軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雷獣と少女のデュオ

「なんだ、あれは?」

空を何かが飛んでいた。それに気付いたのはAランクパーティ『マザーズナックル』のリーダー、ギュネスであった。

そこはゴルディオスの街から王都シュヴァインへと向かう途中の街道。今ギュネスたちは、ミンシアナ王国軍と共にゴルディオスの街を襲撃した竜牙衆を王都まで護送をするために移動していた。

ゴルディオスの街の兵だけでは竜牙衆を押さえるのに不安があるという国からの要請で、冒険者ギルドがマザーズナックルに指名依頼をしていたのだ。

その道中で、ギュネスは空に何か奇妙なものが飛んでいるのを目撃したのであった。

「鳥? いや……違うな。何かを運んでいるのか」

周囲は青空が広がる、何もない草原だ。空を飛んでいるだけならば遠近感も分からず鳥にも見えたが、どうもそのシルエットは鳥とは別のようだった。そして、ソレが近付き始めたのを見て、いっそうギュネスの警戒心が高まっていく。

「どうしたギュネス?」

そのギュネスの様子が気になった仲間のひとりが声をかけると、ギュネスが視線を空から逸らさずに口を開いた。

「何かが空から来るぞ。感覚で分かる。あれはやばいヤツだ。今すぐにみんなに連絡を」

「な?」

ギュネスが確信を得た、その直後であった。その何かから強力な光が放たれ、後方の馬車が一撃で粉砕されたのだ。

「馬車をたった一撃で? あれには対魔術防御もかかっているんだぞ」

「敵襲だ。敵は空を飛び、魔術を使うぞ」

そのギュネスの言葉に、仲間たちや兵たちも慌てて動き出す。そうしている間にも何かが近付いてくる。そして、飛んでいる何かから巨大な何かが離されて地面に落ちた。

「あれは……魔物?」

そこに降り立ったのは、四メートルはある、ギュネスが見たこともない魔物だった。

その腕はまるでハンマーのようであり、目玉が無数に並び、その歯は赤く、何かしら毒のようなものを垂らしていた。また、背には剣のような突起物が無数に伸びており、臀部より生えている尾の先には巨大な刃が付いていた。

何よりも特徴的なのは、全身から放出されている青白い雷だ。

それからギュネスは、空を飛ぶ何かを見た。それは、可憐な少女であった。

黒いアンダーウェアらしきものだけを身に付けた露出度の高い格好をしていて、背には奇妙な鉄の塊を背負って、それから炎を出して空を飛んでいるようだった。

もっとも幼き少女であるのは外見だけだ。ギュネスたちを見る目は、まるで肉食獣のような獰猛なものであり、まったく幼さを感じぬ表情だった。

「嘘だろ。くそっ」

それらを視界に捉えたギュネスは、どちらもやばいものだとハッキリと理解できた。目の前の雷を纏う魔物よりも、よほど少女の方が危険な存在だと肌で感じられた。だが、問題なのはその少女にしても、目の前にいる雷の魔獣にしても、

「やばいな。どちらも勝てる気がしない」

ということであった。

ギュネスの感覚が警鐘を発している。彼の出身である国にいた恐るべき戦士たちに通じる、圧倒的な戦闘力を持っているとギュネスは悟っていた。

勝ち目はない。だが、逃げられるとも思えない。ギュネスたちはその心の内に恐怖を感じながらも、少女と雷獣へと駆け出していく。そして、もはや戦闘と呼ぶには一方的な殲滅劇が始まった。

それはもう、圧倒的であった。瞬く間に四台あった馬車の内、三台が空飛ぶ少女に破壊され、中の人間は呆気なく死んでいった。兵たちも、ギュネスの仲間も、みな雷獣によって倒されていく。途中で馬車から飛び出した男がいた。それは囚人のひとりの槍使いだったが、少女へと挑もうとして蜂の巣となって原形すら留めずに死んでいった。

「おぉぉおおおっ!」

中でも最後まで戦い続けたのはギュネスだ。仲間たちと共に雷獣を取り囲みながら攻撃を仕掛けて、一時はまともな戦闘に持ち込むことには成功していた。だが、途中で毒のガスのようなものが雷獣から発せられると、彼らはまったく身動きがとれなくなって一方的になぶられていった。

