作品タイトル不明
第八百五十七話 十騎士を倒そう
凄まじい速度で接近するリーヴレントを前に、風音の意識が研ぎ澄まされていく。
「速い。なら……」
迫るガルーダの騎士に対し、風音は懐からとっさに取り出したものを上へと投げた。それは赤い果実。つまりは知恵の実だった。そして、それを目に捉えてしまったリーヴレントの意識は知恵の実へと集中し、その隙に風音の蹴りがヒットした。
「よっし!」
吹き飛ぶリーヴレントを見てライルがガッツポーズを取るが、風音の顔は浮かない。
また、蹴られたリーヴレントは空中で態勢を立て直し、何事もないかのように着地した。風音の蹴りはわずかに逸らされていたのだ。それだけではない。
「食われたか」
蹴りを喰らって離れたリーヴメントは、口元から血を垂れ流しつつも、何かをシャリシャリと食べていた。口の中までは見えないが、それが知恵の実であることは間違いない。リーヴレントは、蹴られた瞬間に知恵の実をとっさに掴んで手に入れていたのだ。
「とっさの行動が裏目に出たね。まあ、相手が速すぎたか。ユッコネエ、行くよ。直樹、ライルは戦闘準備」
走り出した風音に、ユッコネエが「にゃー」と鳴いて続いて駆ける。その途中で、風音は白金体化で 白金(プラチナ) の輝きを帯びて自身を強化し、金色の翼を広げてドラグホーントンファーを掴み、さらには虹杖を掴んで乗って、 魔金剛石(マナダイヤ) から伸ばした触手を使って加速していく。
「速ぇえ。けど、もうアレ人間の動きじゃねえ」
「ふざけんな。姉貴を何だと思ってるんだ。ちょっとピカピカして、触手で移動して翼を生やして、それでトンファーを掴んで攻撃してるだけ……いいから、変化するぞ」
直樹はライルへの反論を諦めて、ドクロ魔人化への変化を開始する。ライルも鎧に竜気を注ぎ込んで竜装化を行い、武装を強化していく。
そのふたりの周囲には二体の盾持ちの 守護天使(ガーディアンエンジェル) がすでに控えていた。それは、風音が飛び出す前に『守護天使の聖金貨』で召喚していたものだ。
「でやぁあああ」
そして直樹たちが準備をしている間にも、風音はリーヴレントと直接ぶつかり合う。
風音が操るのはドラグホーントンファーと、移動以外にぎりぎり使える神聖銀の刃付き触手が一本だ。さらには、虹杖を掴んでいない左手でマテリアルシールドを放って攻撃をしていた。
これらを、スキル『直感』『コンセントレーション』『イーグルアイ』を併用することで、風音はどうにかリーヴレントと打ち合えている。だが戦闘が高速化しているため、その対応に追われて大技を使う余裕もない。
ユッコネエとの連携攻撃ですらもリーヴレントは避けてくるのだ。それは知恵の実で思考が強化されているためかもしれないが、ともあれ相手が回避専門のスピードファイターなのは確実であった。
「旦那様パーンッチ」
ユッコネエの爪を避けたリーヴレントへと、巨大なドラゴンの腕が出現し拳を振るう。それをリーヴレントはわずかなステップで避けて風音の懐まで入り込んだ。
「クギィッ」
「やっぱり速いッ!?」
瞬く間にリーヴレントがレイピアを一気に風音の頭部へと放つ。
「クギャッ?」
だが瞬時に風音の頭部が消失し、刃は空を切った。それは、スキル『ハイパータートルネック』の効果によるもの。風音の頭部を亜空間へと吸い込まれせることで、まるで亀が頭を引っ込めるように頭を消したのである。
同時に風音を飛び越えた竜装化ライルとドクロ魔人化直樹が同時に攻撃を仕掛け、リーヴレントの鎧を切り裂いた。胸部装甲と肩装甲が破壊され、ダメージも受けたリーヴレントはすぐさま態勢を立て直すべく跳び下がったが、それは悪手である。
「ふたりとも下がって、スキル・Inflammable Gas」
「にゃっにゃーー!」
風音がスキルで可燃性ガスを正面に発生させ、続けてユッコネエが黄金の高熱ガスブレスを放って大爆発を起こす。
「どうだっ!」
その爆発の炎は風音たちへも向かったがスキル『暴風の加護』によって完璧に防がれる。一方でリーヴレントは間違いなく火の海に沈んだ。だが、その炎の中で揺らぎが見えた途端に、炎の中からリーヴレントが飛び出してきた。
「炎の中から……出てきた!?」
風音を目を丸くする。レイピアを回転させて炎を散らしながら、リーヴレントが正面から突撃してきたのだ。
「あれを防いだだって?」
直樹がそう叫んだが、実際のところリーヴレントの身は焼け焦げていて、そのダメージは決して少ないものではない。それを見切ったライルが真っ先に飛び出していく。
「いや、防ぎ切れてねえ。ジーヴェ、やるぞ!」
『行くぞ我よ』
