軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百十一話 あれをどうにかしよう

ダンジョンと呼ばれる存在の中では、昼と夜の概念が存在している。そこは閉鎖された空間の中であるはずにも関わらず、空があり、太陽が昇って、落ちて、夜が来るのだ。太陽も空も、その色こそ不自然ではあるが、一日のサイクルというものが外と同じように存在しているのである。

そして今は夜の時間。砂漠の夜はダンジョンの中であっても凍える寒さに変わってしまうが、そんな中でも彼らはその動きを止めなかった。固まって動くことで熱を発し集め、ひたすらにごちそうを食べ続けていた。

そう、彼らの目の前には食べ尽くせぬほどの餌があったのだ。

何度となく昼と夜を繰り返すほどに続いた彼らとワームと呼ばれている巨大生物の戦いは、つい昨日に彼らに軍配が上がったのである。

すべてのワームが死に絶えたのだ。残されたのはまさしく山盛りの食料。その勝利者に与えられた報酬を彼らは食べ続けている。いつの間にやら街の中にいた彼らの仲間も駆けつけていて、共に元ワームであった肉塊を食らい続けているのである。

それは彼らにとってかつてない至福の時間であったろう。だが、その栄光の日々はもうまもなく終わりを迎えようとしていた。

『キ……モイ……デ……ス』

彼らの一部が遠くから近付いてくる何かを発見した。ゆっくりと彼らの元へとやってくる何かを彼らは気付いてしまったのだ。

ある程度の判断能力を持つ生命であれば、ソレがどういったものなのかを理解できたかもしれないが、彼らには分からなかった。動いているものだから、ソレを餌と判断してしまった。

『トテモ……トテモ……キモイデス』

ソレは人の形をしている『何か』であった。

金の刺繍の入ったボロボロの黒い衣を纏いながら、ボサボサの長い黒髪を揺らしながら、文様の描かれた角の生えた骨の仮面を被りながら、金の瞳から血の涙を流しながら、引きつった口元をガチガチと震わせながらソレはやってきていた。まるで目の前にある存在に恐怖するかのように、ソレはゆっくりと近付いていた。

対して、彼らはすぐさま動き出した。夜の砂漠にさざ波のような音を響かせながら、まるで大波のようにソレに迫っていった。

数にものを言わせての集団での突撃。彼らには連携など存在しない。我先にと食欲のままに飛びかかるだけである。

だが、ソレは彼らの横暴をただ黙って見ていることはなかった。

迫り来る黒い壁に、ソレの周囲に浮いていた無数の眼球が一斉に動き出して視線を向けた。

「オオ、キモイデス。サイアクデス。ゲキキモイデス」

そして、魔眼が発動する。次の瞬間には彼らは石となり、緑の液体となって破裂し、痺れて転げ、唐突に腐り落ち、内部から発火して焼失し、さらには仲間同士で食い合い始めていく。瞬く間に彼らの黒い壁は崩れていった。

だが、彼らの数は多い。状態異常を起こして動かなくなった個体をかき分けて、勢いのままに彼らはソレへと飛びかかっていく。

『キモイデス。スゴクキモイデス。ナオキミタイデス』

ソレはボソボソと何かを呟きながら、鎖に繋がれたギロチンの刃を振り回して、迫る彼らを容赦なく切り潰していった。ひと振りふた振りと振るわれるたびに彼らが消し飛ぶ。その、あまりの速さに彼らはソレへと近付くことすらできない。

その上に、ギロチンの刃から炎が噴き出して、回転する刃を中心に炎の竜巻が夜の砂漠に出現して天へと伸びていった。

突撃した彼らはソレに辿り着くことなく炎の渦に飲み込まれて、次々と死んでいく。

そこでようやく彼らの動きが変わったのだ。目の前にいるソレは、自分たちでは勝てない存在なのだと理解したのだ。

彼らに恐れはないが、だがまったく判断能力がないわけではない。多くの仲間が死んだことで、食えない相手だと判断すると、途端にスイッチが切り替わったように彼らは逃げることを選択した。まさしく蜘蛛の子を散らすかのごとく、彼らは一斉にその炎の竜巻から背を向けて逃げ出したのだ。

『ゾロゾロキモイデス』

だが、もう遅かった。

いつの間にか、彼らを取り囲むように周囲には炎の杖を持った巨大な人型の影が七体、立ち並んでいた。

それはまるで幽鬼のような気配を放つ、あまりにも大きな巨人たちだ。

その影たちを前に彼らが躊躇して立ち止まると、巨人たちは持っている炎の杖を振るって周囲に炎を拡散させ、彼らを包囲する炎の壁を生み出していく。

『キモイデス……燃エテシマエバイイノニ』

その中心でソレが呟く。続けて高く伸びていく炎の壁は中心の炎の竜巻と融合し、その場に恐るべき巨大な炎の柱を形成していった。その炎は彼らを焼き払い、やがて中心にいたソレ自身をも燃やし尽くしていく。

