軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百二十四話 解決策を見つけよう

「ヒゲもじゃはイヤだなぁ」

弓花の第一声がそれであった。

「ヒゲの何が悪い?」

「いやー。おっさん臭そうだし。ただヒゲってだけならともかくもじゃっとしてるのはさすがに無理ですよ、やすさん」

あっはっはっはと笑う弓花に、やすが「ぐぬぬ」と唸ってから親方に尋ねた。

「ジョーンズ、ヒゲ悪くないよな?」

「アッタリメェでさぁ」

親方がブンブンと首を縦に振っている。その横では、風音が「弓花はイケメン好きだからなぁ」とぼやいていた。弓花にとって、背の小さいヒゲもじゃ親父など眼中にはないのである。ドワーフなど路傍の石ころのようなもの。端整な顔立ちのイケメンこそが弓花の宝であった。

そういったやり取りの後、やすが目を細めて弓花に尋ねる。

「しかしよ、弓花。お前、妙に落ち着いてるな? 一応言っておくと脅しじゃあねえぜ?」

「ハァ。それは分かってますけど、それって神々の火種を宿した時点で言われてましたし、今んところ公言しない限りは気付かれてもいませんしねぇ」

実際にこの街にいるドワーフも、弓花が神々の種火持ちとは気付いていないようである。神々の炎こそバトロイ工房にあるのは知る人ならば知っているのだが、その出自はミンシアナ王国より授けられたとされており、関係者以外には不明のままだ。

また、弓花のことはボンゴ帝国へも極秘裏に伝えられている上に、帝国も鍛冶の巫女を危険に晒す意図はなく、他に情報を流すこともないだろうと思われた。

それから弓花は手を出して、再び龍神刀『雷火』を取り出す。

「それにこいつの雷炎を使うのは、今のところ無理ですしね」

「使えねえんですよ。あれ」

「使えない?」

弓花と親方の言葉に、やすが首を傾げる。

「一応、神々の炎だけなら移せるんですが、この龍神の雷を混ぜるとちょっと炉が壊れちまうんですよ。強力すぎて耐えられねえんですね。維持などとてもできませんわ」

親方が肩を落として、そう口にした。実際に親方も試そうとはしたのだ。結果として親方は工房の炉をふたつ失い、得るものは神々の雷炎は使えないという結果だけだった。

「あれがちゃんと動けば、龍神の大剣もちゃんと鍛えられそうなんだけどね」

風音もぼやく。

龍神の鱗を重ねた大剣は、現時点でも加工手段がなく、アダマンチウムのフレームで繋げているだけの状態で使用していた。

その風音の言葉にやすが首を傾げる。龍神刀は弓花が持っているが、大剣はやすには聞き覚えがなかった。

「龍神の大剣?」

「ああ、話してなかったっけ。これだよ」

風音がスキル『真・空間拡張』の大型格納スペースを選択し、その場に巨大な刀を持つ黒いロクテンくんを呼び出すと、その威容にやすが驚いた。

「おいおい、これがさっき話に出てたゴーレム兵か」

「今はリビングアーマー状態だけどね。ロクテンくん、龍神の大剣を出して」

風音の言葉にロクテンくんが頷くと、持っていた大刀を壁に立てかけて、背負っていた龍神の大剣を前へと出した。それを見てやすの目の色が変わる。

「これは弓花の龍神刀と同じ力の波動? ただ並べただけだが……鱗自体が恐ろしく強力な魔法具になってやがるな」

「へい。ロードゾラン大樹林ていう闇の森の主である竜神の鱗らしいですな。攻撃用に飛ばされたもので、斬る、突くに特化した神力が込められておるんですが……見事すぎてまったく加工のしようがないんですわ」

その親方の言葉には、やすも納得するしかなかった。コンッと叩いてみると、強大なドラゴンの姿が脳裏に浮かぶ。だが竜気はまったくないのだ。神竜を超え、神そのものへと昇華したドラゴンの存在をやすは感じていた。

「こりゃ、やべえシロモンだ。ん? 柄に繋がってる鱗には神力が宿ってないな」

「あー、それは弓花の龍神刀に吸収されたんだよ」

「あー、なるほど。そういうことか」

やすが頷く。それに親方が肩をすくめて口を開く。

「『雷火』から出ている神々の雷炎を使えれば、恐らくは大剣の鱗の力も解放でき、神の雷を呼び出すことも可能なんでしょうが、現時点でそれを為す手段がねえんでさぁ」

そこまで聞いてからやすが目を細めて、大剣や龍神刀、それに炉を見る。

「鱗か。んー、そっちの神力の抜けた鱗ってのは……ふーむ。こいつだけか? あまりはないか?」

「神力が宿ってないのはこの一枚だけだね。これを外すと神力の浸食が強くなるから装備し辛くなるんだよ。他は……ロードゾランの周辺になら、まだあるかもしれないけど」

風音たちがロードゾラン大樹林を去ってからそれなりの時間が経っているが、基本的には周辺にあるメゾトルの森ですらも人の近付く場所ではない。今も回収されずに鱗が残っている可能性はあった。

「大剣の根に神力のない鱗を配置してるのは、ふたつの鱗の神力を吸収させて使用者への負担を和らげているためだよな。であれば鱗を砕いて炉に入れれば、恐らくは同じようにそれがクッションとなって神々の雷炎を扱うことも可能になるはずだ」

