作品タイトル不明
第八百五十一話 遺跡を調べよう
「いつつ……」
「直樹、大丈夫? 一応回復は終わったけど」
戦闘終了後。風音の回復魔術『ハイヒール』によって、直樹の治療が完了した。その間にも他の仲間たちは敵の再襲来への警戒と素材回収を行っていて、それらの様子を見回しながら直樹が姉に微笑みかけた。
「ああ、少し痛むが問題ない。姉貴に包まれてるみたいだったぜ」
「え、キモい」
キモかった。
「それとユッコネエが犬の嗅覚を使ってアンタの魔剣を回収しに行ってるから、戻ってきたら受け取りなよ。後、敵の行動には気を配るようにしてね。ドクロ魔人化は万能じゃないんだから。自分の弱点には、いっそう気を付けないと駄目なんだからね」
「ああ、済まない姉貴。銃弾相手だと思って油断してた」
姉の真摯な指摘に直樹はうなだれて答えた。
物質化までしている闇の上位精霊たるドクロ魔人は、ただの闇の精霊ほどではないにしても光属性の攻撃には弱いのだ。その認識の切り替えが直樹は上手くできていなかった。
そして、そうしたやり取りをしている姉弟にジンライが近付きながら声をかけてきた。
「カザネよ。連中、銃だけではなく魔術まで使用してきおったぞ。あれほどの練度とは想定外であった。あれはやりおるぞ」
「そうだね。正直、甘く見てたかもしれないよ」
ジンライの言葉に風音も素直に頷く。
「それに連中、個でなく群としての動きを見せてきおった。あれは、前へ倣えで動くマシンナーズソルジャーよりも相当に危険な相手だ」
「あいつらは地上で戦ったガルーダ族の上位種だし、銃がなくても階層相応の強さではあるんだよ。そんで、あの場にいたのはガルーダマジックマスターにガルーダハイウォーリアー。それにガタイの大きなのがガルーダマッドソルジャーだね。地上で会ったドン・ガルーダはキキュロープスを出してたし、そっちの警戒も必要かもしれない」
その言葉に直樹の表情が硬くなる。
単眼の巨人キキュロープス。かつて戦った魔物で、風音やタツオも使う光属性のメガビームを放つ巨大な怪物であるため、ドクロ魔人の天敵とも言えた。さらにそこにレームもやってきて口を挟んできた。
「トラップも第七十階層のを使ってるとなると厄介だぜ。ここは摩天楼や鉄の通路と違って森の中だ。草木に仕込まれたのを見分けるのは難しいぞ」
「そうだねえ。それにさっき見たバイクや透明なシールドはフューチャーズウォーのものなんだろうけど、あんなの第七十階層台では見たことなかったよね。もしかすると、入手経路は第七十階層経由ではないのかもしれないし」
どこから手に入れたのかは分からないが、未知の武装ではあったのだ。となれば、これから先も風音たちの知らない何かを使ってくるかもしれない。不安材料は増えるばかりであった。
「ま、考えてばかりいても仕方ないか」
その場の仲間たちが敵のことで考え込む前で、風音はそう言って立ち上がった。
「直樹も回復したし、ひとまずは進もう。素材回収はオッケー?」
「問題ねーよ」
風音の言葉にレームが頷く。すでにガルーダたちの装備などは回収し終えているから、レームもジンライも近付いて来たのだ。
「それではどこに向かうカザネよ?」
「うん。まずはタツオが倒した狙撃手のいた遺跡に向かおうかなって。一度中に入ってみたいし」
「なるほど。では行ってみるか」
そして、風音たちはすぐさま遺跡へと向かうこととなった。
周囲を警戒しながら進んでいったが敵の姿はなく、特に戦闘もないままに風音たちは遺跡内へと入ることに成功したのである。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層群 遺跡屋上
『こいつです。スナイパーライフル用の弾丸がありますね。補充用に取っておきましょう』
