作品タイトル不明
第八百二十八話 襲撃をされよう
ゴブリンゴッドキングは、少し前まではメゾトルの森に住む普通のヤクトゴブリンであった。
群れの中でも強くも弱くもない、真ん中辺りの立ち位置にいたゴブリンゴッドキングは、とある日に突然闇の森の方より飛んできた何かに巻き込まれたのだ。
それは大地を抉るほどの強力な一撃で、ヤクトゴブリンが追いかけていた獲物は一瞬で肉塊に変わり、その衝撃波によってゴブリンゴッドキングも宙に投げ出されたが、幸いなことに落ちた先は木々の密集した場所であり、怪我も掠り傷程度であった。
それからゴブリンゴッドキングは、おっかなびっくり飛んできた何かを確認しようと森を進み、そこでキラキラしたものを見つけたのだ。
もっとも、それを最初に手にしたのはゴブリンゴッドキングではなかった。ゴブリンゴッドキングが辿り着いたときには、そのキラキラしたものは森を闊歩するエビに奪われていた。
エビはキラキラしたものを手に入れると瞬く間に巨大になり、同じようにキラキラしたものを手に入れようと迫る魔物たちと戦いを始めた。ゴブリンゴッドキングはそれをただ見ているだけだった。
それから、しばらくすると巨大なエビは他の魔物に倒されることなく、外殻だけを残して腐り落ちて死んでしまった。
その次にキラキラしたものを手にしたのは蜘蛛だった。
それはエビよりも保たなかった。それから二度か三度、腐り落ちるか、戦いで敗れてを繰り返しながら持ち主を変え、周囲が魔物の死骸で埋め尽くされ、やがて他の魔物も近付かなくなった頃にようやくゴブリンゴッドキングはそのキラキラしたもの、巨大な鱗の元へと辿り着き、ソレを手に入れたのだ。
それは他の魔物たちの時と同様に、ゴブリンゴッドキングに強大な力を与えたが、また同時に全身を焼き尽くすような苦痛も与え続けた。
ゴブリンゴッドキングは三日三晩悶え苦しみ、近付く魔物を殺して喰らい、気が付いた頃には現在の姿に変わっていた。
手に握った鱗はもうキラキラはしていなかったが、そのキラキラがすでに己の内にあるのがゴブリンゴッドキングには理解できていた。キラキラを、鱗を通して外に出せることにも気付いていた。
それからゴブリンゴッドキングは、己の内にあるキラキラが別の場所にあるのも感じてとって、その場所へと向かった。
そして、辿り着いた先には同じように魔物たちの屍の山があって、その中心にはキラキラの宿っている鱗があった。
それを見て喜びを露わにしたゴブリンゴッドキングであったが、さすがにふたつのキラキラを受け入れるのは無理だと気付く。であれば、どうするか。その答えとして己の仲間を連れてきて、鱗の力を与えることにしたのである。
それは五度失敗し、六度目のメスへの移植でキラキラを定着させることに成功する。それから彼の行動は迅速であった。
何しろ己が強くなっていようが、彼らが闇の森の魔物に抗せるかといえば微妙だ。ゴブリンキングも己の力をそこまでは過信してはいなかった。
であれば、闇の森の魔物とは出会わずにいたいとはゴブリンゴッドキングは考えたが、闇の森の魔物はメゾトルの森までやって来て、それなりに強くなった個体をまるでオヤツのように食べて帰って行く。
そして、その日は来た。闇の森の魔物が一匹、ゴブリンゴッドキングへと襲ってきたのだ。それをゴブリンゴッドキングはゴブリンゴッドクィーンや仲間たちと共に撃退した。
群れに被害は出たが、彼らは勝ったのだ。
彼らは闇の森の魔物にも通用した。だがゴブリンゴッドキングは闇の森に挑もうとは思わなかった。逆に群れを率いて森を抜けることを決意した。
ゴブリンゴッドキングは聡明だった。今回は闇の森の魔物は倒せたが、群れの被害も考えれば、もっと快適な土地に移る方が良いと判断したのだ。
そのための候補については配下となったヤクトゴブリンたちが教えてくれた。闇の森とは反対側に自分たちに似たひ弱な種族がいることを教えてくれたのだ。
闇の森から離れれば魔素が薄まるし、当然彼らの力も弱まる。だが、それでも闇の森よりも安全ではあろうし、ニンゲンという種族の生活ぶりを聞いて、ゴブリンゴッドキングにも欲が出た。強き自分たちこそが、そうした暮らしに相応しい種族だろうと考えた。
だが、人間は油断ならない戦士も大勢いるとのことだった。だからゴブリンゴッドキングは仲間を集めることにした。己の血肉を与え、集まった仲間の力も底上げしていった。
そうして瞬く間にゴブリンゴッドキングの群れは拡大し、それはもはや闇の森の魔物たちにも無視できないものとなっていた。
