作品タイトル不明
第八百十五話 窓の外を見よう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十四階層 隠し部屋 風音コテージミニ 浴場
「はぁー、相変わらずトンでもないものをポンポンと出してくるよね。もう、気持ちいいー」
湯船に浸かりながら、カンナがそう口にする。
マシンナーズブッチャーたちとの戦闘も終え、白き一団とも合流してからすでに二時間が経過していた。
カンナたちは、風音たちに地下の隠し部屋まで案内され、今は設置された風音コテージミニの中にある浴場にいた。
カンナが見る限り、その浴場は大きさこそ風音コテージの大浴場の半分にも満たないものの、機能性を重視した洗練された造りになっているようだった。
「今日はラジウム温泉だね。あったまるよー」
先に浸かっていた風音がそう口にしながら、デーンとくつろいでいる。今日は風音もホテルでの戦闘や探索を行って、そこそこ疲れていたのである。温泉が身体に染み入り、おもわず「くぅー」とおやじ臭い声をあげていた。
「うーん。これもゴーレムなんですか。私も精進しないと駄目ですね」
その風音の横ではユズが浴場の大理石風の床などをペタペタと触っている。同じゴーレム使いとして感じ入るところがあるらしく、その魔術痕から構築プロセスなどを推測しているようであった。その言葉にナイラが肩をすくめながら苦笑する。
「いやー。ユズはユズで頑張ってると思うわよ。ゴーレムの動きも以前に比べると相当に機敏になってるし、あの銃って武器に対しての盾にもなってくれてるしね。あーけど、こんな温泉が造れるなら、それはそれでいいかもしれないけど」
「温泉は温泉珠ってアイテム使ってお湯出してるんだから、ゴーレム魔術だけじゃ駄目だけどね」
そう返す風音だが、浴場にいる白き一団メンバーは風音ひとりであった。
他にこの場にいるのはクラン『青の明星』のカンナ、ユズ、ナイラ、アンナの四名で、さすがに風音コテージミニの浴場は全員で入るには狭かったため、交代で利用をすることにしていた。
風音は浴場の自慢も兼ねた浴場の説明役としてこの場にいたのである。
「温泉珠ねえ。でもお高いんでしょう?」
「うん。まあ、結構するのは確かだよ。だけど温泉珠は、ダンジョン内の宝箱からも手に入れられるみたいだし、もし見つけて売るつもりなら、私がお高く買い取るからその時はよろしく!」
「え、まだ温泉珠が欲しいの? まあ、いいんだけどさ」
カンナが少しだけ呆れた顔をして風音を見た。
風音は現在ふたつの温泉珠と、みっつの温泉のオーナーであり、情報屋の側面も持つカンナもそのことは把握していた。であれば、もう十分過ぎるのではないかとカンナは考えたのだが、しかし人の欲に終わりはない。風音はまだまだ温泉を求め続けているのであった。
「にしても、砂漠の例のヤツまで倒しちゃったとはね。まったく風音たちには恐れ入るよね。正直、私は近付きたくもなかったもの」
「あー私もあれは……」
「ユズ泣いてたもの」
「そ、そんなことないし」
続けて話題を変えてきたカンナの言葉に、仲間たちが次々と声をあげる。それを風音は「あはは」と笑いながら目が少しだけ泳いだ。
風音もセカンドキャラクターについては伏せ続けているため、そのことを話に出されると若干の後ろめたさを感じるようであった。そんな風音の心境には気付かず、カンナがため息をついた。
「あー、私も英霊欲しかったな。そっちの直樹や弓花も英霊持ちで、確かトールさんもオロチさんも英霊を持ってるのよね?」
「うん。トールさんのはフォックスアイアンって名前の英霊らしいね。どういうのかは知らないけど。オロチさんのは装備の構成が変わってなければ、かなり可愛い女の子のはずだよ」
風音の知るオロチの英霊は、ひめ蛇子という女性のキャラクターだ。
それはオロチのプレイヤーキャラクターにして、ゼクシアハーツ攻略まとめサイト『ひめ蛇子のダンシングオール攻略イェーイェー』のマスコットキャラでもある。
いわゆるネットアイドルであり、特に女子プレイヤーからは、そのぶりっこな性格からオタサーの姫的な扱いで嫌われることも多かったようで、対して「ひめ蛇子ちゃんはそんな子じゃない!」と某スク水ロリキャラを使う変態紳士によって擁護されて、それが逆に火をつけて炎上しかかったこともあるほどの人気っぷりだった。
