軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百四話 舞台を用意しよう

◎白の館 中庭

「にゃあああああ!!!」

怒りを露わにしているユッコネエが飛びかかっていく。

「猫は嫌いではないが今は構ってはいられんな」

そう言ってライアンが己の胸部アーマーを外し、そこにバッグから取り出した『竜の心臓』を埋め込んだ。そして、ライアンの身体が震えて膨張を始める。

「にゃっ!?」

「喰らえいッ」

飛びかかったユッコネエへとライアンが大きく息を吐くと、口から噴き出たガスがユッコネエにかかる。

「ぎにゃぁあああああ!?」

その身を覆う高熱ガスブレスが一気に爆発を起こした。そして、ユッコネエが吹き飛ばされる。

そのまま大地に倒れたユッコネエを見ながら、ライアンが笑った。

「のど袋内で種火に混ざり合う前の可燃ガスだ。それで、お前の身を覆う高熱のガスをさらに強化した。やはり、耐え切れなかったようだな」

「にゃああああ」

ユッコネエが転げてその身の炎を消す。それからフラフラと起き上がると、炎を纏わずにライアンへと駆け出していった。

全身火傷により、もはや召喚解除は間近。せめて一矢報いようとユッコネエは捨て身でライアンへと正面から向かっていく。

「うにゃ……ぁあ」

「猫でありながら見事」

そして、ライアンの刃に切り裂かれたユッコネエが魔力光を散らしながら消えていく。

「一撃食らったか。猫のくせに気合いの入ったヤツだったな」

切り裂かれた肩から血を噴き出しながら、ライアンは空より迫る存在へと視線を向けた。ライアンにとっての本当の敵は今まさに空よりやってこようとしていた。

「神竜皇后カザネか。まさか神竜だったとは。アンテ、オロチを抑えていろ。ヤツをジーヴェには近付けさせるなよ」

「は、はい」

アンテが人化空竜たちを操り、オロチを囲む。

それにオロチが「くっ」と口惜しそうな顔をしながら構えた。

制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) は使用中は所持者も無防備となってしまうために、相手が単体か仲間たちがいるような状況でなければ扱い辛い。

そのことを旧知であるライアンも知っていて、それをどう防げば良いかも正しく理解していた。オロチは竜狩りでその力を見せすぎていたのだ。

それからライアンが、ライルたちと戦っているジーヴェへと声をかける。

「ジーヴェ、そろそろ遊びは終わりだ。本命が来るぞ!」

「オォォオオオオオオオオオ」

途端にパワーの増した再生体ジーヴェにライルが目を丸くする。

「こいつ。まだ、こんな力が……うわっ!?」

『ライル様ッ』

再生体ジーヴェが叫びながら黒剣を振るい、その標的となっていたライルを庇ったジン・バハルが後ろにいたライル共々弾き飛ばされていく。

そして、再生体ジーヴェは地面に転げ倒れたライルたちに見向きもせずに空より近付く存在へと視線を向け、全身を一気に膨れ上がらせて真なる姿を解放していく。

「ちょっと待て。あれは水晶竜じゃねえか?」

倒れているライルがその姿を見て驚きを露わにした。

再生体ジーヴェ。名からして黒岩竜ジーヴェの人化したものかとライルは思っていたのだが、人化を解いて元のドラゴンの姿に戻ったジーヴェは、全身が黒光りこそしているがその姿は神竜帝ナーガに酷似していた。

「じゃあ、黒岩竜ジーヴェじゃないってのか。一体アレは……」

『いや、ジーヴェだ』

「アカの兄貴!?」

ライルは、ちょうど吹き飛んだ先の近くにいた、半竜化した状態で倒れているアカの言葉に反応した。

『ありゃあ、ジーヴェだ。俺には分かるぜ。兄弟、お前だってそうだろ?』

『そうだな。我よ。アレは我らと同じジーヴェだ』

アカの言葉には、ライルではなく、ジーヴェの槍が返事をする。そのやり取りにライルが眉をひそめながら、再生体ジーヴェを見た。

「でも……あの姿は?」

『進化だ。ヤツがダンジョンで生まれた再生体なら本来はチャイルドストーン持ちのはず。だが今のヤツのコアは『竜の心臓』。それも成竜を超えた、神力の気配を漂わせている。神竜の心臓を移植されてやがるんだ!』

