軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百五十三話 バイカー集団を襲撃しよう

◎第八十階層群 森

その日、森林警備隊を務めるガルーダの戦士たちは、半数をいつも通りの警備に向かわせ、半数はその場に待機となっていた。彼らは先日、ついに待ち望んでいた敵とようやく遭遇したことができたことで意気昂揚していた。

意志も知恵も記憶も、かつて王に仕えていた頃のすべてを封じられた彼らは、戦い以外に考えることを許されてはいない。ただ、ダンジョンの中で侵入者を倒すことのみを是として生み出された存在だ。

その彼らがついに倒すべき敵と遭遇した。言うまでもなく血はたぎり、今すぐにでも討伐に赴きたいところである。とはいえ、彼らの役割は森の探索と『通信機』と呼ばれるものを使って仲間の援護に向かうことだ。

それに自らで直接出向けるほど、彼らは戦闘に特化した部隊でもない。彼らはガルーダ・ハイライダーと呼ばれており、本来はグリフォンに乗って移動することに特化した種族で個別の戦闘能力は高くはなかった。

「クギャッ」

「クギャァアアア」

そんな彼らが駐屯している陣地の物見やぐらにいる見張りが唐突に声を張り上げた。

「クギャッ?」

一体何に反応したのかを仲間の一体が尋ねたが、その答えが返ってくる前に目の前で爆発が起こった。

「クッギャァアアアアアアアア」

上にいた仲間たちが爆発によって吹き飛ばされる。物見やぐらに、外から飛んできた何かが直撃したのだ。

「クギャッ、ギャギャ」

それを見ていたガルーダ・ハイライダーの一体が叫び声を上げた。

駐屯地内に積んである弾薬箱やミサイルランチャー、手榴弾に引火すれば大変なことになるが、今の彼らにそんなことを気にしている余裕はなかった。問題なのは爆発により炎上している物見やぐらの中に何かがいるということだった。

「ギャァ?」

そして、ガルーダ・ハイライダーたちの目の前で炎の中からぬらりとソレは現れたのだ。最初、彼らはそれが人族の少女だと認識していた。ソレはローブをまとった少女の姿に見えていたのだ。

しかし、その認識が間違いだと彼らはすぐに気付く。その表面はツルリとした透明なもので、炎が反射して赤く輝き、ローブと思われた首より下の部分は無数に伸びた透明な触手であった。それは明らかに人族ではなく、ローパーなどと呼ばれる触手の怪物に近かった。

その触手を首の場所で纏めている少女の顔がキョロキョロと動き、それからガルーダたちを見ると、口元を吊り上げてニタリと笑った。

獲物を見つけた目だとガルーダ・ハイライダーたちはすぐさま気付いた。あまりにも奇怪、あまりにも不気味なソレを前に彼らも恐怖を感じないわけではなかったが、ガルーダ・ハイライダーは勇敢なるカルラ族の戦士たちだ。彼らは迷うことなく一斉に動き出し、攻撃を開始する。

同時に透明な触手の怪物も動き出した。それはもう、恐ろしい速度であった。タンタンッと何度か触手を地面に叩きつけて飛んだだけで、ガルーダ・ハイライダーたちの元へと辿り着き、驚くガルーダ・ハイライダーたちに触手を振るって弾き飛ばしていく。

攻撃の途中で触手は刃に変わり、何体かが切り刻まれ、何体かが持っていた剣で受け止めたが、その剣をも切り裂く触手の刃も一本だけ存在していた。よく見ればそれは他の触手の刃とは違って、銀色に輝いて見えたはずだが、彼らもそのことに気にかけている余裕はなかった。

だが、ガルーダ・ハイライダーたちもやられてばかりではない。すぐさま彼らの反撃も始まった。触手の化け物と接戦している第一陣はそもそもが囮だった。その間に他の仲間たちは戦闘準備を整えて、たった今それも完了した。

「クッギャァア!」

合図の鳴き声が聞こえると動ける者はみな跳び下がったが、致命傷だった者は化け物に飛びかかって押さえつけた。同時にミサイルが放たれ、手榴弾も投げ込まれてその場に爆発が起きる。

仲間もろともの攻撃だが、彼らの行動に迷いはない。撃つ方も撃たれる方もすでに覚悟の上だ。そうして、何度となく爆発は起こり、黒い煙にその場が覆われた。

「クギャッ?」

それは人語にすれば「やったか?」という意味合いの鳴き声だった。しかし、それはフラグである。ガルーダ・ハイライダーの一体は知らぬこととはいえ、この場でもっともしてはいけないミスを犯した。

「ギャッ? ギャキャッ!?」

だが、他の優秀なガルーダ・ハイライダーの一体がソレに近付かれる前に気付くことに成功した。彼らはその声を聞いて一斉に空を見る。そこには陽光に反射された触手の化け物がいた。

「ギャキャッ」

「ギィーーーッス」

彼らはソレを見て驚きを露わにする。その化け物は触手を振り回して推力を得て飛んでいたのだ。

「ギャキャッ」

「クギャァアアア」

その姿を確認したガルーダ・ハイライダーたちが叫びながらミサイルランチャーを撃ち放つ。触手の化け物はミサイルを二発は避けたが、三発目で捉えられて直撃し、五、六発と連続で喰らい続けた。ガルーダ・ハイライダーの撃つミサイルには簡単な誘導機能も備わっているのだ。回避に失敗して隙を見せれば、それはもう的であった。

