軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十九話 竜殺しになろう

さて、ここからが竜討伐である。

風音たちは三十一階層で十分に休息を取り、隠し部屋を出て、敵を避けながら万全の状態で黒岩竜の下へとたどり着く。

相手はドラゴン。しかし今回は旅の途中に突然襲われたわけでも、お姫さまをさらわれて急いで倒さなければならないわけでも、街が襲われて自分達が止めなければ街が壊滅するわけでもない。ただ純粋に狩りの対象としてドラゴンを捉え、慎重に機を窺い、最高のタイミングで倒す。ダンジョン内の魔物討伐とは総じてそういうものである。

それは全く以て狩る側に都合の良い状況だと言わざるを得ない。いずれ倒されるべき、仕組まれたモンスター。『だが』それでもドラゴンはドラゴンである。

名ありの非常に強力なドラゴンに対し、風音たちのパーティだけではまったく戦力が足りていないという現実がそこにはある。ランクAパーティですら一蹴されたのだ。だが、それを埋める手段も風音たちは持っていた。

(ここで待機)

風音がそうした意味で背後に頷き、風音と手を握って一緒にインビジブル状態になっている弓花も了解と頷く。

距離は黒岩竜ジーヴェまで僅かに20メートルそこそこ。風音たちはそこに座り込み、状況を待つ。そして、スキル『情報連携』により分かれたパーティの片割れはそれを理解し行動を開始した。

「よーし、やっちゃいなさいジーク、タツヨシくん、ジンライくん」

ルイーズが通路から飛び出し、後続の仲間に指示を出す。

その様子を見てジーヴェは面倒そうに見て立ち上がった。前々日のザックたちの襲撃のダメージはないようだった。或いはその時の歯ごたえのなさからやる気が持てないのかもしれない。もっとも、そのジーヴェの態度に風音たちが付き合う筋はない。

「雷神槍っ!!」

ジンライはジーヴェがこちらに来る間もなく、このために用意した投げ槍を一気に投擲した。タツヨシくんもまた手に持つ岩を思いっきり投げつける。そして二人に併せてジークもホワイトファングを撃ち放った。

いずれの攻撃も叡智のサークレットで命中力を強化した風音と『情報連携』で繋がった上で放たれたもの。であれば巨体であるジーヴェへの命中はたやすかった。集中的に狙われたジーヴェの右肩の鱗が剥がれ、ダメージが通る。ジンライ達の攻撃は黒岩竜に通用していた。

『グォォオオオオ!!!』

突然受けた攻撃に黒岩竜ジーヴェが叫ぶ。

事前にザックたちから聞いていた通り普通の竜種が身に付けているであろう矢除けの魔法はジーヴェにはなかった。堅い岩の鱗がそれを必要としなかったのだろうが、今はそれが油断となっていた。

そして、さきほどのやる気のなさとは打って変わりジーヴェがうなり声をあげて立ち上がる。タツヨシくんたちへの場所へは通常の炎のブレスでは届かない。だが、首の内側にある喉袋にため込んだ炎を球状にしてぶつける火炎球という竜独自の攻撃が存在する。それをジーヴェが放とうとして、

「今だ! ジーーーーク!!」

風音が指輪をかざし、その指輪から放たれた光が豪奢な鎧を纏った男を生み出していく。それは白銀の長髪を靡かせた恐ろしく顔立ちの整った長身の男だった。

『その剣はっ』

突然現れた英霊ジークを見てジーヴェが目を見開く。

『キ・サ・マ・カァアアアア』

「この距離で火炎球を!?」

「弓花、下がって」

ジーヴェは一転して、無理やりに火炎球を下に向けて放つ。

風音と弓花は不滅のマントを深く被りながら、構える。

「カザネエエエ!!!!」

その様子を見てティアラが叫ぶ。まるで小さな太陽が地上にできたような爆発。凄まじい熱量と衝撃が周囲に吹き荒れた。

「なるほどな。確かに我の力が必要なわけだな。我が半身よ」

「ジークッ」

ティアラたちが心配した眼差しで見ていたその爆発の中心付近で、英霊ジークが天鏡の大盾を構えて風音たちを護りきっていた。

そして英霊ジークが剣を一振りすると、周囲の炎が一気に吹き飛ぶ。

「ほぉ」

ジンライが思わず感嘆の声を上げてしまうほどに英霊ジークは容易く炎をかき消してしまった。それも剣の風圧のみという離れ技でだ。

「あれが英霊ジーク、僕の名前の由来の人」

その姿をジークも憧憬の眼差しで見ていた。

ジークはここに至る前に英霊ジークのことも簡単に説明は受けていた。名ありの竜と戦うことの脅威とそれの対抗手段としての英霊召喚の存在を明かされていた。自分の名がそれから取られていることも含めてだ。

(なんて……勇ましい姿なんだろう)

全身を白銀の鎧で囲い、その上に王者を感じさせる豪奢な紅のマントを纏わせ、巨大な盾と恐ろしく威圧感のある大剣を構えたその姿はまさに物語の英雄そのもの。だが、何故かジークにはその英雄が風音に重なって見えた。