そして、何度か闇の森の魔物を退けたところで、そろそろ森を出ようかとゴブリンゴッドキングが考えていた時期であった。
それが来たのは……
「ギギィ?」
最初に気付いたのは見張りのヤクトゴブリンだ。森の奥からゾロゾロと迫ってくる者たちを視界に捉えたのだ。その数はおおよそ二百に及び、その身体からは生命力を感じなかった。
ともあれ、明確にその集団はゴブリンゴッドキングの群れへと向かってきているのは間違いない。報告を受けたゴブリンゴッドキングは、であれば敵であろうと判断して敵襲であると吠えた。
そして、見たところ、それはゴーレムでも低級の存在、グレイゴーレムですらない マッド(泥) ゴーレムと呼ばれる類の魔物のようにゴブリンゴッドキングには見えていた。
魔物というのはしばしば大量発生することがある。現在のゴブリンゴッドキングの群れもまさしくそうで、同様の現象が起きているのであろうとゴブリンゴッドキングは考えた。
であれば、問題はないはずだった。マッドゴーレムなど、この森のおいてはただの雑魚でしかない。妙な鉄の槍を持っているようだったが、そうであっても両者の間には絶対的な力の差がある。そう考えて、ゴブリンゴッドキングがヤクトゴブリンたちを突き進ませた。
その直後である。
けたたましい破裂音が無数に響きわたり、次々とヤクトゴブリンが倒れていった。その原因はマッドゴーレムたちの持つ鉄の槍の先から飛び出た何かであった。
さらに、その後方で控えていたアパスルゴブリンにも被害が出ている。鱗は飛んできた何かを弾いたが、むき出しの肌や頭部などは貫通し、悲鳴を上げてバタバタと倒れていった。
さらには、何かしらが投げられて爆発し、大きな鉄の筒からは恐るべき魔術のようなものが放たれて、固まっていた十数の仲間たちが弾き飛ばされていった。
それはあまりにも一方的な光景だった。例え、目の前の敵がただのひ弱なマッドゴーレムであっても、届かなければ倒せない。
だが、ヤクトゴブリンに遠距離を攻撃する手段はない。慌ててアパスルゴブリンが雷を放つが、後方からでは届かない。であればと前方に出たアパスルゴブリンは、やはりマッドゴーレムに届く前に倒されてしまう。
それらを見据えて、ゴブリンゴッドキングは仲間たちに退くように指示をした。
自分が出れば倒せなくはないかもしれないが、今立て直さなければ己の軍勢がほとんど壊滅してしまうと考えたのだ。
そして、そのゴブリンゴッドキングの予想は正しい。
だが下がっても状況は好転しない。なぜならば、後方からも敵は来ていたのだ。
それを魔物の群れだと配下のアパスルゴブリンが叫んだ。ゴブリンゴッドキングは目を細めて、後方より迫るそれを見る。
そこにいたのは、大きな鎚を持った小さきニンゲン、メスの悪魔、ニンゲンの頭に寄生した幼竜、巨猫に一角の銀狼、それにニンゲンのメスの身体を生やした巨大蜘蛛と、それを護る炎の戦士であった。
中でも最初に攻撃を仕掛けてきたのは、ニンゲンの頭部をくり抜いた中に寄生している小さきドラゴンであった。それがマッドゴーレムよりも長い槍を持って、ゴブリンゴッドキングへと何かを放った。それをゴブリンゴッドキングは斧で弾き落として、飛んできたものの正体を知る。
放たれたのは鉄の玉であった。その様子を見た幼竜はゴブリンゴッドキングへの攻撃を止め、アパスルゴブリンへと標的を定めて攻撃を続けていく。
アパスルゴブリンがいかに鱗に身を守られていようと、頭部を貫通してしまうのでは意味がない。強力な一撃が次々と当たり、仲間たちが悲鳴を上げて、マッドゴーレムたちも少しずつ前進しながら、鉄の玉を撃ち続けていく。
状況は最悪。前か後ろか。突破するならばどちらにするか……と、ゴブリンゴッドキングが考えた直後だった。ニンゲンのメスを生やした蜘蛛の上に巨大な赤い鷲獅子が現れたのだ。
そして次の瞬間には、赤と黒の炎の大波が吐き出され、ゴブリンたちを一掃していった。
「ギギィィイイイイ」
そして炎を斧の力で弾きながら、ゴブリンゴッドキングが叫ぶ。
状況は分からず、己の群れを襲い続ける理不尽に対して怒りをまき散らした。
だが、ゴブリンゴッドキングは叫んだ拍子に上空を見たとき、そこに何か違和感があるのに気付いた。直感のままに斧を振って、違和感へとキラキラを放つと、そこに何かが出現したのだ。
ゴブリンゴッドキングには分かった。そこにいるのは己と同じ力を持つ存在だと。
それは、全身を鎧と鱗で包み、黄金の翼を生やした巨大な怪物であった。ソレは咆哮し、槍を構えながらゴブリンゴッドキングとゴブリンゴッドクィーンへと躍り掛かったのである。