「ああ、すっごく見てみたい。あのごつくて物静かそうなオロチさんが、そんな子を召喚してる姿って想像するだけでも面白そう」
「けど、オロチさんはあんま出したくないみたいだよ。すっごく可愛い女性専用の最強装備で身を固めてて、多分メチャクチャ強いはずなんだけどね」
それを聞いてカンナはますます見てみたくなったようだが、英霊というものは周回プレイヤーにとっては切り札そのものである。その機会がカンナに訪れるかどうかは今のところ不明であった。
「ま、それにしてもカザネには感謝するわ。この温泉もそうだしギュネスさんも戦線復帰できそうなんでしょ?」
「ギュネスさんのゴーレム義手も楽しみです」
「うん。お仲間ができた感じで私も嬉しいかも」
それぞれアンナ、ユズ、ナイラの言葉である。特にナイラの右腕はトゥーレ王国で失われ、今は風音製の義手が使われている。
同じ境遇となったギュネスのことが、ナイラは気になっているようであった。その仲間たちの言葉にカンナも「そうだねえ」と言って頷く。
「ひとまずは地上に戻って、ギャオにギュネスさんに合流しないと。義手のパワーがあれば、第七十七階層のアイツもどうにかなるかもしれないし」
「アイツ?」
首を傾げる風音に、カンナが少し考えてから口を開く。
「うん。うちが攻略を一旦中断して帰還せざるを得なかった相手が今、第七十七階層にいるんだよ。私たちだけじゃあ厳しいと思うし……リーダー判断にはなると思うけど、もしかするとそっちにも協力をお願いするかもしれない」
「それはいいけど……そんなに強い相手なの?」
風音の問いにカンナが頷いた。
「そうだね。かなり厄介な相手だったよ。いや、問題なのはそいつだけじゃなくて、階層自体が厄介でさ。ともかく私たちだけじゃあ勝てそうもなかったから、一旦引き返してきたんだよ」
そのカンナの言葉に、風音以外のその場の全員が少しだけ気落ちした顔をしていた。戦いに敗れて戻ってきたというのだから、その反応も仕方のないものがある。
それからカンナは、眉をひそめている風音に言葉を重ねる。
「何しろ第七十五階層から上はこの砂漠の街とはまた別のフィールドになっててね。そこには……」
それから続いたカンナの言葉に、風音は「マジで?」と声をあげた。
どうやらこの廃ベガスシティは第七十四階層だけのものらしく、次の階層のフィールドはまた随分と変わるとのことであった。
それから第七十七階層にいるという強敵のことも含めて、すべての話を聞き終えた風音が目を細めて呟いた。
「うーん。それは……確かに難しいねえ」
そして翌日、クラン『青の明星』と隠し部屋で別れた風音たちは、あまり実入りはよろしくなさそうな第七十四階層を早々に過ぎることにして、第七十五階層へと向かうことに決めたのであった。
カンナたちと共有したマップを元に先へと進みながら、風音たちは夕方には街の中心にあるカジノ横に設置してある地下鉄入り口へと下りていき、その先の階層出口を通り過ぎたのであった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十五階層 入り口
「ここが第七十五階層。で、本当にカンナさんの言っていた通りの場所なわけ?」
弓花がおっかなびっくりという顔をして、風音も若干緊張した表情で「うーん」と唸りながら周囲を見回していた。
風音たちが下りてきた場所は、鋼鉄の壁に囲まれた未来的な部屋のようであった。
「うーん。聞いていた通りだねえ。カンナさんの話通りなら、壁や窓を壊すとエラいことになるからね。 雷神砲(レールガン) とか使っちゃ駄目だからね」
風音がそう言い、後ろにいるゴレムスキャノンに乗ったレームが「分かってるって」と言葉を返した。
『母上。あれはなんですか?』
そして部屋の角に窓があるのを発見したタツオがパタパタと飛んでいき、そこから見える光景にくわーっと鳴いた。風音も窓の外を見て「おぉお」と声をあげてから、タツオの質問に答える。
「タツオ、アレが地球ってヤツだよ。本物だとすれば……私たちが住んでいる星ってことになるね」
その風音の言葉通りに、窓の外には地球があった。
風音たちのいる第七十五階層のフィールド。そこはどうやら宇宙基地のような場所だったのである。