軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十八話 竜退治に備えよう

辛くもモンスターハウスを生き抜いた風音たちは、二十九階層の隠し部屋で翌日の昼頃まで休みを取った。さすがに前日の疲れが溜まっていたのである。そして風音たちはそのまま最短で階段を下り三十階層へと脚を踏み入れた。

◎オルドロックの洞窟 第三十階層

「今日の方針はできるだけ敵と遭遇せずにこの階層を探索。数が少ない魔物だけを狙ってチクチクいくよー」

風音が筋肉痛の身体をグキグキと動かしながら言う。

「うむ。さすがに昨日の今日では疲れが取れんな」

ジンライも腕をグルグルと回しながらそう答える。若返って早々に年寄りくさい。

「大変ですねえ」

神狼化による疲労回復で前日の疲れもあまりない弓花がケロッとした顔で言う。戦闘後の疲労が少ない点も神狼の腕輪の利点であろうが、風音とジンライが若干イラッとした目で睨んだので弓花は「ウッ」と冷や汗をかいた。

「まあ、わたくしも肉体的疲労はほとんどなかったので今は全開でやれますわよ」

「あたしもカザネの念入りのヒールで肩の痛みも取れたしねえ。今日は色々と任せてもらってダイジョブよん」

ティアラとルイーズはそれぞれそう答えた。ちなみにジークはタツヨシくんへの石運びによる筋肉痛でダウンしていた。

「それで三十階層にたどり着いたけどここらへんの魔物って上と変わらないんだっけ?」

「ええと、そうみたいだけど一匹だけ増えてるね。ブラッディソードとかいう剣の化け物らしいけど」

弓花がダンジョンマップの魔物リストを見て答える。

「確か攻撃を受けると体力を奪われるやつだったっけ?」

風音の確認にジンライが頷いた。

「あれはなかなか堅くてな。槍や剣での攻撃だと破壊するのに中々手間がかかるのでコアを一点集中するのが手っ取り早い。まあ、魔術、特に雷の系統ならば楽に倒せる相手でもあるがな」

「そこで、あったしの出番ー!ってわけよね」

「頼りにしてますよルイーズ姉さん」

ルイーズの言葉にジンライもそう答える。「まっかせてー」とルイーズが返す。ここに至るまで通常戦闘では温存され続けていたので少しフラストレーションがたまっていたらしい。

その一時間後に風音たちはブラッディソードと遭遇。3体をルイーズのグリモア四章の単体魔術であるボルトバーンで破壊、風音がキリングレッグで2体仕留める。そして手に入れたスキルは『吸血剣』。使ってみたところ愛剣の黒牙が赤く光るようになった。しばらくしたら消えたので効果は一定時間のようである。

「多分、これで攻撃すると体力回復するんだろうなあ」

と風音は口にするが

「でも、そもそもあんたダメージほとんど食らわないし、蹴ってばかりよね」

との弓花の指摘に「そうなんだよねえ」とため息を吐く。

ちょっと死にスキルくさかったが、使用して戦ってたら何気に昼過ぎには疲労が取れて元気ハツラツになっていた。『戦士の記憶』が手に入ったおかげで地味に剣で戦えるようになったためで、これはこれで新たな発見だった。が、元気になったらやっぱり蹴りメインに戻ってた。まあ全快したらメイン武器切り替えは吸血系装備の宿命みたいなものだろうし仕方がないことではある。

そしてある程度探索してからのダウジングで隠し部屋を発見。そこで手に入ったのはマナポーション。かつてのオーガの群れとの戦いでもひとつしか用意できなかったレアアイテムだがこれはホワイトファングに魔力を多く使うジークに渡された。

風音たちは三十一階層に降り、降りた先のすぐそばの隠し部屋で宿を取ることにする。そこで風音たちはランクAのパーティと遭遇した。

◎オルドロックの洞窟 第三十一階層 夜

「くっくっく、まさか天下の牙の槍兵がこんな女の子パーティにいるたあな」

「うるさいぞザック。ワシだってこうなるとは思ってなかったわ」

そうジンライと気安く会話をしているのはザック・バスタルトという40代のランクA冒険者だ。なお彼はジンライとも何度かパーティを組んだこともある老練の冒険者だった。

ちなみにジンライはランクBである。とうの昔にランクAに昇格できるはずなのだが面倒なので昇格していないとのこと。

「ふん。活躍は聞いているさ。そっちの嬢ちゃん等がなかなかやるらしいってこともな」

「あらやだ、嬢ちゃんだなんて」

ルイーズが照れ笑いをして、ザックが「いやあんたのことじゃあ……」と言い掛けたところでガンを飛ばされて黙った。

「そっちの坊主も随分と若いようだが、何か特技でもあるのかい?」

たとえ見た目が若くともザックは侮ったりはしない。ここまで降りてこられた時点でその実力は『間違いなくある』とザックは認識していた。もっともジークの素性を知らせるわけにもいかずジンライは設定通りの言葉を口にする。

