作品タイトル不明
第八百四十一話 触手で行こう
『師匠。私もいますよ』
そう言いながら弓花が近付くバグモーフを突いていく。
その身は龍神刀『雷火』と融合した刀身化という状態になっていて、全身が刃の固まりと化していた。なおかつ、その身からは雷と炎が噴出しており、近付くものは刃で切り刻まれるだけではなく、焼かれ、雷に倒れることとなるのだ。
この刀身化は、狼化や竜化の変化ほど身体のスペックが向上するわけではない上に身体も微妙に重く感じるため、弓花基準で考えれば決して使い勝手が良い変化ではなかった。しかし、ゴーレムや魔物剣などのような無機系魔生物と同じ存在となるために呼吸の必要はなく、宇宙空間での活動すらも可能となるのだ。
『うむ。よく来てくれたなユミカよ。それにあれはツインソードか?』
ジンライが弓花から視線を移した先には、バグモーフと交戦に入っているタツヨシくんツインソードの姿があった。両手で双刀を振るい、バグモーフと渡り合う様はジンライから見ても見事と言えるものだ。
何しろトゥーレ王国で秘蔵されていた人形の動作パターンをタツヨシくんツインソードは十分以上に発揮できている。その実力はジン・バハルやオーリ、或いは変化していない弓花と対等か、場合によっては上回るほどのものなのだ。
『やはりアレは強いな。前線に出していないのが勿体ないくらいだが』
『あー、ダメだよジンライさん。あれぐらいの強さがないと今のダンジョンのレベルだと後衛に何かあったときに護りきれないもの』
普段はタツオの護衛となっているが、タツヨシくんツインソードは対バックアタック用の切り札でもある。巨体のアダミノくんでは防ぎようもないような素早い敵が相手でも対応できるように、あえて後に控えさせているのだ。
『まあ、それはそうだがな。ともあれ、お前たちずいぶんとここに来るのが早かったではないか』
そんな会話を返しながらも、ジンライはシャカシャカと絶えず 補助腕(サブアーム) を動かしながら、槍を繰り出しバグモーフを仕留めていく。
『そりゃあジンライさんたちが行方不明って聞いたからね。ダッシュで来たよ。結局は自力で脱出したみたいだったけど』
そう返すジュエルカザネが宇宙基地の外壁を縦横無尽に駆け巡ってバグモーフを攻撃していく。それはもはや風音の姿を留めておらず、顔以外の全身を触手にして、触手の先を刃にしてバグモーフのコアを貫いて破壊し続けていた。
何しろ宇宙空間内でのバグモーフは動きが鈍く、触手を避けるほどの機動力もないのだ。風音にとっては良い的であった。そして、それはもはやどちらが化け物かの判別が難しいほどの光景でもあった。
『脱出まではいっておらんし……まあ、正直ライルたちをどう運ぶのかで詰んでおったからな。一カ所にまとめるのがせいぜいだったわい』
ジンライはそう言って義手シンディの持つ槍で目の前のバグモーフのコアを突き、それを柄で弾いて正面からどかすと、ついにマザーバグモーフまでの道が見えた。
『よし。開いたぞ』
『師匠と風音は行って。ここは私が押さえるから』
『うん、了解。そんじゃ、とっとと潰そうか』
そして、後方から来るバグモーフを弓花とタツヨシくんツインソードが足止めし、ジュエルカザネと義手シンディはマザーバグモーフに向かって、無数の触手と 補助腕(サブアーム) を動かしながら駆けていく。
そして、マザーバグモーフが迫る風音たちに対し、音のない世界で吠える動作をした。それは威嚇にも見えたが、同時にマザーバグモーフの身体が震え始め、その巨大な体から何かが無数に飛び出してきた。
『む、小型のバグモーフ? それが膨らんで大きくなった?』
『ふむ、まるで風船のようだな』
『だったら、ちょいなーー!』
そのバルーン型バグモーフにジュエルカザネの触手が攻撃を仕掛ける。だが、触手がバルーン型バグモーフを貫いた途端に爆発した。
『あんぎゃーーー』
ジュエルカザネが爆発によって弾き飛ばされて宙を舞う。
『むぅ、攻撃すると自爆するタイプか!?』
それにジンライ(生き霊)が驚きを露わにして、その光景を見た。
『こりゃあ、厄介だね』
ジュエルカザネがすぐさま触手を伸ばして外壁に掴まって元の場所に戻るが、どうやら敵は自爆攻撃を仕掛けてくるタイプのようだった。その敵を前に、ジュエルカザネが唯一形の残っている顔部分の眉をひそめながら口を開く。
『あの手のタイプはちょっと厳しいな。私はこの身体だとスキルが使えないし、投擲攻撃はひとつしか持ってないんだよ』
『ぬぅ。ワシも今飛び道具がないぞ』
義手シンディで 雷神砲(レールガン) を放つにしても弾がない。その言葉に、刀身化弓花から質問が飛ぶ。
『師匠、雷走りは使えないんですか?』
