作品タイトル不明
第八百二十話 懐かしのメンバーで再会しよう
◎ゴルディオスの街 白の館 右館 客室
「粗茶です」
「粗茶か。再会したダチ相手だ。もっといいものはないのか?」
風音の出したお茶を飲みながら、やすがそう口にした。
「やすさん。それね、風音は粗茶って言ったけど、茶葉イコール金の重さなヤツなのよ。ダハスさんて人からのもらいものだけど」
「これがか。なんだよ、それ?」
弓花の解説に、やすが眉をひそめながら茶をすすった。それから少し難しい顔をしてから唸った。
「なるほど。確かに……美味いかもしれねえ」
『やす。あんたはそんな味が分かるような上等な舌持ってないじゃない。あ、こっちの羊羹は美味しいじゃない。おかわり!』
「はいはい。そっちはタイガーショップの栗羊羹で、王室御用達で一般には流通してないものだからあんま数はないよ仁美さん」
弓花が続けてそう口にする。なおJINJINの本名は、 神崎(かんざき) 仁美(ひとみ) で名字と名前の頭の神仁から取ってJINJINであった。
そして、このやすとJINJINのふたりはゲーム『幻想伝記ゼクシアハーツ』では、パーティ『TATU☆YOSHIと愉快な仲間たち』のメンバーであり、そこにリーダーの達良と風音、それにゆっこ姉を加えての五人のパーティだったのだ。
なお、達良コピーの情報により、譲渡クエストの開始場所であるセスの宿屋にやすは121年前に、JINJINは四百年以上前に訪れていたことを風音たちは把握していた。
『ふーん。王室御用達ってことはゆっこのところからのヤツか。いいもん、食べてるなあ。ボンゴ帝国もまずまずのところだけど、なんか味は濃いし、お酒は度数高いしで、そりゃあ腹も樽みたいになるわよねって感じだったもの』
「そうかあ。俺は種族が変化して味覚も若干変化してるのもあるからな。そういうの、あんま感じねえんだよ」
その言葉に風音が目を細める。
「ボンゴ帝国っていうと北の大陸のドワーフの国だよね。やす君はそこで鍛冶師をしてるってのはゆっこ姉からも一応聞いてたんだよね」
「え? そうだったのかよ。だったら、連絡ぐらいくれればいいのによ」
やすはそう言って口を尖らせるが、そこにやすにもたれ掛かっているJINJINが口を開いた。
『やすは帝国の 大匠(おおたくみ) 様だものねえ。今はミンシアナとボンゴは微妙な状況だし、ゆっこも女王って立場じゃあ、迂闊に接触できなかったんでしょ?』
「うん。そういうこともあるけどね。ゆっこ姉も最近調べて、やす君を発見できたのもちょっと前のことだったからね。ここ最近は忙しくて、こっそり連絡するにしてもイリヤさんは影武者していて動けなかったし」
「イリヤ? んー。まあ、いいか。こうして、俺の方から来て、会えたわけだしな。けどよ。風音、弓花。せっかくの再会だってのに感動がなさすぎないか? なんか、こうさー。出会ったら涙を流しながら抱き合って名前呼び合ったりするもんじゃねえの?」
「ああ。それはゆっこ姉でやったから、もういいよ」
首を横に振る風音に、やすが「いやいやいや」と言葉を返す。
「そういうもんじゃねえだろ。一度やったからもう必要ないとか、そういうの違わねえ?」
「ヒゲのおっさんと抱きしめ合うとかないんだよ」
『駄目よ風音。やすは顔は悪くないのよ。ヒゲも思ったよりも悪くないと思うわ』
「別にそんな拘りもないけどな。ヒゲ、生やしとかないと苛められるんだよ」
やすがヒゲをさすりながらそう答えた。少し情けない理由であった。
「けど、やす君が大陸北でドワーフの鍛冶師になってるってのは、まあ分かりやすいよね。元々のゼクシアハーツのキャラの職業がそうだったからさ」
「そうだなあ。色々あったけど……風音たちは違うみたいだが基本、自分が使ってたキャラと同じ成長させた方がやりやすいからな」
その言葉に風音が「あはは」と笑った。風音はスキルが手に入る能力のおかげで魔法剣士から万能型に方向性を変更していたし、弓花の英霊アーチは偏りすぎ、アイテムごり押しの悪い見本過ぎて参考にならなかった。また、直樹はひとりで戦う必要があったために回復メインの自キャラとはまったく別の魔法剣士となっていた。
そのやすの話を聞いてから、風音がJINJINを見る。やすはドワーフの鍛冶師。ではJINJINはどうなのかと思ったのだ。その言葉にJINJINが『私はねー』と口にしようとすると部屋の扉がガラッと勢いよく開いた。
「あれ、ゆっこじゃん。おはー」