ライルがすぐさま竜気で全身を纏って突撃する技『竜閃』を放つ。それは竜騎士槍術には劣るが、瞬間的に発することが可能なライルの得意の技であった。
「クギャアアアッ」
そして、先ほどの理知的な声の持ち主とは思えないような咆哮を発したリーヴレントとライルは激突し、結果として弾き飛ばされたのはリーヴレントの方だった。
「今だッ」
「にゃー」
さらにドクロ魔人化直樹が飛竜を続けて飛ばし、追い打ちをかけるべくユッコネエも駆けていく。
「チッ、危なかったか」
その様子を見ながらライルが呟く。今のリーヴレントとの激突は、端から見ればライルが打ち勝ったように見えた。だが、今もライルの周囲を飛び回っている天使の盾にはヒビが入って後一撃で壊れそうな状態だった。
ライルは激突した瞬間に、リーヴレントが放った刺突を喰らっていたのだ。天使はそれを代わりに受けていた。
それがなければ先ほどの激突は相打ちか、或いはライルが負けていたはずだった。
「にゃーっ」
迫る飛竜を斬り飛ばしたリーヴレントへと、ユッコネエが迫る。だがリーヴレントはその攻撃をも避けて、逆にユッコネエのわき腹を突いた。
「にゃぁああ!?」
それにはユッコネエが悲鳴を上げたが、ユッコネエとて戦闘猫の意地がある。苦痛に歪んだ顔をしながらも、接近していたリーヴレントへと八つの尾から八つの火の玉を放って、その内みっつを当てたのだ。
「クギャアアアアアアアッ」
そして、リーヴレントの絶叫と共に鮮血が舞う。
火の玉の中身は粘着性の物質だ。接触すればくっ付いて燃え続ける特性があった。
リーヴレントはそれを己の翼であえて受け、そのまま燃え始めた翼を自ら切り落として防いだのだ。だが、その激痛に耐えたところに隙が生まれていた。
「スキル・神の雷!」
風音は『直感』により、とっさに虹杖から白い雷を放つ。それを直撃されたリーヴレントが叫び声を上げて地面に転がっていくと、さらに風音はスキル『スパイダーウェブ』を放ってリーヴレントの身体を拘束し、最後にジュエルカザネを放ってリーヴレントの動きを完全に封じた。
その様子を見て眉をひそめたライルが尋ねる。
「トドメは刺さないのかよ?」
「うーん。普通に話せるのに、それはちょっと……ね」
風音はわずかに眉をひそめながら、そう返した。
何しろ、ここまでの魔物や、悪意を以て迫ってきた悪魔と違う何かが目の前のガルーダの騎士にはあった。
それに今のリーヴレントは完全に拘束されている。であれば、風音は話をして分かる相手の命を取ろうとまでは思えなかったのである。
『この先にはカルラ王もいるのだがな』
「痛いことを言うね。けど、やれない相手にはやらないよ」
ジーヴェの言葉に風音は迷いなくそう返す。風音も情けで身を滅ぼすつもりもないのだ。
「それに話が聞けるなら、これから先に有利となる情報も持ってるかもしれないからね。まあ、ともかく様子を見よう」
そう言いながら、風音はリーヴレントの前へと立った。そして、風音は倒れているリーヴレントの姿を見て眉をひそめた。リーヴレントの目に、いつの間にか知性の輝きが戻っていたのである。
「あ、目を覚ました?」
「喋ることは……できるようになったな。とはいえ、意識はあった。戦いにおいて私はベストを尽くしたさ。届かなかったがな」
リーヴレントがそう言って笑う。それから風音たちを見ながら、言葉を重ねる。
「しかし、私を拘束し続けることはできない」
その言葉に風音たちの表情に緊張が宿った。二戦目があるのかと考えたのだ。しかし、リーヴレントはその考えを見抜いた上で首を横に振る。
「私の負けだ。私の魂がそれを認めた。だからもう、この身体を留めることはできないだろう」
「それってどういう……?」
風音が尋ねている途中で、リーヴレントの身体は光の粒子となって崩れ始めた。その間にもリーヴレントは風音に対し、話を続けていく。
「我ら十騎士は、遺跡に収束された力を使い、強大なパワーを行使できる。だが勝敗が決した今、この遺跡への魔力の流れは止められ、結果として私はこの身を維持できなくなる」
「だから、消える?」
「そういうことだ。願わくば戦士としての死を望みたかったが……まあ、お前の命ある限り、私は お前(勝者) と共にいるのだから、それも悪くはない道なのかもしれん」
光へと変わっていくリーヴレントを構成していた魔力体は、そのまま風音の中へと流れていく。そして、その姿が完全に消失する直前に小さな呟きが聞こえた。『あの方をどうか』……と。
すべてが終わった後、風音のレベルは上がり、スキルリストには『リーヴレント化』という文字が表示されていたのであった。