作品タイトル不明
第九百話 繭を割ろう
◎ゴルディオスの街 バトロイ工房内
「うわっ、工房の中がすごく広い!?」
バトロイ工房内に突入した風音が目を丸くしてそう口にした。
「見た目変わらないのに、サイズは肥大化して、でも扉とかの大きさは変わらないんですね」
「うーむ。さすがに身近な場所がダンジョンになったのは初めて見るが、これはいろいろと面白いな」
風音の後ろにいる弓花とジンライがそう話し、パーティの前後に配置されているユッコネエとシップーも物珍しそうに周囲を見回していた。
「これがダンジョン化ってことなんだねぇ」
風音が驚きの顔で、周りを見ている。
ダンジョン化したバトロイ工房の中は、通路の前後左右の幅が肥大化し、魔物とも戦闘が行えるほどの大きさになっていた。もっとも通路のサイズが変わっているにも関わらず扉や窓などは以前と変わらないサイズに留まっていた。
今までのダンジョンも同じようなものだったのだろうと風音は理解しているが、それでも今まで見慣れていた光景がチグハグな状態になっていることには目眩がしそうだった。
『このダンジョンはまだ成り立てだ。形状がほとんど変化していない。或いは、階層にもなっていないかもしれないな』
風音の頭に乗っているカルラ王がそう口にする。先程まで倉庫街で妻であるイライザとともに暴れていた彼は、今は再召喚されてバトロイ工房の状況確認に使われていた。
「じゃあ、先に進めばコアまですぐに辿り着ける?」
『可能性は高いが……気を付けろ。何か来るぞ』
「振動がある。けど匂いは薄いし、モンドリーさんの匂いが微妙にしてる? これって」
風音が近づいてくるものの正体を把握した直後に、通路の先から二メートル近い金属の人形が突撃してきた。
「あー、やっぱり量産型だ」
それはモンドリーが現在鋭意制作である量産型ゴーレム兵たちであった。またその金属の身体にそれらは神気らしき白いオーラも纏わせていた。
「神気に護られてる?」
「厄介だな。風音、情報連携で繋いでくれ。弓花、お前のタイタンウェーブに合わせるぞ」
「あいよジンライさん」「はい、師匠」
ジンライのかけ声で風音と弓花が瞬時に動き出す。
風音がスキル『情報連携』で感覚を弓花とジンライに繋ぎ、弓花が接近してきた量産型ゴーレム兵の前で強奪スキル『タイタンウェーブ』を発動させる。
「ふん。盛大によろけておるわ。踏ん張りが利かぬようだな」
空間そのものを揺さぶる擬似的な地震を前に量産型ゴーレム兵たちはふらつき、それを『情報連携』でコンマ秒も違えぬタイミングを突撃したジンライが破壊していく。続く弓花も『タイタンウェーブ』を織り交ぜながら、戦闘を開始すると瞬く間に二十体はいた量産型が倒されていった。
「あー。モンドリーさん、泣くだろうな。これ」
「やむを得んな」
戦闘終了後の風音の呟きにジンライがそう答える。大した強さではないが、神気を纏っているのだから手加減もできない。
「ま、非常事態だしね。と、またなんか来てる?」
風音がそう口にして正面を見ると、左右の通路からぞろぞろと量産型ゴーレム兵が再びやってきた。
「ちょっと五十体はいるわよ。あんなに造ってたの?」
「まだ実験機だし、そんなわけないよ。さっきの数だってちょっと多いかなって思ってたのに」
「ダンジョン化した際に増えたのではないか。周囲の部屋や扉の数のように」
「そういうものなの? むっ?」
風音が急に何かの動きを感じて、背後を見た。
「こっちからはスパーク号?」
後ろから迫っていたのは、鍛冶師型ゴーレムであるスパーク号だ。それが五体並んで突撃してくるのが見えた。
「ジョーンズが造らせた鍛冶師のゴーレムだな。いつの間に量産化を?」
「当然一体だけだよ。んー、こっちは私がやるよ。勿体ないし壊さずに全部捕まえる」
風音がそう言ってユッコネエとともにスパーク号に突撃し、ジンライと弓花、それにシップーとメカシンディ・シンディは量産型を駆逐すべく攻撃を再開する。
とはいえ、敵の戦闘能力はそう大したものではない。風音たちがそれらを倒し終わるのにそう時間はかからなかった。
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「はい。終了っと」
