軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百八話 協力を得よう

「気になるよね。やっぱり」

風音の言葉にトールが苦い顔をして頷いた。

「一応私を先生と呼んでくれていた……その、生徒でしたから。最後に話だけでもと思ったのですが」

風音も竜牙衆のアンテが以前にトールよりキメラ種としての体質を制御するためにレクチャーを受けていたことを聞いていた。だがそのトールの願いはもうすでに叶わない。

「そうだね。誤魔化しても意味はないからはっきし言うけど、もうアンテさんはゴルディオスの街にはいない。多分王都で……」

処刑になるだろうと風音は静かに口にした。

竜牙衆の処分については、背景事情に様々なものが絡んでいる。

竜狩りの街レガリアは、害竜が多く生息する竜朱山から人民を護るための防衛線だ。その中でも竜牙衆はトップクラスのドラゴン討伐数を誇り、街での彼らの扱いは英雄であった。それは竜の里と親交を持つ派閥にとっては頭の痛い話ではあったが、竜牙衆が率いていた竜排斥派は無視できない戦力だ。

今回のクロフェ襲撃という覆しようのない罪により、街に残った竜牙衆たちも処分には納得せざるを得ないだろうが、単純な戦力としてライアン、アンテ、ジドーを欠いたことはレガリアにとって大きな痛手だ。もはや周辺国に大きな竜害が発生することは避けられないことになると予測されていた。

一方でクロフェにしてみれば挑まれて負けたのは己が弱かったためであると考えており、西の竜の里から何か制裁を課すつもりもないようだった。

とはいえ、自国内で起きた不祥事を許す気はゆっこ姉にはないようで、また他国に対して竜の里を軽視していないという証明のためにもアンテたちの処分を行う予定のようだった。

「そうですか。ドラゴンイーターを取り込んだ稀少な子ではあったのですが……やむを得ませんね」

「ドラゴンイーターは稀少なんだ?」

不思議に思った風音の問いに、トールがコクリと頷いた。

「ええ、そうです。キメラ種と言っても適合できる種とできない種がありまして、ドラゴンイーターのように植物の系統の魔物を取り込めるキメラ種は稀少なんです。彼女は貴重な才能に溢れた子でした」

「トールさん……」

ミナカが気遣わしげな顔をして、トールを見た。それにトールが微笑んで首を横に振る。

「そんな顔をしないで下さいミナカさん。罪には罰を。それは正しい。私が言えることではないですがね」

そう言ってからトールが少しだけ息をついて心を落ち着けた後、風音の方へと視線を向けてから少しばかり首を傾げた。

「それで風音さんの持っている……それはなんです?」

それは空気を変える意味もあったのだろうが、トールや他のメンバーが気にしていたのも事実であった。風音が背に隠している謎の物体。わざわざアイテムボックスから出して持っているのだから、何かしらここで使うものなのだろうとは全員が思っていた。

「んとね。これは弟が世話になったお礼……かな?」

そう言って風音は、持っていたものをスッとトールの前へと差し出した。

「これは……」

その物体が一体何なのかとトールや他の面々は視線を向けたが、風音が出したものはどうやら大型の爪が装着された籠手のようであった。また、その籠手には『竜の心臓』が収められていた。

「魔導兵装タラントクロウ。爪は空竜のものを使ってて、付与魔術に『フライ』を仕込んでギミックを用意してあるんだよ。トールさんは武器を使わないみたいだから、こういう補助的な防具はどうかなって思って造ってきたんだ」

「へぇ。これが噂の魔導兵装ですか。いや、嬉しいですね。はは、面白い」

トールがさっそく腕に装着してみると、トールの意思に反応してクローがウネウネと動き出した。それはティアラ用に制作中であったサポートゴーレムの足を拝借して造り出したものであった。

「爪は伸縮して魔物とかを捕まえるのに便利だよ」

「なるほど。それでは、これでダンジョン攻略をさっさと早めますか。白き一団をサクっと追い抜いて最深層まで行ってしまいましょう」

「もう、トールさんたら」

ミナカが笑い、ジンライが少しだけ顔をしかめた。

「ふん。七十階層からは気を付けて進むんだな。接近して孤立すれば、一瞬で集中砲火を浴びる。あれは小さな矢が数十と連続で来るようなものだ。ワシらのような前に出て戦う者にとっては非常に厄介な場所だぞ」

「そのようですね。なんでも銃を使うとか。接近メインの私では確かに対処は厳しいでしょう。甲殻の鎧でどの程度防げるか試さないとなりませんか」

銃の怖さはプレイヤーであるトールも当然分かっている。それから風音がミナカの方を向いて口を開いた。

「ミナカさんも気を付けて。突進したら普通に囲まれて死んじゃうからね」

「はい。オロチさんとトールさんからも言われていますし、タネガシマライフルやアンチマテリアルタネガシマ、ミニタネガシマのようなものなのですよね。一応、そうしたものへの対処法も我が家の剣術にはありますから」

ミナカがそう行って頷いていた。ちなみにミニタネガシマは別に小さいタネガシマというわけではなく、将軍などの豪傑のみが持ち得る巨大なタネガシマの集合体であった。東方の国ジャパネスは真に摩訶不思議な国なのである。

「いや、ありがとうございます。なかなかにありがたい品をいただきました」

「弟の命の恩人なら当然だね」

「あのときは本当に助かったよトールさん」

トールや風音たちがそう言って笑い合う。それからトールが籠手を見ながら口を開く。

「しかし、ダンジョンですか。風音さんたちも残り四分の一ほどですよね。いよいよ終わりが見えてきたんじゃないですか?」

そのトールの言葉に風音も「うん」と頷く。A級ダンジョンの階層は一般的には第百階層程度であると言われており、今風音たちの到達階は第七十四階層。残り二十五階層前後のはずであった。

それからトールが呟いた。

「その先に、あるんですね。元の世界への入り口が」

「……トールさん」

驚きの風音の表情を見て、トールが頷く。

「ま、さすがにオロチさんたちの反応を見れば分かりますよ。加えて直樹君の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) 。それを使って何をしようと考えているのかも」

その言葉に直樹が少しだけ驚いた顔をして、ジンライが目を細める。それからトールは「協力しますよ」と一言告げた。それに風音が少し考えた後に尋ねる。

「いいの? 最深層を譲ってもらうことになるよ」

「元より最深層などいくつものパーティが協力しあって到達するものですから、最終的に攻略組のクランとなればダンジョン攻略を達成した者として認められます。問題はありませんよ」

その言葉を聞いて風音がジンライを見る。今この場においての唯一の問題。それは、過去の因縁を持つジンライがどう思うかだが、そのジンライも渋い顔はしているものの迷いなく頷いた。

「避けては通れんさ」

それにはトールも苦笑いをし、ジンライもすべての用件は済んだとばかりに部屋を出ていった。

そして、風音も魔導兵装の説明を終えると、直樹と共に病室を去っていく。外では見舞いに来ていたカールが、何故か病院の前でジンライと模擬試合をしていたが無視しておいた。

こうして白き一団は、ブレイブ、オーリング、レイブンソウル、ダインス天使騎士団に加え、ドッグソルジャーの協力も得ることとなった。上位パーティたちの協力関係の確立も得たことで、いよいよダンジョン探索も佳境を迎えようとしていた。