軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百一話 取り囲んで戦おう

繭が割れていく。バリバリと殻を破りながら、ソレはゆっくりと姿を現していく。そして出てきたのは、黄金の甲殻を纏う巨大な竜頭の怪物だった。

「ロクテンくんの姿の名残はあるが……」

出てきた怪物を見ながらジンライが呟く。

大きさは以前のロクテンくんよりも一回りほど大きく、筋肉質なプロポーションで四メートル近くなっている。

装備していた紅蓮のマントは消失しているがその全体が白い炎に包まれていた。また背からは第六天魔王の大太刀と斬馬刀『断頭』、それに神竜帝ナーガより授かった紅の水晶大太刀・信長式が融合して爪となった六つの触手が伸びていて、右手には神気溢れる龍神の大剣が握られていた。

「背中の腕が増えて触手になってる? なんか前よりもゲテモノっぽく見えるけど」

「動力球らしきものも肥大化してるみたいだね。装甲で覆われてるけど光が漏れてる。以前の動力球とは別物の出力になってるっぽい」

そう言い合う風音たちの前にバルカンが両手を広げて躍り出た。

「はっはぁ。見ろ。神に挑むか愚か者たちよ。エルバロン様のこのお姿を。これこそが我が神。おお、神より与えられた力が満ちていくのが分かるぞ」

バルカンが興奮して両手を掲げている中、進化したロクテンくんが前に出て、その内側から声を響かせた。

『バルカン。邪魔です。跪いていてください』

「ハッ」

その言葉にバルカンがさも当然のように跪く。だが風音たちにしてみれば、それは異様な光景だった。

「ロクテンくんがしゃべった? しかも、その口調。もしかしてナビ?」

『いいえ。私はナビとイコールではありません。我が主よ。私はあなたに失望しました存在です』

「我が主とはどういうことでしょう? 我が神よ」

『黙っていてください』

「はい」

ロクテンくんの命令にバルカンが素直に従い、再び 頭(こうべ) を垂れる。その光景にツッコミを入れるのを堪えつつ、ジンライが風音に尋ねる。

「どういうことだカザネ? ナビが反逆したということか?」

「えー、いやどうだろ? ナビ、どういうこと?」

『現在、こちらから該当の個体への接続はできません』

風音が虹杖の先の 魔金剛石(マナダイヤ) に問いかけると、いつものナビの声が返ってきた。ナビとはゴーレム魔術内に仕込まれたナビゲーションシステムであり、術者の命令に従ってある程度の判断を行い自動制御も可能とする存在だ。だが、そこに己の意志があるわけではないはずだった。

『現在、該当の個体はスタンドアローンの状態となっています。ナビに自我はありませんので、該当個体のナビはシステムの一部が流用されて使用されているものと推測されます』

その回答に風音の眉間にしわが寄る。実に具体的な返答だったが、その意味はかなり深刻だ。

「乗っ取られたってこと? 私、ゴーレムメーカーのロックはかけたよね?」

『肯定です。しかし神などの上位存在により 魔力の川(ナーガライン) 経由でシステム侵入することは不可能ではありません』

『その通りです。私は我が主の行動に失望したために、ナビの制御機能を利用して自立的に活動を開始しました』

魔金剛石(マナダイヤ) のナビと、ロクテンくんのナビのそれぞれの返答に風音は頭が混乱していく。

「えーと。つまり、どゆこと?」

『そもそも王を冠する力を結集した私の存在意義は王のための力となることでした』

ロクテンくんのナビの言葉に風音も「まぁ……」と呟いて頷く。第六天魔王の鎧に第六天魔王の大太刀、それに覇王の仮面はそうしたシロモノであるのは確かだ。

『それは主が、私を含めた形で魔王アスラ・カザネリアンと名乗ったことでも明らかでした』

「いや、明らかじゃないよ」

魔王アスラ・カザネリアンを名乗ったときの風音は、頭のネジが何本も弾け飛んでいたときだったのだ。悪ふざけ半分から出た言葉で、マジメにそのようなことを考えたわけではない。そんな想いを込めた風音の悲痛な叫びを無視してロクテンくんは話を続けていく。

『主の宣言と神の託宣を得て、私はそれを確定したものとして、 今日(こんにち) まで主に仕えて参りました。しかし、主は王として歩むどころか、己の欲望のままに温泉三昧、旅三昧の日常を貪る日々を送り続ける始末』