その言葉に親方が目を輝かせる。

「あのー。使えるようになっちゃったら、私が狙われる可能性は増えてしまう気が……」

「発展のための犠牲は付き物だ。うん、あきらめろ」

あっさり言うやすに、弓花が「え、マジっすか?」という顔をした。それにやすがニヤリと笑う。

「いや、冗談だ、冗談。俺の……というか、ボンゴ帝国の後ろ盾があって、扱うにはこれが必要だって分かれば、わざわざお前のところには来ないかもしれねえだろ。ゆっこと話を詰める必要はあるが……そのための実証も兼ねて、大剣の鱗が使えないんなら別の鱗を手に入れたい」

「やす君。多分、自分が欲しいだけだよね」

「あったりめーだろ。こりゃ、すげえぞ。鍛冶師としては奇跡みてえな炎さ」

やすは、正直だった。

それから風音はヤスの反応にやれやれと肩をすくめると、すぐさまゆっこ姉にメールで状況を報告する。

現時点で神々の炎は個人としては弓花が所有しているが、国としてはミンシアナに帰属されている。庇護の代償として勝手に動くことはできないのだ。そして、そのやり取りを風音がしている間に、やすが親方に尋ねた。

「で、ジョーンズ。てめえ、さっきの槍だがよ」

「は、はい」

親方が緊張した顔で言葉を返す。それには弓花の耳もピクッと動いた。

「お前さ。あれ、造るとき……弓花のこと考えてなかったろ」

「!?……やはり、分かりますか」

親方の顔に陰りが見えた。それには弓花が挙手し、槍を取り出して反論する。

「やすさん。でも私、全然使えてるよ。ほら」

「その蛇蝎銀で封印してる時点で説得力ねえんだよ。それに、お前が使えてるのは自らで適応したからだ。ジョーンズの腕じゃあねえ。お前のポテンシャルが高かっただけに過ぎねえ」

そう言いながらやすは、親方に言い聞かせるように言葉を重ねる。

「ジョーンズは、多分神聖銀に魅せられちまったのさ。これまで見たことのない素材を前にして、最大限にその力を発揮させようと、憑かれて無我夢中で造っちまったんだろう」

「おっしゃるとおりで」

「そいつは確かにお前の造った中じゃあ最高傑作だろうよ。だが本来であれば、使い手のいねぇ武器なんぞゴミも同然だ」

親方は俯いたままだ。やすの指摘は親方自身が痛いほどに分かっている。依頼されて造ったものが依頼者に使えないのであれば、それはただの自己満足でしかない。

「ただ、それでも」

やすが頭をかきながら、苦い顔をする。

「ありゃあ、俺には造れねえ。クソッ、苛立つぜ。所詮俺は凡人だからな。最優であっても、最高にはなれねえ。特にテメエ勝手にそういうのポンっと造られると溜まったもんじゃねえんだよ」

親方が慌てて「そんなことは」と口にするが、やすは聞いていない。

そのやすの顔に浮かんでいたのは紛れもなく嫉妬であった。決して自分には届かない、眩しいものを見て、嘆く人間の顔であった。それからやすが、まだメールでやり取りしてる風音と、弓花に対して口を開く。

「ホント、堪らねえな。風音、弓花、よく覚えとけよ。プレイヤーってのは、妙な力のおかげで普通よりも多くのことができるようにはなる。だけどな。それに頼り続ける限り、本当の一番にゃあなれねえんだ。例え、それを抜け出せても、己の素質の限界に突き当たる」

そのやすの言葉に弓花は首を傾げたが、風音にはその意味がよく分かっていた。ゴーレムメーカーも、転移魔術も、風音はウィンドウで使用する以上のものを未だに掴めていない。

一方でただ槍だけに打ち込み、己が身の血肉としている弓花は、今の時点でウィンドウがなくなったとしても、いくつかのセットしているスキルは失われるだろうが、その実力を損なうことはほぼないと言えた。

そこに自分とは決定的に違うとものがあることを風音は理解している。もっとも、

「分かっちゃいるけど、目移りしちゃうんだよねえ。便利だし」

「ハッ、分からんでもないけどな」

あっさりと言う風音にやすが笑った。

「で、ゆっこ姉。今からこっち来るって言ってるけど、概ね問題なしだって。ミンシアナとボンゴで共同研究ならって話で」

「つか、それ俺に調べさせて全部持ってこうとしてるよな」

そのやすの指摘は正しい。後にやってきたゆっこ姉の提案は、神々の雷炎の使用が可能となった暁には、ミンシアナ王国とボンゴ帝国の双方でそれぞれに分けられた火を管理し、共同研究をしていこうというものであった。つまりはマッスルクレイの時と同じである。

その他、ミンシアナに有利な条件が並べられたが、研究をより密に行うためという名目で長距離ポータルの設置も提案された時点で、恐らくは帝国は受けるだろうというのがやすの返答だった。

そして、龍神の大剣を完成させられるのであれば、風音もその話に乗らない理由はなく、あっさりとゆっこ姉の口車には乗った。

そして一行は、ロードゾラン大樹林の前にあるメゾトルの森へと再び向かうこととなったのである。