「いや、このこはワシの孫でな。なかなか優秀なのでこうして鍛えているところなのだ」

そのジンライの言葉にジークが「どうもこんばんはです」と頷く。

「ほう、孫ねえ。というとシンディ……ではなくまさか、そっちの」

ザックが指さす方向にいたルイーズが「ご想像にお任せするわー」と返した。お任せされた結果の報告はまた後日である。

「しかし随分と手酷くやられたようだな」

ジンライがザックのパーティを見る。打撲に火傷、かなりのダメージを受けている者もいて、風音もザックのパーティの癒術師と一緒にヒールをかけていた。

「まあな。少しばかりドラゴンにチョッカイだしたらこの様よ。どうも相当に気が立ってるらしい。『翼の剣の男はどこだー』ってエラいブチ切れてやがったぜ」

「それは生前に竜を倒した者のことだろうな」

再生体は生前に自身を打ち倒した者への怨念を持って再生することがある。

「だな。しかし、ここまで降りてきたってことはお前等も闘るんだろう?」

ザックの言葉にジンライが頷く。

「やめとけとは言わねえ。俺らは冒険者だからな。だが見極め時を誤るなよ。あっけなく死ぬぞ。あれはそういう類のもんだ」

「肝に銘じるさ。それでヤツの特徴が分かれば教えてもらいたいものだが」

ザックは「そうだな」と言って答え始めた。

「大きさは10メートルかそこら。肌が岩のように硬い。だから黒岩竜なんだろうが、恐らく岩山の生まれなんだろうな」

竜の特徴は周辺の生活環境によって大きく変わる。硬い肌は岩山などに住んでいた竜に多く見られる傾向があった。逆に海に住む竜はヌルッとしたりツルッとしたりする肌や鱗を持つ。色はその竜の属性をそのまま表していることが多い。

「そんで炎のブレスは範囲は広くないが威力は相当なもんだ。性格が荒いように見えて腹を中心に守る防御型だったな。だから柔らかい腹の部分への切り込みはできなかったがチクチク削るのは比較的容易だった」

「なるほどな」

「と、思って戦ってると回数は多くなかったが岩みたいな鱗を矢のように何度か飛ばされた。ありゃイてえぞ」

そう言って何かが突き刺さってたらしき腕を持ち上げる。

「気を付けよう」

「ふむ。随分と筋のいい方ですね」

「えへへへ」

風音が癒術師にそう誉められて頭をかいた。

「なんだか内側から暖まる感じなんだよなあ」

「実際に内部への治癒力を強化して活性化を促してるよ」

治療を受けてる拳闘士に風音がそう返す。

「なるほど表面の傷だけに当てているわけではないのですね」

「まあ気持ちは良くなるけど効果があるかは分かんないね」

血行を促進しているわけである。肩こりとかにはよさそう。

「にしてもあんたが鬼殺し姫たあな。世の中、どこで誰と会うか分からんな」

「ジョブさんはオーガ討伐にも参戦してたんだっけ?」

「まあ入り口で戦ってただけだったんだがな」

「ジョブの実力なら討伐メンバーに選ばれても不思議じゃなかったんだけどね。ちょうどあの町に来たばかりで知られてなかったらしいよ」

「止めろよ。なんかそれ、言い訳くさいから」

「まあキンバリーさんも情報の分からない人は使わなさそうだしねえ。仕方ないんじゃないかな」

そう風音は返した。ジローくんのことはキレイサッパリ考えずに答えた。

「まああんたがここにいるってことはドラゴン目当てなんだろうが、ありゃヤベエぞ。狂い鬼が霞んで見えるレベルだ」

その言葉に狂鬼の甲冑靴が若干光った。

「うわっ、なんだ。それ?」

「ああ、ちょっと怒ったみたい。これ、その狂い鬼の角で造ったもんだし」

「随分と凶悪なデザインだな」

ジョブが恐々とそれを見る。

「上で戦いまくってたら変わったんだよ」

「なるほど。魔物の素材でできた武具にはその魂が残っていると聞きます。そして装備者と共に成長するのだとか」

「そういうもんなの? 取り憑かれたりはしないの?」

「そういう話は聞いたことがありませんね。ですが装備者を見限って力を出さないこともあるとは聞きます。まあ、あなたなら大丈夫でしょうが。そんな風に成長させられてるのですから」

「ふーん」

と、風音は狂鬼の甲冑靴を見る。狂い鬼と戦ったときはただの敵であったが、今のこれは風音の相棒そのものである。

「これからもよろしくっ」

風音がコツンと叩くと甲冑靴も若干赤く光って反応した。

◎オルドロックの洞窟 三十二階層

『グルルルルウウウ』

翌日、風音たちは三十一階層の探索をそこそこに三十二階層まで足を進めていた。

「あれか」

風音がゴクッと喉を鳴らす。

「今日は見るだけだ。仕掛けるのは明日」

ジンライの言葉に風音も慎重に頷く。

「うん。ここまでにもちょっと戦ってるし魔力も全快で臨みたい」

風音は可視化された敵の名前とレベルの表示されたステータスを見て(うわぁあ)と口にしていた。

(レベル232かあ。そりゃ厳しいわ)

通常のドラゴンがレベル100前後なので相当の実力の持ち主だ。ジークとはレベルが70近く離れているが人族と竜族ではステータスの基準が違う。ゲームでのジークなら倒せないわけでもないがやはりあのレベルの竜の体力と防御型ということを考えると10分という制限はなかなかに厳しいと風音は考えていた。

「ジークだけに任せるわけにもいかないね、やっぱり」

「え?」

後ろでジークがビクンと震えた。自分だけでやらされるはずだったのかと思ったのだろう。無論召喚英霊のほうのジークの話だ。

「どうする? まだ見てるか?」

「いや、戻ろう」

風音がそう口にして全員が頷き、三十一階層の隠し部屋まで戻っていった。ザックたちはすでに引き返していたようで、すでにそこには誰もいなかった。

決戦は明日なり。