軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百二十七話 その集落を目撃しよう

「しっかし、便利だな」

そうやすが後ろを見ながら呟いた。その視線の先にあるのは、ティアラの乗る蜘蛛型サポートゴーレムであった。

「確か、ジョーンズの工房にもゴーレムはあったよな。えーと、鍛冶師タイプの人型ゴーレムとやたらゴツい馬型のヤツが」

「スパーク号とセリオンハンマー二号だね。スパーク号は学習中だから、まだちゃんとは使えないって聞いてるよ」

どちらも親方用に用意されたゴーレムである。スパーク号は魔導線を多用し、細かい動作ができる鍛冶サポート用の人型ゴーレムで、セリオンハンマー二号は以前に軍に接収されたゴーレム馬の二号機であった。

それ以外にも、バトロイ工房ではモンドリーをリーダーとしたゴーレム兵団製造チームが今も稼働しているのだが、それをやすは見ていないようだった。

「あれに神々の雷炎が加わるのか。ミンシアナってのはつくづく油断できねえ国だな」

「ゆっこ姉ひとりで大体どうにかはできそうなんだけどねえ。でも、人手が少ないらしくてあんま余裕はないんだって」

「まぁなぁ……」

ゴルディオスの街に来る前に、ミンシアナという国を調べたやすには、その事情も大体理解できていた。ミンシアナ王国は一見して普通の国ではあるが、十年ほど前にゆっこ姉が軍部と組んで国を乗っ取った形の軍事政権である。その上で軍が増長せぬように国内で抑えられているのは、ゆっこ姉というバランサーの存在によるところが大きかった。

またゆっこ姉は、それらをジーク王子に継がせるために現在も様々な政策を行っているところであり、カザネーランド建国についてもジーク王子即位後を見据えて一種のストッパーを意図して進めているようだった。

そんなことを話している風音たちに、森の奥から狼の仮面を付けた銀鎧の戦士と一角の銀狼がやってくる。もちろん、それは弓花とクロマルであった。弓花は先行して、状況を確認しにいっていたのであった。

また、神狼の甲冑は 全身甲冑(フルプレートメイル) であるにも関わらず、その機動力をまったく損なわせることはなく、また装甲同士がぶつかり合う音もほとんどしない。そのことにやすが驚きの顔をしていた。

それからカシャンと狼の仮面を外した弓花が眉をひそめながら口を開く。

「見っけたよ。なんか凄いことになってる」

「凄いこと?」

風音が首を傾げ、それにやすやティアラ、メフィルス、ユッコネエも同様に首を傾げた。一行がその難しい顔をした弓花の話を聞くと、彼らもまた弓花同様に眉をひそめた。

それから弓花に案内されるままに、ひとつめの龍神の鱗の着弾地点から臭いで辿った場所、またふたつめの龍神の鱗の着弾地点の近くへと進んでいった。そして、風音たちはそこで魔物の集団の姿を見たのである。

◎メゾトルの森

「ギギィ!」

『ギィィイイイイイイイイ!』

そこは木で造られた家らしきものが建ち並ぶ集落であった。その集落の住人たちは人間ではなく、普通よりもガタイのデカいゴブリンたちのようであった。

また、集落の中心には、大きな社のような建物があり、そこには斧を持った背の高い筋肉質のゴブリンと、杖らしきものを持った相撲取り体型のゴブリンが立っていた。

それぞれが持つ斧と杖を見れば、それが龍神の鱗を縛って作ったもののようだった。

「ゴブリンゴッドキングにゴブリンゴッドクィーンってウィンドウに出てるね。どうもあの二体、龍神の神力を取り込んじゃったみたいだよ」

集落から離れた位置で観察しながらの風音の言葉に、ティアラとメフィルスが驚きの顔をする。

『私と同じですか?』

タツオがタツヨシくんツインソードの上で、くわーっと鳴いて尋ねる。

「あっちは龍神の鱗から取り出しただけで、タツオのは自前の神力だからね。一緒じゃないよ。タツオの方が全然凄いよ」

風音の言葉にタツオがくわーっと嬉しそうに鳴いた。

『だが、ゴブリンと言えば低級の魔物の代表格であろう。神力を取り込むことなど可能なものなのか?』

眉をひそめているメフィルスの問いに風音が頷いた。

「どうもゴブリンの中でも上位種のヤクトゴブリンの群れみたいだし、ゴブリンの中でも結構強い部類だよ。それにゴブリンって適応能力と潜在能力が高いから、他の魔物に比べて龍神の神力を受け入れるのに適してはいるだろうね」

「ああ、見たことあると思ったらヤクトゴブリンってゲームで戦ったことあるか。けど、問題なのはあの二体だけじゃないよ風音。周囲のゴブリンの中にヤクトゴブリンじゃないのもいるの。多分クロマルの麒麟化に近いと思う」

