作品タイトル不明
第九百二話 チームプレイで挑もう
戦闘態勢に入り始めるロクテンくんへと、風音たちが一斉に駆けた。対してロクテンくんの竜頭が不敵に笑う。
『愚かなり。我がそなたらの力の程を知らぬとでも思うたか?』
竜頭の瞳が妖しく輝くとロクテンくんが全身を回転させ、背の六つの触手をミキサーのように振り回し始めた。
「不味いッ。避けて」
スキル『直感』でいち早くその攻撃を悟った風音の言葉に、全員が一斉に反応して下がった。
『駄目。間に合わないのがいるわ!』
しかし、ダークオーガ三体とアパスルゴブリンが一体が赤い爪の触手に貫かれてしまう。その様子にゴブリンゴッドキングのキングが眉間にしわを寄せて麒麟狼化している弓花に口を開いた。
『主よ。これは不味い。私との繋がりが途切れた。我が配下は操られているようだ。あの黒いオーガたちも恐らくは同様』
『なんですって?』
麒麟狼化弓花が驚きの顔で、触手の刺さっているアパスルゴブリンたちを見ると、とある変化が起きていた。
『何あれ? 風船みたいに膨らんでく?』
驚く麒麟狼化弓花たちの前で触手刺しのアパスルゴブリンとダークオーガの身体がボコボコと肥大化し、神気を纏わせた巨大な筋肉の塊になっていく。
『やれ。我が配下よ。我が支配力こそが至高と知らしめよ』
「これ、召喚の強制解除もできない。洗脳とかずっこい。というかそのマッチョ、美しくない」
風音の叫びを無視して、強化ダークオーガたちと強化アパスルゴブリンが仲間たちへの攻撃を開始していく。
「む。やっぱりかなり強くなってる?」
ぶつかり合ったダークオーガたちが、同じ力量であったはずの強化ダークオーガに吹き飛ばされる姿が見えた。
強化アパスルゴブリンの白い雷も、元のものよりも威力が数段上のようである。
『中々厄介ね。風音、あいつらは触手に繋がったまま操られてるみたいだから、ちょっとあれを破壊してみる』
「了解。こっちがバックアップするから突っ込んじゃって」
その風音と弓花のやり取りにロクテンくんの竜頭がニヤリと笑う。
『させると思うか? その触手はただのケーブルではない。それそのものが武器。そやつらは我が刃そのものと知るが良い』
ロクテンくんがそう口にすると、戦闘していた強化召喚体たちを触手が一気に引っ張った。そして、一斉に麒麟狼化弓花へと飛びかかったのだ。それに麒麟狼化弓花が叫び声を上げながら突撃する。
『なーめぇえるなぁ』
『主に配下の不始末は負わせん』
同時に飛び出したキングとともに麒麟狼化弓花が反撃して、ダークオーガたちとアパスルゴブリンを一撃で斬り裂いた。
「あ、召喚解除された。倒してようやくか」
風音がその状況に眉をひそめる。それにより、一方でロクテンくんに焦りはない。
『やるな。だが配下の候補はまだまだいるぞ』
倒された召喚体から抜けた触手が別の獲物を狙い始めたのを見て、風音が「ていっ」と雷神の盾を発動させて触手を足止めする。
『神気の雷の防御壁。しかし、それが我に抜けぬとでも?』
「そりゃあ抜けられるでしょ。同じ神気ならね。でも、わずかでも動きを止められれば十分。カルラ王ッ!」
『いくぞイライザ』
「クケェエエエッ!」
風音の指示に従ってカルラ王の操るDXひよこのイライザが飛んで巨大な斧を触手へと振り下ろす。
『甘いな。甘いぞ鳥ども!』
だがイライザの攻撃では触手は斬り裂けない。まるでゴムのような弾力性に斧の刃は通らず、イライザの目が驚きで見開かれた。
『下がれ。イライザ』
続けての敵の動きを察知したカルラ王の言葉にイライザが飛び下がり、触手が逃げたイライザを追う。
「やらせないよ。狂い鬼、イライザを護って」
「グガァアアアッ」
そこに飛び出したのは狂い鬼の乗ったベヒモスビーストだ。イライザの正面に立ち、迫る触手に対して狂い鬼は咆哮してぶつかり合う。
『自ら向かってくるか。ならば貴様らから操って……ぬぅ?』
狂い鬼たちに触手が突き刺さったと同時にその場で爆発が起きた。それにロクテンくんが疑問の声を上げるが、煙の中から出てきたのはアーマード化した狂い鬼とベヒモスビーストだった。
「接触しても 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) が爆発して弾くからね。それなら効かないでしょ」
『なるほど。だが、これはどうだ?』
四本の触手が退いたが、ロクテンくんには二本の巨大な爪を持つ触手が残っている。それが上空から狂い鬼たちへと振り下ろされた。
「ガァアアアアアアアッ」
それにはとっさに狂い鬼は飛び降りて避けたが、ベヒモスビーストは避けきれない。
刃の先から斬撃が飛んでベヒモスビーストの 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) を爆破し、続けてもう片方の大太刀が避けた装甲の隙間を通って、ベヒモスビーストを斬り裂く。その様子を見て風音が叫ぶ。