その大魔術の名は『 七つの大罪・炎上(セブンスギルティ・インフェルノ) 』という。

自らを犠牲にすることで 獄炎(ゲヘナ) を呼び出してすべてを燃やし尽くす最高位の炎の魔術はこうして完成し、命あるものをみな消し去っていった。

『キモイ……デス』

やがて、ソレも悲しそうに呟きながら燃え尽きていった。喚ばれた英霊はどれだけ凶暴な性格であっても、基本的には召喚主に従わなければならない。命じられたソレはどうやら本当に彼らが気持ち悪かったらしく、今までとは違って笑みを浮かべることなく消失していったのだ。

「終わった。これで安心して眠れるよ」

その様子を風音はかなり離れた場所から『遠隔視』で確認していて、すべての処分が完了したことにうんうんと頷いていた。

それから風音は警戒しつつ周囲を確認し、やがて例のヤツがもう残っていないことを確信すると、踵を返して地下水道の入り口の先にある隠し部屋へと戻っていったのである。

現在は真夜中、白き一団の仲間たちも寝静まっている頃だ。

夜の見張り番を買って出た風音は、こっそりと隠し部屋を抜け出しセカンドキャラクターを呼び出して、例の奴らを完全に駆逐することに成功したのであった。

そして、この戦闘により風音のレベルは2上がった。

実のところゼクシアハーツは、レベルが上がるのが比較的難しいゲームであった。同じ魔物を倒せば倒すほどに経験値は減少し、召喚体で討伐した場合には、さらにマイナス補正がかかるのである。また、高レベルになればなるほど、その制限は厳しくなり、カンストのプレイヤーなど本当に限られた者たちに限定されるのだ。

そのゲームでの仕様は、今もプレイヤーの経験値を得る条件として適用されているようなのだが、であるにも関わらず風音のレベルは今回2上昇していたのである。それは倒した敵の数がいかに多かったのかが窺える結果であったが、そのことを考えると泣きそうになるので風音は考えるのを止めた。

それから翌朝には、風音は仲間たちに英霊ジークで対処したとだけ説明して隠蔽工作を謀っていたのである。

そして、本日はいよいよ廃ベガスシティの探索だ。例の連中は一掃したが、街の中にはまだ敵も多いはずである。風音たちも気を引き締めながら隠し部屋を出て、滅びた街の探索を開始したのであった。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十四階層 廃ベガスシティ

そこは寂れた街の中であった。

その二階より上の窓ガラスが割られ、一階のシャッターが閉まった建物が並ぶ道路の一角にわずかに魔力光が走った。それから道路が不自然な形で陥没していくと、それは粘土のように変形して、地下から伸びた階段へと変わったのである。

「よーし、開通ー」

「おっ、明るい。けど、なんか人の来なくなった観光街みたいね」

「それ、例えじゃなくてまんまだと思うぞ弓花」

階段からは最初に風音が、続けて弓花と直樹が、さらに仲間たちがゾロゾロと出てきた。

「んー。周囲には敵はいないっぽいな?」

キョロキョロと周囲を見回しながらのライルに、ジン・バハルが『ライル様』と声を荒げる。

『油断なさるな。あのリビングアーマーモドキどもは動き出すまで気配が読めませんからな』

「そうよ兄さん。近くにいなくたって、あの巨大な建物から狙ってくる可能性だってあるのよ」

そう言ってエミリィが指さした先には、五十階はあろう巨大なホテルがあった。それを見た風音が「ふーむ」と言いながら叡智のサークレットの遠隔視で、ホテルを観察していく。

「何体かの狙撃タイプのマシンナーズソルジャーが見えるね。他にも隠れているかもしれないし、『暴風の加護』があるとはいえ油断はしない方がいいか」

そう口にする風音に直樹が尋ねる。

「で、どうするよ、姉貴?」

「うん。ひとまずはあのホテルを目指してみようと思う……けど」

会話の途中で、風音のスキル『アラーム』が反応していた。周辺を動く存在を関知し、風音の視線は周囲の建物に向けられていた。

「まずはここの掃除かな」

風音の言葉と共に仲間たちが構え始め、その次の瞬間には銃声と共に戦闘が開始されたのであった。