風音がそう口にすると、最後のスパーク号がスキル『スパイダーウェブ』で出した蜘蛛の糸に絡まれて床に転がされて、そのままスキル『真・空間拡張』の能力である大型拡張スペースに吸い込まれていく。
「こっちも問題ないな」
「さすがに試作品には負けようがありませんよ」
ジンライと弓花も量産型ゴーレム兵の瓦礫の山を盛大に築いていた。スパーク号も量産型ゴーレム兵も戦闘能力は高くはない。それらが今の風音たちにできるのは精々が足止めくらいなものだ。
「姿勢制御の甘さがあるね。モンドリーさんには、そこらへん注文付けとこう」
そう言いながらも、風音は通路の先へと視線を向ける。
「けど、多分だけど敵の目的は達成してるよね。これ」
「早く行きましょ。時間ももうなさそうだし」
弓花の言葉に風音もジンライも頷いて、急ぎ先へと進んでいく。
だがダンジョン内部は想像以上に広く、風音たちがゴーレム兵などの妨害を蹴散らして目的の場所に辿り着いたのは工房内に入ってから三十分が経過した頃であった。
そして、風音が封印の間の扉を開くと、そこには竜頭の仮面を被ったバルカンがその場に立っていた。
◎ゴルディオスの街 バトロイ工房 封印の間
「今日は客人の多い日だな」
「招かれなさすぎて辛いんだけど」
バルカンの言葉に、全身を灰で煤けさせている風音がそう返した。
ここまでの道のりに設置されたトラップ群が想像以上のものだったのだ。量産型ゴーレム兵たちはともかく、無数の強力なトラップには風音たちも何度も危うい目にあわされていた。
対してその部屋の中心に立っている赤髪の竜頭仮面の男は笑っていた。
「ゴーレム魔術とダンジョンマスターの相性はかなり高いらしい。おかげで己の力以上の罠もこしらえることもできたようだな」
「ゴーレム魔術? グリモアを読んだってこと?」
風音の問いに、バルカンが頷く。
「ゴーレム魔術のグリモア。貴重なものだろうが、理解するにはそこまでの知性は必要とはしないようだ。私のために用意してくれて感謝する」
「あんたのために用意したワケじゃあないよ」
その風音の返しにもバルカンは余裕を持って笑うだけだった。そのことに眉をひそめながらも風音はバルカンに続けて尋ねる。
「で、そんなことよりもようやく追いつめたよ。アンタの仲間もみんな捕まえた」
「ロボスという者もな。もはや貴様はひとりだ」
風音とジンライの言葉にバルカンは肩をすくめる。
「降参する気はない? ロクテンくん返してくれたら私の分の怒りぐらいは矛を収めるつもりだよ。半分くらい」
「それは怖いな。だが、断る。ロクテンくんとやらのことを私は知らないからな」
『カザネ。もう終わっているぞ』
頭に乗っているカルラ王の言葉に風音も頷いた。
目の前にいるバルカンの後ろには、五メートルほどの白い輝きに包まれた繭があった。その繭の中から波打つような魔力の波動が放たれ、今も風音はピ肌にリピリとしたものを感じていた。
「もう、出来上がってるっぽい。いつでも動かせる状態だろうね」
工房の外から感じていた嫌な予感。『直感』が、もうすでに手遅れだと告げていた。
(スキルのリビングアーマーも応えない。ゴーレムメーカーも……操作できない。ロックもナビも無反応か)
風音がロクテンくんが中にいるであろう繭を見ながら、状況を把握していく。接近すれば取り戻せると期待もしていたのだが、結論からいえばロクテンくんはすでに風音の制御を離れているようだった。
「なんか。ロクテンくん操作して取り戻すの、無理っぽい。戦闘になる」
「やむを得んか」
「仕方ないわね。スクラップも覚悟してよ風音」
破壊魔ふたりの宣言に風音が悲痛な顔をする。ユッコネエとシップーが前足を上げて「にゃ」「なぁ」と猫パンチシャドーをしている姿がなおさら風音の心を重くした。だが戦いに手心を加えれば、死ぬのは自分だけではない。
そして、悲愴な決意を固めた風音の気持ちも気にせず、バルカンは両手を広げて宣言をする。
「まあ、良い。お前たちは運が良いぞ。エルバロン様の真の姿を崇められるのだからな」
そしてバルカンの背後にある巨大な繭の一部が割れ、中から有機的な腕が勢いよく飛び出してきたのが風音の目に映った。