軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百四十二話 決戦に挑もう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十九階層

『よいしょっと』

風音がトンッと足を床につけた。続けて弓花が、義手シンディがその場に降りてくる。それから空気が部屋に充満していくような音がして、閉まった扉の横にある赤い信号が青くなると、風音の来ている宇宙用作業着のヘルメット内の液晶画面表示にクリアの文字が現れた。

『んー、空気が入ったみたいだね』

そこは宇宙空間と基地内を出入りするための待機室だった。風音たちは外に設置してあったナビビーコンに誘導され、無事第七十九階層に該当する宇宙基地への侵入に成功したのであった。

それから風音がトントンと床を蹴りながら口を開く。

「けど、重力が少し弱いかな?」

「まあ、行動に支障をきたすほどじゃあないでしょ。それにしても妙に物々しい感じ。壁も鉄板が何重にもなったような構造だし。この入り口からじゃなく、外壁を壊して入ろうとしたらかなり大変だったかも」

パカリとヘルメットを外した風音に、元の姿に戻った弓花がそう返す。

風音たちが入ったこの宇宙基地は、弓花の言葉通りに以前の第七十八階層や第七十七階層の宇宙基地に比べてゴテゴテとしていて妙な圧迫感があった。その光景をジンライ(生き霊)が見回しながら『ふむ』と頷く。

『ここは以前の場所に比べて要塞に近い造りになっておるのかもしれんな。どことなく、戦いを前提とした造りをしておるように見える』

「うん。それにその上に重なってる肉壁もずいぶんと成長して厚くなってるみたいだね。すっごく脈打ってるし」

風音が視線を向けた先の通路には成長した肉壁があった。また風音の言葉通りに、紫の表面に緑色の血管のようなものが浮かんでいてドクドクと動いていた。

「ま、今更肉壁気にしても仕方ないけど。相手もこっちが乗り込んだことは分かってるだろうしね。それじゃユッコネエ、狂い鬼、みんな出てきて」

そう言って風音が次々と 僕(しもべ) たちを召喚していく。ユッコネエに狂い鬼、ベヒモスビーストにダークオーガ軍団。それに弓花も風音に言われてクロマルをその場で喚んだ。

「で、どうするの?」

その弓花の問いに風音は「暴れてもらうよ」と返す。

「戦闘中にバグモーフが次々と襲ってくるのはやっぱり厄介だからね。召喚組には基地内で暴れ回って、バグモーフたちを引きつけてもらうの。その間に私たちは隠密スキルでマザーの元までスルリと向かうって寸法だよ」

「なるほどね。そんじゃ、クロマルもお願いね」

「ウォンッ」

クロマルがひと鳴きしてユッコネエの元に向かう。今回のダンジョン探索で少し仲良くなったようである。

それから風音の言葉に従って、狂い鬼ライダーに、ダークオーガ軍団が三分割、それにユッコネエとクロマルのコンビのそれぞれに分かれて召喚組は基地内へと拡散していった。

「これで敵もちゃんと分散されるといいんだけどね」

そう言いながら見送る風音にジンライが声をかける。

『それでカザネよ。マザーバグモーフの行き先は分かるのか?』

「うん、問題なし。マザーの臭いがこの先から続いているからね。このまま追い詰めるよ」

そう言ってスキル『インビジブルナイツ』と『空身』を全体に発動させて身を隠した風音が駆け出すと、弓花と義手のシンディ、それにタツヨシくんケイローンとツインソードも続いていった。

それから狂い鬼たちがバグモーフの群れと戦闘になっているのを横切りながら、風音たちは宇宙基地の中心部へと向かい続ける。そして、他の宇宙基地に比べてそれほど広くもないために、目的地に着くのにそれほど時間はかからなかった。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十九階層 中心部

『先にある威圧感が妙だな。先のマザーよりも濃い気配を感じる』

後一歩で臭いの元に辿り着こうか……というところで、ジンライ(生き霊)がそう口にする。

それは風音も弓花も感じていたことで、ふたりとも訝しげな視線を前へと向けながら駆けていた。

「最終決戦だから気合い入ってるのかな?」

「けど、どちらかというと別の気配のような気もするし」

風音の言葉に、弓花がそう返す。

そう話している途中で通路の先から「キシャーーー!」という、何かの咆哮が轟いた。その声にジンライ(生き霊)が眉をひそめる。

『どうやら、我らを待っているようだが……ふむ、あれか?』

そして、通路を抜けた先に見えたのは、まるで金属球の中のような大きな部屋だった。周囲にはシリンダーらしきものが並び動いていて、中央にマザーバグモーフが横たわっているのが見えた。

