軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百六話 ケリを付けよう

その空間に八色の光が満ちあふれる中、二人の男が戦い続けていた。一方は巨大な剣ふた振りを握り、一方は美しき輝きを放つ白き槍を携えて。

「こいつ、化け物か。くそっ」

迫る槍の攻撃を大剣で弾きながら、ライアンが叫んでいる。とうの昔にライアンの表情からは余裕というものは消え失せていた。目の前で戦っている相手にそんなものを見せれば即座に狩られると悟っていた。

まるでドラゴンの開いた 顎(あぎと) の前に立たされているような恐怖をライアンはずっと感じていた。

だから、風音ゴッドドラゴントリニティの攻撃を前に黒曜竜ジーヴェが消滅していくにも関わらず、ライアンは身動きを取ることができなかった。ただ、目の前の化け物を相手に『善戦』を繰り広げるしかなかった。

そして、ライアンはギリギリと砕けるほどに奥歯を噛みしめる。ライアンの持っている竜滅の剣と神滅の剣を使えば、三つ首のドラゴンにも抗せた可能性はあったのだ。それは対竜用の刃であり、対神竜用の刃だ。もっとも相性の良い天敵を前にして、ライアンは目の前の男に釘付けにされていた。抜け出すことができなかった。

ジンライ・バーンズという 規格外の化け物(ただのつよいにんげん) を前にして、ライアンは己が黒曜竜の元へと辿り着けなかったことに、どうしようもない苛立ちと焦燥感を感じていた。

「どうした。動きが遅くなっておるぞ」

「うるさい。なんだ、貴様は? 本当に人間なのか?」

そう言いながら半竜化しているライアンがブレスを吐き出すが、ジンライは槍を回転させ、まるでいつも応じているかのように手慣れた手つきで受け流し、ライアンの懐へと飛び込んでくる。

「チィッ」

「食らえぃ」

槍が突き出される。ライアンは纏った鎧の下に強靱な鱗も並べていたが、そのわずかな隙間を狙ってジンライは貫いてくる。

「グッ、やりやがったな」

ライアンが叫びながら一歩下がるが、突かれた脇腹からはダクダクと血が流れていた。避けたと思ったが、まるで吸い込まれるように槍の先はライアンの中へと入ってきた。

「ウォオオオオオオッ」

その腹の痛みに耐え、ライアンがふたつの大剣を振ってジンライへと攻撃を仕掛けるが、そのすべてが避けられていく。

「速いが……荒いな。ジドーもそうであったが、ドラゴンに特化し過ぎたが故の弊害だな。その技量に二本の腕ではロクテンくんの六倍は速くなければ捉えられんぞ」

「誰だ。ロクテンクンってのは?」

日頃の研鑽とドラゴンの肉を喰らい続けたことで得た膂力で剣を振るっても、ジンライはまるでフワフワと揺らぐように 悉(ことごと) く避けていく。

それは槍術『柳』というハイヴァーン槍術の中でも基本にして完成型である避ける技術によるもの。ジンライはそれを極めた者のひとりだ。その一点においてのみ、ジンライはライノクスをも以前より凌いでいた。

何しろ人を超えた力を持たぬジンライにとって、一撃を喰らうということは死も同然のことなのだ。だから何よりもそれを研鑽した。結果としてジンライに刃を近付けられる者はほとんどいなくなった。

そのジンライの回避力を実感したライアンは、続けて捨て身の構えで両剣を同時に振るいながら突貫する。左右からの同時攻撃。避けようもない速度でのソレには対抗できまいとライアンは考えたが、

「遅いな」

激突音が『同時に』ふたつ響き渡り、ふたつの大剣が宙を舞った。目にも止まらぬ突きが二度繰り出され、ライアンの両の手の甲には穴が開いた。最速の突きである槍術『閃』。ほぼ同時に叩き込まれた二発の突きがライアンの手を貫き、大剣を弾いて飛ばしたのだ。

「はっ、ハァ……クソッ」

己の腕を苦い顔でライアンが見ながら、一歩跳び下がる。それをジンライは追わず、その場で構えて直して相手の出方を伺う。今のジンライには勝負を急ぐ必要はない。他が勝っている以上、ただ抑えておくだけでも勝利となるのだ。

