軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百三十一話 秋葉原を護ろう

◎東京 秋葉原 中央通り

秋葉原の街に瓦礫が雨のように降り注ぎ、道路や周囲の建物を破壊していく。途中までは穏やかな速度で降りていたそれらは、術者の限界により一気に瓦解して落下していった。

『風音、ちょっと大丈夫なの?』

その瓦礫が降る中を二メートル半のドラゴンの姿をした弓花が風音を抱き抱えながら走っている。風音は抱えられながらも瓦礫に向かって手を伸ばして力を行使しようとするが、もはや何かをできる状態ではなかった。

「もうちょい、いけ……る、はず」

『無理に決まってんでしょう。死ぬわよアンタ。タツオたちはアダミノくんの転移で逃げられた。だから私たちも……たく、邪魔なのよ』

転がってくる瓦礫を弓花は神槍ムータンで破壊しながら先へと進む。そして土煙漂うその場から出たところで、上空からカルラ・カザネリアンが降下してくるのが見えた。

『一難去ってまた……まあ一番の狙いは私たちってのは当然よね』

そう言いながら、弓花は併走していたクロマルへと風音を投げ渡す。

『クロマル、風音を安全な場所へお願い』

「ウォンッ」

主の意志に応えてクロマルが風音を背負い、その場から全力で離脱していく。

『で、こっちはコイツを相手にしないとね』

それから弓花は、背後を振り向いて槍を構える。

視線を上に向けると、カルラ・カザネリアンの胸部より少し下にある装甲が開き、その内部から巨大な赤い宝玉が出てくるのが見えた。心臓球、カルラ・カザネリアンのコアである。それが急速に輝き始め、弓花とその背後にいる風音とクロマルに向かって赤い光を放った。

『させるかぁあっ!』

対して弓花は槍を振るって迫る光を一撃で斬り裂いた。神槍によって分かたれたソレは地面を削り、埋まっていた水道管に直撃して地下から水が勢いよく噴き出す。その中で弓花は無傷で立っていて、下りてくる巨人を睨みつける。

『しっかし、本当にデカいわね』

身長差は実に八倍。山のような相手を前に弓花が苦笑する。

『回りに人がいないのだけが救いか。離れた場所から気配は感じるし、元からいないのではなく避難したみたいだけど』

或いは第七十階層のような、そういうエリアなのでは? とも弓花は疑っていたが、人の気配は確かにある。そう感じている弓花に、すぐさま巨大な剣が振り下ろされた。敵は光撃を止められてすぐに直接攻撃に切り替えたのだ。

『まったく』

それに弓花は舌打ちしながら槍を再度構える。

『考える時間もくれないわけね。こんのっ』

そのまま迫る刃を神槍でわずかに接触させながらそらすと、道路へと受け流した。そうして振り下ろされた刃は地面を斬り裂き大きな亀裂を走らせるが、弓花の視線はカルラ・カザネリアンから離せない。一瞬でも隙を造れば、即座に殺される。目の前の相手はそうした存在だった。

『厄介ね。大きい上に技量も高いなんて』

二メートル半対二十メートル。それは、どこぞのアニメのロボットに生身の人間で挑むような対比である。もっとも、勝算がないわけではない。己だけでは無理だとしても、弓花はひとりでここにいるわけではないのだ。

『にゃぁあああああッ』

「うがぁあああ」

『行けイライザッ!』

そう、仲間たちがこの場にはいる。

黄金の水晶竜(ユッコネエ) と 巨獣に乗った鬼(狂い鬼たち) 、それに巨大ひよこが弓花と対峙するカルラ・カザネリアンに向かって三方から駆けていく。

離れた位置にある建物の屋上からはアダミノくんが姿を現し、それに乗ったレームとレミリィが一斉に撃ち始め、一気に加速して接近したオーリがカルラ・カザネリアンの足下を斬りつけると、わずかにぐらついたカルラ・カザネリアンへと弓花が竜気を神槍に収束させたオリジナルの投擲槍術『神撃・雷竜槍』を放った。

対してカルラ・カザネリアンも大剣を振るい、心臓球からビームを撃ち、また身体中に散りばめたチャイルドストーンからも赤いレーザーを放ってそれらに対抗していく。

『効いてないわけじゃない。けど、あの防御力と心臓球にチャイルドストーン九つ分の出力じゃあ分が悪いわね』

そこにカルラ王の技量も上乗せされているのだ。今の弓花たちの戦力では、抗するのが精々。このまま続けていけば己らが先に倒れる……と、そう感じた弓花の額からは冷たい汗が流れていた。

