軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百五十八話 樹を育てよう

『うりゃぁあああああ!!』

遺跡の入口の前に発生した竜巻の中へとドラゴンと化した弓花が突撃していく。

その内部ではカマイタチが発生していたが、ドラゴンの体に合わせて変形した神狼の甲冑はそれらを完全に弾き、またドラゴンの特性である『風の加護』が周囲の暴風そのものを中和して威力も弱めていた。そして、弓花は暴れ狂う風の中で目標を見定める。

『これでお終い!』

「クギャアアッ!?」

接近した弓花の一撃がエメラルドグリフォンベビーの身体を貫いた。

さらに槍から放たれた雷の竜気によって小さき魔物は死に絶え、身体がグズグズに崩れていく。ドン・ガルーダによって即席で産み出されたが故に、まだ固定されていなかった身体が維持できなくなったのだ。

また、崩れゆくエメラルドグリフォンベビーの後ろでは風も消え去り、ゴブリンゴッドキングのキングと麒麟化クロマルによって討ち倒されたドン・ガルーダの姿が見えていた。

槍を抜いた弓花はその二体にグッと親指を立てて、それから大きく息を吐いて遺跡周辺を見回した。

『ああ、しんど。風音は中の敵を倒したみたいだけど、それでガルーダたちが消えるわけじゃあないんだよね』

そう口にした弓花は今ドラゴンの姿となっていた。

戦っている途中で 神狼の腕輪(フェンリルリング) の効果も切れたため、己の竜気を用いて完全竜化して戦っていたのである。

また、 神狼の腕輪(フェンリルリング) の時間切れにより銀狼のシロとキバもすでに召還解除されているために、弓花に付き添っているのは麒麟化クロマルと、最後のドン・ガルーダを押し切るために呼ばれたキングだけであった。そのキングも時間切れで今まさに消失していく。

『さてと、このまま残りを片付けようか……と』

そう口にした弓花がとっさに遺跡の入り口を見た。建物の中から風音の匂いのした何者かが駆けてきて、そのまま弓花を一瞬で追い抜いていったのだ。

『ひゃっほー』

そんな声を上げてガルーダの騎士が遺跡を出て、残りのガルーダたちへと飛びかかっていく。

『あ、風音……じゃない? 誰?』

「お、弓花。うわ、怖い顔」

『失礼よ直樹』

後ろからやってきた直樹の言葉に、完全竜化弓花がぐわーっと口元を広げて抗議する。それはもう食べようとしている風にしか見えなかった。直樹の後ろにいるライルも一歩引いている。

その様子に自分の姿を思い出した弓花が、変化を解いて元の姿に戻りながら尋ねる。

「で、アレは何? なんか風音っぽいけど」

「あ、ああ。姉貴の新しいスキルだ。リーヴレント化とかいう、倒したガルーダの騎士の動きを再現できるものらしいんだが」

「動きをというか……まんまガルーダだったけど」

「動きを完全再現するためにジュエルカザネと合体して全身をそいつそっくりに変えたんだよ。ただ翼は自前だし、ほら、肩の部分とかはみ出してるだろ?」

その直樹の言葉通り、リーヴレント化している風音の肩は大本のリーヴレントよりも大きな肩装甲が出ている。それは鬼皇の竜鎧のものであった。

「ああ、なるほど。けど、ジュエルカザネなのに透明じゃないのはなんで?」

「最初に変わったときには透明だったんだけど、スケルトン仕様だと見栄えが悪いって言ってコーティングで外見も再現したんだよ。スキル習得時に得たオブジェクトデータからテクスチャを張り付ける要領でいけたらしいんだけど、意味分かるか?」

直樹の言葉に弓花が肩をすくめて首を横に振る。それから再び風音へと視線を向けると、ガルーダ姿で戦っている風音に、シップーに乗ったジンライとライノーが向かっていくのが見えた。

「ジンライ。騎士っぽい鳥の新手が来たぞ」

「ぬう、仲間をも襲っておるとは。ロクなヤツではないな。殺せッ!」

『ぎゃーーー、私だーーー』

「おい、あれ。やばくないか?」

「ちょ、師匠。それ風音です風音!」

「爺さん。やばいって!」

その光景を見て、直樹と弓花、それにライルが慌てて遺跡から降りて止めにはいるが、弓花たちがふたりを止めるまでの間にジンライとライノーの槍がリーヴレント化風音に当たること八回、内二撃が 金剛石(マナダイヤ) の装甲を貫いていた。幸いなことに風音本体には当たっていなかったが。

そして 金剛石(マナダイヤ) 装甲の強靱性とジンライとライノーの実力を目の当たりにした風音は涙目になって、変化を解除したのであった。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層群 エリア80遺跡 隠し部屋

「いや、すまんカザネよ。悪気はなかったのだ」

「そ、そうだぞ。いきなり強そうなのが飛び出してきて、つい挑んでしまったのだ」

「別にー。気にしてないしー。テストにはちょうど良かったしー。成功だったしー」

遺跡の中で発見した隠し部屋の中で、しっしとジンライたちを追いやるティアラに抱きしめられながら、風音はふくれっ面をしていた。不機嫌の原因は当然、先ほど攻撃されたことに対してのものである。

