軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百十九話 知らないおじさんを無視しよう

◎ゴルディオスの街 白の館 玄関前

「んー、太陽マブシッ!」

玄関から出た風音がそう言いながら伸びをする。

今はダンジョン探索帰還の翌日。今回の成果は第七十六階層の出口まで到達で、探索期間は十二日であった。

昨日は風音たちが家に着いた頃には夜となっていたため、そのまま就寝し、本日は早朝訓練を休みにして、少し遅めに起きての外出となっていた。その風音の後ろでは弓花があくびをしながら付いてきている。それから弓花も空を見上げて、風音と同じように伸びをした。

その際に最近成長著しい豊満な胸が強調される形となったために風音が忌々しそうに舌打ちしたが、友人の悪意に気付かない弓花は空を見ながらサッパリした笑顔で口を開いた。

「やっぱり、本物のお日様はいいよねぇ。ダンジョンの中の空ってなんか色は変だし、太陽の光も浴びてる気がしなくてさー」

「まあ、確かにそうかも。なんか嘘くさいよね、アレ」

そんなことを弓花と風音が言い合いながら白の館の玄関から歩き始める。行き先は冒険者ギルド事務所で、ふたりは今回の探索で得た素材の換金や情報提供をしに行く予定なのであった。なお、換金素材に関しては銃器類と弾薬、手榴弾等はとりあえず貯めているので、実際に売り払えるのはマシンナーズブッチャーの巨大肉切り包丁、装甲や汚染メーターに抑制剤などとあまり種類は多くない。もっとも風音たちもお金には困っていないので、換金額が少なくとも問題はなかったりする。

「それにしても、あの銃器類って売っちゃわないの? もう百丁以上は溜め込んでると思うんだけど」

「あれ、実はゆっこ姉から売り払うのストップかかってるんだよねえ。それに銃は火力が安定してるからゴーレムを大量に造って持たせたら使えそうな気もするし。どんなときに使うかはまだ考えてないけどさ」

その返しに弓花も「あー、そうなんだ」と頷く。

実際に銃などのオーバーテクノロジーのアイテムが多少流れる程度ならば特に問題もないのだろうが、風音の所持している銃はその所持数が問題であった。

なにしろ風音は不思議な倉庫や大型格納スペースによって異様にアイテムを溜め込むことが可能で、今まで倒したマシンナーズソルジャーの銃器類のほとんどを回収していて、軍隊単位での運用が可能なほどとなっていた。ロケットランチャーも数十あるので、それを一斉に撃たせただけでも十分に驚異的なのであった。

現在はソルダード王国との戦争も回避できたため、ミンシアナはひとまずの平和が維持されている。そのためゆっこ姉は、自国の軍部にも余計な戦力を持たせたくはないようだった。

「ま、今はお金に困ってるわけでもないし、倉庫も新たに用意したから盗まれる心配もないからね。溜め込んでおくだけなら問題はないっしょ」

「まあねえ。あんたのスキルで収納してるんじゃあ、盗みようがないわよ」

風音たちはここまでに溜め込んだものに加えて、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の探索で手に入れたアイテムを溜め込み続けた結果、少し前に不思議な倉庫と風音コテージの倉庫だけではついに納まりきらなくなっていた。そのため、風音は『ゴーレムメーカー』で造った大型倉庫を用意し、まとめてアイテムを保管できるようにしていたのである。

今ではダンジョン探索中は不思議な倉庫にアイテムを保管し、地上に戻ると大型倉庫にアイテムを移動させ、風音コテージ一階の倉庫には日用品や備蓄類を入れておくようにしていた。

そして、風音たちが冒険者ギルドに向かおうとバトロイ工房の前を横切ったときである。

「よぉ、お嬢さん方」

風音と弓花に、唐突にヒゲもじゃのおっさんが声をかけてきたのである。

「あ、どうも」

それに風音が挨拶を返した。弓花も横で頭を下げる。

それから風音は(誰だろう?)と思いながら、首を傾げつつ通り過ぎようとすると「おい、ちょっと待てよ」とヒゲおじさんが少し慌てた風に再度、声をかけてきたのである。そのヒゲおじさんへと風音は眉をひそめながら、言葉を返す。