「クッ、俺たちは、こんなところで……ネモ……ネ王国の戦士は最強だと示さねば、俺は母に……」

そう言ったところで雷獣の尾によってギュネスの片腕は斬り飛ばされる。

「ぐ、がぁっ!?」

そのままギュネスは腹をハンマーのような腕によって打ち据えられて、大きく弧を描いて血を吐きながら地面に叩きつけられた。

その力の差は圧倒的なもの。誰もが倒れ、残ったのは少女と雷獣だけであった。

**********

「なんだよ、何人か生きてるぞ?」

『ここに来るまでに説明したでしょう。襲撃があったことは知らせてもらいたいんですよ。私の本体は街にいるのですから、ほらアリバイ作りにね』

「まどろっこしいな」

『はは、その少女の顔で凄まれても』

「うるせえぞ。蘇ったらあのロリコン変態デブの作ったスク水幼女人形の中にいた俺の気持ちがお前に分かるか。おまけに 制約(ギアス) でがんじがらめにされて、己の意志でもねえ殺しを続けさせられる俺の気持ちがテメーに分かんのか?」

『はっはっは』

「笑うんじゃねえ。そもそもが何で俺が 暴食(グラ) なんだよ? お前の方が合ってるじゃねえか? 代われよ」

『嫌ですよ。そんな厨二臭い名前。恥ずかしいじゃないですか。アンタがテキトーにカレーでも食ってればそれっぽいですよ。多分』

「死ね。くそサイコ野郎」

そんなやり取りが耳に入ってきたアンテが目を開けた。

突然起きた戦闘に怯え、外で起きた何かの衝撃によって頭をぶつけて意識を失っていたアンテは、ようやくここで意識を覚醒したのだ。そして、目の前で誰かが言い合っているのに気付き、それを見た。

「貴様ァ、よくもッ!」

「あーはいはい。黙ってろ」

「ガッ!?」

目を開けたアンテの前で、兵士が少女に槍を突き出そうとして、それを少女は呆気なく折るとそのまま兵士の頭部を掴み上げた。それは本当に一瞬のことだった。

「で、どうすんだよ……こいつは?」

『はい。名も無き兵士Aですし、モブです。モブ。殺っちゃってください』

「チッ、そういうゲーム的思考ってのは好きにはなれねえな。コイツにだって家族はいんだぜ。つっても俺には選択肢がねえけどな。悪いなアンタ」

そう言って少女は、まるで果実を潰すかのように兵士の頭を握り潰した。飛び散る鮮血が顔にかかったアンテは、その瞳に怯えの色を宿しながらも、目の前の存在に声をかける。何故ならばアンテは知っていたのだ。その場にいる魔物の正体が誰であるのかを。

「あ、ああ……せ、先生?」

『どうもアンテ。三日、いえ、四日ぶりですか』

そして、雷獣の口から出てきたのは彼女のよく知る人物の声であった。その言葉にアンテの顔が明るくなる。

「先生。先生が私を助けてくれ……」

『まったく、余計なことをしてくれましたね』

だがアンテの言葉を遮り、先生と呼ばれた魔物が苛立ちの混じった言葉を浴びせることで、アンテの顔色がさっと青くなる。

「あの……先生、怒ってます? でも、この力を使って……私の好きにしろって言ってくれたのは先生じゃあ」

『ま、クロフェを殺そうとしたことは別にいいんですけどね。あ、そうだ。あなた、ライアンを操りましたね』

「それは……」

その指摘にアンテの視線が逸れる。

『いや、さすがにあの男のやることにしてはお粗末過ぎると思ったんですよ。ドラゴン殺しってのはね。本来は己を超える種を殺すために、もっとクレバーに、もっと大胆に行動するものなんです。それが竜牙衆をわずかにしか従えず、それどころか標的を襲うなんて情報がダダ漏れときてる。正直に言って、間抜けすぎて何か別の目的でもあったんじゃないかと思っていたくらいですよ』

その言葉を聞いたアンテは、正面の魔物へと視線を向け直して口を開いた。

「あ、あの男は……ドラゴンを好いていた。ええ、そうです。私たちを従えておきながら……そういう男だった。それを許せるわけが」

『あー、いえいえ。まあ、責めてるわけではありませんよ。別にいいんです。ちょっとした疑問だっただけですし。まあ、ドラゴンイーターの力はドラゴンの肉を食べた者にも影響があるということですね。なるほど』

そう言って頷く魔物に、アンテは訝しげな顔をする。一体、目の前の相手が何をしたいのか、何を望んでいるのかがアンテには理解できなかったのだ。だが、そんなアンテに魔物はさらに話を続けていく。

『まあ、話というのはですね。あなたが私の仕事場を荒らそうとしたってことへのね。抗議ですよ。いえ、それよりも問題は風音さんに手を出したことの方ですかね』

「カザネ。神竜皇后……あなたはアレの味方をするのか?」

「味方? ええ、そうですね」

少し首を傾げながら魔物は笑い、それから唐突に怒気を孕んだ視線を向けた。その無数の瞳を向けられて、アンテの心が乱れる。それら瞳のひとつひとつが拘束系統の魔眼の類だとアンテは知っている。