その弓花が指差す先にいるゴブリンたちだが、全身に鱗が生えていてパリパリと雷が放電されている個体もいた。

「うーん。あれって、もしかして力を分け与えたのかな? でも、どうやって?」

その風音の言葉に、やすが少し考えてから口を開く。

「多分だが……あの 番(つがい) のゴブリンどもは、群れに自分の血肉を与えてるんじゃないか?」

「魔物がそんなことするんですか?」

弓花の問いにやすが頷く。

「結び付きの強い種族間だと稀にあるんだ。ほら、ボス戦にボス以外の妙に強い雑魚敵が出ることがあるだろ。魔物は強い魔物の肉を食べると進化するからな。ボス格の魔物が配下に血や肉を与えて進化を促すことがあるって話があるんだよ。で、あれだ」

それからやすの指差した先にいるのは、相撲取り風のゴブリンゴッドクィーンであった。それが自分の目の前にやってきた普通のヤクトゴブリンの前で己の指をベキリと千切って、そこから流れる血をヤクトゴブリンの口へと注いでいく。

また、千切った指をヤクトゴブリンの群れへと投げると、それにゴブリンたちが殺到する。

「痛そうですわね」

「うん。けど……ヤクトゴブリンが変化していく」

風音の言葉通り、その場でヤクトゴブリンに進化が起こり、鱗が生えてステータス上ではアパスルゴブリンと名前まで変わっていった。またゴブリンゴッドクィーンの指もすでに傷が修復されて、指が生え始めているようだった。

「こりゃあ、結構やばいかもなぁ」

やすが眉をひそめる。

「やす君。JINJINは?」

「今、呼んでるところだが……」

『もぉ、いいところだったのに』

「うぉっと」

唐突に響いた声にやすの身体がビクリとなる。影の中からJINJINが出現し、やすの後ろに立ったのだ。それは影と影を移動する悪魔の転移の一種であった。

「いきなり出てくるな。ビビるだろ?」

『そりゃあ、驚かせるためにやってるんだから、当たり前じゃない』

JINJINがケラケラと笑う。当然、反省する素振りもなかった。

『まったく、魔王剣がようやくドラゴンの中へと吸い込まれる直前だったのよ。ノリにノってたのに……で、なんなのよ。やす?』

「ああ、それは……と、カダスはどうした?」

『使い魔に護らせてるから大丈夫よ』

「そうか。その……だな。アレを見ろ」

やすが指差した先を見たJINJINが目を細める。

『ゴブリン。それも妙なタイプ。ふーむ、ほぉほぉ。物騒なこと話してるわねぇ』

「分かるの?」

風音の問いにJINJINが頷く。

『吸収したゴブリンの魂から『ゴブリン語』を選択してるからねぇ』

「風音みたいですね。それ」

弓花の問いにJINJINが肩をすくめる。

『んー、同じように使えなくはないんだけどね。能力を使うと相手の魂に干渉するから、精神を奪われるとまではいかないまでも結構消耗は激しいのよ。知識や記憶へアクセスすると同調して人格が書き換わる可能性もあるし、思ったほど便利なもんじゃないわよ』

JINJINが悪魔のデメリットも口にし、風音たちが難しい顔をする。

「なるほど。私と似てはいるけど、結構違うんだねえ」

『そっちはノーリスクでしょ。羨ましいなー。交換して欲しいなー』

「ポンポン切り替えできるわきゃねーだろ。で、物騒ってのはなんだよ? お前が言うんだから相当に物騒な話なんだろ?」

やすの問いにJINJINが『まーねー』と返す。

『人間の国を攻めようって言ってるのよ。そのために、森中のゴブリンを召集させて強化させてるみたい。どのみち、この森で強くなってもロードゾラン大樹林の魔物に食い殺されるだろうから、準備が整い次第メゾトルの森を出て人間の街を襲ってゴブリンの国を造ろうぜって盛り上がってるわよ』

そう口にするJINJINの言葉に冗談の色はなかった。そして目の前のゴブリンの数はすでに四百を超えていて、それらの半数近くはアパスルゴブリンへと変化しているようでもあった。どうやら、かなりの急ピッチで準備が整えられていたようである。

そのJINJINの言葉にやすが眉をひそめる。

「確か、ここらはトゥーレ王国の領地内だったか。ソルダードの方に向かう可能性もあるけど……どちらにせよ、あのレベルの魔物を倒すのに兵を整えてたら、下手をすれば街がいくつも落ちるよ?な」

近隣の住人にとっては最悪の事態が今この場で進行しつつある。ここで叩かなければ、かなりの被害が出るのは目に見えているが、だがそれでもこの数は少人数で挑める数ではない。そう思いながら、やすは風音を見た。そして、風音の判断は……