軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百三話 宣言をしよう

風音の渾身の蹴りがロクテンくんの竜頭に直撃する。

天上までの距離がさほどないために簡易カザネバズーカでの一撃だったが、それでも不意打ちからの威力としては十分だ。

『よし。キング行くよ』

『承知ッ』

風音の攻撃でロクテンくんのアダマンチウムでできた竜頭が砕かれ、攻撃の手が緩んだと同時にキングと麒麟狼化弓花が追撃を加えようと動き出す。

『さぁせるかぁああああっ』

しかし、次の瞬間にロクテンくんの纏う白い炎が一気に噴き出して白炎の盾を形成して放出する。

「うわっと!?」

風音が叫び、ロクテンくんの周囲にいたすべてを広がった白炎の盾が弾き飛ばしていく。そのままユッコネエや狂い鬼、 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) までもが圧力には負け、壁に叩きつけられた。

『あーもう、動力球まで届かなかった』

そんな中で麒麟狼化弓花は吹き飛ばされた身体を空中で一回転させて、床に無事着地する。それから周囲を見回して『あれ?』という顔をした。

『えーと。みんな、結構ダメージでかい?』

よく見れば麒麟狼化弓花以外、今の不意を打った攻撃に無傷ではなかった。一番ロクテンくんに近かった風音は上半身が漫画みたいに天井にめり込んで足をプラプラさせており、生きているのか不安になる感じのオブジェと化している。

『主は何故無事なのだ?』

それから、やはり壁に激突したために苦しそうに立ち上がったキングの問いに、麒麟狼化弓花は『反鏡で防いだからね』と返した。敵の攻撃を察知した弓花は、素早く己の反射技で白炎の盾の威力を落としていたのである。

『まあ、防ぎきれなかったから吹っ飛びはしたんだけどね。あーもう、クロマルも駄目か』

弓花の視線の先にいる 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) も全身を強打して目を回していた。

「チィ。ユミカ、そっちに行ったぞ」

その次の瞬間、背後からバルカンと戦っていたジンライの声が響いた。同時に麒麟狼化弓花の横をバルカンが通り過ぎていく。

『こいつ、師匠から逃げ切ったの?』

そのことに驚愕しながらも麒麟狼化弓花が攻撃を加えるが、バルカンは持っていた剣でそれを弾き、ロクテンくんの元へと迷わず戻っていった。

それには麒麟狼化弓花も驚きの顔をしたが、それこそがバルカンの持つ剣に込められたソルダード流王剣術の極みであり、ジンライであっても倒しきれなかった強固な防御の技術であった。王剣より流れる剣術の技術を龍神の神気を授けられたバルカンは十全に発揮していたのである。

そして、バルカンが頭部の破壊されたロクテンくんの前に跪いた。

「か、カザネリアン様。お顔が……大丈夫なのですか?」

『問題はない』

そう返したロクテンくんのひしゃげたアダマンチウム製竜頭が、徐々に修復していく。

『しかし、我が油断していたのも事実。あの者たち相手に最初から本気で挑まなかったのは失策だった。バルカンよ。その身を我に委ねよ。ここを越えねば、未来はない』

「はっ!」

そのやり取りの間に、風音がようやく天井から頭を抜いていた。

「いたた。よく生きてたな私。弾力も効きが弱かったし。おや?」

スキル『弾力』。対象をゴムのように柔らかくするスキルを風音はとっさに天上にかけて衝撃を逃れようとしたのだが、術が中途半端だったために威力こそ軽減はしたが、風音の頭は天上に突き刺さっていた。

そして風音が頭をさすりながら下を見ると、そこでは今まさにロクテンくんの竜頭がバルカンを丸飲みしている光景があった。

「ああ、喰った? 私のロクテンくんが人喰いに!?」

風音の前で竜頭がバクンとバルカンを食べると、そのまま口を閉じ、すぐに竜頭の口先から竜頭となっていた覇王の仮面が出てくるのが見えた。その様子に風音はバルカンが喰われたのではないと気付く。

「あれってバルカンのおっさんが中に入っただけ……なのかな?」

一見してドラゴンの首に喰われたかのように見えたが、それはバルカンがロクテンくんに乗り込んだ瞬間であったのだ。そもそもがロクテンくんは王が装備する武具だ。単体の化け物ではない。

『『おぉぉおおおっ』』

そしてロクテンくんとバルカンの声が同時に響き、ロクテンくんの全身から放たれていた白き炎がさらに勢いを増し、背の触手が翼のように広がっていく。それはさながら天使のようであり、宙へと浮かび上がったロクテンくんがぶつぶつと何かを呟き始めていた。

『搭乗者との同期を開始。アストラル体の最適化を実行。搭乗者内の破損領域を隔離。 魔力の川(ナーガライン) の接続をダンジョンから動力球直接接続に変更。擬似人格『魔王』制御、及び触手制御の一時停止を確認。リソースをデュアルゴッツフォース制御の仮装領域割り当てに変更。全システムチェック確認。ロクテンくんデュアルゴッツモードへと移行します』