『うむ。この義手の身では、闘気を上手く練れんのだ。接触時に発動させることならば辛うじてできるのだが』
『だったら、私がやるしかありませんね』
そう言って刀身化弓花が前に出ると、次々と闘気を飛ばす槍術『雷走り』を放ってバルーン型バグモーフを攻撃していく。だがバルーン型バグモーフの数は多く、またなかなか丈夫であるために倒しきれず破裂しない場合もあった。そして、そうしている間にもマザーバグモーフが背を向けて逃げ出すのが見えたのだ。
『ああ、マザーが逃げるよ』
『アレは、そのための盾代わりか』
ジンライ(生き霊)は歯軋りし、ジュエルカザネは一歩前に出る。
『こうなりゃ、奥の手を使うしかないかッ』
そう言って、ジュエルカザネが体内に収納していた光る輪っかを取り出して構えた。
『それはなんだ? む、光輪だな』
『そう。さっきメガビームを封印した光輪だよ。これでも喰らえーー!』
スキル『光輪』。それは光術を吸収し、使用者の意志によって吸収した光術を放つ光の輪っかである。それがジュエルカザネによってバルーン型バグモーフの群れに向かって投げられて、群れの中心に近付いたと同時に宇宙空間内で大爆発を起こした。
『やった! いや、やり過ぎかも』
『うわ、みんな壁に掴まって!』
そしてジュエルカザネが、刀身化弓花が、義手シンディが、タツヨシくんツインソードがとっさに外壁に掴まり、その彼らの目の前でバルーン型バグモーフが次々と誘爆して宇宙空間を衝撃波が襲った。そして周囲のバグモーフたちは吹き飛び、またそうしている間にもマザーバグモーフが第七十九階層の宇宙基地の中に入っていくのがジュエルカザネには見えた。
『あー、逃げるな。こらー』
ジュエルカザネが叫ぶが、それは情報連携で弓花とジンライには聞こえても当然マザーバグモーフには届かない。
そして爆発が収まった頃にはマザーバグモーフの姿はもう消えていたのである。
『くっ、逃がしたか』
義手シンディがプルプル震えている。槍が届く後一歩のところで逃げられたのだ。悔しくないはずがなかった。
『どうする風音? 一旦は仁美さんとこに戻る?』
『いんや、追うよ。出直して地上に戻って再びここまで来るとなると、数週間はかかるだろうし、その間に回復されて、またやり直しになるかもしれない。それに……』
風音が第七十九階層の宇宙基地を見る。それは第七十八階層と第七十七階層の宇宙基地に比べてかなり小型で用途の違う施設のように見えた。
『ゲームでも、何度も再戦するボスっているじゃない。三度目ぐらいでようやく決着つくようなウザいタイプの。あれはそういうタイプで、多分あそこがその最終決戦の場所だと思うんだよね』
『あれ、風音。あんた、生身も宇宙に来たの?』
弓花が、宇宙用作業着を来た風音がやってくるのに気付いて尋ねる。
『うん。このまま外を出て移動した方がショートカットできるしね。それにこうすれば』
風音がジュエルカザネを動かして、そのまま己の全身に纏わせていく。そして風音は宇宙用作業着の上に透明な結晶が覆ったのである。
『ジュエルカザネを使えば作業着を護れるし、スキルも使用できたんだよね。もう少し早く気付いてれば、ここでマザーも倒せたかもしれないのに……ちょっと失敗したよ』
『ま、あの場だとジュエルカザネで戦ってて正解だったかもしれないけどね。アンタ、爆発をモロに受けたでしょ?』
弓花の指摘に風音が「ぐぬぬ」という顔をした。
『まあ……ともかく、せっかく追い詰めたんだからこのまま倒しちゃおう。続けて第八十階層のダンジョンポータルまで解放させれば、地上にもすぐに戻れることになるわけだし』
『ダンジョンポータル? やっぱり一度、戻ったりはしないわけ?』
『うん。直樹たちがいつ回復するか分からないし、全員を抱えたまま戻るとなると時間もかかる上に、マシンナーズソルジャーたちがワラワラ寄ってくる第七十階層を通るのも危険だと思うんだよね』
その言葉には弓花も「ああ」と言って頷いた。
このまま地上に戻るには第七十階層にあるダンジョンポータルを経由するのが一番確実ではあるが、その途中の摩天楼エリアなどでマシンナーズソルジャーたちと戦闘となる可能性がある。意識不明者たちを抱えた状態で増援を呼ばれ続けるのかなり危険であると弓花も理解したのだ。
『くくく、その通りだカザネ。なーに、敵は目の前だ。さあ、行くぞユミカ。アレを打ち倒し、地上に帰還するぞ』
そして、ジンライがガシャガシャと 補助腕(サブアーム) を動かしながら先へと進んでいく。決着まで後一歩、意気揚々と進む義手シンディに続いて風音と刀身化弓花、それにタツヨシくんケイローンは第七十九階層へと入っていくのであった。