「いけない。召喚解除ッ!」
風音がとっさにベヒモスビーストの召喚を解除した。
まだベヒモスビーストは戦える状態ではあったが、 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) が剥がれて広がった傷口を赤い刃の触手が狙っていたのだ。
「油断も隙もない」
風音がホッとひと息ついた。あのまま触手を受けていればベヒモスビーストも操られているはずだった。
「片方の爪から斬撃が飛んで、軽く振り上げたもう片方の爪から重い一撃が落ちた。あの爪って……」
「あの触手の片方の爪の元は斬馬刀『断頭』。振り上げるときに軽くなる魔剣でその軌道は変幻自在。もう片方のは第六天魔王の大太刀。飛ぶ斬撃と打ち合わせた攻撃の衝撃を反射する能力を持っているんだよ。気を付けないと」
『聞くだけでもすごいって分かる武器だけど……あんた、全然使ってなかったわよね』
「そ、そんなことないよ。今までのロクテンくん単体だと使えなかったけど、阿修羅王モードの時にはちゃんとラッシュに混ぜて使ってたんだからね」
風音が弁解するが、その間にもロクテンくんは一歩下がり、攻撃態勢に入っている。
「にしても、このままじゃあ埒があかない。ダークオーガ軍団は前に出て」
『ふん。我が配下を増やすだけだ』
風音の指示に前に出たダークオーガたちが次々と触手の餌食となり、先程と同様に四体のダークオーガが強化されて立ちはだかった。だが、風音はソレを見て頷く。
「よし。これで敵はほかのヤツを操れないよ。操られているのをダークオーガたちで攻撃して。倒しちゃ駄目だよ。倒したら、倒したヤツが触手に刺さってね」
『アンタ。鬼ね』
風音の指示にダークオーガ軍団から悲痛な声が木霊し、麒麟狼化弓花が呆れた顔をする。だが狂い鬼の咆哮ひとつでダークオーガ軍団は必死な顔になって攻撃を再開する。オーガ族は体育会系のブラック企業体質であった。
『くっ。なんたる非道か。魔王の資質はまだ生きているとでも』
また、ロクテンくんの中の風音の評価が何故か上がっていた。その様子を見ながら麒麟狼化弓花がキングに指示を飛ばす。
『キング、アンタの召喚時間ももう少ないわね。強引でもいいから一撃決めちゃって。道は私が切り開くから』
『承知した。我が主よ』
『切り開く? どうやってだ?』
ロクテンくんが嘲りの笑みを浮かべる。そして、キングの頷きを見て飛び出した麒麟狼化弓花に対してふた振りの大太刀の爪を振り下ろした。だが麒麟狼化弓花は慌てず槍を構える。
『バーンズ流槍術奥義『反鏡』』
そのまま、自然な動作でバーンズの奥義を発動させた。受けた攻撃を弾く奥義と、第六天魔王の大太刀の反射が相殺され、麒麟狼化弓花がロクテンくんの両刃を受け止めたことでその場に膠着状態が生まれる。
『さすがにやる。だが、我にはまだ龍神の大剣がある』
『やらせんよっ』
振り下ろされた龍神の大剣に対し、キングが龍神の片手斧を振り上げて受け止める。そして、刃と刃の衝撃によりその場を爆発したかのように神気が衝撃波となって放出される。
『その大剣。龍神の神気がひとつしかないな?』
『この身で動かすにはふたつは厳しいのでな。もう片方はバルカンに持たせた。しかし、力は互角だとしてもどうする? このままでは決着は付かんな』
僕(しもべ) たちは今も強化ダークオーガと戦っている。ユッコネエも風音とスキルを共有しているため、『精神攻撃完全防御』により精神支配の無効化はできる。だが、部屋がそこまで大きくないので竜体化もできず、機動性を生かし切れていない。
その攻め倦ねている状況で、離れた位置で指揮をしていたチンチクリンが声が声を上げた。
「もちろん、あんたを倒すはわ・た・し!」
それには、ロクテンくんが失笑する。
『ははは。ただ指示を出しているだけで何を……む?』
だがロクテンくんはとあることに気付いた。
ほんの些細なことではあったが風音に違和感があったのだ。たとえ袂を分かれたとはいえ、彼が見ているのは元主だ。その内包する魔力の大きさも質は分かっている。だから、洩れている魔力からその場にいるのは己の元主ではないとロクテンくんは気付いた。
『それは……まさか、ジュエルカザネか。コーティングで偽装している? では、アレは……あのお方はどこに!?』
「キリングレェエエエエッグ!!」
そして天より『本物の』チンチクリンの声とともに強力な一撃が降り落ちてくる。
それは必殺のカザネバズーカ。
スキル『インビジブルナイツ』と壁走りの『Wall Run』で移動し、天井で機会をうかがっていた本物の風音の一撃がロクテンくんの頭部へと直撃したのであった。