作品タイトル不明
第八百八十話 事情を聞こう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八神殿エリア
『敵が強くなった?』
「ああ」
メカジンライの疑問の声にジョーが頷いた。そのふたりの後ろにはリサとモーラが、最後尾にジュエルカザネが後を追って歩いている。
あれからメカジンライはジョーたちにひとまず風音たちと合流するように説得をし、あらかじめ風音と決めた合流地点へと向かっていた。
その道中で、ようやく一息ついたジョーが今回の顛末を話し始めたのである。
「あんたらも知っている通り、俺たち兄弟とヴァリオの率いるライトニングで協力して第八遺跡を攻略してたんだよ。んで、まあ連中の巡回ルートを確認して、逃走経路も確保してな。ガルーダ族の目をくぐり抜けて、遺跡内で十騎士とかいうのと戦ったのさ」
『なるほどな』
メカジンライがひとまず頷く。
雑魚を回避し、頭を叩く。それはダンジョン内でボス格の敵と遭遇した際に有効な、実にオーソドックスな攻略法であった。それこそが冒険者としてあるべき姿であった。
普通はエリア内の魔物たちと正面からぶつかり合って、そのまま壊滅させたりはしない。白き一団の攻略法はまともでないのだ。そんなことをメカジンライは再確認したが、そうしたメカジンライの内面を察することもなくジョーはそのまま話を続けていく。
「まあ十騎士とはいうものの、いたのは魔術師っぽいヤツだったぜ。仲間のガルーダ・ハイナイトを強化して……かな? それを操って攻撃してくるようなヤツだったんだよ」
『魔術師っぽい……か。ふむ、名は名乗らなかったのか?』
メカジンライの問いにジョーは首を横に振る。
「いいや。俺らを見ると、奇声を発してすぐに攻撃して来やがったぜ。そんな様子はなかったな」
イライザは元々喋れないとのことだったので(そもそもアレはガルーダ族どころかただのデカいひよこではないかという疑問もある)気にしていなかったのだが、風音が戦った十騎士リーブレントは最初に会話を交わし、名も名乗っていたとメカジンライは聞いていた。
(第八遺跡の十騎士がたまたまそういうものなのか……それとも、何か変化があるのか?)
そんなことを考えて訝しげな顔をしたつもりのメカジンライだったが、顔も金属の飾りなので表情には出ていなかった。そのメカジンライに背後から声がかかる。
「名を名乗ることに、何か意味があるのですか?」
そう口にしたのはモーラであった。メカジンライが視線を後ろへと向けると、モーラはキッとメカジンライを見返した。その瞳にはわずかではあるが敵意が宿っている。
ニールセン流剣術の使い手である以上は、モーラもジンライが討ったヴァール・ニールセンの弟子であるのだ。特にモーラたちの世代はヴァールより直接指導を受けた身。ヴァリオとリサが相対し話を交わしたとはいえ、師を殺した男に対して思うところがないはずはなかった。
『意味があるかは分からん。それはこれから確認を取るつもりだ』
メカジンライはモーラの視線を気にせずに、そう返す。その反応にモーラが何とも言えない顔をしたが、横にいたリサがクイッとモーラの服を掴んで口を開いた。
「モーラ。ジンライ殿は助けてくれたのよ」
「分かっています。先ほどの鬼神の如き様を見せられれば……尚更。理屈の上では納得も行きます」
師であるヴァール・ニールセンが介錯に選んだ男がジンライであるならば、モーラも確かに理解はできた。だが心の上で許せぬ思いと、師に選ばれたジンライへの嫉妬を消すことをモーラはできないでいた。
『ヴァール殿の弟子であるならば、仇討ちはいつでも受けよう。ワシにはそれを受ける意思がある』
メカジンライはそう一言口にして、ジョーへと視線を向き直す。
『それで、それからどうしたのだ?』