「えーと。おっさん、何かご用? 私たちパーティの勧誘は間に合ってるし、ゴーレム兵の製造ならゆっこね……国の許可がいるからね。もしかして、弓花の知り合い?」

「さあ? そのムサさは私のファンのムータンメンバーっぽくはあるけど……でもアイドル相手に気安く声をかけてくるような不届きものはいないと思うから違うと思うわ」

その風音と弓花のやり取りにヒゲおじさんが少し泣きそうな顔になっていた。それは何かしら当てが外れたという感じであった。

「いや、お前らなぁ。そろそろ、俺泣きそうなんだけど。なあ、俺だぜ? ほら、よく見ろって」

ヒゲおじさんが自分を指差すが、風音も弓花も揃って首を傾げるばかりである。風音たちに気軽に話しかけてくるおっさんドワーフといえば、オーリングのバックスぐらいしかいない。目の前のドワーフのヒゲおっさんについては風音たちも見覚えがなかった。

「うーん」

風音が考え込む。あえて言うならその貫禄は親方に近いものがあったが、知らないものは知らないのだ。風音はやはり覚えがないなーと思いながら口を開いた。

「ごめんね、ヒゲのおじさん。ちょっと見当が付かないから、ゴーレム兵関連ならバトロイ工房に、国の関連ならこの街の領主様に、指名依頼なら冒険者ギルドを通してくれる? ごめんね。私たち、ちょっと急ぐから」

「そうねえ。うん。正式な依頼なら受けるから。それじゃおじさん。また会えるといいわね」

そう言って、泣きそうな顔をしたヒゲおじさんの前を風音と弓花がトコトコと去っていこうとしたとき、工房の中から親方が出てきた。

「ちょっと、ヤス様ー。ひとりでいかんでくださいよー」

「やすさま?」

その親方の声に風音と弓花が「おや?」と言う顔をして、それからヒゲのおっさんを見た。

そして、風音と弓花が「???」という感じの顔でヒゲおっさんを眺めながら、少ししてから風音が「あれ、もしかして」という声を上げたのである。

そのリアクションを見て、ヒゲおっさんは「ようやく気付いたみたいだな」とガックリと肩を落としながら口を開く。

「な、俺よ。俺だよ。やすだよ。スペリオル化でな。ドワーフ族になったんだよ。だから見た目がちょっと変わってるけどな。まさか完全に気付かれないとは思わなかったぜ!」

「あー、やす君か。いや、種族というかヒゲ……がね」

顔のほとんどがヒゲもじゃで分かり辛く、また年齢も風音の知っているやすの倍はいっている見た目だったのでまったく気付かなかったのだ。『犬の嗅覚』もスキル取得前の相手の匂いには反応できない。その横で弓花が「え、本当に?」と声を上げていた。遅れて弓花もその相手の正体に気が付いたようである。

「本当にやすさん? 達良からはもう百五十ぐらいだって聞いてたから、とっくに爺さんになったものかと」

「たつよし? は? アイツ生きてんのか? マジでか?」

弓花の言葉に今度はやすが驚きの声を上げた。達良がすでに死んでいるのはやすも知っていたようである。そして、やすの勘違いを弓花が指摘しようとして、

『やすぅ。そぉれ、多分ナビのことだと思うわよぉ』

そう口にしたのは親方に続いて工房から出てきた、豊満なる胸を持つメガネの女性であった。その姿を見て、今度は風音と弓花が目を丸くする。

「は、なんでいるの?」

「え。もう死んでるはずじゃあ……」

その反応に女性がしてやったりとばかりにニタリと笑ったが、ふたりが驚くのも無理はなかった。

そこにいたのはやすとは違い、四百年前に目撃されていたために、すでに死んでいると思われていた人物だった。

その女はボインと胸を揺らしながら「はーい」と手を挙げて風音たちの前へとやってくると、風音と弓花の胸を交互に見てからウププと笑ったのである。

「弓花は成長してるけど、風音はぺったーんのままだねー。レベル上がっても増えなかったの?」

「うるさいよJINJIN」

風音がムスッとした顔でその相手を睨みつける。その人物とは、かつて風音がゼクシアハーツで達良、ゆっこ姉と共に組んでいたパーティ『TATU☆YOSHIと愉快な仲間たち』のメンバーであるJINJINだったのだ。