くわーっと鳴いてタツオが銃弾の入った箱を手に取った。そこは遺跡の屋上で、狙撃手やスナイパーライフルは回収されることなくその場に倒れていて、一緒に予備の弾薬箱も積まれていた。
「うーん」
そのタツオの横で風音が唸りながら上空を眺めていた。
『どうかしましたか母上?』
くわーっと鳴いて首を傾げるタツオに、風音が指を天に差して答える。
「ほら、このエリアって球体の内側みたいになってるでしょ。だから他のエリアが見れるんだけど……なんだか、ここからでも大きな遺跡がいくつか見えるんだよね」
『確かにそうですね。みな、この遺跡よりも随分と大きそうな感じです』
タツオも上空へと視線を向けながらそう答える。
太陽らしき光球があるためにすべてが見通せるわけではないが、確かにその場からでも大きな遺跡が複数見えていた。
「数はこっからだと四、いや五か。配置からすると……あれが各階層の中心だったのかも」
『なるほど。そこに何かあるわけですね』
「かもね。ひとまずは中心の塔を目指すとして、その途中で大型の遺跡のひとつにも立ち寄ってみようかな。その前に見えるところは記録しとくか」
そう言いながら風音はカメラを取り出してパシャパシャと撮り始める。風音たちは今回、第八十階層群のある程度の把握と太陽に通じている塔の探索を目的としていた。情報を集め、他のクランとも協力して第八十階層群を攻略しようとしていたのである。
それから風音がカメラで上空の遺跡を撮影し終えた頃、遺跡の下層階から何かが崩れた音が聞こえてきた。その音にタツオが驚き、風音も眉をひそめながら屋上から下へと顔を出す。
「えーと、大丈夫?」
風音の言葉に、遺跡から出てきたらしきライノーとレームが手を振る。
「おう。またライノーがかかっただけだ」
「済まん」
ガックリしているライノーにレームがやれやれと肩をすくめる。どうにもライノーは落ち着きがないのだ。困った非処女童貞である。
そのライノーを見ながらレームが口を開く。
「ま、今のは第七十階層を通ってないヤツなら引っかかっても仕方ねー仕掛けだったけどな。それとカザネ、隠し部屋も出てきた。ちょいと全員集めてくれよ」
「あいよー」
そう言って風音がスキル『情報連携』を発動させ、遺跡周辺を探索している仲間たちへと連絡を飛ばしていく。それからすぐさま仲間たちがその場に集まって、隠し部屋の中へと入っていった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層群 遺跡内 隠し部屋
「お手柄だなライノー」
「いや、俺は引っかかっただけだからなぁ」
ジンライの言葉にライノーが気落ちしながら答える。
罠の発動によって偶然見つかった隠し部屋であるが、どうであれ発見は発見だ。ダンジョンポータルに近いこともあり、第八十階層群の拠点にするにはちょうど良い場所であった。
一方で集まったメンバーたちの視線は部屋の中央に集中していた。何しろそこには、いつもよりも豪華そうな装飾の宝箱がデンッと置かれていたのだ。
「なんだかさ。いつものヤツよりもゴテゴテしてないか?」
「ははは、それだけ期待が持てるってモンだよレーム」
レームの問いにそう返しながら、風音が宝箱へと近付いていく。
ダンジョン内の宝箱は装飾が立派であればあるほど中のアイテムのクォリティも上がっていくのが一般的な認識だ。
さらに第八十階層の隠し部屋となれば相当な品が入っているだろうと風音は考え、デヘヘと気持ち悪い笑顔を見せていた。そして、瞳をドルマークにした風音が宝箱へと近付いていく。
「待てカザネ」
だが、風音の行動をジンライが止めた。その言葉に風音はハッと我に返り、ジンライに向かってバツの悪い顔をしながら「えへへ」と笑った。
