作品タイトル不明
第八百八十一話 メカについて語ろう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八遺跡エリア
『終わったようだな』
「場合によっては長期の水晶化も覚悟していたのだがな」
ガルーダ族の駐屯地の一つ。そこではメカジンライへと仕掛けたガルーダ族の部隊を早々に一蹴した白き一団とメカジンライたちが無事合流を果たし、ふたりの男が対面を果たしていた。
その片方は 雷神砲(レールガン) 付きシップーに乗ってダルそうにしているナマジンライであり、もう片方はジンライの アストラル体(魂) の宿ったメカジンライであった。
魔力もほとんどメカジンライに注いだ上にアストラル体がないので回復もしないので、今回の戦闘でジンライは直接戦うことができなかった。だが、義手シンディの 雷神砲(レールガン) はジンライの意志がトリガーとなっているため、 雷神砲(レールガン) による砲撃手としては戦闘に参加していたのである。
対してメカジンライは、未だに魔力を半分残していて、ジョーたちを連れてきた今でもピンピンとしている。そして、弱々しい顔で「はよ、戻れ」というナマジンライにメカジンライが『ワシのくせに情けない』と言い返しながら、手と手を重ね合わせた。直接接触により、メカからナマへとアストラル体を移動させ始めたのである。
「相変わらず、ややこしい光景ね」
その様子を遠目で見ていた弓花が、難しい顔をしている。ナマジンライとメカジンライはどちらも等しくジンライだ。
またその現象は何もジンライだけの特異体質ではなく、例えば弓花や風音などの肉体と魂がある存在であれば同じように起こり得る現象であった。
そして、弓花の横で一緒にジンライの様子を見ていた風音が口を開く。
「うーん。私たちの身体はアストラル体と肉体のふたつが重なり合って共存しているものだって話だからねぇ。まあ魂が抜けた状態でも、肉体は肉体で脳も心臓もあるわけだし、機能が生きてる限りは動けるからね。稀にアストラル体だけ、肉体だけで生き残っちゃう人もいるらしいけど」
「へぇ。詳しいのね風音」
感心している弓花に風音が「えへん」と胸を張った。平らである。
「メカジンライを造るときに一応勉強はしてるから。魂を内蔵させるための装置とかは結局他から取り寄せたし、メカジンライは他のゴーレム兵に比べると複雑で扱いも色々と大変なんだよ」
ロボットというのは複合技術の塊であり、それは風音が造ったメカジンライでも同じなのだ。そしてメカジンライにはゴーレム魔術、魔力制御法、錬金術、工学技術、降霊術、人間工学諸々が集まってできている。親方もモンドリーもその一部を把握しているに過ぎず、知恵の実を食べて知力を増した風音でなければもはや全容を把握できないので、実は知恵の実なしの今の風音ではうまく説明することもできなかったりする。
「アストラル体で高位な存在は精霊族の中でも頂点の聖霊、肉体は 魔力の川(ナーガライン) を直接繋げて一体化する神人とかがいるらしいけど、大抵は負の想念の溜まり場になってアストラル体は 死霊(レイス) 化したり、肉体は 腐食鬼(グール) や 吸血鬼(ドラクル) になったりするんだって。だからさ。ジンライさんも気を付けないといけないんだからね」
アストラル体も無事重なって風音たちの元にやってきたジンライに気付いた風音がそう忠告する。その言葉に近付いたジンライも考え込むようにしてから頷いた。
「まあ、今はギリギリを見定めておるところだがな。限界値が分からんから手探りで探すしかない」
「そりゃ、分かるけど。なるべくギリギリじゃなくて安全を考えて欲しいんだけど」
「分かっておるが、しかし何事も慣れがな……ふむ。大丈夫だな」
若干ブレていたアストラル体と肉体の同期を、今の風音との会話で一致させたとジンライは知覚して頷く。それから風音へと視線を戻して口を開いた。
「ともあれ、メカジンライは素晴らしいが、単調になりがちなのがいかんな。このままだと、そう遠くない内にメカでも生身には勝てなくなりそうだ」
「生身『で』は……じゃなくて、生身『に』はですか」
弓花がトホーとした顔で肩を落とす。
ジンライはメカジンライの特性を掴むと同時に、生身の己の問題点も客観的に洗い出し、本人にしか分からないような穴も塞ぎつつあった。隙が次々と埋まっていくのである。つまり、さらに強くなっていた。
今の弓花は現時点ではジンライの体力切れを狙う以外に勝ちの目がなく、目標がさらに遠のいていくのを実感していた。
「ま、闘気を使う槍術も絶対使えないってわけではないんだけどね。今の時点では、あまり実戦向きではないから」
風音の言葉にジンライが唸る。
メカジンライでも魔力を闘気に変換し、それを練って槍術を使用することは不可能ではない。だが機械の身体と生身の肉体とでは気の錬り方が違うのだ。