そのアカの言葉にライアンが「正解だ」と口にする。

「アレは神竜帝ナーガに憧れていたようでな。あの身を覆っているのは水晶ではなく黒曜石だ。便宜的に黒曜竜ジーヴェと呼んでいるが、ダンジョンで捕獲したヤツに以前にぶっ殺した神竜の『竜の心臓』を埋め込んだら、ああなったのさ。まあ、見ての通り……俺の下僕と化してるがな」

その黒曜竜ジーヴェの頭部からは草木が生えているのが見えた。ライルたちの前にいる黒曜竜ジーヴェはその内部をすでにドラゴンイーターに浸食され尽くされていて、その暴力性以外に己の意志というものが感じられなかった。

「まったく、蜥蜴が人間の感情を真似るなんざ、気持ちの悪いことだが。だけどな……」

そして白き光を放つ青き竜、風音ゴッドドラゴンが白の館の上空に現れる。

「強いぜ、コイツは。さあ、殺せジーヴェ! テメェの憧れたナーガの 番(つがい) を 殺(や) っちまえ!」

「グガァアアアアアアアアッ」

飛びかかる黒曜竜ジーヴェに対し、風音ゴッドドラゴンは『マテリアルシールド』を発動して弾き返した。

それに弾かれた黒曜竜ジーヴェが地面に落ちる前に、風音ゴッドドラゴンは両手に持つ召喚剣『黄金の黄昏』と麒麟の神刀『 雷火・弓花(らいかゆみか) 』を重ね合わせ、声を上げる。

『エクストラスキル・神食結界』

その言葉と共に重なった刃と刃から白き光がその場を覆い始め、白の館全体を包んでいく。

その様子を怖々と見ていた周囲の住人たちは、光の中に一匹の巨大な猫が飛び込んだのも目撃した。そして、次の瞬間には空を飛んでいたドラゴン二体が消滅し、また白の館の中庭からも人の姿は消えていたのである。

◎カザネワールド

「ふむ。間に合ったか」

スタンとジンライの乗ったシップーがその場に降り立った。

ジンライたちが降りたのは、どことなく第七十階層に似た建物が建ち並ぶ世界だった。その光景にはジンライも見覚えがあった。

そこは風音がボス空間と呼ぶ結界の内部空間。それも神竜となった風音が使えるようになった『神食結界』の中である。そこは風音が望む世界が形となった空間だ。

そんな場所に降り立ったジンライの前では、今まさに青と黒の巨大なドラゴンたち、風音ゴッドドラゴンと黒曜竜ジーヴェがすでに戦いを開始している。

「ジンライ師匠……」

「おやまあ、ギリギリ間に合いましたか」

また、ジンライとシップーが降りたところのすぐそばには直樹とトールが地面に倒れていた。それからジンライがトールの姿を見て目を細める。

「トールか。貴様、死にかけだな」

「トールさん。俺のことを庇って……それで」

その言葉を聞いてジンライが「ふむ」と唸る。

「何を企んでおる……とも言ってられんか。ナオキ、こいつをトールに使っておけ」

ジンライが己の不思議な袋から小瓶を取り出して直樹に投げ渡した。

「これは?」

「ロイヤルヒールポーションだ。飲ませておけば、その傷でもなんとかなるだろう。戦闘後に癒術院か、間に合わねばフーネに回復でもさせれば死にはせんだろうさ」

「あ、ああ。トールさん。これを飲んでくれ」

「ええ、助かります。ジンライさん、あなたのおかげで」

トールが少しばかりの笑みを浮かべるが、ジンライは視線をトールには向けずに言葉だけを返す。

「ふん。貴様がナオキを庇ったのであれば、それだけではとても足りるものではない。が……まあ、今はじっとしておれ。ワシはアレを倒さねばならん」

そう口にするジンライの前には、ひとりの男が歩いてやってきていた。

巨大なドラゴン同士が壮絶な殺し合いを行う前で、その男はジンライに刃を向けている。対してジンライがシップーから降りて、 聖一角獣(セイントユニコーン) の槍を向けながら口を開く。

