軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百五十二話 宝箱を調べよう

「やったか?」

「いや、それフラグだから言うの止めろよライル」

「何だよフラグって?」

戦闘終了後、直樹とライルがそんなやり取りしながら三本の槍が刺さったミミックを見ていたが、さすがのミミックも雷神槍三連発を前に再度動き出す様子はなかった。

そして、煙を上げながら触手が萎んでいく様子を慎重に見据えながらジンライがゆっくりミミックへと近付いていく。一方で風音はといえばスキルリストを開いて、そこに何も追加されていないのを見てため息をついた。

(うーん。やっぱりスキルは手に入らないか。弓花たちにトドメ刺されたから仕方がないけど)

ミミックは非常にレアな魔物ではあるし惜しいことをしたと風音は思ったが、風音の攻撃では倒し切れていなかったし、その後もまだ動き出しそうでもあった。

ミミックの最大の特徴は即死クラスの強烈な一撃だ。それを不意打ちで喰らった風音は鬼皇の竜鎧ごと食い千切られ一度死んでいた。スキル『致命の救済』によって死をキャンセルされていなければ、風音は間違いなくあの世に逝っていたのだ。そんな相手が再度動き出して戦闘が長引けばパーティ内で犠牲が出たかもしれない。或いは直樹が死んでいたかもしれない……風音がそんなことを考えていると、ジンライがおもむろに突き刺した槍ごとミミックを持ち上げて、風音の元へとやってきた。それを風音が訝しげな目で見て、首を傾げる。

「どうしたの、ジンライさん?」

「ふむ。よほど頑丈なのか急所を外したか。ともかく虫の息ではあるが生きておるぞ。ほれ、カザネ」

そう言ってジンライがミミックを風音の方に向けた。それを風音が凝視すると、確かに触手はわずかに動いていて、まだ息があるようであった。

「スキルが手に入るかもしれん。一気にやってしまえ」

「ピ……ピギィイ」

弱々しいミミックの声が聞こえて、風音も「うーん」という顔をする。なんだかかわいそうな気もしたが今更である。結局、風音は再度トゲ鉄球風の虹杖を叩き付けて、今度こそミミックのトドメを刺したのであった。

(む、『触手パラダイス』って……何これ?)

そして、スキルリストに追加された珍妙なスキル名を見て風音が眉をひそめた。

「どうしたカザネ。スキルは、手に入らなかったのか?」

「いや、入ったんだけど……ちょっと、調べてるとこ」

それからスキルリストの説明を風音が「ふむふむ」と読み始める横で、弓花が自分の槍をミミックの死骸から抜きながらジンライに尋ねた。

「よいしょっと。あ、結構あっさり抜けた。そういえば、師匠は以前もミミックと遭遇してましたよね。二度目の戦いですけど、どうでした?」

それは、かつてオルドロックの洞窟を探索中でのことだ。

ジンライはひとりでミミックと遭遇して勝利し、若返りの秘薬であるパナシアの雫を手に入れていた。そのことを思い出したジンライは、少しだけ笑みを浮かべて目の前の宝箱を見た。

「ふむ。そうだな。今となってはあのときほどの脅威をこれには感じなかったが……ワシも成長しておるということだろうな」

それからジンライは、最後に残った槍のグングニルを抜いてライノーに投げ渡して宝箱を床に置いた。戦闘が終了したことで後衛組がゾロゾロと部屋へと戻ってくる中、ジンライが風音に声をかける。

「さて、もう大丈夫であろうが……カザネ。中はトドメを刺したお前が確認すれば良いだろう。気になっていたのだろう?」

「うん。それじゃあ、遠慮なく」

そう言ってスキルリストを閉じた風音は、宝箱の前に出て中身をのぞき込んだ。すでに触手は存在していない。ミミックは宝箱に潜んでいる魔法生物であるため、死んだ後には魔力体が崩壊して死体は残らないのである。

「さて、お宝は……と。パナシアの雫クラスだといいんだけどなー。む、これかな」

「パナシアかぁ。これ以上師匠が若返ってもヤバいんだけどね」

パナシアの雫と聞いて弓花が眉をひそめた。これ以上、ジンライが若返ると一桁代になってしまうかもしれないのだ。もっとも風音が宝箱から取り出したのは一枚の金貨であった。その手に小さな十字架が刻まれた金貨が握られていたのである。