**********

「こりゃあ、不味いね」

弓花たちが戦っている一方で、走るクロマルに乗せられながら満身創痍の風音がそう呟いていた。

弓花たちの戦っている様子を見ているが、戦況は芳しくない。だが、今の風音は自分の身体を動かすことすらできない有様だ。

(さすがに限界か。ここまでに酷使しすぎた)

風音がしくじったという顔でそう考える。

ダンジョン踏破による蓄積された疲労に加え、カルラ王戦での自爆ダメージに、先ほどの 魔力の川(ナーガライン) の操作による過負荷、何よりも第二の英霊の名を弓花に知られたことによる精神ダメージが風音の心に深刻なダメージを与えていた。心に致命傷を負わされたのだ。生きていこうという気力がもう残っていない。

今の風音にできるのは、召喚したユッコネエたちの召喚を解除しないように己の意識を留めておくことだけだった。

(それにしても気配……何かが近付いてくる。街の人は避難しているみたいだから……警察? 自衛隊?)

また、先ほどから集団で動く何かの気配や臭いを風音は感じていた。臭いに火薬が混じっているために、それが武装した集団ではあるのだろうと予測は立っているが、その正体までは分からない。もっとも、どうであれ誰が近付いて来てもカルラ・カザネリアンに通用するとは風音には思えなかった。

「ウォンッ」

走っている途中でクロマルが鳴いた。

主の弓花がカルラ・カザネリアンに弾かれて、どこかの店の中に飛び込んでいったのだ。

それに追撃しようとカルラ・カザネリアンが動いたところをオーリが幻創剣カリバーンで斬り裂こうとするが逆に蹴り飛ばされた。

続けてレームとエミリィが弾頭と矢を飛ばして動きを止めようとするが、カルラ・カザネリアンは再び心臓球から光を放って、アダミノくんが屋上にいる建物自体を破壊していく。

「駄目。タツオ……いかないと」

それを見て風音がそう口にする。護らなければいけないのだ。風音はタツオの母親なのだから。

だが身体が動かない。悔しさに顔を歪める風音をクロマルはそっと建物の裏手に置くと、後ろから付いてきていたタツヨシくんツインソードに護衛を任せて自分はすぐさま弓花の元へと戻っていった。

クロマルの主は弓花だ。クロマルが必死な表情で弓花の元へと向かっていくのが風音の目に映った。

「どうしよう……動かない。このままだと、逃げないと不味い……けど」

そして、クロマルに置いていかれた風音は考える。

もはや現状の戦力では撤退するしか道はない。だがカルラ・カザネリアンが暴れ続ければ秋葉原どころから東京が壊滅しかねない。

銃弾をも跳ね返す防御力に心臓球とチャイルドストーンが連結されていることで活動限界があるのかすら不明なのだ。

それにあちらの世界と違って、風音たちはこの国の戦士たちと連携することもできない。彼らとの繋がりなど今の風音たちには何もない。

であれば、どうするべきか。そもそも逃げようとして逃げきれるものなのか。何かを考えなければいけないのに、その考えすらも疲労によって定まらない。それから風音がふと頭上を見上げたる。何かが近付いてくる気配がしたのを感じたのだ。そして、風音の瞳は光の球が下りてくるのを捉えた。

**********

『重いっ』

カルラ・カザネリアンの一撃で弓花が吹き飛んでいく。

そのまま弓花は空中で竜翼を広げて制動をかけて勢いを削ぎ、一回転して建物に真横に着地する。が、すぐさまその場にカルラ・カザネリアンが飛びかかってきた。

『来てクロマルッ』

「ウォンッ」

そこに戻ってきたクロマルが突撃し、カルラ・カザネリアンの腕へと激突して剣の軌道をズラす。

『危なッ』

弓花の真横を大剣が通り過ぎ、その場にあった本棚もろとも破壊して千切れ飛んだ紙が宙を舞った。

『これ、仁美さんの好物か。この惨状知ったら怒るだろうなぁっと!? うわぁあ』

次の瞬間に黒い大剣が横に振るわれた。弓花の全身に剣の腹が激突し、壁を破壊しながら店の外へと投げ出されていく。

『いったた。もう、完全竜化も限界か。なら最後の手使うか』

吹き飛ばされている途中で竜気が尽きて完全竜化が解かれると、弓花は地面に落ちて転がりながら距離を取り、すぐさま『贄の偽魄』を取り出した。

「これでもう何にも残ってない。ここまで追い詰められるなんて初めてかもしれないわね」

そう呟く弓花が、ダンジョンに入る前の状態を保存していた『贄の偽魄』を解放させる。そして、己の身体が回復したのを感じた弓花が 神狼の腕輪(フェンリルリング) を再度使用して二メートル半の完全神狼化へと変化していく。