「あれ、マザーバグモーフがいるけど……死んでる?」

「うーん。確かに生きている気配はない……けど」

弓花の言葉に風音が目を細める。確かにマザーバグモーフは死んでいるように見えたが、妙なピリピリとした感覚が風音の中にはあった。それから風音が周囲を見回しながら、口を開く。

「バグモーフより大きい個体が二十体くらい隠れてるね。多分、JINJINが言っていたハイバグモーフってヤツだと思う」

ハイバグモーフ。それはバグモーフよりも大きく素早く、人に近い形をしていて戦闘力の高い種である。

バグモーフを働き蟻に例えるなら、ハイバグモーフは巣を守る役割を持つ種であり、マザーバグモーフを護るために存在しているとのことだった。

『どうする?』

「正面のマザーも気になるけど、まずはハイバグモーフを倒そう。隠密スキルのおかげでまだこちらは気付かれてないみたいし、私、弓花、ジンライさん、ツインソード、ケイローンで一気に襲いかかれば、初手で五体は潰せるはず」

その言葉に弓花とジンライ(生き霊)が頷き、それに頷き返した風音がまずは一歩と部屋に入った瞬間だった。突然、ビーッという警報音とともにサイレンが点灯しだしたのだ。

「基地のセキュリティに反応された?」

『チッ、ハイバグモーフがこちらに気付いたようだぞ。いや、それよりもカザネ。マザーだ。マザーバグモーフがおかしい』

「え?」

ジンライの言葉を聞いて、風音が視線をマザーバグモーフに向ける。すると、死んでいるように見えたマザーバグモーフの腹部が確かに動き始めていた。

「風音。ハイバグモーフが襲ってくるわよ」

「旦那様、振り払って」

風音がそう言って虹竜の指輪をかざすと、空中にドラゴンの尾が出現して迫るハイバグモーフたちを弾き飛ばした。

『いかんな。ワシがやるぞ』

「ジンライさんっ」

そして、そうしている間にもマザーバグモーフの腹はさらに活動を活発にし、義手シンディが 補助腕(サブアーム) を駆使して一気に駆け、 聖一角獣(セントユニコーン) の槍をマザーバグモーフの腹へと振るった。

『ぬぅっ!?』

だが、その攻撃は一足遅かった。

強烈な金属音とともに、 聖一角獣(セントユニコーン) の槍の一撃は、マザーバグモーフの腹の中から突き出てきた爪によって防がれた。

『なんじゃ、これは?』

そうジンライが叫ぶが、次の瞬間には義手シンディの身体が浮き、腹から出た爪によって大きく吹き飛ばされる。

『ぬぉぉおおお!?』

「師匠ッ」

弓花がその様子を見て叫ぶが、すぐさま槍を構えて迎撃の態勢を取った。腹部から出てきた緑色の何か、それは小さなバグモーフであったが、それが弓花の元へと走り出してきたのだ。

「こいつ、速いッ?」

弓花が驚きの顔で、迫る緑のバグモーフに対して槍を突く。だが緑のバグモーフは槍を爪でクロスして防ぎ、『ギギギッ』と笑った。

「弓花。そいつは多分リトルバグモーフだ」

「ああ。仁美さんの言っていたヤバいヤツね」

対峙しながら弓花がリトルバグモーフを見る。

緑色に見えたのはマザーバグモーフの体液を被っているためのようで、それは表面の色が白い小さなバグモーフだった。

そして次の瞬間、その白いバグモーフの姿が弓花の前から消えた……ように風音には見えた。

「なっ!?」

だが、弓花の瞳にはそれは消えたのではなく、恐るべき速度で移動したためだと理解できた。だが、理解できれば対処もできるのかといえばそうではない。

『ユミカ、後ろだ』

ジンライ(生き霊)が叫ぶが、もう遅い。

弓花の身体はリトルバグモーフの攻撃を受けて弾き飛ばされ、そのまま大部屋の壁に激突した。