作品タイトル不明
第八百五十六話 大型遺跡を奇襲しよう
ガルーダたちが叫び声を上げている。
敵の侵入を知らされたのが昨日。敵を殲滅したとの連絡があったのがつい先ほど。そして今、ガルーダたちは大きな脅威に直面していた。彼らの護る遺跡の正門に炎の竜巻が横倒しで迫ってきているのである。
その正体を、彼らは当然知らない。
それは 這い寄る稲妻と(ライトニング) 捻れた炎の(フレイム) 螺旋撃(ドリル) と、とあるチンチクリンが名付けた突撃技。サンダーチャリオットトレインを牽いたタツヨシくんケイローンの持つドラグホーンランスを起点とし、二重螺旋の『ファイアードリル』とサンダーチャリオットの『紫電結界』を絡み合わせ、炎と雷を巻き込みながらドリル的な勢いで突貫する突撃形態であった。
またトレインの背にはユッコネエが黄金の炎を、シップーが雷風を発しながらしがみついていて、それらも混ざり合うことでその威力はさらに増大している。
そんな凶暴で巨大な雷と炎のドリルが一直線に遺跡の正面門へと突入してくるのだ。
そんなものを前に正面から護るのは不可能だ。
一部を除いたガルーダたちはその場を逃げ、門を閉めていたために逃げ遅れたガルーダたちは跳ねられ、正門は破壊されて飛ばされた扉は遺跡へと突き刺さり、周辺を覆っていた結界も同時に解除されて、五台待機していたバスターウォーカーもまとめて壊され大爆発が起きた。
「クギャアアア」
「ギャーッス」
その場はまさしく大混乱となった。だが、ガルーダたちはすぐさま燃え上がる炎を取り囲み、睨みつけた。
彼らは気付いていたのだ。炎の竜巻の中には何かがいて、それはまだ死んでいないということを。
そして、次の瞬間に炎の中からタツヨシくんケイローンとホーリースカルレギオン、さらにはロクテンくんとシップーに乗ったジンライとライノーが飛び出して構えていたガルーダたちへと躍り掛かる。
ジンライたちはサンダーチャリオットトレインに乗って待機していたのだ。突入後にサンダーチャリオットトレインの召喚が解除されたのを見計らって、一斉に出てきて強襲を開始した。それから瞬く間に、正門前は戦場となったのであった。
「ギィィイイイイッ」
「クギャアッ、ギャーッス」
一方で遺跡を挟んで左右の敷地にそれぞれ待機していたガルーダたちも正門前の異変には気付いていた。中間たちの咆哮によって詳しい状況を察知し、すぐさま戦いに参加しようと動き出した。
だが、彼らが正門前に辿り着くことはできなかった。何故ならば、右側の敷地には狂い鬼とダークオーガ軍団が、左側の敷地には二メートル半の完全神狼化弓花と麒麟化 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) 、さらには 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) がそれぞれ壁を越えて突撃し、銃による遠距離攻撃を行う前に接敵して蹂躙し始めたのだ。
「ギィーーッス」
そうした中で静かに動くガルーダたちもいた。
遺跡の屋上に待機していたガルーダ・ハイアーチャーたちである。彼らはスナイパーライフルを構え、冷静に侵入者を見定める。敵の動きは早い。しかし、生身の敵も何人かはいる。それに直撃させれば動きも鈍り、それを中心に攻めれば敵は瓦解できる。そう判断してガルーダ・ハイアーチャーはスナイパーライフルのトリガーに手をかけた。
そして銃声が鳴り、『ガルーダ・ハイアーチャーの』頭部が一撃で破壊される。同時に矢と炎の塊が四つ他のハイアーチャーを直撃し、仕留められていく。
それに他のハイアーチャーたちが驚きの顔をしたが続けて第二射が放たれ、彼らはようやく己らが狙う側ではなく狙われる側に立たされていたと気付いて、身を隠し始めた。