『みんな、もう後がない。一気に叩くわよ』

槍を構え、狼の咆哮を発した弓花が駆け出していく。

風音が複数の切り札を持っていたように弓花もまた『贄の偽魄』を切り札としてここまで残していた。もっともこれが弓花にとっても、白き一団にとっても最後の手札だ。

クロマルも召喚されたシロとキバと融合して 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) と化し追撃する。仲間たちも攻撃をし続けている。だが、敵はその弓花たちの戦力すらも上回る。

「くっそ。なんなんだよ、アイツは」

「硬い。ソレに強い。どうすればいいの」

『父上に匹敵する強さですね。これは』

レームとエミリィが砲撃してタツオが護り、オーリが剣を振るい、ユッコネエ、狂い鬼、イライザたちが飛びかかっていく。だがそれらはすべて弾かれ、吹き飛ばされ、次々と仲間が倒れていく。そして、なお食らいついていけるのは最終的に弓花だけとなっていた。

『強い……本当に』

槍を支えに弓花が呟く。すでに満身創痍。対するカルラ・カザネリアンも消耗しているが、それでもまだ動きに衰えはない。心臓球とチャイルドストーン九つの出力があまりにも高過ぎるのだ。その状況を見ながら弓花が叫ぶ。

『でもね。こんなところで! 戻ってきたばかりで負けてなんていられないのよ私は!! ムータン、力を絞り出しなさい。これが限界じゃないでしょ!』

蛇蝎銀の鎖の封印もすでに外されている神槍ムータンを弓花がさらに強く握り、その奥底にある力を引き出そうと叫んだ。イメージするのは、今よりもさらに巨大な銀狼。

(風音との友情タッグでならできた。あのスキルは増幅。だったら、それは本来私自身の力のはず。引き出せるはず! 今の私なら)

『そうでしょムータン! 答えなさい、私がお前の主よ!!』

その声に反応してムータンが光り輝き、弓花は己の限界をついに超える。自力で 解放神狼(リバティフェンリル) 化へと至る。四メートルを越える巨大な銀狼がその場に出現し、黒い巨人へと駆けていく。

『貫けぇええええっ』

そして放たれた渾身の一撃は、カルラ・カザネリアンの右腕を貫いて千切り飛ばした。さらに銀狼の身体から飛び出た龍神刀『雷火』が一瞬の隙を突いてカルラ・カザネリアンの左腕も斬り裂く。

『やった!』

巨人の両腕が宙を舞い、弓花が喜びの声を上げたそのとき、外殻を内側から破る形で心臓球から光線が放たれて、巨大な銀狼は赤い光の奔流に飲み込まれた。

『ァァアアアアアアッ!?』

そのまま 解放神狼(リバティフェンリル) 化した弓花は背後の建造物に吹き飛ばされて激突し、その身が瓦礫の中に埋もれていった。

『くっ。まさか、防御用の殻を内側から破って、撃ってくるなんて。やってくれる……って……はは』

全身を覆う鎧のおかげで弓花はどうにか生きている。だが、直撃を喰らってはさすがに動けない。そして辛うじて顔を上げた弓花の目に、カルラ・カザネリアンの背の黄金の翼が分かれて六つの触手になったのが見えたのだ。

それはロクテンくんの 触手(ローバー) モードと同じ形をしていた。さらには触手の先から黒い大剣が生えてくるのまで確認ができた。

『こりゃあ、駄目かも』

弓花の口から弱音が漏れる。

そうしている間にも心臓球が再び輝き始め、さらに周囲のチャイルドストーン九つも光り始めていた。

それらから弓花に向かって一斉に光撃が放たれるのは間違いなく、それを防ぐ手段を今の弓花は持っていない。

絶体絶命。助けにこられる仲間もおらず、自身ももうどうにもならない。もはや万策尽きた己の状況を悟り、弓花の顔がついに諦めのものに変わった……その直後である。突如として上空から光の球が降りてきたのは。

『え、わた……し?』

弓花が呟く。そしてその光は、巨大な銀狼の前でポニーテールの少女の姿へと変わったのだ。