作品タイトル不明
第八百十二話 ヒットマンになろう
砂の混じった少し強い風が顔に当たり、風音が目を細めながら唸った。
廃ベガスシティは砂漠のど真ん中にある街だった。外の砂漠はどこまでも続いているようにも見えるが、こうしたエリアは反対側の砂漠に戻ってくるものであると、ジンライからは聞いていた。その先に特に新たなる世界が広がっているわけではないということである。或いは、隠し部屋が存在している可能性はあったが、それを探し続けられるほど風音たちも暇ではない。
そんなわけで忙しい風音は、ひとり廃ベガスシティのビルの屋上に立っていた。
「ふぅむ、気付かれてはいないみたいだね」
風音がそう言いながら視線をホテルへと向ける。
スキル『イーグルアイ』と『直感』、それに遠隔視を使って観測しながら、狙撃タイプのマシンナーズソルジャー、達良くんコピー曰くマシンナーズスナイパーの姿を確認していく。
「5、8、全部で12か。問題はなさそう」
風音の眼が鋭く光り、すべての敵を補足完了した。
今の風音は『知恵の実』を食すことで頭の回転も速くなっている。他のエネミーもいないことを確認すると、風音はアイテムボックスからとあるものを取り出した。
それはスナイパーライフルだ。
砂漠で遭遇したマシンナーズスナイパーから手に入れたものではあるが、風音が持っているスナイパーライフルの銃口の先には 電磁補助加速装置(レールサポーター) と呼ばれるものが装着されている。
それは先ほど、廃ベガスシティで発見した隠し部屋に隠されていたものだ。
このエリアの元となったゲーム、フューチャーズウォーでは武器の改造が可能であったらしく、 電磁補助加速装置(レールサポーター) はいわゆるカスタムパーツの類であった。それは発射された弾丸を電磁誘導によりさらに加速を加える装置だ。つまり装着した銃を簡易レールガンへと変えるカスタムパーツなのであった。
風音は今、ひとりでマシンナーズスナイパーの始末を行おうとしている。それは、この装備の性能を確かめるためであった。
電磁補助加速装置(レールサポーター) を装着することでスナイパーライフルの威力は向上し、射程距離も五百メートルから千メートルへと伸びていた。
風音はさらに「スキル・チャージ」と口にし、己のスキルを発動させてスナイパーライフルの威力を上昇させていく。
「ふふふ、私はヒットマンー。依頼を受けて殺すヤツー。無慈悲に狩りとるヒットマンー。冷酷非情、悪逆残虐、キラー的なヤツなのさー」
誰もいないことを良いことによく分からない創作ソングがその場に響いている。それから依頼も受けていないし、自主的に撃とうとしている時点で組織のヒットマンより悪質な風音スナイパーは、照準を合わせ、すぐさまトリガーを引いた。
「ヒットマーン。よーし、ワンキル。スキル・チャージ、続いて撃つぞー」
続けて二射、三射と風音がトリガーを引き、銃弾が放たれていく。
対して、マシンナーズスナイパーたちは、まったく為すすべもなく倒されていく。
風音が放った凶弾は正確にマシンナーズスナイパーの頭部に命中していった。
ただでさえ 電磁補助加速装置(レールサポーター) によって威力が強化されている弾丸は、スキル『チャージ』によってさらに強化されて、まさしく必殺の一撃へと変わっていた。
だが、風音自信はビルの屋上にいるのだが、そこは端から見れば誰かがいるようにはまったく見えないハズだった。ただ銃声が響き、空中から銃弾が飛び出ているだけに見えたはずである。
「む、アラームが反応。銃声で気付かれたか」
風音が床を見る。動体センサーであるスキル『アラーム』が反応し、風音のいるビルの中から動き出した物体が存在していると告げていた。
「よいしょっと」
対して風音は、周囲の風景と完全に同化した姿のままレールスナイパーライフルを抱えると、ビルの屋上から『空中跳び』でジャンプして、少し離れたビルの屋上に降り立つと、ホテルのマシンナーズスナイパーの掃討を再開した。
すぐに先ほどまでいたビルの屋上にマシンナーズソルジャーが三体ほどやってきたので、ついでにそれも撃って始末する。