「日常って……ま、魔物とかとも戦ってたけど……」

『それは戦士の役割であり、王の所作ではありません』

断言したロクテンくんナビの言葉に、頭の上のカルラ王がうんうんと頷いていた。かつて王の身であった経験からの同意であろうが、温泉三昧だったのはカルラ王も同じである。

『ナビという制御機能が増え、龍神の神気を媒介として思考することを覚え、私は現状に対する答えを導き出しました』

そして、ロクテンくんが風音を指差した。

『あなたは王の装備たる私を纏うのに相応しくありません』

その言葉に、ガーンと頭を叩かれたような衝撃が風音の中で走った。

まさか己の生み出した装備にそんなことを考えられていたとは思いも寄らなかったのだ。

「そりゃあ、王って感じじゃないですよねえ」

「まあ、確かにな」

風音の後ろで弓花とジンライがそう言い合って頷いているが、風音はガックリと膝をついて気付いていない。

『ですが、武具である私には主体というものがない。王の装備を望む者もいなかった。必要なのは意志。ここまで行動を起こせなかったのはソレが理由。しかし、そこの跪いている人間は王を望んでいた』

バルカンがハハーッとさらに頭を下げた。

『その男が封印の間に訪れたとき、私は行動を開始した。あまりにもひ弱な人間ではありましたが、その男を得ることで私は王になるという主体性を得ることに成功しました。そして今までの私で満足していた主とは違い、男の渇望は私の更なる進化を促した。男が私に神であれと願ったことで龍神の力で 魔力の川(ナーガライン) との接続も可能となった。その男を王とするために私は今動いている』

バルカンが顔を上げて口を開く。

「そうです。エルバロン様の言葉通り、私はソルダード王となって国を取り戻す」

『そして、私は世界を手に入れる』

「スケールが無駄に大きい」

風音が呟くが、龍神の神気に浸食されていた弓花も同じようなことを言っていたので、それは龍神の気質であると思われた。

『それこそが魔王としての道。主が思い描いた私の未来。堕落した主に代わり、私は主の理想を追う。私の中で主は永遠に生き続ける』

「おお、エルバロン様」

感動し震えているバルカンにロクテンくんは竜頭を横に振る。

『否、我が名はエルバロンにあらず。我が名はアスラ・カザネリアンなり。神々の託宣により告げられた新たなる魔王こそが我。そして汝』

ロクテンくんの口調がナビの丁寧なものから威圧的なものへと変わっていく。

「おお、エルバロン様の真の名はアスラ・カザネリアン様とおっしゃいますか」

『バルカンよ。立て。過去に決別するために、我が主たちを葬るのだ』

「はっ」

今やバルカンはロクテンくんの命令に従う人形のようだった。そのふたりを見ながらジンライが槍を構えながら風音に尋ねる。

「カザネよ。どうする?」

「えーと。よく分かんないけど、主体性はあのバルカンっておっさんにあるんでしょ。だったらおっさんをひとまず捕まえちゃえばいいんじゃないかな?」

「そう上手く行くと思うか。このアスラ・カザネリアン様より得た力と、偽神から得た剣があれば私は無敵だ」

「ぬぅ。やらせん」

飛び出してきたバルカンにジンライが一歩前に出て槍を振るうが、それをバルカンは容易に避けた。

「師匠が相手なら、いくら少し力が増したからって。え?」

驚く弓花の前で続くジンライの攻撃が次々とかわされ、或いは弾かれていく。そのバルカンの構えを見て、風音がとあることに気付いた。

「あれはソルダード流王剣術だ。私のスキルよりもずいぶんと強力みたいだけど」

「ははは、ご名答だ。どこで知ったかは分からぬが、今振るっている我が剣は、王が自らを護るために生み出した王家の秘技であるソルダード流王剣術。いかな強敵と遭遇したとしても護りきるための技術だ。それがこの剣から我が内へと次々と流れ込んでくる。間違いない。この剣はソルダード王に語り継げられていたものだ!」

「なるほど、厄介ではある。だが、防御だけでワシに勝てんものではないぞ」

『だからこそ我がいるのだ!』

その声とともに六本の赤い爪がジンライに迫る。それはロクテンくんの背から出ている触手を伸ばしたものだった。

「スキル・雷神の盾」

だがジンライの前に白き壁が突如現れて、その攻撃は弾かれる。そして、ロクテンくんの前に立ったのは風音と弓花だった。

「うん。分かった。ようするに話を纏めると私の 躾(しつけ) が行き届いていなかったってことみたいだね」

そう言って風音が虹杖を掲げるとロクテンくんの周囲にユッコネエ、狂い鬼、ベヒモスビースト、ダークオーガ軍団、カルラ王が騎乗したDXひよこのイライザ。さらには麒麟狼化した弓花と 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) 、キングとアパスルゴブリン四体が一斉に取り囲んだ。

「カザネリアン様!?」

バルカンが叫ぶが、風音はそれを無視してロクテンくんを指差す。

「さあ、戦闘開始。みんな、あのバカ鎧に誰が主なのかをはっきり教えてあげて。それで、この馬鹿げた争いを終わらせる」

そして、囲んだ全員が一斉にロクテンくんへと飛びかかった。