作品タイトル不明
第八百十話 あの場所に戻ろう
悪魔狩りに入る……というギュネスの言葉に、風音もギャオも、その他のメンバーも、止めようとする声はなかった。今ではルイーズが長となった悪魔狩りはその名の通り、悪魔を狩る組織だ。
そして宣言をしたギュネスに、風音が口を開いた。
「うん。ルイーズさんにも話はしてあるよ。『自由なる魂』のヴァーゼンさんの方もランクA冒険者なら歓迎だってさ」
風音の口にした『自由なる魂』とはキャンサー家とは別の、冒険者たちを中心とした悪魔狩りのクランだ。そのリーダーを務める男がヴァーゼンであり、魔道大国アモリアでは風音たちもお世話になったおっさんであった。
風音の言葉に、ギュネスが「ありがとう」と頭を下げてから、ギャオを指差した。
「ま、当面はこいつのいるブレイブに入って戦うつもりなんで、本格的に入るとすればその後ってことにはなるんだけどな」
それに、ギャオも「へっ」と笑った。
パーティ『マザーナックル』は、現状では実質解散となっているために、ギュネスはひとまずはギャオのパーティに入ることで話がついているようである。
「まあ、ここが悪魔に狙われる可能性は低くないし、情報もそこらに派遣されるよりはすぐに入ってくるからね。ルイーズさんからも、この場にいてくれる方が助かるって言ってた」
「そうか。では、何かあったらすぐに教えてくれ。真っ先に駆けつけるさ」
その言葉に風音が頷く。それからギャオが少しばかり首を傾げながら口を開いた。
「ところでよーカザネ。なんで悪魔は竜牙衆を襲撃したんだ? 助けに来たわけでもなく、皆殺しなんだろ?」
「うーん。それは多分、アンテさんの能力を狙ったんだと思う。ひとりだけ妙な死に方をしてたって聞いてるし」
他の人間はただ殺されただけだったのだが、アンテは下半身を残して喰われて死んでいたと風音も聞いている。他に目立って何かがあった痕跡もなかったために、狙いはアンテだったのだろうというのが、現状でのミンシアナ王国の調査結果であった。
「ドラゴンイーター……か。厄介な能力よね」
弓花が眉をひそめながら口を開く。スキルとして風音も『ドラゴンフェロモン』を持っているが、アンテはどうやら種子を植え付けて、ドラゴンを操っていたようなのだ。倒した空竜を調べた結果、頭部にドラゴンイーターの幼体と見られる植物が寄生しているのが確認できていた。
「トールさんも少しふさぎ込んでたよ」
「まあ、元々処刑になる予定だったとしても、元生徒だったって話だしなあ」
「あの空飛ぶ少女がやったとも思えないから、恐らくは雷獣に喰われたんだろうな。クソッ、トールの分までヤツは俺が……」
そう口にするギュネスに、ギャオがポンッと肩を叩く。
「ばっか、あんま考え込むなよ。ルイーズさん経由で悪魔の情報はもらえるように頼んであるんだ。ダンジョン探索が終わりゃあおれっちも一緒に悪魔狩りに付き合ってやるからよ」
「いいのか?」
「ま、ダチだからな」
そう言い合う男たちの姿に満足した顔をしてから、風音がゆっくりと立ち上がった。
「んじゃ、もう問題はないみたいだね」
「おう。なんかあったらまた頼むぜ」
「了解。一応、その腕にしても色々と許可は取って動いてるから、あんま無茶なことはできないけどね」
ギャオに風音が笑って言葉を返す。
現在、風音はゴーレム装備についてはゆっこ姉から色々と制限を受けている身であるのだ。
その理由は、 雷神砲(レールガン) などといった超兵器を大量に市場に流されると国家の危機に発展する恐れがあるためで、ゆっこ姉曰く「それぐらい、協力しなさいよ」とのことであった。
一方で風音の周囲で使う分にはゆっこ姉も口うるさく言うつもりはないようで、今回のギュネスの件も 雷神砲(レールガン) などを付けなければ……という注意はあったが、ノーとは言われていなかった。
また親方に頼んで好きにやれているのもゆっこ姉の裁量によるものである。ゆっこ姉を理由に、噂を聞きつけた有象無象の依頼も断れるので、現状ではスポンサーとクリエイターとして、持ちつ持たれつの関係となっているというのがゆっこ姉と風音の実態であった。
「けど、カザネ。サポートスパイダーはまたちーっと遅れるぜ」
「まあ、仕方ないよ。最近は色々あったしね」