「クギャ?」

「ギャアア!」

さすがに連続攻撃で倒したかと思ったガルーダ・ハイライダーたちであったが、爆煙の中から飛び出した触手の化け物を見てさらに驚きの声を上げた。その化け物はまったく無傷であった。であればと追い打ちをかけようとした彼らだったが、触手の化け物は地面に落ちるとすぐさま土を掘って潜ってしまった。

「グギャァアアッ!」

化け物が潜った場所に向かってさらにミサイルが放たれ、手榴弾が投げられ、それ以外の者はライフルを撃ち続けた。

「クギャァアアアアアアッ」

次の瞬間、背後から仲間の悲鳴が響き渡った。鮮血が散ってガルーダ・ハイライダーの一体が崩れ落ち、その腹の中から血塗れの少女の顔がニュルッと現れた。

その化け物は地面を掘って背後から出てガルーダの戦士を襲ったのだ。それから透明な触手の化け物は伸ばした触手を刃に変え、ガルーダ・ハイライダーたちへと飛びかかる。

普通であれば恐慌状態に陥ってもおかしくない状況だが、ガルーダ・ハイライダーたちはすぐさまライフルを捨て、剣を抜いて応戦を開始した。その切り替えはまさしく歴戦の戦士という有り様だった。また、彼らは触手の攻撃がそれほど重くないこと、触手のひとつだけが異様な切れ味を持っていて、それを中心に警戒すれば対応できると理解して、応戦していく。

「クギャー」

「ギャッギャァ」

このまま粘れば、殺せないまでも捕縛できれば勝てる。そう彼らが考えた直後である。ガルーダ・ハイライダーの一体の頭部にどこからか放たれた矢が突き刺さり、銃声と共に別のガルーダ・ハイライダーの頭部と、さらに後ろにいた仲間の顔半分も吹き飛んだ。

「クギャッ!?」

「ギャーッス」

その突然の攻撃にガルーダ・ハイライダーたちの動きに隙が見えたところで触手が一斉に伸びて彼らを包み、身動きをとれなくする。さらに続いて森の奥から連続で放たれた砲弾によって残りのガルーダ・ハイライダーたちも掃討されたのであった。

**********

「ん、全滅確認。ちょっと、グロい。相変わらず、ジュエルカザネは接近戦だとエグいなあ。まあ、ミサイルランチャーは結構消費されちゃったけど、バイクの方は無事だね。回収しとこう」

森の中から遠隔視とジュエルカザネ・ローパーの目で見ていた風音がそう口にして立ち上がった。その言葉に周囲にいたエミリィやタツオ、それにゴレムスキャノンに乗ったレームが頷き、共に腰を上げた。

「連中、為すすべがなかったみたいだな」

コマンドゴーグルで先ほどの様子を詳細に見ていたレームが笑って風音に言う。

実は、先ほどローパーと呼ばれる形態のジュエルカザネを撃ったのはレームのゴレムスキャノンであった。スキル『爆裂鉄鋼弾』が付与されたジュエルカザネ・ローパーを弾丸状にして 雷王砲(レールキャノン) で敵陣に打ち込んだのだ。

その大きさから弾速こそそれほど稼げなかったが、駐屯地へと届かすのには十分ではあった。

そして、そのまま『爆裂鉄鋼弾』の効果が発動して、着弾地点で爆発が起き、それから後はジュエルカザネ・ローパーの独壇場である。ミミックより得た『触手パラダイス』というスキルにより、以前よりも遙かにグネグネウネウネと自在にエロく触手を動かせるようになった風音は、ガルーダ・ハイライダーたちを一方的に攻撃した……と、レームは考えていたのだが、風音は首を横に振った。

「敵の攻撃が思ったよりも激しかったよ。ミサイルを何発も喰らったし、あれがトリモチ弾とか捕縛用だったら終わってた。それに接近で剣に切り替えられた途端に動きが良くなって、ジュエルカザネ・ローパーも打ち合うだけで精一杯だったもの。レームたちの援護がなきゃ打ち負けてたよ」

「マジでか?」

レームの問いに風音が頷く。ジュエルカザネ・ローパーは『触手パラダイス』によって強化されたローパー型ジュエルゴーレムである。その機動力はあのミミックに匹敵し、変幻自在となる触手の攻撃を行える。しかし、そのジュエルカザネ・ローパーを前にガルーダ・ハイライダーたちは見事に渡り合っていた。

風音が「油断できない」と一人頷いていると、後ろに控えていた直樹から「姉貴」と声がかかった。今回、直樹は戦闘には参加せず、別に動いている仲間との連絡係となっていた。

「弓花から連絡だ。敵は倒したけどバイクは失敗だってさ。全部破壊しちゃったみたいだわ」

「まあ、仕方ないね。一台あれば一応の目的は果たせるし、こっちにも六台はあるから問題はないよ」

風音の言葉に直樹が頷いて、メールの返信を打ち始める。

風音たちの目的、それはバイクそのものではない。バイクに乗せられたマップナビゲーションシステムの情報、つまりは周辺一帯の地図を手に入れることが目的であったのだ。