「どうした? もう終いか?」

そう口にしたジンライの額からは汗が流れ落ちているが、その表情はあくまで涼しいものであった。動きにもまったく迷いがない。

「くそ。元ジジィが。反則じゃねえか。その強さは?」

ライアンがそう言って、周囲を見渡す。

黒曜竜ジーヴェが完全に消失し、三つ首のドラゴンは元の姿に戻ったようだが、竜化した空竜たちへの攻撃に今はシフトしていた。また空竜の一体はオロチの 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) によって封じられていて、戦うことすらできないでいるようだった。

竜牙衆の戦士たちの方もシップーやタツヨシくんツインソードJ、それにライルやジン・バハルによって今は包囲されており、アンテもそれを後ろから見ていることしかできない。アンテはドラゴンイーターを操るのに特化して育てられたキメラ種だ。戦闘には向いていないし、紅蝶のアミュレットの効力により、そのドラゴンイーターの香力もまったく通用しないためにほぼ無力化された状態だ。

それらを苦々しい顔で見ながら、ライアンがジンライへと視線を向け直した。

「すべて失敗か。クソ、欲張らずにお前たちがダンジョンに潜っているときを狙うべきだったな」

「そうした場合には、どのみちお前たちはワシらの獲物となっておったがな。或いはあのカザネが西の竜の里の長になっていた可能性がないとも言えん」

ジンライは自分で言っていて、そうなりそうな気がして少し怖かった。それにはライアンも舌打ちをする。

「西と東が今以上に蜜月となるか。そりゃあ悪夢だ。最悪だ」

そう言ってライアンは己の内にある竜の因子を操り、両腕を巨大な竜爪へと変えていく。同時にその身も膨れ上がり、顔も人からドラゴンのものへと変質していく。

「そこまで変わるか。もはや人とは言えんぞ」

『構わん。知っているかジンライ。ドラゴンにとって人など一部例外を除けば所詮は小さき命だ。餌か否かぐらいの違いしかない。連中の恐れるべきはやはりドラゴンだ。俺は今、そのドラゴンになった。気持ちがいいぞ。これはな』

そう言ってグッと巨大な爪そのものと化した両腕を前へと突き出した。

「あいにくだが、そんなものがワシに通ずると思うなよ。ワシは日々、竜ともなり、獣ともなり、刃ともなる者と戦っておる。そうした手合いとの戦闘経験は貴様の想像を遥かに凌駕しておる」

『化け物だろ、それは』

「化け物ではない。我が最愛の弟子だ。だが、あの 娘(こ) は、その力に溺れはせん。その身がドラゴンとなろうとも変わらぬ。結局は人も竜も変わらぬ。力の有り様など持つ者の意志次第なのだとワシは思うぞ」

『そうかい。だが、まあ……』

竜化したライアンが走り出した。その身は五メートルほどにまで膨れ上がり、腕が丸ごと変異した二本の竜爪でジンライへと突撃する。対してジンライは槍の先に己の純粋なる闘気である白き光を集め、それを迫る凶竜へと向けた。

『俺は俺の望みを貫くッ!』

「槍術『 一角獣(ユニコーン) 』」

ジンライが駆ける。己の力すべてを集束させたその突貫は、迫る竜爪を砕き折り、ライアンの胸部を貫き、そのままジンライは凶竜の背より突き出て、宙を回転して地面へと着地した。

『が、アァアアアア』

後に残ったのは胸に大きな穴が空いた凶竜が一体。そして、自らの胸に大穴が開いているのをライアンは呆然とした顔で見て、それからニィと笑った。

『へ……へへ、やっぱり最後に倒されるのは悪いドラゴン……じゃねえと締まらねえ……よなぁ』

そう言いながらライアンがドサリとその場に沈み、二度と動くことはなかった。

「よく分からん拘りを持つ男であったが……その強さ自体に偽りはなかったか」

その身から生命の気配は消えていき、ただの躯となるのを確認してからジンライはもうひとつの戦場へと視線を向けた。

そこには空竜を倒してアンテたちを拘束している風音たちの姿があった。傷ついてこそいるものの、誰ひとり欠けることなく戦いは終結していた。そして、竜牙衆の襲撃はここに決着を迎えたのである。