**********
『二射めもヒットしました』
「こっちもよ」
タツオとエミリィがそれぞれに成果を報告する。
そこは森の奥。周囲をティアラの操る大盾持ちの 炎の騎士団(フレイムナイツ) が護る中、ふたりは狙撃手のガルーダたちを仕留めていた。
この周囲を固めている 炎の騎士団(フレイムナイツ) は、すでに襲撃を開始しているメフィルスが率いている軍団とは違い、ティアラ自らが操作し後衛組を護るべく動かしているものだ。同時にティアラは、遺跡上空にも炎の召喚鳥フレイバードを飛ばせて全体の監視も行っていた。そして、召喚鳥の目から危険を察知したティアラがレームへと声をかける。
「レーム。遺跡の入り口でドン・ガルーダが動きましたわ。お願いいたします」
「オーケイ。任せろっての」
すぐさまレームのゴレムスキャノンが両腕を大地に付け、姿勢を下げた。それから背に設置してある 雷王砲(レールキヤノン) の銃身を伸ばして 雷神砲(レールガン) モードへと変え、遺跡入り口へと狙いを定めた。レームのかけているコマンドゴーグルが照準先までの弾道をシミュレートして、精密射撃を実現する。
「そんじゃ、撃つぜ」
そして、次の瞬間に落雷のような発射音が連続で響いて、続いて遺跡入り口に破壊音が二回響き渡った。その様子を見て、タツオがクワーッと鳴いた。
『やりましたか?』
「いんや。ダメだ。あの野郎、もう産み出してやがった」
レームが悔しそうに言う。遺跡の入り口の中から何かが出てきたのが、コマンドゴーグルの映像拡大機能で見えていたのだ。それを見て、エミリィが眉をひそめる。
「あれ。キュロープス……じゃないわよね?」
「ええ、あの魔物は……」
「キェエエエエエエエエ」
ティアラが答える前に、それは咆哮した。そこにいたのは緑色の、鷲の頭と獅子の体を併せ持つ小さな魔獣であったのだ。
「エメラルドグリフォンベビー。風を操る、暴風の魔獣の幼体ですわ」
知識の上ではその魔物を知っていたティアラが、冷や汗をかきながらその正体を告げる。それはルビーグリフォンと同種の、風の属性を持つ魔物の幼体であった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層群 エリア80遺跡
そうして地上で戦いが開始されている中、遺跡の地下では壁の崩れる音が響いていた。そして、破壊されて広がった壁の穴からはチンチクリンとその他二名、さらに「にゃー」と言いながら黄金の炎を散らして周囲を照らしているユッコネエが遺跡の通路へと出てきた。
実は先ほどまで地上にいたユッコネエは、サンダーチャリオットトレインと共に一度召喚解除された後、再召喚されて風音の元にいたのである。
「さーてと。みんなが頑張ってるうちに中を攻略しますか」
そう言いながら、風音はスキル『ドリル化』で巨大なドリルになっていた 魔金剛石(マナダイヤ) を切り離してジュエルカザネ・ローパーへと変え、トントンと通路の先へと進ませていった。
「うわぁ」
その様子をライルが嫌そうな顔をして見ていたが、直樹は気に出ず周囲を見回してから風音に口を開いた。
「姉貴。他のガルーダはいないのか?」
「先に二体いるよ。音に気付いたのか、こっちに向かってきているようだったからジュエルカザネ・ローパーを先に向かわせたの」
その風音の言葉に続いて、通路の先でわずかな悲鳴と何かが倒れた音がした。
「さすがに二体な上に、狭い通路でこの暗闇だからね。ジェエルカザネ・ローパーの圧勝か」
「あんなもんがいきなり飛びかかって殺しに来たらそりゃあ、そうだろうよ」
『ドラゴンなどの巨大な魔物ならば、体内に侵入された時点で致命傷だしな。まったく以て凶悪なゴーレムだ』