「え? ああ、こういうのは見つけたレームが開けるべきだよね。失敬。しっけ」
「違う、カザネ。後ろだ」
ジンライの言葉と共に風音のスキル『直感』がすぐさま警告を発し始める。
「え、嘘?」
しかし、もう遅い。次の瞬間には宝箱が開いて風音が喰われ、そのまま鎧ごと胴体が食いちぎられた。
「姉貴ッ!?」
──世界は改編された──
とっさに避けた風音はスキル『ハイパーバックダッシュ』で一気に下がる。
「危なッ!」
そして、冷や汗をかきながら怯えた顔でミミックから離れていく。その様子にジンライがホッと息を吐きながら笑う。
「冷や冷やさせるでないぞカザネ。死んだかと思ったぞ」
「死んだよ実際。あれ、ヤバい」
対して風音の声には余裕がない。それは攻撃したミミックですらも理解不能であっただろうが、風音はスキル『致命の救済』で死んだ事象をキャンセルさせて事実をねじ曲げて逃れていたのだ。
その風音の返しにジンライが訝しげな顔をするが、風音も今は説明をしている余裕はなかった。
「動き出したよッ」
風音の声と同時にミミックが宝箱型の身体の中から無数の触手を外に出すと、それを使って跳ねて室内を凄まじい速度で移動し始めた。ジンライも先ほどの風音の言葉の意味を考えることを放棄して槍を構えながら叫ぶ。
「近接戦ができる者以外は外に出ろ。留まっていると喰われるぞ」
そのジンライの言葉に後衛組が一斉に逃げ出した。
「ピギィイ」
しかミミックはその様子を見て、標的を逃げる集団に変えて飛びかかったが、次の瞬間にはミミックが宙を舞った。
「これがミミックか」
ライノーが飛びかかったミミックを槍で弾いたのだ。それからライノーは部屋の出入り口を陣取り構える。その間にも後衛組は部屋の外へと退散していき、部屋の中にいるのは前衛組のみとなった。
「こいつ、速いな」
それぞれが近付くミミックに攻撃を仕掛けるが、ミミックはその速度と触手の多様な動きで攻撃を避け、室内を縦横無尽に駆け巡るのだ。またライルと直樹はどうにか攻撃を避けている状態で、ジンライたちにしても攻撃こそ返せてはいるが、与えたダメージのほとんどが宝箱の表面を傷付ける程度に留まっている。
「姉貴、そっち行ったぞ」
そして、直樹の言葉通りにミミックは風音の元へと飛びかかっていく。だが、風音は冷や汗こそかきながらもニヤリと笑ってミミックを見た。
「今度はさせないッ」
風音は風音の虹杖を振るい、杖の付与魔術である『暴風の加護』を任意に発動させるとミミックの周囲を覆い、空中で固定する。その吹き荒れる凄まじい暴風を前に、空中にいるミミックは身動きがとれない。暴れようとも推力のないミミックでは空中で押さえられてはどうしようもない。
「スキル・白金体化」
さらに風音は自らの身体能力をスキル『白金体化』で強化し、
「及びチャージ!」
杖の先にある 魔金剛石(マナダイヤ) をトゲ付き鉄球風に変えてスキル『チャージ』で力を溜め、
「さっきの仕返しっ、カザネホームラン!」
そのまま一気にスイングして、トゲ付き 魔金剛石(マナダイヤ) 球を叩きつける。
「ピギィィイイイイ」
その攻撃が直撃したミミックは、勢いよく壁に叩きつけられた。宝箱の表面の装飾や留め具が壊れて散らばり、ミミックは地面に激突した。
「む、倒せてない?」
だが、風音は叩きつけたミミックを見て眉をひそめる。その攻撃でもミミックは死んではいない。スキルも手に入っていないし、触手もウネウネと動いている。
それにフルスイング後の風音はすぐさま続いての攻撃に入れず、眉をひそめたが、
「放てッ」「はいっ」「うおりゃぁッ」
しかし、続けて弓花、ジンライ、ライノーがそれぞれ槍術『雷神槍』を放ってミミックを攻撃し、三本の槍がその身を貫くと、その触手は力なく崩れ落ちて動かなくなったのであった。