軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百三十五話 タイムアタックで行こう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第六十四階層

バキバキと音を立てて石像たちが動いていた。彼らの狙いは転がっている赤い果実である。それを掴もうと一斉に手を伸ばしたとき、背後から凄まじい速度で何かが迫ってきた。

「風神槍!」「カザネバズーカ!」「なんか凄いチョップ!」

その一撃で三体のストーンタイタンがコア諸共破壊され、その場で崩れて転がった。そして最後の一体は、

『ツインソードが隙を造ります。止めはケイローンが』

『オォォオオオオオオンッ』

タツヨシくんツインソードがその首を落とし、ナビの指示に従ってタツヨシくんケイローンのドラグホーンランスがコアを貫いた。

「よし、全部破壊した」

そう言いながら風音が周囲を見回す。直樹たちの救出のために 金翅鳥(こんじちょう) 神殿に入って数時間。すでに五度目の偽装石像群の破壊である。

それから、見漏らしがないのを確認した風音は後ろに控えていた二体の巨猫と銀狼に声をかける。

「そんじゃあユッコネエ、クロマル頼んだよ」

風音の言葉に「にゃー」「ウォンッ」という鳴き声が返ってくると二体の獣たちが先へと走り始める。その後を風音たちが乗ったタツヨシくんケイローンが追っていく。

そして、それこそが今風音が取り得るダンジョン内最速移動の手段であった。

以前より使用していたデコイ用ヒッポーくんでは、移動速度が限定される上にフレキシブルな罠の対処も難しい。そのために、今回はユッコネエとクロマルをデコイ用ヒッポーくんの代わりに先に進ませ、能動的に罠を発見し、誘発、或いは破壊することを指示して行動させていた。

場合によっては、罠によってどちらもダメージを負うかもしれないが、それでもクロマルもユッコネエも召喚体であるため、死ぬことはなく、ただ召喚が解除されるだけなのだ。

普段であれば、風音もユッコネエにそんな無茶を指示することもないが、今は緊急事態だ。ベストを尽くすためにも、この陣形を維持しながら進むのが一番であると……そう風音が考えていると、

「にゃっ」「ウォンッ」

正面のユッコネエとクロマルが同時に鳴いた。その次の瞬間に天井からトゲ付きの石畳が落ちて、凄まじい激突音と共にユッコネエたちのいた床へと落ちたのである。

「クロマルッ……と、無事だったか」

弓花が一瞬身を乗り出したが、すぐさまホッとした顔をした。何故ならば風音たちの前には石畳で潰されたはずのユッコネエとクロマルがいたのである。

「ふぅ、ギリギリ」

風音が、虹杖を握りながらそう口にした。風音はとっさに転移魔術を使ってユッコネエとクロマルを転移させていたのだ。

『あー、綱渡りだわ』

その様子を見ていたJINJINが安堵のため息をついた。さすがに召喚獣であるとはいえ、愛らしい姿のニャンコとワンちゃんが潰されるグロシーンなどJINJINも見たくはない。

ともあれ、目論見自体は上手くいっていた。

ユッコネエたちが罠を誘発させて、回避しきれなければ風音が転移魔術を使って逃がす。それは風音が常に警戒しながらユッコネエとクロマルの座標を固定し続ける必要があるために、相当に集中し続ける必要がある。だが、落とし穴でも圧し潰しでもとっさに対応が可能であることをたった今、風音は証明した。

「さあ、急ごう。まだ先は長いし、今日中には第七十階層まで行くんだからね」

風音が汗を拭いながらそう言って、ユッコネエたちを促し、自分たちもタツヨシくんケイローンに乗って移動を再開する。

なお、同階層にいるジュエルラビットやゴールデンアイは紅蝶のアミュレットがあるために精神攻撃に引っかかることもないし、今は無視して進む方針だった。

警戒すべきはストーンタイタンとトラップのみ。特にこうした回廊タイプは即死トラップが多い。

その類の罠は、その日の内にさらに三度風音たちを苦しめることとなるのだが、幸いなことにユッコネエたちを犠牲に強いることなく、その日は第七十階層の隠し部屋まで辿り着いた。そして風音たちは三時間の休憩の後、フューチャーズウォーの舞台を元にしたらしいエリアの移動を開始するのであった。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十階層

『あー、今回は楽ちんだ』

バサーと風音ドラゴンが翼を広げて空を飛んでいる。

第七十階層の隠し部屋を出た後、すぐに風音はスキル『竜体化』によってドラゴンとなって空へと上昇した。

第七十階層は崩壊した摩天楼のエリアで飛べる広さの空がある。

以前は 自動機関銃(セントリーガン) によって上空を飛ぶことは難しいと考えていたのだが、スキル『空身』は 自動機関銃(セントリーガン) のセンサーを回避できるのは確認済み。