「おはーじゃないわよ。生きてたんならなんで連絡よこさないのー!」
次の瞬間にはドゴンと良い音のパンチがJINJINに突き刺さる。
『ぐふ……バカな。私の今のレベルは236だというのに!?』
「多いわね。けど、レベルの差が戦力の絶対的な差ではないということをあなたは知るべきよ」
崩れ落ちたJINJINを見下ろしながら、ゆっこ姉がそう言い捨てた。それは、二十年ぶりに再会した親友に対する言葉とはとても思えなかった。
「姉貴。ゆっこ姉、連れてきた……って何この状況?」
「んー、いつもの状況?」
それからゆっこ姉に続けてやってきた直樹が驚きの顔をして、風音が言葉を返した。ミンシアナ王国の王城デルグーラにはまだ長距離ポータルの設置がされていないため、今回は直樹が 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) を使ってアダミノくんと共に一度王都に向かい、それからアダミノくんの付与されている『テレポート』の魔術でゆっこ姉を連れてここまで戻ってきたのである。
それから、ゆっこ姉はその表情を崩してJINJINとやすを見た。
「まあ、ともかく。久しぶり。再会できて嬉しいわ」
そう言ってゆっこ姉は少し涙ぐんで笑ったのであった。
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「これだ。これだよ。俺はこういうのを求めてたんだよ」
そしてゆっこ姉、直樹も交えてのプレイヤーたちの会合が行われる。その中で泣きやんだゆっこ姉を見ながら、やすももらい泣きをしていた。
『何よ。やす、アンタは私がいるのにまた浮気する気?』
そのJINJINの言葉に、「え?」と風音たちが反応する。それにはやすが少し焦りながら「ちょっと待て」と声を上げて、JINJINを指差す。
「こいつがウチに来たのって半年くらい前だぞ。さすがに俺だって色々とあったし、所帯も持って、もう女房は死んじまったけどさ。曾孫だっているんだぞ。今もバトロイ工房で待ってるんだぜ」
「あー。そういえば、さっき小さい子いたね」
風音がバトロイ工房の方を見ながらそう言った。やすは今ではボンゴ帝国の重鎮のひとりであるため、お忍びではあっても護衛にはそれなりの人数がいた。そして、やす以外は現在バトロイ工房で待機中であったのだ。
「で、やす君の方は分かるんだけどさ。JINJIN?」
『何?』
風音の言葉にJINJINが首を傾げる。だが、風音も気になっていたことは聞かねばならない。
「なんでJINJINって生きてるの? もう400歳は超えてるよね?」
『まあ、私今は悪魔だからねー』
「悪魔?」「嘘?」
JINJINのカミングアウトに直樹と弓花が驚きの顔を見せる。だが風音とゆっこ姉はまったく予測できなかったわけではなかったようで、少し困惑の顔はしつつもJINJINを見た。その視線にJINJINが『ていうかさー』と口を開く。
『今だから言うけどさ。実は私ってゆっこたちとはニアミスしてたのよねー』
「ニアミス?」
『そう。私が目を覚ましたのって、一年くらい前でね。まあ、目を覚ましたときはちょっと気が動転してて、その場からこっそり逃げ出してたんだけど。その、私が起きたのって怖い女王様が治める国の中だったのよね』
「怖い女王様?」
風音と弓花と直樹がゆっこ姉を見た。対してゆっこ姉は「大変だったのねえ」と頷いていた。それから「うん?」と首を傾げたのだ。
「あれ、なんか一年前の……レベルからして最上位の悪魔って……封印を解いて……怖い女王様?」
それからゆっこ姉が自分を指差すとJINJINがうんうんと頷いたのだ。
『四百年前にディアボって悪魔に食われちゃってさー。最近、ディアボの魂だけが死んだから私がこの悪魔の身体を支配することができるようになったってわけなの。まあ、それでひとまずは北へ北へと逃げたってぇわけよ』
その言葉には、さすがの風音たちも呆気にとられた。
ディアボとは、かつてツヴァーラ王国で風音たちが封印した悪魔の名だ。ディアボが封印された心殻壁は、悪魔狩り経由でゼクウ・キャンサーへと届けられていたところまでは発覚しており、すでに悪魔によって回収されていたと思われていたのだ。だが、実際のところ風音のセカンドキャラクターによってディアボの魂だけが死んでいたために、悪魔の内部にいたJINJINが押し上がって悪魔として復活を遂げていたのである。