そのふたりの言葉に弓花が首を傾げる。
「サポートスパイダー?」
「うん。ティアラの大型蓄魔器を乗せるゴーレムだよ。トールさんの魔導兵装にパーツ流用して、今回の義手制作でまたちょっと遅れちゃったからね。あ、ギュネスさんも畏まらなくていいから」
申し訳なさそうな顔をしたギュネスにフォローを入れつつ、風音が親方を見る。
「で、実際のところ、どんなもんなの?」
「そうだな。今回の義手の作成でまたフレームの構造に改良の余地が見えたからな。そこらへんをテストするにしても、お前さんらがダンジョンから戻ってきた辺りにはある程度のものは見せられると思うぜ」
「うーん。それじゃあ、そのまま進めてもらえるかな。私たちは今日、準備を整えたら明日からまた潜る予定だから……次戻ってくるのはどんぐらいだろ? まあ二週間から三週間内だと思うよ」
ギュネスの義手制作で動けなかったということもあったが、もう例の連中も鎮まっている頃だろうと風音は考え、明日よりダンジョン探索を再開する予定であった。
そう、いよいよ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の第七十四階層にある廃ベガスシティへと入るときが来たということである。
それから風音たちは、翌日には 金翅鳥(こんじちょう) 神殿へと入り、第六十階層のポータルから出て第七十四階層を目指して移動していった。途中、七十三階層で隠し部屋を発見しふたつめの永久バッテリーを入手することに成功し、第七十四階層へと到達する頃にはダンジョンに潜ってから四日が経過していたのであった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十四階層
「五日前には辿り着いたね」
「うむ。なかなかのペースだ」
第七十三階層からの入り口を出て、砂漠へと足を踏み出した風音とジンライがそう言い合う。最短距離とはいえ、四日で十四階層踏破である。中々の速度であった。
とはいえ、風音たちも途中の罠やストーンタイタンの像、それにマシンナーズソルジャーの待ち伏せなどによって足を取られており、最速とまではいかなかった。
進みようによっては三日でいけるのではと風音は考えていたが、それはそれでそれなりにリスクも跳ね上がる。
「けど、ポータルなかったら、これかなりしんどいよね」
「そうだな。通常であれば、何ヶ月かを潜りながら、中継地点をいくつも経由してクラン内でパーティの出入りを繰り返しながら進むだからな。他のダンジョンに比べて組織化されるのが遅かったという気はするが」
そうジンライは言う。今では白き一団を中心に複数パーティが協力体制を取っているが、ジンライの話によれば通常はもっと早い段階でそれは行われるものなのだそうである。
「ポータルができて、少ない人数でも深く潜れるようになったから……かな?」
「そうだな。まあ、今後はポータルが普及すれば、他のダンジョンの攻略も捗ってはきそうではあるが……」
「あれ、今のところ私しか造れないからねえ」
転移魔術の解析はまだ大して進んでいないらしく、量産化に向けての前途は多難だと報告を受けている。
「ま、そういうのは置いといて、そんじゃあ、そろそろ街に向かお……」
「あ、姉貴。アレを見ろ!」
レッツゴーという勢いの風音の言葉を遮った直樹が声を上げながら、とある場所を指差した。
「あん? 人がせっかく気合いを入れて進もうって時に……いったい……な、に、あ、れ?」
その指の先にある砂漠を見て風音が固まる。そこは以前に風音たちが見たときには巨大なワームたちが蠢いていた場所のはずであった。しかし、今そこに存在しているのはまったく別の何かであった。
「よし、帰ろう」
「いや、連中があそこにいるなら街の中は安全だろう。進むぞカザネ。まずはあの地下の隠し部屋に行くのだ」
いやいやーとジタバタする風音を片手で持ち上げながらジンライが進んでいく。直樹が「いいなー」という顔をして見ていたが、他のメンバーは遠くの例のヤツに目を向けないように、青い顔をしながら進んでいった。
どうやら例のヤツはワームたちとの生存競争に勝利したようで、無数のワームの死骸にワッサワッサと大漁に群がっていたのである。その光景はまさしく地獄そのものであった。