もちろん、あんな姿でいきなり飛び出した風音にも非はあるし、だから気にしていないとも返しているのだが、最近風音の好感度を下げ続けているジンライは悲しみに暮れながらトボトボと周辺警戒のために外に出て行ったのであった。

ともあれ、風音の言葉通り、スキル『リーヴレント化』の実験は成功ではある。これは『戦士の記憶』にも似たスキルで、風音自身がカルラ王の十騎士リーヴレントの力を得るスキルなのだ。

(普通に使っても効果はあるけど……やっぱり、完全同期だとまるで違うね)

風音は、ジュエルカザネを身に纏ってリーヴレントに身体能力を限りなく近付けてから『リーヴレント化』を行ったのである。これにより剣術も含めたリーヴレントの能力をほぼフルで発揮できるようになっているのが確認できていた。

(問題は、『リーヴレント化』に集中しすぎて、他のスキルがほとんど使えなくなることか。まあ、運用については訓練で追々確かめていけばいいか)

そう考えを纏めた風音は抱きしめられていたティアラから離れると、隠し部屋の奥に設置してある風音コテージミニの方へと進んでいった。そこにはつい先ほど庭園が増設されていて、不滅の水晶灯も一緒に設置されていた。

『母上ー。芽が出てきましたー』

そこにはスコップを握ってくわーっと鳴くタツオと、一緒にエミリィとメフィルスもいた。その他のメンツは、今は遺跡内を探索中である。敵は粗方片付けているはずだったので、分担しての探索となっていた。そして、メフィルスが少しだけ困った顔で近付いてきた風音に話しかけた。

『カザネよ。ふたりも反省しておるのでな。それぐらいにしてやっても良いのではないか?』

「ジンライさんはまた最近暴走しがちだから、少しはお灸を据えた方がいいんだよ。私はそう考えてこうしてるだけだから」

ムスッとした風音の返しにメフィルスが苦笑いをした。

とてもそうには見えなかったが、風音の言葉も事実ではある。ライノーが来てから、ジンライも妙に浮かれているようなのだ。ああ見えて、友人と共に戦えることはともかく嬉しくて仕方がないようだった。

「それでタツオ。おお、さっそく芽が出たね。思ったよりも早いけど……」

「早いどころじゃないでしょ」

そうエミリィがツッコミを入れる。戦闘が終了し、つい先ほど隠し部屋を見つけて、それで今である。だが、ゲームにおいても同じ様な時間で芽を出していたので、そういうものなのだろうと風音は考えていた。その様子にエミリィが肩をすくめる。

「もう、いいけどね。それでカザネ。これがあの 生命樹(セフィロト) なの? 本物の?」

エミリィが疑いの眼差しで風音を見る。その風音たちの前に植えられている芽は、この隠し部屋の宝箱で手に入れた 生命樹(セフィロト) の種から出たものだった。本来であれば、それは食べて体力と魔力を回復させるためのアイテムだ。それを風音は栽培することを提案し、実行したのだ。

「間違いないでしょ。この階層で出たものだし、鑑定メガネもそう表示されていたし、パチモンではないと思うよ。まあ、ゲームだと産神砂ってのを混ぜて育てたんだけどね。予想通り、タツオの神力入り水晶砂でも代用が利くね」

風音の言葉にくわーっとタツオが鳴いて嬉しそうに笑った。その庭園にはタツオが産み出した神力入りの水晶砂が敷き詰められていて、キラキラと光っている。

実は、この系統の植物の栽培に必要なのは神力を宿した土であった。現在のタツオは水晶化で水晶の砂を作ることができ、その中に神力も宿すことも可能であったために条件が適合したと風音は予測したのだが、それは正解のようだった。

なお、産神砂と呼ばれるアイテムは東方の国ジャパネスでしか入手できず、ジャパネスを追加するアペンドディスク自体が後に発売されたもので購入条件も厳しく、入手には平均レベル250は必要であると言われていた。

「やっぱり、これが 世界樹(ユグドラシル) と並ぶ神聖樹系のひとつで間違いないのか。大陸北のエルフにバレたらマズくない?」

「黙ってればバレないよ……多分」

無理だ……と、この場にいるタツオと風音を除く全員が思ったが、風音は一応大丈夫だと考えているようである。

「神域みたいな場所なら大きくなっちゃうけどさ。この育て方なら二メートルぐらいで収まるはず。まあ、ゲームと同じなら 生命樹(セフィロト) の実は実るとは思うけどね。その実を取るためにもタツオには頑張ってもらわないと」

そう言って風音がタツオの頭を撫でながら 生命樹(セフィロト) の芽を見て、とあることを思いついた。

(そう言えば、知恵の実も試してみても良いかも……)

思ったが吉日である。風音は知恵の実をその場でスキルで生み出すと、そのまま 生命樹(セフィロト) の芽の横に埋めたのであった。

それから白き一団は遺跡内の探索を終えて、その日は遺跡に泊まって過ごすと、翌日には第八十階層群の中心に伸びる塔へと向かったのである。