作品タイトル不明
第八百二十九話 二手に分かれよう
人間を襲う計画を企てているゴブリンたちをどうするか、その風音の答えは当然のごとく討伐であった。
そして用意されたゴブリン討伐の第一陣は、風音のスキル『ゴーレムメーカー』によって造られたマッドゴーレム軍団二百体であった。
それは第七十階層で手に入れた電子式ライフルやスナイパーライフル、手榴弾やミサイルランチャーなどを装備させた近代兵器メインのゴーレム軍団だ。それを風音はゴブリンの群れへと突撃させたのだ。
実のところ、この マッド(泥) ゴーレムというゴーレムは、風音が用意できる中で、もっとも質の悪いゴーレムであった。ロクに硬化もされず、ただ人型を保てる程度の魔力しか注がれていない低級ゴーレム。それは本来であれば囮程度にしか役に立たないはずだったが、それでも電子式ライフルのトリガーを引く程度のことはできるのだ。
そこに『ゴーレムメーカー』のスキルレベル6で手に入った総合ゴーレム制御システム『ナビ』が加わることで、その軍団は無慈悲な鉄雨を発生させる悪魔と化した。
何しろ風音が簡単な指示を行うだけで、『ナビ』は自動判断してマッドゴーレム軍団を効果的に動かすことが可能なのだ。
それらが森から一列に並んで集落へと突き進み、ヤクトゴブリンを次々と撃ち殺していく。さらにはスナイパーライフルを装備しているマッドゴーレムは、後ろに控えていたアパスルゴブリンをも次々と仕留めていった。
一方で運良くマッドゴーレムの元へと接近できたヤクトゴブリンもいるにはいたのだが、その次の瞬間には手榴弾の爆発によって挽き肉へと変わり、固まって移動している群れがあればミサイルランチャーが見舞われて吹き飛ばされた。
一撃でも攻撃を受ければマッドゴーレムは容易く崩れ落ちることになるだろうが、ヤクトゴブリンもアパスルゴブリンもそれができない。まったく近付くことができず、ただバタバタと倒れていくしかなかった。
それは、ゴブリンたちにしてみれば悪夢以外のナニモノでもなかっただろう。今や彼らの目に映っているモノは マッド(泥の) ゴーレムではなく、 マッド(狂気の) ゴーレムそのものであった。
続いて用意された第二陣は、マッドゴーレム軍団とは集落を挟んで反対側から接近していた、やすやティアラたちで編成されたチームだった。
作戦段階で、ゴブリンたちはマッドゴーレム軍団に手も足も出ず後退を余儀なくされることは分かっていたため、彼らは背後からゆっくりと接近して期を待っていた。そして、予定通りにゴブリンたちが後退を始めると同時に姿を現し、ティアラがサポートスパイダーに搭載されている大型蓄魔器(改)の魔力すべて消費して、召喚獣ルビーグリフォンを喚び出し『滅の炎』により敵を焼き払った。
対して、アパスルゴブリンは神力の恩恵により威力は半減したようだが、共にいたヤクトゴブリンのほとんどは焼き殺された。
前と後ろ、そのどちらからも迫ってくる脅威に対してゴブリンたちが恐怖する中、さらに第三陣が彼らのボスへと迫っていた。
それは、風音のスキル『インビジブル』と『空身』によって隠されて接近していた巨大な魔獣。全長六メートルにも及ぼうという、全身を鱗と銀の鎧で包み込んだ竜頭の霊獣『麒麟』と呼ばれる存在。
それは、龍神刀『雷火』の力を『友情タッグ』によって増幅させて変化した弓花であったのだ。
その麒麟化弓花が神力を結晶化させて巨大化した槍を手にし、背負われている風音の黄金翼によって空から襲撃を仕掛けていたのだが、そこにゴブリンゴッドキングの雷が放たれた。
『くっ、気付かれた!?』
降下中に雷撃を喰らった麒麟化弓花の顔が歪む。それはもはや、胆力無き者ならば心臓が止まりそうなほどの恐ろしい表情であった。
「ギキィィッ」
それを見て、ゴブリンゴッドキングが吠える。ゴブリンゴッドキングはわずかな違和感を頼りに麒麟化弓花の接近を気付いて雷を放ち、その正体を露わにすることに成功していた。
『だからって、ここまで近付けばぁっ!』
衝撃で『インビジブル』と『空身』が無効化されたが、すでに敵は目の前だ。これならば外さないと弓花が気合いを込めて咆哮する。
「弓花。クィーンの雷撃は気にしないで攻撃をッ!」
『あいよっ』
風音の言葉に弓花が従い、その槍の先をゴブリンゴッドキングへと向けて飛んでいく。
「ギキィッ」
その迫る麒麟化弓花に対しゴブリンゴッドクィーンが杖を振るい、神の雷を放あった。
「あっまーい」
だが、同時に周囲の地面から金属の糸が飛び出して伸び、杖の前に蜘蛛の巣のように張られた。
「ギギィ?」
「ほい来た。ドンピシャッ!」
神の雷は接触した金属の糸に流され、その周囲の地面へと拡散されていく。