闘気を練るのにもっとも重要なのは呼吸だ。息を吐く、息を吸う……のふたつの動作を元に内気を練り、力を増幅することこそが基本中の基本。故に元の身体を真似して四肢を動かすことはできても、呼吸すらできぬ機械の身では気を錬ることは難しい。それであれば出力を上げて物理で殴った方が速いし強いのである。
「呼吸法を内蔵するっていうのもどうしたらいいか分からないし、機械の身体にあった闘気の練り方を模索していくしかないと思うんだよね」
「なるほどな。考えておこう」
そして、そんなことを話していた風音たちの元にジョーが近づいてきていた。その後ろにはリサとモーラもいるが、三人とも目の前の状況がよく理解できていないようで、ジョーもジンライとメカジンライへと視線を行ったり来たりさせながら口を開いた。
「おい、なんだよ。そりゃ?」
ジョーがそう口にするのも当然と言えば当然である。何しろ先ほどまで一緒にいたメカジンライと共に生身のジンライもいるのだ。変化の類と思っていたジョーは狐に摘ままれたような気持ちになっていた。
「こいつか。これは魔法具の一種よ。ワシのアストラル体で操作することができるのだ。今はシンディが動かしておるがな。なあ、シンディよ」
ジンライの言葉に、メカジンライに付いている右手のシンディが挙手する。その状態でもジンライと魔力のパスを繋ぐことで 雷神砲(レールガン) を撃つことは可能だ。メカジンライ・シンディはジンライサポート用の遠距離迎撃型なのである。ジンライの強化が著しかった。
そして、そのやり取りに原理こそ分からないが先ほどまで共にいたジンライは今は生身の身体になっており、メカジンライの方は別のロジックで動いている違うものだと察したジョーが苦笑いをする。
「たくよう。もうワケ分かんねえな。ともかくよ。さっさとこれからのことを決めようぜ」
「ああ、そうであったな。お前たちの仲間を捜さなければならんしな」
ジョーの言葉に、ジンライもリサやモーラも頷く。そして風音が仲間たちを集め、ミーティングが始まったのである。
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『第八遺跡は十騎士ラヴァーソンだ。いけ好かんヤツだ。カザネよ。あれには勝つな。人を操るスキルなどロクなものではない』
ジョーたちの話が終わった後、開口一番にそう言葉を発したのはカルラ王であった。イライザは召喚されていないため、今は風音の頭の上に乗っている。
「えー。まあ、そう言われると言い返せないけどさ」
先に釘を差されては風音も人を操るスキルが欲しいとは言い辛い。ロクなものではないなどと言われては尚更である。それからカルラ王がリサにバサッと翼の先を指して尋ねる。
『ともあれ、ラヴァーソンにも忠義はあった。実力もな。だが回復するというのは知らんな。いつのことだ子供よ?』
その問いに、リサがなんだコイツ? という顔をしながら口を開く。
「今朝方ですわ。敵の判断の鈍りそうな早朝を狙いましたのよ鳥さん」
『なるほど、賢しい子だ。カザネよ。確か昨日にオロチたちが十騎士の一体を倒したとの連絡があっただろう』
「うん。そうだけど」
クラン・蒼の明星にはカンナが、クラン・黒い牙にはオロチがいるために、風音はプレイヤーのメール機能を使って彼らとは定期的に連絡を取り合っている。そして、昨日の夜に風音は第五遺跡を、オロチたちは第二遺跡を攻略したことを連絡し合っていた。
「それが何かあるの?」
『恐らくな。ラヴァーソンが回復したのは、イライザと第二遺跡のローヴァを倒したのが原因だ。遺跡ごとに流れていた魔力の分配が稼働中の遺跡に分配され直したのだ。その区切りが 自然魔力(マナ) が活性化する朝方のはずだ。そこの子供たちは、そのときに偶然居合わせたのだろう』
「そんな仕組み、聞いてないんだけど」
『言ってないからな』
ジロリと睨む風音にカルラ王は涼しげな顔で言葉を返す。それにリサが首を傾げて尋ねる。
「どういうことですの?」
「つまり、リサたちの戦闘中にラヴァーソンが回復したのは偶然で、ついでに十騎士を倒せば倒すほど残りの十騎士が強化されてくってことみたいだね」
その風音の言葉には、リサ以外の面々も目を見開いた。敵を倒せば倒すほど強化される。そうした仕掛けは今までのダンジョンにはなかったものだ。
「他で倒してなければ回復はないだろうけど……階層を繋げたのはもしかしてこのためだったのかな?」
『ふん。正解だ』
偉そうに頷いているカルラ王を風音が軽くデコピンすると、リサやジョー、それに他の仲間たちも風音に視線を集中させた。これからどう動くのか、それを決めるのは白き一団のリーダーである風音だ。そして風音は少し考えてから口を開く。
「んー。ひとまずヴァリオさんたちを私がダウジングで探してみるよ。そんで目処が付いたら敵を呼び寄せる班と探索班で分けて動こう。時間が勝負だからね。移動準備を開始して班分けはジンライさんに任せるよ。そんじゃ急ごう」
その風音の指示に全員が声を上げて頷くと、それぞれが一斉に動き出したのである。