作品タイトル不明
第八百五話 光を放とう
『ぶ、ブラック父上です。母上、一体アレはなんの父上なのですか?』
『いやいや、あんなの旦那様じゃないよタツオ』
『でも強いわね』
そう言い合う風音ゴッドドラゴンたちに漆黒の光が放たれ、それが『暴風の加護』によって弾かれて周囲の建物を破壊していく。
『くっ、熊沢さんのお家と田崎先生のアパートが破壊された』
『あ、田崎先生って、ここに住んでたんだ』
風音の言葉に弓花がそう反応する。周囲にある建物はみな、かつて風音が暮らしていた街の再現だ。そこは風音の深層心理が生み出した空間だった。
『けど、結界は壊れる様子はないね』
そして、その結界こそ風音が神竜化した理由であった。
アモリアの王都上空での戦闘では危うく住人に被害を出しかねなかった。今回はその反省を生かして敵を結界内に閉じ込めて戦闘を行うべく、神竜となったのだ。なお、 僕(しもべ) の一体である狂い鬼もボス空間を生み出せるのだが、狂い鬼の『浸食結界』ではドラゴンのブレスによって結界が破壊されたり、狂い鬼が倒されることで解除される恐れがあったため、今回の戦闘では外されていた。
『スキル・戦艦トンファー!』
風音ゴッドドラゴンがスキルを発動し、上空に魔法陣がふたつ発生してそこから二十メートルの戦艦が出現する。それを腕化した黄金の翼が握ると、そのまま黒曜竜ジーヴェへと振るった。
「ガァアアアアアッ!?」
『イッパーツ! ニハーツ!!』
続けて左右からのトンファー攻撃で黒曜竜ジーヴェの身体が吹き飛ぶ。
風音ゴッドドラゴンは、神竜化によりセットスキル数がさらにふたつ増加していた。そのため、今の風音ゴッドドラゴンには元々セットしていた『直感』『マテリアルシールド』『戦艦トンファー召喚』の他に『猿の剛腕』を『暴風の加護』に付け替え、『友情タッグ』『ウィングアーム』が追加されているのだ。その結果が二刀流プラス戦艦トンファーという恐るべき攻撃重視のスタイルであった。この二刀流の斬撃と戦艦トンファーの打撃の組み合わせにより、同じ神竜とはいえ格上である黒曜竜ジーヴェに風音ゴッドドラゴンは十分に対抗ができていた。
『風音、尻尾来るよ』
『ていやっ』
そして、振るわれる尻尾攻撃を見抜いた弓花の言葉により風音ゴッドドラゴンは戦艦トンファーを回転させてそれを弾き、『マテリアルシールド』を黒曜竜ジーヴェに近距離で喰らわせて下がらせたところで、一歩踏み込んで双剣からのバツの字斬りを放った。
「グガアアアアッ!?」
その一撃は本体にまで刃を通せないまでも、水晶にも似た黒曜石の衣を破壊することには成功していた。日頃の訓練のたまものにより『二刀流』スキルなしでも風音はバツの字切りを再現できていた。
『どっせーーい!』
そのまま下がった黒曜竜ジーヴェに向かって風音ゴッドドラゴンは『空中跳び』で跳び上がると、上空から戦艦トンファーを振り下ろした。
「ガアッ」
それを黒曜石で固められた翼を上に展開した黒曜竜ジーヴェが受け、衝撃で地面が崩れてクレーターができる。だが黒曜竜ジーヴェはそれに耐えきり、風音ゴッドドラゴンを睨みつけながら全身から伸びた黒曜角に黒い光を発生させていく。
「ォオオオオオオッ」
『風音、不味い。この距離だと!?』
『くっ、マテリアルシールドォオ』
その次の瞬間には黒い光線が黒曜竜ジーヴェから無数に放たれ、風音ゴッドドラゴンがその場から吹き飛んだ。だが、黒い光線は風音ゴッドドラゴンには当たってはいない。それは風音ゴッドドラゴンが自らにマテリアルシールドをぶつけた結果であった。
『あっぶなー!?』
避けられた黒い光線が街を切り刻むように破壊していく。風音ゴッドドラゴンは、黒曜竜ジーヴェにマテリアルシールドを当てても下がらぬ可能性も考え、自らを吹き飛ばして避けたのであった。
『旦那様ほどじゃないけど、凄くやるね』
風音の言葉にタツオがくわーっと鳴いた。
『けれど、父上に似すぎています。何故でしょうか?』
『それだけ憧れが強かったってことだよ。旦那様は格好いいからね』
『なるほど、ならば分かります』
タツオが素直に頷いた。風音ゴッドドラゴンのコアとなっている風音本体を覆う鎧の中からは今も怒りの波動が流れていて、それを風音は強く感じていた。