風音ドラゴンはスキル『空身』と『インビジブルナイツ』を使い、ビルの上を悠々と飛んで移動していた。

なお、タツヨシくんケイローンとツインソードは大型格納スペースに収納されている。

『絶景かな、絶景かな』

その風音ドラゴンの背に乗りながら、JINJINが嬉しそうに眼下を眺めていた。

『世はまさに世紀末って感じねえ。フューチャーズウォーまんまだわ、これ』

「あー、やっぱりそうなんだ」

フューチャーズウォーのゲーム経験者のお墨付きである。

『特徴的なビルもいくつかあるし、完全に一致してるわね。すごーい。これ、どうやって造ったんだろ? まあ、ダンジョンのエリアって他も大概なイメージはあるけど、これはまた異様ね』

「そうですねえ。ダンジョンの中に要塞や街や宇宙基地まであるし。滅茶苦茶ですよね」

弓花のボヤキにJINJINがケタケタと笑う。もっとも、その笑いもすぐに収まった。それからJINJINの顔が真剣なモノに変わり、風音ドラゴンに声をかけた。

『風音。右からなんか来るけど……』

『え、ホントだ。もしかして、バレた?』

どうやら近付いてきているのは小型の戦闘機であった。その戦闘機は近付くと機首に設置された機関銃を動かして、風音ドラゴンに対してバラバラと撃ち始めた。

『やっぱり、バレてる!?』

風音が仰天した顔で翼をはためかせて、逃げ始めた。スキルセットした『暴風の加護』によって弾丸のほとんどを逸らすことはできるモノの、発射される弾の数が多く、すべてを防ぎきることはできない。

『っつ。当たった。チックショー』

そう言って風音ドラゴンが空中で旋回するも、追ってくる戦闘機はバーニアを縦横無尽に動かしながら、まるで曲芸のように飛び回って攻撃を仕掛けてくる。

さらにはミサイルまで発射されて、JINJINが爆弾を投げて相殺しなければ危ういところであった。

「あれを倒さないとマズいか」

弓花が動き回る風音ドラゴンの背に掴まりながら、声を上げる。

「風音。少しだけ、足場を……背中を平行にしてもらえる?」

『ぬう。止まるとお尻に弾が当たりそうなんだけど。痔になりかねないんだけど』

『私が護るわよッ。せい!』

JINJINが力を込めると、風音ドラゴンの後ろに不可視の壁が出現する。それはかつて風音たちを苦しめたディアボの技であったが、今ではJINJINの、風音を護る盾となっていた。

『これなら問題ないね。せいやっと』

そして機関銃の攻撃が遮られ、風音ドラゴンの動きが空中で安定する。その上で弓花がアイテムボックスからアダマンチウムの槍を取り出して構え、

「いいやぁあああっ」

槍術『雷神槍』を投げ放ち、戦闘機へと直撃させた。

『おお、現代兵器がファンタジーに負けてしまった』

JINJINが感心した顔をしている前で、戦闘機はエンジンから炎を上げながら空中を錐揉みさせて落下していき、そのまま崩れたビルに激突すると大爆発を起こしたのであった。

『やったッ』

『一機目はね。けど、あーりゃダーメね。次々と来るわ』

喜んだ風音ドラゴンに水を差すようにJINJINが冷静に言葉を返す。そのJINJINの眼鏡には、さらに三機の戦闘機が近付いてくる光景が映っていた。

『やっぱり、進入禁止エリアの制限は厳しいわね』

『来るのが遅かったってことは途中までは効果あったんだろうけど、スキルでも騙しきれないっぽい』

「どうする? 近付いてくるし、あれと戦い続けるよりは降りちゃった方がいいんじゃない」

『だねー』

弓花の言葉に従い、風音ドラゴンはビルとビルの合間を飛んで戦闘機を撒きながら地上へと降下していった。

そして風音がドラゴンの変化を解いてビルの中へと逃げ込むと、三機の戦闘機はそのままビルの上を通過してどこかへと飛んでいった。どうやら戦闘機からは逃れられたようである。

「レーダーか何かかな。まさか空身もバレるとは」

風音が眉をひそめてぐぬぬと唸ったが、ドラゴン姿で空を移動するのは難しいようだった。

「地上を進んでいくしかないわね。こりゃあ」

『まあ、その前に……ひとまずはあれを何とかしなくちゃだけどね』

ビルの外を見れば、マシンナーズソルジャーや軍用車が集まっていて、さらに遠くから十メートルの巨体であるバスターウォーカーが数機近付いてきているのが見えていた。それらを排除か、回避か、風音は状況を見ながら選択肢を決めていく。

それから風音たちはさらに先へと進んでいく。その日は第七十四階層まで辿り付き、隠し部屋でさらに三時間休息をとると、再び進み、約十時間後には第七十七階層へと入ることに成功した。

その合計時間は実に五十九時間。風音たちはわずか二日半で第七十七階層までの踏破を完了したのであった。