『なるほど、あの時は全身を鋼鉄の鎧で纏っていたから分からなかったが、貴様がそうか』

そして英霊ジークを前に荒ぶる竜が立ちはだかる。

『我が宿敵、我が怨敵そのものよ!』

「知り合い?」

「それは君が一番分かっていることだろう」

風音の問いにジークが答える。風音には覚えがないから当然ジークが知るはずもない。

「ま、誤解を解く必要もないしやっちゃうよジーク」

風音の言葉に英霊ジークが頷く。

「腹は諦めた。削りきって倒す」

初手での不意打ちを英霊ジークは風音たちを護るために失敗していた。そしてジーヴェは四つん這いの姿勢で英霊ジークたちを見ている。聞いていた通り、腹への攻撃を許す気はないようだった。

「仕方あるまい」

「みんなー、攻撃よろしくッ!」

風音の言葉が、意志が、『情報連携』を通じてパーティ全員に伝わった。

そして、戦闘は再開される。ジンライとタツヨシくんはそれぞれ槍と石を投げつけ、ジークは頃合いを見てホワイトファングを撃ち、ティアラはフレアバードで牽制をかける。

ジーヴェの足下では英霊ジークを中心に風音、ユッコネエ、神狼化した弓花と銀狼が仕掛けていた。英霊ジークが鱗を切り飛ばし、地肌の見えた箇所を風音たちが次々と攻撃していく。

「キリングレッグッ!」

中でもインビジブルからの気配を消した風音のキリングレッグは英霊ジークに集中しているジーヴェに相当のダメージを与えていた。英霊ジークに集中するあまり、インビジブルの影響もあってどうしても風音への注意が散漫になってしまうのだ。

「よーし、アーチも来てッ」

その途中で「ジークがいるなら私も」と、弓花がアーチとグリントグリズリーのグリリンを呼び寄せる。今度こそという想いがそこにはあった。

「ぐぉおおお!!??」

しかしグリリンが出現した途端に逃走してしまう。それは竜種に対してスキル『獣の本能』が働いた結果だ。だが慌てて逃げたせいかその途中で転んで倒れてそのまま死んだ。

RPG風に言うならば、

グリリンは逃げ出した。

しかしグリリンは転んでしまった。

ガスッ

グリリンに5のダメージ。

グリリンは死んでしまった。

こうである。

そして泣き崩れたアーチが泣き叫びながらジーヴェに特攻をかける。

「グリリンぐぁあああ、ギャアア、燃え、グギャアアアアアアア、ギイイヤアアアアアアアアアアアアア!!!」

炎の中で燃えながら、叫びながら、ルナストライクシールドで殴りつけるアーチ。綺麗なブロンドの髪は燃え尽き、セルロイド人形のようだった顔はケロイド状のゾンビのように溶けて焦げて見る影もなくなったが、それでもなお殴り続ける様は見る者の心を恐怖で埋め尽くした。

地獄というものがあれば恐らくはこうした光景だろう。しかしジークと同等にまで体力だけを特化させているアーチはそれでも死なず攻撃を止めない。愛するグリリンを倒した憎き敵を倒すため、力の限り立ち向かう。

「マジコエエエエ」

風音が本気で怖がったが、味方である。少しは優しくしてあげてほしい。

「グボッ、グゲゲゲゲゲゲエエエエ」

いや、変な色の液とか泡だらけの口から吐いている。あれはやばい。優しくするのとかもうちょっと無理な話だ。ぼくっこ設定でちょっと媚びてみたのにな……とかそういう次元じゃない。そもそもそんな気があったら最初の登場からあんなことにはなっていない。

そして二分ほど殴り続けながらアーチは炎の中で断末魔の悲鳴を上げながら燃え尽きた。

「弓花ぁあああああああ!!!」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ホントごめんなさい。でもダメージ通ったし良いじゃない」

あまりの怖さに弓花も半泣きだ。全員が完全にドン引きしてる。英霊ジークも「あれはない。無理」とひきつった顔だった。ジーヴェですら気持ち悪そうにそれを見ていた。ちなみに10日後にはまた普通に呼び出せます。もう色々と可哀想だから呼ばない方がいいとは思うのだが。

そんな追加ダメージ(風音たちの精神ダメージ含む)もあったが時間と共にジークの攻撃が次々とジーヴェの鱗をはぎ取り、むき出しの箇所を増やしていく。そして風音たちの攻撃によるダメージも一緒にジーヴェへと蓄積されていく。

『なんという屈辱ッ、なんという我が無様さか』

そのたびにジーヴェは呻き、憎しみの瞳をジークに向けるが、だが怒りはジークへは届かない。

「うぉぉおおおおお!!!」

爪を向ければ打ち返され、炎を吐こうとすれば、その盾で防がれる。おまけに投擲用の槍もなくなって直接攻撃に加わったジンライと神狼化弓花が隙あらば炎を生成する喉袋を突いてくる。風音とユッコネエの攻撃も動きが読めずにいいように食らっていた。

併せてタツヨシくんの投石やジークのホワイトファングも次々と当たり、空を飛ぶ翼は今やズダボロである。そして、ふとジーヴェが気付くとインビジブルによっていつの間にやら近づいた風音のキリングレッグがその頭上に炸裂していた。