「ああ、もちろん戦ったさ。ヤツも強かったが……それでも俺らの方に数の上では分があった。ヴァリオもかなりやるヤツだったからな。そんでだ。どうにかハイナイトも倒して、ヤツにもうすぐ刃が届こうってときに……」
ジョーがギリギリと歯ぎしりしながら、こう言った。
「唐突に部屋に魔力が溢れて、ヤツの力が回復しやがったのさ」
『回復だと?』
「ああ、そうだ。いきなりだ。正直、何が起きたのか俺らには分からなくてな。焦って戦列が崩れて一旦は撤退したんだが、外にいた魔物の数も増えていやがったんだよ。結局、俺らは遺跡から出て、やむを得ずチリヂリになって逃げたのさ。本当にもう死ぬんじゃないかと思ったが、あんたらのときにはそういうことなかったのか?」
その問いにメカジンライは首を横に振る。
『いや、魔物が増えた様子もなかったし、実際に戦ったカザネの話でも敵が回復したなどとは言ってなかったな。その十騎士だけが特別なのか……或いは。ふむ』
メカジンライがふと、横へと視線を向けた。
『不味いな』
「あん?」
ジョーが声を上げるが、すぐに異変に気付いた。空中から何かが高速で接近してきたのだ。そして、次の瞬間にはメカジンライが槍を投擲してその物体を弾くと、離れた場所に着弾して土柱が上がり、ジュエルカザネがリサたちを包んで破片を防いだ。
「な、なんですのっ!?」
「リサ。バスターウォーカー。右手です」
さすがにこの階層を攻略しているだけあって、全員がすでに構えて戦闘態勢に入っていた。そして、モーラの言葉にリサが視線を右へと向けると森の奥、木々の合間に何か巨大な物体があるのが見えたのだ。二本の足を使ってゆっくりと起きあがり始めた巨体がそこにはあった。
『追ってきたわけではないようだが……どうやら捕捉されておったようだな。森の中に探知機でもあったのか』
ジンライがそう呟く。あの巨体で追いかけてきていれば、すぐに分かったはずだ。だが後ろからではなく、仕掛けてきたのは真横である。
『元から配置されていたのが動き出したということか。駐屯地に引っかかったな。しかし、よくよくあの手の機械というものは分かり辛い。まったく気付けなかったぞ』
気配や魔力の反応があればメカジンライも察せられただろうが、フューチャーズウォー製のトラップ関係は機械式なため、それが発動してもメカジンライでは動き出すまでは分からない。特に探知系のものとなるとお手上げであるため、その類によって己らの居場所が知られたのだとメカジンライは推測した。
「倒すか?」
ジョーの問いに、メカジンライは少し周囲を見回してから何かに気付き、『いや』と答える。
『問題はない。こちらで応対する必要はなかろう』
「あ?」
そのメカジンライの言葉の意味が分からずジョーが首を傾げた次の瞬間、大きな砲撃音と共に衝突音が響き渡り、バスターウォーカーの一体が倒れていくのがジョーの目に映った。
「攻撃?」
「何ですの、一体!?」
モーラとリサが驚きの顔を上げるが、後ろにいたジュエルカザネが『問題ありません』と声を発した。
『圏内に到達したため通信回復。マスターより攻撃を開始するとの連絡が届いています』
「マスター? 攻撃開始?」
モーラが目を見開きながら、ジュエルカザネへと質問をすると、連続して落雷が発生しているかのような騒音と共に、森の中を雷と炎の塊のようなものが駆けていって、二体目のバスターウォーカーも破壊されたのが見えた。
「戦闘開始……ってこたぁ、あれは?」
状況を察したジョーがメカジンライに視線を向ける。それにメカジンライが笑って頷く。
『ああ、仲間だよ。ワシのな』
今メカジンライたちのいる場所は第五遺跡エリアと第八遺跡エリアの境目付近、そこは風音たちとの合流地点のすぐ近くだ。メカジンライたちへの攻撃を察知した風音たちは、すぐさま応戦を開始したのである。