「あ、が……止めて。先生……し、死んじゃ……う」

アンテは、脳味噌の中に無数の虫が這いずる感覚に恐怖しながら、全身を無数の針で突き刺さられる感覚を感じながら、粘つくような触手にからみつかれる快楽を味わいながら、全身が腐敗する感覚に苦しみながら、涙を流して懇願する。拘束されている身では、その眼から逃れるすべもない。

そのアンテに、雷を帯びた魔物が近付いていく。

『おかげで、アレはまた強くなってしまった。まったく本当に余計なことをしてくれたものです。もう、アレを殺すのは難しい。お前の安易な判断が『我々』の選択をひとつ奪った。だから、』

「先生、止め」

『お仕置きです。あなたは私の餌になりなさいアンテ』

次の瞬間にアンテの身体が雷獣の大口にバクンと飲み込まれ、その場で残された下半身だけが血を噴きながら床に崩れ落ちた。

「エグいことするな。お前」

その様子をスクール水着の少女が呆れ顔で言う。

『いえね。だって、わざわざ収穫前に自ら馬鹿をして、よりにもよってあの女の元に捕まりに行こうとしてるんですよ。弁明の余地もないでしょう』

「あの女ねえ。確かユウコとかいう、ロリコンデブの仲間か」

『本人はかなり熟しているようですが……そうですね。あの方、 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) をお持ちですから……風音さんは処刑とか言ってましたが、正直こちらの手の内をすべて掴んでから、殺したことにしておいて、言いように使いかねません。あの人の 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) を使った思考誘導は洗脳レベルですしね。あー怖い。ほら、そうなる前に 助けて(食べて) あげたのですから、私は優しい先生なんじゃないですか?』

「どうだか。というか……その風音とかいうの。俺が今からサクッと行って倒してくりゃいいんじゃねえの?」

その言葉に、魔物は首を横に振る。

『あなたならできないとは言いませんが、止めてください。 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) だけではなく転移魔術も使える連中です。逃げられたら、さらに厄介になって戻ってくる。これ以上は本当にコントロール不可能になるかもしれない』

「逃がす気はねえけどな。となりゃあ、どうするんだい?」

少女の問いに、魔物が肩をすくめながら笑った。

『どうって、私は『予定通りにミナカさんを護り』ながら、風音さんたちが『あちらの世界に向かうお手伝い』をするだけですよ』

「あちら側ねえ」

『私だって、同郷の人間を意味なく傷付けたくはありませんし。何、そんなに行きたいのなら行かせてあげればいいんですよ。そうすれば彼女たちもハッピー。私たちもハッピーってもんです』

「はっ」

少女が心底バカにした声で笑う。それに魔物も笑いながら言葉を重ねる。

『なーに、私も『ユキト』と出会って変わったんですよ。近視眼的に物事を見るのを止めました。どうですアンテ? あなたも協力なさい。我々が目指すのは『ドラゴンのいない世界』。既存のドラゴンたちをすべてすりつぶして新たなる世界を構築する。素晴らしいじゃあないですか。あなたの両親を食べたドラゴンも一切合切殺すんです。どうです、あなたの望みも叶うんですよ?』

そう口にした魔物の身体の一部から、女の顔がフッとひとつ浮かび上がってくる。それは先ほどトールに喰われたアンテの顔で、それは真白いマスクのようでもあった。

『はい、先生。素晴らしい……すばら……すすすば……しぃ……ブブブブブ』

『あら。少々魔眼を使いすぎましたかね?』

「使い物になるのか、それ?」

『まあ、少々頭が悪いくらいの方が扱いやすいでしょう』

「そういうもんかね。ま、用が済んだならさっさと出るぜ」

『では、行きましょうか』

そう言い合って、少女と魔物がその場を去っていく。

その日、ミンシアナの兵たちの馬車が襲われ、竜牙衆はそのすべてが殺害された。また、護衛に付いた兵士や冒険者たちからも多くの死傷が出た。

それは同日に通りかかった商人によって発見され、何人かは命を取り留め、そのことはすぐさま王都へと報告が入ることとなる。

そして生き残った者の証言から、彼らを襲ったのは雷を帯びた魔物とおかしな格好の少女がであることがユウコ女王へと知らされる。

その少女の姿形の報告を受けたユウコ女王は、それが達良の人形だとすぐさま把握し、以前より懸案となっていた悪魔が殺魅一号を所持している可能性がほぼ確定であると判断した。そして、今回の襲撃を悪魔案件と断定し、その調査を開始することになるのであった。