武具として再構成されたジーヴェの槍や転生竜であるアカにとって黒曜竜ジーヴェは系譜を同じくする存在でしかないが、風音の鎧に宿ったのは再生体とはいえオリジナルと同じ意識を持つ黒岩竜ジーヴェだ。
今、黒岩竜ジーヴェの魂が鎧に宿っているのも、目の前の黒曜竜ジーヴェが神竜帝の姿になったのと同じ理由だ。それを人間に利用されていることに黒岩竜ジーヴェの魂は怒り狂っていた。
『む、旦那様も?』
また、怒りを覚えていたのはジーヴェだけではなかった。虹竜の指輪からも怒りの波動が発生し、風音ゴッドドラゴンからふたつのドラゴンの波動が放たれ始めていた。
『母上。父上とジーヴェの気配を感じます』
『うん、分かってる。だったら一緒に戦おうッ!』
その言葉と共に風音ゴッドドラゴンの身体からさらに輝きを増し、新たなる頭部ふたつの魔力体が構築されて出現していく。それは片方が神竜帝ナーガの、もう片方は黒岩竜ジーヴェの竜頭であった。同時に水晶に覆われた青い身体には黒と虹のラインが刻まれていき、さらに水晶の翼と黒岩の翼の二対の翼も生えていく。
そして、そこに現れたのは三つ首六翼の巨大な水晶竜であった。それを黒曜竜ジーヴェは眩しいものを見るように目を細めて、唸り声を出した。
『ははー。すっごいパワーだね』
風音ゴッドドラゴントリニティが驚きの声を上げる横で、弓花の精神体が風音に忠告する。
『風音。急激に消費魔力が増えてる。このままだと保たないわよ』
『分かってる。さっさと行くよぉぉおお!』
風音ゴッドドラゴントリニティが突撃していく。セブンスレイと火炎球と氷のブレスを放ちながら黒曜竜ジーヴェを牽制しつつ、風音ゴッドドラゴントリニティは黒曜石の外殻が破壊されていた胸部へと両の刃を真っ直ぐ突き刺した。
「グガァアアアアッ!」
『ダメ押しにトンファー爆破っ!』
さらに風音ゴッドドラゴントリニティは黄金翼の持っていた戦艦トンファーを黒曜竜ジーヴェへと叩きつけると同時に自爆させる。その衝撃に受けた翼もヒビが入り、破壊されて崩れていく。
『まだまだぁああ!』
さらに風音ゴッドドラゴントリニティの意思に従って六翼すべてが『ウィングアーム』によって腕へと変わり、黒曜竜ジーヴェをその場で掴み上げた。
「ガァアアッ!!」
それに黒曜竜ジーヴェが体を震わせて抵抗するが、剣を突き刺され、爆破の衝撃を受けた身ではもはや身動きが取れない。故に今の黒曜竜ジーヴェが実行可能な手段はひとつだけだ。それは目の前の風音ゴッドドラゴントリニティへのブレス攻撃。もっとも、それは風音ゴッドドラゴントリニティにとっても同じであった。
『旦那様にジーヴェ、行くよ!!』
同時にブレスとブレスとが吐き出され、その場で巨大なエネルギー同士が激突してスパークが起きるが、その威力は風音ゴッドドラゴントリニティの方がわずかに勝る。
「グガァァアッ」
そのまま押し出された己のブレスも含めて、すべてのブレスが黒曜竜ジーヴェへと降り注がれて光となって黒い巨体を飲み込み、次の瞬間には爆発が起きた。
『やった?』
爆煙の中で風音ゴッドドラゴントリニティがそう口に出す。だが煙の中からは、頭部の消滅した黒曜竜ジーヴェが今なお掴み上げられながらも風音ゴッドドラゴントリニティへと攻撃を行おうと動いているのが見えた。その首の断面からは植物が湧き出ていて、触手のように蠢いている。
『これは……酷い』
『ドラゴンイーターが体内を侵食しきってるんだ。うん、黒曜竜は倒して……目の前のはドラゴンイーターのみで、新しいスキルが手に入ってる。ああ、そうだね。これがいい』
『風音?』
弓花がその言葉に眉をひそめると、風音ゴッドドラゴントリニティの頭部に生えている三本の水晶角から、両肩両肘のそれぞれ伸びた四本の水晶角から、さらには胸部より新たに突き出た黒曜の角からそれぞれ光が溢れ始めた。
それは火・水・風・雷・土・命・光の七属性のエネルギーを同時に放つセブンスレイに、新たなスキル『黒曜角』から得た闇属性をも追加した、達良の大翼の剣リーンのみが成し得ていたはずだった八色の輝きだ。
『ゼクシアレイ!』
そして、巨大なドラゴンから八属性すべての光が放たれると、黒曜竜ジーヴェの肉体はその場で消失していった。