「お前がライアン・マスタリクか。よくもまあ、ここまでやってくれたものよ」

「くく、ジンライ・バーンズか。一番会いたくない相手だな。俺はドラゴン相手ならばいくらでも殺せる算段はあるが、人間相手はあまり得意ではないんだ」

ジンライがシップーをオロチの元へと向かわせるのを見ながら、ライアンは話を続ける。

「まったく、予定外だらけだ。仕掛ける直前にでかい鳥に邪魔されたかと思えば、アカを倒してクロフェを押さえたってのに、そこからが本番になるとはな」

「ふん。無茶をしたな。ドラゴンと人が違えようとそうでなかろうと、あらゆる勢力がお前たちを追うだろう。もはやお前たちに未来などないぞ」

睨むジンライにライアンが肩をすくめる。

「どうかな。ここさえ抜けられれば、こちらには空竜がいる。国境を突破することも難しくはないさ」

「抜けられればな」

ジリ……とにじり寄るジンライを両剣を向けて牽制しつつ、ライアンが「抜けるさ」と声を上げた。

「そして、この地の次は北の竜の里ウォーデムだ。六百年前どころではない。このまま、すべてを一気にご破算にするつもりだ。最高だろ?」

「度し難い愚かさだな。一体、何が貴様をそこまで駆り立てている?」

「気持ちが悪い。正直に言えばそれだけだ。家の中に虫がいれば潰したくなるだろう。他にもまだいるなら全滅もさせたくなる。アレと同じだ。で、潰せるって算段ついたら、そりゃあやるだろうってだけさ?」

ジンライの脳裏に第七十四階層での出来事が思い起こされる。虫で例えたら、おそらく女子組は全会一致で納得しそうだとジンライは思ったが、ライアンはジンライに対してさらに言葉を続ける。

「ドラゴンと人間は敵同士。俺はそれでいい。それがいい。それこそが本来の関係のはずだ」

その言葉にジンライは眉をひそめる。だがライアンは熱のこもった声で自らの言葉を紡いでいく。

「俺は許せない。人と交えて温くなってる連中が。殺し甲斐がない。だというのに頂点は奴らだ。俺が殺した神竜ザハドは血塗れで笑って死んでいったぞ。殺し殺され、強者やドラゴンイーターの力に屈することなく、自ら首を断ち切って死んでいった。あれは良いドラゴンだった」

恍惚と語るライアンを見て、ジンライは「なるほど」と口にする。

「竜牙衆とは、ドラゴンを憎む連中の集まりかと思っておったのだがな……」

「はは、うちの連中は大概そうだ。特にあっちにいるアンテなんざ、この世からドラゴンがいなくなれば良いと本気で思ってる」

「だが、お前は違うのだな。お前は人と交流するドラゴンが嫌なのだ。それはお前の望むドラゴンではないから、ただそれを嫌悪しているだけなのだな」

ニィとライアンが笑う。

「すべてのドラゴンを殺したいと思っているのは事実だ。ヤツらは純粋な殺意の塊。敵対者として存在していてこそアレは美しく輝くものだ。だが、そこにいるクロフェも、ナーガもクソのようなものになり果てている。お前ならば分かるだろう、ジンライ。ああした存在とは、殺し殺される関係こそがもっとも美しいもののはずだ」

「ふん。平和に生きたいというのであれば、それを妨げる理由はない。生きるという目的から外れ、闘争に明け暮れ、それを望む我らこそが異端なのだ。唾棄すべき悪だ。殺し合いなどという馬鹿げたものはな。望む者同士がやればいいのだ」

そう言ってジンライが槍を構えてから、また口を開いた。

「まあ、貴様の主義主張など、そもそもがどうでもいいことだがな。 何を考えようと、何をしようともワシの知ったことではない。理由など、ただひとつだけで十分なのだ」

「ほぉ、それはなんだ?」

「お前はタツオに危害を加えようとした。であれば、ワシはお前を排除する。ワシがお前を葬る理由はただそれだけよ」

そして、一歩を踏み出したジンライの一撃をライアンの双剣が受けた。ぶつかり合う刃と刃から火花が散り、槍を受けながらライアンが火を吐くと、ジンライはそれを槍を回転させて払い、そして跳び下がりながら己の間合いの距離を取って、獰猛な笑みを見せた。

また、それと重なるように、殺し合う彼らより離れた場所ではドラゴン同士の戦いも続いていた。