「コイン……金貨か?」

ジンライが眉をひそめて風音の持つ金貨を見る。ジンライは、この階層のお宝としてそれでは割が合わないのでは? と考えているようだが、風音はニンマリと笑って、それを仲間たちに見せた。

「ほー。これはいいもん、引き当てたかも」

「風音、それがなんなのか知ってるの?」

弓花が首を傾げながら尋ねる。後ろにいた直樹も眉をひそめていて、他の仲間たちもそのアイテムのことを知っている者はいないようだった。しかし、風音はその金貨をゲームで使用していた経験があり、当然その使い方も知っていた。

「これは『守護天使の聖金貨』っていう召喚具でね。まあ、効果は実演してみればいいか」

「む、大丈夫なのか?」

ジンライが不安げな顔をしたが、風音は気にせず召喚具を発動させる。すると空中に白い光の魔法陣がふたつ形成されて、そこに盾を持った白い光の天使が二体出現したのである。それを見たジンライが眉をひそめる。

「これはなんだ、カザネ?」

「 守護天使(ガーディアンエンジェル) 。指定した相手に憑いてくれる召喚天使だね。この召喚具は誰でも使用できるし、天使もオートで動くから便利なんだけど相当魔力を喰うんだよね」

『母上。それは私でも使えますか?』

「うーん。魔力消費量は私のメガビームと同じくらいだから、一回使うぐらいはできると思うよ」

その言葉にタツオがくわーっと鳴いた。タツオはメガビームの出力を調整できるが、風音はそうではないのでフルパワーのメガビームのみである。その魔力量は350。今は虹杖の力により消費魔力は半分の175と抑えられていて、風音はそれを基準として口にしていたのだが、それでも魔術師の平均総魔力量よりも多く、膨大な魔力量を必要していると言えた。

「それと攻撃力はないから防御と回復専門なんだよね。えーと、ひとまずは対象を直樹とライルに指定。天使さんゴー!」

風音の言葉に、直樹とライルへとそれぞれ天使が飛んでいって、頭上を回り始めた。それを見ながら直樹が尋ねる。

「姉貴、これっていつ消えるんだ?」

「天使の体内にある魔力が切れたらだよ。戦闘がなかったり、戦闘中にダメージ負わせず、回復もさせたりしなければ、半日くらいは持つと思うけど」

風音が少し自信なさげに答える。 守護天使(ガーディアンエンジェル) は召喚できる時間が定められているわけではなく、召喚時に得た魔力が尽きるまで活動し続けるタイプの召喚体であった。特に何もなければゲーム内時間で半日程度のはずであるが、ここでも同じかは検証の必要がある。

そのやりとりを聞いた後、ジンライが仲間たちを見回す。

「消費魔力が激しいとなれば使えるのは……」

ジンライの視線は風音とティアラ、ライルの順に向けられた。風音とティアラは言うに及ばず、ライルも持っているのは魔力ではなく竜気だが、普通の魔法具であれば使用するには問題なかった。

その三人の中でライルは最初に手を挙げて声を上げた。

「俺は辞退するぜ爺さん。正直、戦闘中に喚び出して誰々に指定するとか無理っぽいし」

「わたくしも 炎の騎士団(フレイムナイツ) と併用というと魔力量に不安がありますから厳しいですわね。カザネが持っているのが一番だと思いますわ」

ティアラも続いてそう答えた。それから向けられたジンライの視線に風音が少しばかり申し訳なそうな顔をして頷く。

「うん。こうなると私が持っていた方がいいだろうね。まあ、虹杖があるからジュエルカザネと合わせて使っても大抵は問題なく使えるとは思うけどさ」

そう言って風音は守護天使の聖金貨を不滅のマントのワッペン代わりにして身に付けた。

「まあ、結構レアアイテムだし、いいもん手に入ったね」

そう言って笑う風音に、仲間たちも笑みを浮かべて頷いた。

それから風音たちはこの場を探索の 本拠地(ベース) にすべく、遺跡を含めた周辺を再度探索し、通常の宝箱を発見してアダマンチウムの鎧を手に入れた。一般的に見ればそれは貴重な品ではあったが、パーティ内で装備したい者もいないため、そのまま不思議な倉庫に仕舞われることになった。

そして、周辺の探索を終えると風音はスキル『ゴーレムメーカー』を使って隠し部屋をリフォームし風音コテージミニを設置し、その日は隠し部屋で夜を過ごしたのである。