そうしてまったく敵に悟られることなく、風音がすべてのマシンナーズスナイパーとマシンナーズソルジャーを倒すとビルの屋上を飛び降りて、『空中跳び』でビルの谷間を跳んで進みながら、仲間の元へと降りていった。
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「とうちゃーく!」
不滅のマントをたなびかせて、風音がその場に『出現した』……ように、仲間たちには見えていた。
「ふぅむ。しかし、見事だな。インビジブルナイツとはまた違う姿を隠す術か」
ジンライが感心した顔で出現した風音を見ている。どうやらジンライは、近付く風音を察していたようである。なお、弓花はわずかに反応したが、他のメンバーはまったく気付く素振りも見せられなかった。それだけ風音の隠密スキルは強力なのであった。
「うん。空竜のスキル『空身』だね。光学迷彩よりも強力なスキルで、実際に周囲の光景と同化して、さらに音や臭いも消してくれるスキルだよ。幻術というよりも光や風の属性の混合魔術に近いから、叡智のサークレットでも見つけにくいんだよね」
「なるほどな。確かにあの空竜は直前まで発見できんかったしな」
ジンライは竜牙衆の襲撃のことを言っていたが、浮遊島で出会った蒼穹竜パイモンも風音たちは気付くことができずに、接近を許していた。
空竜のスキル『空身』は、風音の言葉通りに『光学迷彩』よりも強力な上位スキルなのである。
「それでカザネよ。どのような状況だ?」
ジンライの問いに風音が「そうだね」と言葉を返す。
「ホテルの周囲はバリケードで囲われてて……マシンナーズソルジャーと、妙にでかいマシンナーズソルジャーの親玉みたいのがいたよ。多分、あれがマシンナーズブッチャーとかいう機械兵だと思う」
その名はゆっこ姉とのメールを通じて達良くんコピーから、聞き出した名であった。
すでにこの階層はオーリングとブレイブが通り抜けているために出没しているエネミーは確認が取れているのだ。
「これで後遭遇してないのは、サイバネドッグとバイオニックニンジャーだけだね。けど、マシンナーズブッチャーが、ワームを除いた敵の中ではもっとも厄介な相手だと思う」
マシンナーズブッチャーは巨大な肉切り包丁で迫る接近タイプの機械兵だ。銃弾を弾く厚い装甲と、見た目にそぐわぬ機動力を持つ高機動型重機械兵だ。
達良くんコピーによれば、ゲーム中では基本的には直接攻撃は仕掛けずに罠で倒すタイプのエネミーだとのことであった。
「そんでさ。カザネ、数はどんくらいなんだよ?」
「全部で十四体。ブッチャーは二だね。ほい、これ」
風音が写真を取りだして、尋ねたライルに見せる。それを見てライルが眉をひそめた。
「なーるほど。バリケードが邪魔で近付きにくいか」
「そうね兄さん。それに周囲がひらけてるから、戦闘音が響けば、すぐに増援が来る可能性が高いと思うわ」
エミリィの指摘にライルが嫌そうな顔をする。マシンナーズソルジャーたち単体の能力こそ高くはないが、近くにいる仲間たちが次々と増援に来るのが特徴だ。それには風音たちも何度か苦しい目に遭ってきていた。
「風音。他のルートはないの?」
弓花の問いに風音が嫌そうな顔をする。
「一応あるけど……上空から確認したマンホールの配置とかからして地下道があるっぽいんだよね。けど私はオススメできないかなぁ……なんて思うんだよ」
例の奴らが潜んでいるかもしれないと風音は考えて、ブルブルと肩を震わせた。
「ふむ。ワシはどちらでも構わんが」
「私は構うから、地上ルートを行こう」
風音がグッと拳を握って言う。それから、女子組は皆同じように頷いた。それにはジンライも「ま、そう言うとは思っていたがな」と言いながら、風音に尋ねる。
「だが、地上の連中はどうする? 下手をすれば完全に包囲されかねんぞ?」
周囲にはボロボロの建物が、まるで天然のバリケードのように並んでいて、それらを盾にマシンナーズソルジャーが攻撃を仕掛けてきた場合、特に後衛組は窮地に立たされかねない。それらを含めて風音は少し考えた後、ホテルへと視線を向けながら、口を開いた。
「まあ、今回は敵に悟られずに……一気に潰してみよっか」