その呟きは先ほどまでの威圧的な口調から当初のナビのものへと戻っていた。そして、ファンタジーらしからぬ言葉を発しているロクテンくんを見ながら弓花が首を傾げる。

『えーと、何言ってるのアレ?』

「多分。 魔力の川(ナーガライン) の接続をダンジョンから自分に切り替えて……魔王ごっこも触手の扱いも止めて、ふたつの龍神の神気を制御するよ……って感じじゃないかと思う」

すでに知恵の実を食べて知力を増大させている風音が、ロクテンくんの言葉を鋭かく分析した。また、ロクテンくんの言葉が終わったところで周囲の状況が変化し始めた。それに最初に気付いたのは部屋の端にいたジンライだった。

「む、封印の間が小さく……ダンジョンの異界化が消えていってるのか?」

壁が徐々に己に近付いてくるのを見て、ジンライがそう呟く。ダンジョンとして拡張されていたはずの封印の間が徐々に元の大きさに戻り始め、その中でロクテンくんが白炎を噴き上げて天上を破壊すると、それを「うおっと」と言いながら避けた風音を無視して外へと出て行った。

「あ、逃げた?」

「不味い。追わないと」

対して風音たちが慌てて動き始めたが、それを気にも留めずにロクテンくんはさらに高く空へと上がっていく。

同時に空を流れる 魔力の川(ナーガライン) からも膨大な魔力が降り始めていた。

◎ゴルディオスの街 正門前

「なんだ、あれは?」

捕縛したソルダード兵たちの前で、直樹が空を見上げている。それに周囲の者たちもザワザワと声が上げ始めていた。戦いは終了したと思っていた彼らは唐突に現れた謎の存在を不審そうに見ている。

「あのシルエットは……天使でしょうか?」

『ぬう。人の姿をしておるが……少しでかいか?』

その中で、ティアラとメフィルスもその光景に首を傾げていた。少なくとも彼女らは自分たちの目の前で空を飛んでいるものが何かが分からない。

ただ、それはバトロイ工房の辺りから出てきたのは確認ができていた。

◎ゴルディオスの街 倉庫街

「姐さんのご好意で助かったんだぞ。キリキリ働けい」

「まったくだ。姐さんに声をかけてもらいやがって。後でぶっ殺してやる」

「いや、誤解だって分かったじゃないですか。解けても働かされるし殺されるのかよ」

ムータンメンバーの言葉にシジリの街のアウターファミリーのボスのひとりであり、直樹の親友でもあるオーガンが声を荒げて言葉を返す。

ソルダード王国軍がやってくる直前に街に入った上に弓花の知り合いだと名乗ったことでスパイだと疑われたオーガンは今、弓花の言葉で誤解も解けて、ムータンメンバーとともにソルダード兵の見張りについていた。

もっとも弓花と個人的な知り合いというだけでオーガンはムータンメンバーにはヤッカミの対象となっているようだった。

「勘弁しろっての。ん?」

射殺すような無数の視線が突き刺さり続けていたオーガンが、疲れた顔で空を見上げると、そこに白く輝く天使が飛んでいるのが見えた。

「おい。なんだ、ありゃ?」

「おー。ありゃあ、姐さんが時々出す光に似てるな」

「じゃあ、ありゃあまさかユミカの姐さんか?」

「マジかー」「スゲー」「あの人、何にでもなるなー」

それを見て喜ぶムータンの面々に「いや違うんじゃないかなぁ」とオーガンが呟いたが、それを聞こうとするものは誰もいなかった。

◎ゴルディオスの街 金翅鳥(こんじちょう) 神殿入り口前

「なんだよ、あれは?」

「なんか……見たことあるような」

直樹、オーガンらが空飛ぶ存在を見ているのと同じ頃、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の前ではやはりソルダード王国軍の制圧を完了していたライルとエミリィが、空に浮かぶ何かを訝しげな目で見ていた。

どちらも風音がまた何かをしたのでは……と思ってはいたが、それが何なのかまでは分からない。また、その後ろにいるアダミノくんの頭の上では、タツオがコマンドゴーグルの拡大機能でそれを観察していた。

『あれはロクテンくんです。姿はかなり違いますが』

「は、マジかよ。全然そうは見えない……けど、いや確かにどこか形が」

アダミノくんの背の台座に乗っていたレームが続けてそう口にする。レームはコマンドゴーグルを連絡用にと風音に預けていたが、鷹の目のネックレスの付与効果で強化した目でロクテンくんらしきものをその場でも詳細に見えていた。

「どうして、ああなったのかは分かんねえけど……見れば見るほど確かにロクテンくんの面影があるな」

そして、彼らだけではなく、街にいるすべての人々がその姿へと視線を向けたとき、上空を浮かぶロクテンくんが触手から噴き出た白炎で形成された翼を広げて宣言をした。

『私は魔王アスラ・カザネリアン。世界を統べる予定の者です』

それがトゥーレ王国で暴れた神託の魔王が、再び世に現れた瞬間であった。