その金属の糸の正体は地面を潜らせて周囲に待機させていたメタルカザネだ。
そして、ゴブリンゴッドクィーンの攻撃は失敗に終わり、弓花の一撃がゴブリンゴッドキングを襲った。
「ギキィイイッ」
ゴブリンゴッドキングが溜まらず叫び声を上げる。切り裂かれた左腕が宙を舞い、鮮血が飛び散ったが、それは麒麟化弓花にとっては不本意な結果だ。
『逸らされた?』
弓花の狙いでは、不意打ちの一撃でコアを破壊して戦闘不能にするつもりだったのだ。だが、ゴブリンゴッドキングの身体能力は弓花の予想を超えていた。なおかつ、その知性もまた並の魔物を凌駕していたのである。
「ギギッ、ギキィイイイイ!」
それからゴブリンゴッドキングは、叫び声を上げながらその場から飛び退いた。同時にゴブリンゴッドクィーンもその巨体に似合わぬ素早さでゴブリンゴッドキングと逆の方へと跳んで離れていく。
『何なの?』
弓花が眉をひそめ、風音も首を傾げたが、その答えはスキル『情報連携』で繋がっているJINJINから届けられた。
『不味いわ風音、弓花。あいつら、バラバラに逃げるつもりみたい。キングとクィーンのどちらかでも逃げられれば、立て直せるとか叫んでるわよ!』
「ぬぅ。どっちの鱗も欲し……いや、残しておくとどのみち人間を襲うだろうからね。弓花、こうなったら分かれるよ!」
『ああ、もう。せっかく、麒麟化したのにッ』
そう言い合った後、風音が麒麟化弓花の背から黄金翼をはためかせて飛び降りる。そして風音が離れると弓花は二メートル半の二本足で立つ銀狼へと変わり、召喚された麒麟化ケルベロスに乗って、逃げるゴブリンゴッドキングを追い始めた。
一方で風音は大型格納スペースからロクテンくんを取り出て乗り込むと、キングとは反対の方向に逃げ出したゴブリンゴッドクィーンを追いかけ始めた。
『マスター。アパスルゴブリンが妨害に来ています』
その直後に、ナビから警告がされる。残っているアパスルゴブリンが、己らのボスを護ろうと雷を放とうとしているのが風音の視界に入った。
(あの数なら問題ない)
『狂い鬼、アレを倒してッ』
次の瞬間には、狂い鬼とダークオーガ軍団がアパスルゴブリンの集団の中に一瞬で召喚された。それに、その場は大混乱となり、アパスルゴブリンも風音への攻撃どころではなくなっていた。
『邪魔はいらない。これで一対一。悪いけど倒すからね』
そう口にする風音の前をゴブリンゴッドクィーンが巨体をピョンピョンと跳ねさせて逃げていく。だが、風音もそれを逃すつもりはない。
風音はロクテンくんの背より生えている両翼にドラグホーントンファーを握らせると、ファイアブーストを解き放って飛行速度を上げていく。
『伐採ッ!』
さらには森の木々を避けていくゴブリンゴッドクィーンに対し、ロクテンくん阿修羅王モードは縦横無尽に剣を振るって、木々を切り倒しながら接近していく。瞬く間にその距離が詰まっていき、もう間近というところで風音がスキルを発動させた。
『逃がさないよッ!』
それは『マテリアルシールド』で、ゴブリンゴッドクィーンの正面に不可視の壁が張られた。
『ギキィッ!?』
そこに激突したゴブリンゴッドクィーンは、まるでゴム鞠のように跳ね飛んだ。
『終わりだぁあ!』
そこにロクテンくん阿修羅王モードが直進する。だが、ゴブリンゴッドクィーンは宙を舞いながらも龍神の鱗の杖を振るい、目の前に雷の壁を形成した。
『不味ッ、ファイアブースト逆噴射ッ』
それを見て風音がドラグホーントンファーを正面に向けてファイアブーストを放ち、雷の壁と激突する前にロクテンくんを空中で留まらせる。
「ギキィッ」
だが、ゴブリンゴッドクィーンがそれを見て笑った。
『まさかっ?』
その様子に風音が目を見開かせるが、そのまさかである。ゴブリンゴッドクィーンがさらに杖を振るうと、発生した雷の壁がロクテンくんに向かっていったのだ。
「アレを操作できるなんて、よいしょっと。スキル・イージスシールド!」
対して風音が魔法防御のシールドを張るが、それは通り抜けられる。神の雷は、見た目こそ雷だが神力故に無属性の攻撃である。わずかばかりでも防げないかと風音は考えたが、それはまったくの無意味であった。
それを把握した風音は続いて、狂い鬼の成果により先ほど『追加』されたスキルを放つ。
『スキル・神の雷!』
風音から発せられた白き雷が、白き雷の壁へと激突する。だが、その表情は険しいままだ。
『駄目ッ?』
如何せん威力は雷の壁の方が大きかった。風音の放った雷では雷の壁の出力には敵わなかったのだ。
そして、雷の壁は威力をいくばか殺されながらもロクテンくんへと接触し、
『クッ、ウワァアアアアアッ』
風音の悲鳴と共にロクテンくんは地面へと落下していったのであった。