「うっし、当たった!!」

『キサマアァアアアア』

ジーヴェが大絶叫をするが、だが英霊ジークを無視してはおけない故に、消極的な攻めにならざるを得ず、風音に攻撃は当たらない。

(なんということか。二百年という月日を生きた我が、こんな小さき虫どもに手も足もでないとは)

ジーヴェは己の不甲斐なさに憤り、烈火のごとき怒りを燃やす。そしてその怒りは全身を回っていき、最終手段を発動させる。

「なんなのっ?」

「これはまずいか」

それに最初に気付いたのはやはり風音と英霊ジークだった。

「マズッ、みんな逃げてぇぇええ!!!」

風音の叫びに離れていたティアラ、ルイーズ、ジークは通路の外に逃げたが、ジンライと弓花はむき出しの姿のままジーヴェの前に立っている。逃げ場がなかった。

「ユッコネエ!」

「うにゃああああ!!」

『引き裂かれろッ虫どもがっ!』

ジーヴェの怒りと共に身体を覆っていた岩の如き鱗が一斉に射出される。

「天鏡の大盾『ゼガイ』よ、我らを守れ!」

同時にジークの言葉に天鏡の大盾が反応し、盾の前に浮かぶ文様が巨大化する。

「包み込めええ!!!」

それはジーヴェの周囲を覆い、鱗の攻撃のほとんどをその文様が受け止める。

「キャウンッ」

「ふにゃあ」

だが、いくつかの鱗はその防御をすり抜けてしまう。結果として神狼化弓花を護った銀狼の一体に岩鱗が直撃し、消失。ユッコネエもジンライを護って二発喰らい、地面に投げ出された。

「すまぬ、ユッコネエ」

「にゃああ」

倒れるユッコネエに駆け寄り頭を下げるジンライに「気にするな」と首を振るユッコネエ。男前である。そしてユッコネエは傷ついた身体で立ち上がる。まだやれるとその目が言っていた。

『うぬぬぬぬ、効かぬか。効かぬか、キサマ等』

自ら放った攻撃の結果、全身の鱗が剥がれてそこから血の噴き出しているジーヴェが唸り声を上げる。そして流れ出す血液からは炎が湧き出し、黒々としたその身体が血と炎で朱く染められていった。

「防御力低下。でもあの炎を纏った状態じゃあ物理攻撃は厳しいか」

風音の言葉に英霊ジークが頷く。

「ああ、あの炎はドラゴンのブレスそのもの。汝等の防御力では近付くのは危険だろう。もっとも自身もダメージを受けているだろうし、あれだけ噴き出していてはブレスを吐くこともできまいが」

「そういうあんたの方ももう制限時間が残り一分ぐらいだよ」

「ならば仕上げと行くさ!」

そう言って英霊ジークは剣を振り上げる。

『大翼の剣・解放モード!!』

『またもやその光か。忌々しい』

ジーヴェがそう叫び、英霊ジークに向かって突撃する。しかし八つの翼が解放された大翼の剣『リーン』の放つ光の方が届くのは早い。

「滅びよぉぉおおおお!!!!」

『ぐぬぉぉおおおおおお!!!』

ジーヴェが雄叫びを上げる。

『グガアアッ』

大翼の剣『リーン』の八属性攻撃にも耐えながらもジーヴェが突き進む。それは執念。それはかつて受けた屈辱を晴らさんがために動く怒りの塊だ。

「ルイーズさん、ここだよッ」

だが、風音はその今こそ勝機と捉え、ここまで待機させていた切り札を呼んだ。

「裁定の雷よ、魔なるものを砕けッ!」

そしてルイーズが悪魔ディアボにすら通じた光と雷の混合魔術『ジャッジメントボルト』のスペルを唱え、自らに宿る力すべてを使って『迅雷』の杖から恐るべき魔力量の雷を放った。

「当ったれぇぇぇええ!!」

一ヶ月という長きにわたりため込まれた魔力の塊が雷となってジーヴェに激突する。それは英霊ジークのゼクシア・レイに届くほどの破壊力だった。

最後に風音は『ここで決めろ』とジークに伝える。

「うわあああああああああああ!!!」

『情報連携』によって届けられた風音の声に応え、マナポーションを飲み干したジークが最後のホワイトファングを撃ち放つ。今までの中でももっとも威力の高い一撃、それはジークが王宮を出てここまで培ったすべてを込めて解き放つ光となった。

そして英霊ジークのゼクシア・レイとジャッジメントボルト、ホワイトファングがジーヴェへと直撃し、ジーヴェの肉体を粉砕していく。

『ガッ、グアア、ァアアアアアアアア!!』

全身を覆う炎はかき消され、怒りは痛みに霧散する。そして最後の一撃は正面より来たる。

「これで終わりだああぁっ」

それがこのジーヴェが見た終わりの光景。英霊ジークに投げ飛ばされ、チャージによって倍増したキリングレッグを両足で放つ最終兵器『カザネバズーカ』がジーヴェの頭部に命中し、そして完全に粉砕した。