンが叫ぶ。

その中で生まれる力を、その黒い外殻の中にいるカルラ王の本能が最大限の警告を発していた。

『ここは通さないよ。みんな、もうひとふんばりだからね』

ロクテンくんの中からの風音の声に全員が声を返しながら、戦いを継続していく。光の柱の中にあるものは希望だった。この戦いの決着を付けるための最後の力だ。

それが分かっているからこそ、カルラ・カザネリアンも必死になっている。だがその場にいる彼らを抜くことができない。

『神気と同期完了。神竜化に成功した。一気に 形態を変化(フォームチェンジ) させる。ぉぉおおおおおっ』

そして光の中から声が聞こえて光の柱が消滅すると、そこには二十メートルを超えた、内部に光を宿す水晶の角と鎧を纏った青きドラゴンが出現した。それはスキル『友情タッグ』によって強化された『竜体化』により変化した風音だ。また、その両腕にはふた振りの刃が握られている。

ひとつは龍神の大剣を核とした召喚剣『神域・黄金の黄昏』。

ひとつは弓花が龍神刀と刃身一体化した麒麟の神刀『 雷火・弓花(らいかゆみか) 』。

ふたつの刃から供給される神気を受けながら、風音は神竜の域にまで入り、黄金の翼をはためかせて宙を浮かぶ。

『ウォォオオオオオオッ』

それを見てカルラ・カザネリアンが咆哮する。カザネドラゴンの力を悟ったのだ。今のカザネドラゴンは神竜そのもの。だが、風音にはまだその先があった。レベルは先ほど上がっていた。だから今の風音にはそれが可能なのだ。

『スキル・見習い解除』

神に至るためのスキルの発動と共に翼がさらに二対増える。一対の黄金翼、一対の竜翼、一対の白翼。三対の翼が生えたその背には光輪が背負われ、瞳は虹色に輝き、角や牙が肥大化してその姿はより強靱に変わっていく。さらに申し訳程度に猫耳と猫の尻尾も生えていた。

それが、竜と獣統べる天魔之王となったカザネドラゴンの姿。 魔力の川(ナーガライン) と接続したソレは、かつて闇の森で見た龍神と同種の存在と化した。

『やり過ぎよ風音。制御が追っ付かない』

『ん、そこらへんは任せるよ。二人三脚。役割分担って大切だよね』

『ブン投げられた!?』

カザネドラゴンの肩に乗ったアストラル体の弓花の叫びに、風音が大きな顎を振るわせて笑う。また弓花も以前とは違い、裸ではなく風音たちの高校の制服を纏った姿のアストラル体となっていた。

『ようするにムータンと一緒でしょ。やってやるわよ。けど制限時間は精々一分よ』

『十分だね。 魔力の川(ナーガライン) との接続が不安定だけど、今は無理を通す。ポッポさん、出てきて!!』

その言葉と共に上空に 雷の巨大な鳥(カイザーサンダーバード) が出現し、カルラ・カザネリアンへと降下する。仲間たちが一斉に離れ、その場で大爆発を引き起こした。その衝撃波により周囲の建物のガラスが次々と割れていく。『情報連携』によって攻撃を知らされていた仲間たちは退いているが、その被害に弓花のアストラル体が思わず『うわぁ』という顔をしていた。

『風音。一気に決めないと色々とマズいと思うわ。弁償とかすごいことになってるわよ』

『分かってるよ。まあ、こうなった以上負けはないしね。そんじゃあ駄目押しのスキル・白金体化及びブースト!』

スキル『白金体化』によってカザネドラゴンが 白金(プラチナ) の輝きを帯びていき『ブースト』によってその場を一気に飛び出した。三対の翼がはためき、その速度は加速していく。

そこにポッポさんを退けたカルラ・カザネリアンが再び赤い光線を放つが、対してカザネドラゴンも身体中の水晶角から白い光を放った。それは敵の光撃に打ち勝ち、カルラ・カザネリアンの身体を貫いていく。

『ォォオオオオンッ』

『さぁ、これでお終いだよ。カルラ王ッ!』

そして、接近したカザネドラゴンがふた振りの刃でカルラ・カザネリアンをバツの字に切り裂く。それこそが直樹に伝授した口伝オダノブナガ流バツの字斬りの本家。

四つに斬り裂かれたカルラ・カザネリアンが吠えながらその場に崩れ落ち、黒い巨人を打ち破った巨大なドラゴンが勝利の咆哮を上げた。それが戦いの決着となったのであった。