ライルの言葉にジーヴェの槍が続き、風音が「えへへ」と照れたが、褒められているのかは微妙であった。
「まあ、ひとまずは慎重にさくっと進もう。インビジブルナイツと空身でも、機械のセンサーがあると引っかかっちゃうし、周囲警戒は怠らずにしてね」
そう言って風音と直樹たちは、ジュエルカザネの向かった先へと駆けていく。途中で外から轟音が響き渡り、建物全体が揺れるのを風音は感じた。
「これは 雷神砲(レールガン) かな?」
「姉貴。これなら外だけでカタが付いてしまうんじゃないか?」
その直樹の言葉に風音が「かもしれないけど」と返す。
「籠城されても困るし、何か仕掛けられる前に奇襲をかけたかったんだよね。あ、この先にもガルーダがいる。ローパーだけだとちょい苦戦か。ユッコネエ、あの角曲がった先でブレス!」
「にゃー!」
風音の指示に従い、ユッコネエが先行して角に飛び込でブレスを吐くと「クギャー」という悲鳴が聞こえてた。そして、三人が炎が消えた後に通路に入ると、燃えたガルーダたちの亡骸が転がっていた。
「サクサクと倒すな」
「奇襲が効いてるからね。一応言っておくけど、そのガルーダはハイナイトって言って、直樹たちも正面から戦ったら負けるくらいの技量の相手だからね」
風音の言葉に直樹とライルが目を丸くする。
また、よく見ればガルーダ・ハイナイトの死因は火傷ではなく切り傷によるものであったのだが、それはガルーダたちには黄金の炎の耐性があるためにブレスだけでは仕留めきれず、追い打ちでジュエルカザネ・ローパーがトドメを刺したためであった。
そんなことまでは理解していない直樹は、転がっているガルーダの亡骸を見て眉をひそめる。
「しかし、さっきの二体に、今度は四体? もう少し中の警備も厳重かと思ったんだけど、みんな外にいったのか?」
「かもしれないし、中の護衛はハイナイトだけなのかもしれないね。スキルは……手に入らなかったか。む、この先にヤバいのがいる」
そう言って目を細めた風音が通路の先を見ると、奥から発せられた妙な気配と共に周辺の空間が歪んで、通路が消失し、遺跡の中ではない別の場所へと変化していった。
「転移か?」
「いや違う。これは?」
まるで闘技場のように周辺が変わったのを見て、ライルが目を見開き、直樹が剣を構えて警戒する。
そして風音とユッコネエは、闘技場の中央で構えている鎧姿のガルーダへと視線を向けていた。
「今のはボス空間? ということはアレがこの遺跡の親玉ってことかな?」
そう口にした風音に対し、鎧姿のガルーダはスラリとした細身の剣を抜いて口を開く。
「ようこそ、客人たちよ。我はカルラ王配下の十翼騎士のひとりリーヴレント」
「話せるの?」
風音が眉をひそめる。
風音がここまでに遭遇したガルーダたちは、カルラ王を除いては基本、ただの魔物として活動しているように見えていた。
だが、目の前にいるリーヴレントを名乗るガルーダの騎士の目には明らかに知性の光があった。
「今このときだけは……だがね。口上を上げるのは『いべんと』とやらに必須なものなのだそうだ。戦闘になれば、ただ戦うだけの木偶に成り下がるだろう」
そう口にしたリーヴレントの顔には怒りがあった。だが、それは風音たちに向けられたものではなく、もっと別の何かに対して向けられたもののようであった。
「我らは今、呪われているに等しい存在だ。死人が墓場より戻され戦いを強要されている。だからこそ」
リーヴレントが構えた。
「戦え、侵入者よ。我をこの望まぬ戦いより解放し、我が主を救え!」
そう叫びながら突撃するリーヴレントの目の色はすぐさま凶暴なものへと変わる。そして、リーヴレントは知性なき野獣の咆哮を上げて風音たちへと襲いかかったのであった。